──ゴォオン、ゴォオン
轟音が響き、それに合わせて地面が、いや都市が揺れる。
ここは外延部の地下にある、都市外稼動施設格納庫と言う名の放浪バスや、ランドローラーなど専用の倉庫である。
さらにこの倉庫は主に都市からの緊急脱出のための放浪バスを格納するためにあるものであり、基本的使用されることは無く、またその必要に駆られる事も無かった。そのため、定期的に清掃や点検はされてはいるが、基本的にカビ臭く、埃っぽい。
その中にあって、一台だけ埃を被っておらず、新品同様に輝きを放っている物があり、そのバスの傍に10人ほどが向かい合い、互いの代表と思われる精悍な男と目つきの鋭い青年が言葉を交わしている。
「遠いところからわざわざご苦労様です。私はこの学園都市ツェルニの生徒会長のカリアン・ロスです。よろしく」
「おう、こりゃ丁寧にすまんな。俺はトニー・トリントス、傭兵だ。トニーって呼んでくれ。レイフォンの小僧に頼まれてコイツを運んで来たんだが、あいつはどこだ?」
片側はツェルニの制服を着ており、生徒会長のカリアンに始め、武芸長、技術学科長、副生徒会長のツェルニの現最高権力者たちだ。学園都市とは言え、6万人の頂点に立つものだけあり、一人一人が風格のようなものを纏っていた。だが今その気迫は鳴りを潜めており、カリアンを除く者からは少しばかり気後れが感じられる。
その原因は相対する7人の男女にあった。リーダーっぽい男の言葉通り傭兵なのだろう、全員の腰には剣帯が巻いてあり錬金鋼のものと思われる膨らみが見て取れる。そしてその身から滲み出る覇気はツェルニ側の比ではなかった。
彼らは何も威圧している訳ではない。むしろ非常に友好的な態度であるのだが、数多の視線を潜り抜けただけあり、一目見ただけでも彼らが只者ではないと分かるだろう。
ただそこにある。それだけでツェルニの最高権力者たちは気圧されたのだ。
「アルセイフ君ならば、さきほど授業を終えたばかりです。もう直ぐ来ますので、暫く待っていてください」
「おう、そうか、サンキューな。にしても、聞いたかよあいつが授業に出てるんだとよ!くくくっ、想像できねぇなあ!老性体でも出るんじゃねえのか?くっくはははは!」
『はははははははっ!!』
カリアンの言葉が随分とトニーのつぼに入ったらしい。我慢しきれなくなったのかとうとう爆笑を始めた。それにつられて他の傭兵も笑い出し一気に倉庫内が騒がしくなる。
授業に出るレイフォンと言うのは、彼らの頭の中にあるレイフォン像とは180度間逆のもので、彼らからすれば信じられないような話だからだ。それこそ天変地異や老性体の襲撃ぐらいには常軌を逸した事態なのだ。
「何笑ってやがる。マジで老性体の前に放り出してやろうか?」
そんな楽しげな雰囲気に冷たい声が割って入って来る。声のした方へ全員が顔を向けると、入り口のドアが開いており、そこに2つの人影があった。レイフォンとフェリである。
「ぷくくっ、冗談だ、本気にすんなよ。それにコイツ持って来てやったんだから、そんぐらいは良いだろ」
「仕事は仕事、これとは別だろ。てか随分報酬弾んでやっただろうが、寧ろ感謝しろよ」
そう言いつつも、特に気にしていなかったのか、レイフォンの視線は既に真新しい放浪バスへと向けられる。
それは一般に知られる放浪バスとは違った形をしていた。
何しろバスの天井部分に大砲が前後2門も鎮座しているのだから。──剄邏砲、ツェルニにも設置されている居り、武芸者が練りだす剄のエネルギーを砲弾として打ち出す大砲である。どの都市にもあるこの時代の主力兵器だ。その威力は十キロメル単位で離れた場所へも熱波を伝えるほど凄まじい。ただし打ち出すためにはツェルニで100人単位の武芸者が己の限界近くまで剄を練りだし集剄石と呼ばれる剄を溜め込む部位へと送り込まなければ為らないのだが、レイフォンならばそれを1人で充分まかなえる。
見た目で分かる違いはそれだけではない。
基本、放浪バスはタイヤではなく蜘蛛のような脚によって移動するものである。荒廃した大地では直ぐにタイヤが磨り減って使い物に為らなくなるからだ。しかしこのバスには脚の他にタイヤもついていた。脚による走行とタイヤによる走行を自在に切り替えられるようになっている。タイヤで走ったほうが速いためレイフォンが注文したのだ。
