【完結】ぬ〜べ〜ご立派様   作:烏何故なくの

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5話 マリンカリンの可能性(#81 新説・八百比丘尼の物語&#109 不老不死の秘法!)

 

 日差しがよく入る童守小の中庭で、灰耶は花壇に水をやっていた。

 

「こういう雑事も暇な身にはありがたいエンタメじゃなぁ」

 

 灰耶はたまに、生徒がさぼった学校の雑用を勝手にしている。

 強制される分には楽しくないが、自分からやる分には楽しいものだ。

 そういえば自分が人間だったころは家庭科が得意だったな、と灰耶がぼんやり考えていた時だった。

 

「待て~~っ逃がすかーっ!! 八百年ぶりのチャンスなんだ!!」

「はぁ……はぁ……」

 

 女の怒号と、ぬ~べ~の荒い息遣い。

 トラブルの匂いを嗅ぎつけ、灰耶は学校の校門へ急ぐ。

 下駄箱で、灰耶と同じく事件を追ってきた郷子たちに出会った。

 

「……もうすっかり学校に灰耶がいるのになれちゃったわ」

「お主ら、自習を抜け出してきたんか?」

「ああ、変な恰好の女が暴れてるんだ」

 

 灰耶の言葉に広が答える。

 灰耶はかなり今のぬ~べ~クラスになじみ、クラスの半数が灰耶を認識していた。

 

「やれやれ……」

 

 そう言いながら、ぬ〜べ〜が昇降口に飛び込んできた。

 腕の中には速魚を抱えている。

 速魚はぬ〜べ〜にミイラ化から生き返らせてもらった、かなりのドジの人魚だ。

 

「これはいったいどういうこと?!!

 

 郷子の言葉で、ぬ〜べ〜が状況の細かい説明をする。

 

 速魚の肉を食べた八百比丘尼が、不老不死にされた復讐のために速魚を殺そうとしているらしい。

 

「だが、速魚の肉を食べてしまったから……頭が悪くなっているんだ」

「かかっ……うぎゃぁああぁぁ!!」

 

 ぬ〜べ〜がそう言った途端、八百比丘尼が放った投げ縄が、速魚ではなく学校の銅像を掴んだ。

 

 銅像を引っ張って銅像の下敷きになった八百比丘尼は、頭がかち割れて脳みそが飛び出だした。

 人間なら即死だが、八百比丘尼の体はどんどん再生していく。

 

「くやしいわったらくやしいわ!! みんなで私をバカにして………!!」

 

 八百比丘尼は、地面を殴りながら号泣して、今までの苦労を語り始める。

 

 親しかった人に置いていかれる悲しみ。

 常にドジばかりでバカにされる苦痛。

 

「不老不死なんてもう嫌……普通の女の子に戻りたい!」

 

 悲痛な叫びを聞いた速魚は、八百比丘尼に近寄った。

 

「比丘尼さん、私の生き肝を食べてください……。不老不死の効果がなくなります」

「生き肝って……それじゃああんた、いくら不死身の人魚でも……」

「死んじゃうかもしれません、でも私のせいで比丘尼さんがこれ以上悲しむのを見ていたくないの」

 

 速魚は自分の胸を手で貫いた。

 現れたのは、宝石のような輝きを放つ人魚の心臓。

 比丘尼と昔のように笑い合える日を望んで、速魚は生き肝を差し出す。

 

「ところで比丘尼さん。しょう油味がいいですか? それともソース?」

 

 そして速魚は生き肝を焼いて、()()()でなくしてしまった。

 

「あ、生じゃないとダメ……。どうしよう、肝って再生するのに三百年くらいかかるんですよね——っ」

 

 あまりにもあんまりなオチに、思わず卒倒する八百比丘尼の背中を灰耶は支え、速魚に尋ねる。

 

「心臓が再生するのは本当に三百年か? 三百年なら、ちょっと思いついたことがあるんじゃけど……」

 

 

 

「ワシの使える術に、【魅了魔法(マリンカリン)】というものがある。これは触手の先端を相手に突き刺して使う術じゃ」

 

