「ぐぉおぉぉお———っ!! 何か食わせろはら減った———ッッ!!」
「だ…誰よあれ?!」「秀一くんだって……」
6時間目の体育の時間。
5-3組の入り口に、生徒が集まっていた。
生徒の視線の先には、ミイラのように痩せこけた秀一が椅子に縛り付けられていた。
普段の品のある顔からは想像できない、亡者のような顔で騒いでいる。
(早く追い出してやらねば……)
ぬ〜べ〜は給食の残りを机の上に置き、匂いを秀一に嗅がせる。
腹が減ったと暴れ回る秀一だったが、しばらくするとホタルのような光が口から溢れ出し、給食の残りに向かう。
それと共に秀一の様子が元に戻っていく。
「あっ……これは……?!」
「大丈夫か? これは餓鬼魂と言ってな、食欲だけの低級霊なのさ」
ぬ〜べ〜がうじゃうじゃと集まって給食の残りを貪る餓鬼魂を見ながら、秀一に声をかける。
餓鬼魂は膨れた腹と骸骨のような頭をした、手のひらに収まるくらいの小人の姿をしていた。
それが一つの塊になって、給食に食らいついている。
「げっ、せ、先生っ、早く鬼の手で殺して〜〜〜っ!!」
「そうはいかん。こいつらはワシの夕餉じゃ」
「え、えっ……?!」
餓鬼魂の気色悪さに怯える秀一に、部屋の奥に待機していた緑色のスライムがぬるりと現れた。
灰耶は給食に近づきゆっくりと体を大きくすると、広がった口で容器ごと餓鬼魂を丸呑みにしてしまった。
「げふ。たまにはボアするのもええもんじゃ」
給食の容器を吐き出し、ゆっくりと縮んでいく灰耶。
容器の中に餓鬼魂が綺麗さっぱりいないことが、秀一に灰耶が餓鬼魂を捕食したことを理解させた。
唖然とする秀一にぬ〜べ〜が補足する。
「……秀一。実はな、喰奴と呼ばれる霊能の持ち主は、妖怪を定期的に喰わないと本当に悪魔になってしまう。だから俺は学校に灰耶を連れてきて、一緒に除霊をさせている」
「灰耶くんは……つ、辛くないの?」
考える間もなく飛び出た言葉。
秀一は美食家を自称し、気に入らないものは直ぐに捨ててしまう。
だから、「食べるものを選べない人生」というのは想像もできなかった。
「メシなんて作業じゃ、どうでもええ」
吐き捨てるように言った灰耶に、ぬ〜べ〜が困った顔をする。
「おいおい、俺のメシも適当に作ってるわけじゃないだろう? そんな言い方をしなくても……」
「昨日お主に卵かけご飯食わせたじゃろ。丁寧に作ってるとは言えん」
「ちゃんと美味かったぞ? ……さ、秀一。給食の残りはまだあるからな」
ぬ〜べ〜の言葉を聞きながら、秀一はゆっくり給食を食べ始める。
餓鬼魂に腹をすかされていて念願の食事だったが、灰耶の言葉が頭から離れなかった。
(#27)
「……教師がこんなことしてええんか?」
「俺の目の届かないところでされるよりかはいいだろう」
20時過ぎの肌寒い風が灰耶の肌を撫でる。
学校の屋上では、ぬ〜べ〜が秀一と手を繋いで念を込めていた。
曰く、宇宙人と交流するためのチャネリングらしい。
うさんくさいものを見る視線の灰耶に、秀一が説明をする。
「僕はこの前、ぬ〜べ〜の霊水晶を持ち出してチャネリングを行ったんだが、クリッターという妖怪を呼び出してしまってね」
「とんでもねぇヤンチャボーイじゃ……」
「まあそれはいいんだ。それで僕は初めからぬ〜べ〜に頼ることにした。もしまた妖怪が来たら……」
秀一の背後には、様々な食器や調味料が置いてあった。
「灰耶くんのディナーにしよう。良質な塩から秘伝のガラムマサラまで持ってきたんだ」
「え〜? 妖怪相手に塩振るのか?」
「まあいいじゃないか。どうせ妖怪を食わないといけないんだから……。宇宙人が来るまで、色々試してみようぜ」
あまり乗り気ではない灰耶とは対照的に、ぬ〜べ〜は妖怪の調理に積極的だ。
「宇宙人が来るより美味い妖怪に出会える方が確率は高いだろ?」
「一言余計だよ!」
ぬ〜べ〜の言葉に文句を言いながらも、秀一はチャネリングに集中する。
宇宙人と交信する会は、三週間に一度のペースで灰耶がぬ〜べ〜から卒業するまで続けられた。