そう、この放浪バスはレイフォンがその個人で持つには有り余る財力でもって特注したものである。トニーらはそれをツェルニまで運んできたのだ。
もちろんレイフォンの注文は他にも多岐に渡っており、放浪バスと言うより、むしろ放浪戦車とでも言ったほうが正しい代物ではあるのだが、その名前が改められる気配は残念ながら、今のところない。
「にしてもレイフォン、俺たちは此れに乗ってきたからこそ分かるが、少し遊びに走りすぎたんじゃぁねえのか?お前、コイツに幾ら掛かけたんだよ」
「あぁ、もう言うな。俺もやりすぎたと思ってんだよ。なにしろ稼ぎの大半ふっとんだからねぇ、ただいま絶賛貯金中だ。」
そうしてレイフォンとトニーたちが和気藹々とした雰囲気になろうとしたが、それを良しとしない者がいた。
「楽しくおしゃべりいしてる最中にすまんが、アルセイフ君、あれは何の冗談だね?」
カリアンだ。何時もの済ました余裕のある態度は鳴りを潜め、一応、笑顔ではあるが額には青筋が幾本か浮かんでいる。さらに、声のトーンも何時もより高い。どうやら余程頭に来ているらしい。
「何って、どっからどう見ても放浪バスでしょ?」
対してレイフォンは怯むことなく、とぼけた風に返す。
実はレイフォン、放浪バスをツェルニに置かせてもらう許可を取るときに『ちょっと変わった機能がついたバス』としか言っていないのだ。カリアンも言い方に多少思うところはあっても、堂々と剄羅砲を据えているとは夢にも思わなかったのだろう。
「もちろん、今から許可を取りけすなんて言わないですよね。生徒会長」
レイフォンが更にそう、念を押すと、カリアンは渋々といった感じで頷いた。
放浪バスをツェルニ置く許可をレイフォンがカリアンから貰った(奪った)のは入学当初の話である。レイフォンが武芸大会でツェルニを勝たせる代わりに要求した権利の中の一つなのだ。
カリアンからすれば、本来普通の放浪バスをレイフォンが個人で所有するだけの大したことのない話だった。その割にはなかなかの譲歩を引き出すことが出来たとことも覚えている。だが、まさかこんなふざけた代物だとは思わなかったのだ。
錬金鋼の個人所有、これですら制限があるのだ。ましてや剄羅砲を個人で所有するなど公の事になってしまえば面倒は避けられないだろう。が、しかしカリアンには断る術はなかった。ここで断ってしまえば、レイフォンに武芸大会に出てもらう契約自体が白紙になってしまうからだ。
レイフォンがカリアンの事を『生徒会長』とわざわざ言ったのはつまり契約を白紙に返してもいいのか?と言う意味での脅しであるのだ。
ツェルニ側からは非難の視線、傭兵側からは「最低だ」などと野次が飛ぶがレイフォンは気にしない。ちなみにフェリは無表情である。
「んじゃ、話も付いたみたいだし、俺たちはもう行くぞ。金はいつもの所でいいぞ!それと、俺たちは第1宿泊施設にいるから後で遊びにこいよぉ~」
野次を飛ばして満足したのか、トニーたちは踵を返し、口々にそう言って倉庫から出て行く。
「しょうがないですねぇ、使用には必ず私の許可を取ってください。それじゃ、私たちも仕事があるので、失礼するよ」
それを見送ってから、カリアンらもレイフォンにカードキーを手渡し去っていく。
あとにはレイフォンと、着いて来たはいいが口を挟むタイミングも見つからず、かと言って帰るのは憚られるからとずっと黙っていたフェリだけだった。
兄に言われ、レイフォンの授業終了まで1時間以上外で待たされ、さらに道案内までさせられたのに、この仕打ちである。
こうして彼女は後日は高いものを奢らそうと1人決心するのだった。
この作品にはチート要素が含まれております(笑)
バスと剄羅砲ですが、結構最初から考えていた設定ですね。
サリンバン持ってるしいいかなぁっと
集剄石とかは適当ですが
そしてここからは少しずつオリジナル展開へと移っていく……かもしれません
バタフライ効果で行ける所まで行ってみようかと思います!
こんな作者ですがお付き合い頂けると嬉しいです!