 灰耶は触手を、比丘尼の眼前でくねらせる。

 

「これは戦闘で使えば、罪人を殺すことが存在意義のような妖怪に、その殺戮衝動を上回る快楽を流し込める。……激しく動いて、術ばかりに集中できない戦闘中でこの効果なら。止まった相手に出力120%の【魅了魔法(マリンカリン)】を撃ち込めば、どうなるかのう」

 

 おそらく、眠り続ける。幸せな夢を見ながら。

 

 そう語った灰耶に、ぬ〜べ〜は頷かなかった。

 

「……つまり、三百年後まで比丘尼を眠らせるということか?! だがお前、どうやって術を持続させる」

「何も問題はないじゃろ? ワシ第六天魔王じゃぞ。三百年じゃ死なんだろ」

 

 灰耶の言葉に比丘尼は息を呑む。

 長命の生で、人間の友と共有できる時間は短い。

 自分が味わった離別を灰耶が味わうかと思うと、比丘尼の胸から悲しみが込み上げてきた。

 

「……いいの?」

「ワシの人生、長くなりそうじゃし。目標くらいあった方がいいじゃろう。お主の人生、背負わせてくれるか?」

 

 本当にいいのかと問う比丘尼に、灰耶は逆に問い返す。

 灰耶の触手を、比丘尼は掴んだ。

 

 その日から、【コクマの塔】に大きなベットが配置された。

 

 

 

 (#109)

 

 

 

「すまんが術を解くぞ。聞きたいことがある……!!」

 

 初恋の相手と愛しあえたような、甘ったるい快楽の雷に打たれていた比丘尼は目を覚ました。

 空を曇天が覆っている。【コクマの塔】ではなく、現実世界だ。

 目の前の道路には土砂が大量に積もっている。坂が崩れたらしい。

 

 灰耶はバッキバキの形態へと変わり、比丘尼に問いかける。

 

「お主、速魚を殺すためにいろいろやっておったじゃろ。火器の経験は!?」

「が、外人部隊で射撃の特訓はしたけど……」

「お主の記憶を読み取らせてくれ。……この土砂の下に、ぬ~べ~たちが埋まってしまった。フーチをつかったから埋まった場所はわかるが、皆を傷つけずに素早く掘り返せんのだ。お主の記憶で、【性火魔法(マララギダイン)】を昇華させたい!!」

 

 つばを飛ばしながら、灰耶は比丘尼の肩を掴む。

 

「そ、そんなこと言ったって……私の記憶なんて、どれだけあてになるか」

「お主は速魚の顔を八百年覚えていられた!! 記憶力は問題ない!! ………お主しか、頼れんのだ……」

 

 頭部を下げようとする灰耶に、比丘尼の心臓が跳ねた。

 

 

 

(集中するのよ私……!! あのフランスでの日々を思い出して……!!)

 

 灰耶の体の上で、比丘尼は全身全霊で過去の経験を振り返る。

 

(私の人生に意味なんてないと思ってた……バカにされるだけの人生って。でも、それが今この瞬間のためなら……!!)

 

 灰耶の触手へ、鮮明な火器のイメージが流れ込む。

 しかしそのイメージより強いのは、比丘尼の灰耶を助けたいという気持ち。

 尼として鍛えられた一念が、灰耶の体で燃料として燃えさかる。

 

「至ったっ!! 【特大炎魔法(トリスアギオン)】!!」

 

 灰耶の体から、高密度の炎の渦が迸る。

 巨大な槌が振るわれたように土砂が吹き飛ばされ、その下からバスの屋根が顔を出した。

 

「や、やった……やったわ……」

 

 結果を見届けた比丘尼はふらふらと揺れるとその場に倒れた。

 精神力を灰耶に注ぎ込み、意識を保てなくなったのだ。

 

「おっとっと。……なんじゃ、【魅了魔法(マリンカリン)】で眠っていた時よりいい顔で眠りおって……」

  

 灰耶は比丘尼を触手で支え、バスの中へぬ~べ~たちを救助に向かう。

 

 

 

 

 

 

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