【完結】ぬ〜べ〜ご立派様   作:烏何故なくの

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ヒートもヴリドラになった後でラストダンジョンでアグニになったりしてるので変身する悪魔を使い分けられるのは多分許される


9話 性欲の炎は主食(#118 謎の人体発火現象&#178 ア・ブ・ナ・イ育成シュミレーション)

 

「ふむふむ。女神マレーナは儀礼では藁人形に象徴される……。西スラヴではマレーナを象徴する藁人形をバラバラにして燃やす豊作祈願がある、と」

 

 マレーナ形態の灰耶は、ぬ〜べ〜の本棚にある図鑑を調べ、自分の体への知識を集めていた。

 マレーナは日本でメジャーな神ではない。何か凶悪な性質があるとも限らない。

 女神マレーナに化身できるようになったということは、マレーナと灰耶は繋がったということだ。ゆきめは救えたが、灰耶を通してマレーナの性質が童守町で暴れ出さないとも限らない。

 

 灰耶は読み終えた本を閉じ、背伸びをする。

 人間の手足があることで、人間の道具がどれだけ扱いやすいことか。

 灰耶は本を読む時も家事をする時も、マレーナに化身していた。

 

 灰耶は時計を見る。時刻は16時過ぎだ。

 そろそろ夕食のレシピを考えないといけない、と考えた辺りでふと思いつく。

 

(……今のワシなら、普通に買い物に行けるんじゃね?)

 

 思い立った灰耶は、ぬ〜べ〜に買い物に連れて行ってもらえるようにねだることに決めた。

 

 

 

16時過ぎのスーパーに、ゆきめは買い物に来ていた。

 

「冷気の押さえ方も慣れてきたわ。そろそろお鍋くらいなら作れるかしら? 熱くなってきたら一旦冷ましちゃえばいいのよ」

 

 愛しの相手から告白を受け、ゆきめはまさに有頂天。

 右腕は無くなったが、どうにか苦手だった料理も克服してやろうという覇気に満ちていた。

 

「灰耶くんにもそろそろ美味しい料理を食べてもらわなくちゃ」

 

 ゆきめの作る、人間には食べられない温度の料理を食べてくれる優しい緑色のスライムを思いうかべ、ゆきめは決意を固めた。

 

 海鮮コーナーを眺めていると、黒いジャケットを羽織った背中が見える。

 見まがうことはない、愛しい相手の背中だ。

 

「あ、鵺野せん……」

 

 

 

「豚の細切れ肉ってまだあったかのう?」

「あー、どうだっけな」

「最近ワシばっかり料理作ってないか……?」

 

 ぬ~べ~と親し気に接する、長身の女性。

 話す内容はまるで同居して時間がたった男女。

 なにより女性の顔がゆきめとそっくりなのが、ゆきめに悪夢を思わせる。

 

「あ、ゆきめじゃないか。奇遇だなこんな所で……」

 

 照れた顔で話しかけてくるぬ~べ~のことも頭に入らない。

 目の前にいる女性が命の恩人の灰耶ということも認識している。

 しかし、これではまるで……。

 

「わ……私じゃない私が鵺野先生と付き合ってるのを見てるしかない私っ……ぶくぶくぶくっ!!」

 

 ゆきめは泡を吹いて卒倒した。

 

 これ以降、灰耶は基本的にマーラの姿でいることにした。

 

 

 

 (#118)

 

 

 

「先生、聞いてくれよ……」

 

 葉月いずなは中学生の霊能者である。

 イタコのサラブレットである彼女は、霊能力を使い小銭稼ぎなどをしながら、学校に通っていた。

 そして、霊能者だからこその不可解な悩みも存在する。

 

「ふーん、体がいきなり燃え出すってか……」

 

 放課後、芋を焼こうとマッチに火をつけていたぬ~べ~は、気が抜けたような返事をする。

 箒で落ち葉を集めていた郷子と美樹は、ぬ~べ~と違って興味深そうだ。

 

「一回や二回じゃないんだ。日に日に回数が増していって……」

 

 いずなは深刻そうに語るが、ぬ~べ~は気が乗らなそうだ。

 

「ま、炎が出るってだけなら、灰耶に頼んだらどうだ」

「灰耶?」

 

 ぬ~べ~の言葉に怪訝な顔をうかべるいずな。

 小学校の校舎の窓から緑色のスライムがはい出て、近寄ってくる。

 

「呼んだか、ぬ~べ~?」

「うわっ、なにこの……汚いのは」

 

 本能的に灰耶の属性を感知したのか、いずなは灰耶から一歩引く。

 

(こういう当然の反応をされるのもひさしぶりじゃな……)

 

 灰耶がその察知力に感心すると同時に、いずなの体がボォッ!! と炎に包まれた。

 

「キャアアア………ああっ?」

 

 いつものように炎が、自分の体以外の全てを焼き尽くしてしまう。

 そう思っていたいずなは、まだ服の重さを感じられることに驚いた。

 

「うむ。これはワシが吸収できる範囲の炎であるな」

 

 いずなの手を触手で掴んだ灰耶が、小さく息を吐き出す。

 

「見ての通りだ。灰耶は炎を吸収できる」

「ちょ、ちょっとまってよ! それじゃあ私、このイカ臭い妖怪とずっと一緒にいなきゃいけないってこと!?」

 

 全てが解決したように語るぬ~べ~に、いずなは抗議する。

 郷子は灰耶のフォローをしてやりたかったが、いずなの言い分がまっとうすぎて何も言えなかった。

 

「灰耶、女性の……なんだっけ、マレーナの姿ならいずなさんも嫌がらないんじゃないの?」

「マレーナの姿に【炎吸収】の力はないんじゃ。逆に【氷結吸収】はできるんじゃが」

 

 郷子の問いに、灰耶は残念そうに言葉を返す。

 

「まー安心してよ! 灰耶に女性を襲う度胸なんてないんだから!」

「まったく安心できない……」

 

 美樹は明るく言うが、いずなは絶望の顔で座り込んだ。

 

 

 

「あー、ちょっといいか?」

 

 公園のベンチに座り、今日の宿をどうするか考えていたいずな。灰耶に家を知られたくないのだ。

 ツンとした態度のいずなに、灰耶はゆっくり話しかける。

 

「ワシが吸収して味わった限りだと、お主の炎は……その、誰かに懸想をしておるんじゃないかのう」

「けっ、けけけ懸想って……! おかしなこというと承知しないよ!」

「そうは言うても、その思いをどうにかせんと発火現象はとまらんぞ」

 

 くだ狐を出して威嚇するいずなに、灰耶は弁明を続ける。

 

「告白はすぐにでもせんでいい。ワシがおる限りお主の炎はどうにかなる。脳みそが茹ってふにゃふにゃになるあの感じに、他者の存在を介入させたくないじゃろ? 好きなタイミングですればええから」

「あんた……恋とかしたことあるわけ?」

 

 灰耶の言葉に気になるニュアンスを見つけ、おもわず尋ねるいずな。

 

「そりゃ13じゃからそれくらいは……。……あれ? いや、ない、ないぞ? ワシ誰かに恋なんぞしたことない筈じゃ」

「えー、なんだよ。恥ずかしがらなくていいだろ?」

 

 自分の発言を取り消そうとする灰耶に、いずなの警戒が緩んだ。

 灰耶は否定の言葉を続けるが、いずなは信じずニヤニヤと笑っている。

 

「ま、ぬ~べ~先生が本当に危険なやつを放置するわけないか。あんたを突き合わせるのも悪いから、告白はしようと思うよ。……男ってどんな形が好きかな? ラブレターとか……?」

 

 顔を真っ赤にして尋ねるいずな。

 困惑は抜けきっていないが、灰耶は自分の知識を総動員し質問に答えていった。

 

 

 

「ごめんなさい。付き合っている彼女がいるんだ」

 

 童守センター街で、いずなは同じ中学の男子生徒に告白した。

 告白された男子は誠実に、けれどきっぱりと否定の言葉を告げる。

 

「あ、そうだったんですか。……しっかり振ってくれて、ありがとうございます」

 

 それだけ言って、いずなは男子生徒の前を早足で去った。

 男子生徒の視界から離れたくらいで、早足が大股になる。

 向かう先は、海。

 告白を見ていた灰耶もあとに続く。

 

「ばっか、やろ—————っ!!」

 

 海へ気持ちの丈を吐き出し、いずなの発火能力が落ち着いていく。

 荒ぶる感情の手綱を握れたのだ。

 目じりに涙を溜めるいずなに、灰耶は感心する。

 

「うむ、見事な告白じゃった。見ていると思わずこっちまで熱くなるような。……熱く、あつ……アッツ!」

「え?! な、何事!?」

 

 突然全身から緑色の炎を出し悶え始める灰耶に、いずなは困惑する。

 

「いやなんか、感情が共鳴したのかなんなのか、気持ちの整理ができん……!! ば、爆発する!!」

 

 今いずなと灰耶は海際にいる。

 このままだと灰耶の炎が海水に触れて水蒸気爆発を起こしかねない。

 

「くっ、仕方ない……!!」

 

 灰耶の体に血管のように青い線が広がっていく。

 スライムの体に手足が生え、数秒と経たずに女性のシルエットになっていく。

 いずなは唖然として変形を見つめていた。

 

 しかしマレーナの形になっても力の暴走は止まらない。溢れ出る力が冷気に変わっただけだ。

 

「とりあえず氷の力なら蒸気爆発は起こらんじゃろ……!! それにしても、この感情は一体……?!」

 

 周りを凍てつかせる冷気を見て、灰耶の頭にゆきめの顔が浮かんだ。

 そして理解する。自分の感情の矛先を。

 

「こっ、これはゆきめの慕情か……!!?」

 

 死にかけてしまったゆきめを治すために、灰耶は自分の全霊をかけて冷気の力を注ぎ込んだ。

 ゆきめの腕から女神マレーナは顕現し、今のゆきめを構成しているのはマレーナの冷気である。

 魂が一部繋がり、ラインのようなものが生まれたのだろうと灰耶は推察する。

 

「もうダメじゃ、抑えられん……!!」

 

 灰耶の冷気が迸り、海際に氷の城が顕現しようとした瞬間だった。

 いずなが灰耶に抱きつき、不敵に笑いながら全力で発火能力を発動させる。

 

「色々世話になったからね。今度はあたしの番だよ……!」

「い、いずな……」

 

 いずなの炎の力は微々たるもの。

 しかし灰耶を真っ直ぐに見つめるいずなの存在が、灰耶を我に返らせた。

 

 冷気の力は徐々に小さくなり、海風にかき消されるほどに弱まっていく。

 

「……ふ、ふぃ〜〜。もう大丈夫じゃ収まった。いや、今の冷気は凄まじかったな……。【大冷界】とでも呼ぼうか」

「まったく、恋する乙女は大変だね」

 

 親しげにウィンクを飛ばしてくるいずな。

 灰耶の恋心は借り物だし、そもそも灰耶はどっちかと言えば男子だが、否定するのも難しいので灰耶は曖昧に笑って過ごした。

 

 

 

 (#178)

 

 

 

 克也は育成シミュレーションゲーム『お嬢様メ〜カ〜』にハマっていた。

 内容は面白いことはもちろんだが、何故かゲームのキャラクターと妹の愛美が連動しているのだ。

 

 ゲームのキャラクターを育てるほど、愛美は賢く、運動神経も抜群になっていく。

 克也はこのゲームをやり込み、愛美を日本一の少女にするつもりだった。

 

 学校から早く家に帰ってゲームの続きをしようとする克也を、灰耶は通学路で引き留める。

 

「おい克也。お前さんの妹、多分魂がどっかいっとるぞ」

「え、は……!!? な、何を言ってんだよ」

「愛美ちゃんは短期間で異常な成長しとるじゃろうが。このままだとなんか……エロ同人みたいになるんじゃないか? 魔王の勘じゃけど」

 

 煩悩の化身によるエロ同人の予感。

 克也は妹をそういう目で見たいわけではない。 

 大人しく、『お嬢様メ〜カ〜』が愛美と連動していることを克也は話した。

 

「ふぅむ。多分ゲームのソフトに魂が入っておるのではないかのう。ワシもこの前、ゆきめと魂を共有してしまってゆきめの恋心が流れ込んできたんじゃ。ワシとゆきめの魂は癒着して完全に直すことはできんかったが、テレビゲームに魂が入ったくらいならぬ〜べ〜が直せるじゃろ」

「なんだ、ぬ〜べ〜に言えば直して貰えるのか……。……待てよ?」

 

 灰耶の言葉を聞き、克也は一つの可能性を思いつく。

 

「灰耶とゆきめさんの魂が繋がっているってことは……灰耶がゆきめさんをナイスバディにして、ぬ〜べ〜との恋を応援できるんじゃないか?」

「めちゃくちゃ倫理観の無いこと言うなお主……! ぬ〜べ〜とゆきめは付き合ってるんだからもういいじゃろ」

「えー?」

 

 灰耶の言葉に、克也は不満げだ。

 

「せっかく姿を変えられるんだから、有効活用するのはいいじゃんかよ。一度くらいゆきめさんの体をナイスバディにしたいとか思わなかったのか~?」

「……性欲の化け物であるワシが決めていいことではない」

 

 否定も肯定もせず、灰耶は乾いた返事をする。

 克也は灰耶が時々見せる、この乾いた顔が苦手だった。

 微妙な空気を晴らすために、克也は舌の上で話題を練った。

 

「灰耶って……あれだよな。弟っぽい。周りの言うことを素直に聞く感じが、なんか反抗期とかなさそう」

「……。ふむ……? もしや、ワシの本質として現れたマーラはそういう方面の象徴なのか?」

 

 突然の話題展開に驚く克也を見ながら、灰耶は言葉を続ける。

 

「ワシの本質としてマーラが現れた以上、マーラに象徴される側面がワシにはあるはずじゃよな。悟りと思春期の解釈によっては……あるのか?」

「おい、どうしたんだよ灰耶?」

 

 灰耶は克也の言葉も聞かず、熟慮を始めた。

 

 

 

 

 

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