「まいどあり~」
やや間延びしたやる気のない声を響かせながら、レイフォンはカリアンの執務室から出てきた。
カリアンの鬼気迫る交渉で3億まで値切られてしまったが、それでもレイフォンは満足そうで、その手に武芸科の制服を携え、軽やかな足取りで生徒会棟から出て行く。
嬉しさを隠し切れないのか、いつものしまりのない顔にさらにニヤニヤしており、その整った顔の価値をずいぶんと引き下げている。
『にしても、本当に儲かったな。これでツェルニでも悠々自適引きこもりニートライフが送れるぜ』
考えることはダメ人間のそれだったが、事実レイフォンはすでに働かなくても一生を遊んで過ごせるほどに金持ちだったのだ。
グレンダンを自発的に出てから2年間、汚染獣に襲われた都市を見つけては足元を見まくった法外な報酬を要求して大儲け、戦争で負けそうな都市を見つけてはやはり法外な報酬を要求してボロ儲け。
いままでに巻き上げた金額に比べれば、3億など端金に等しいのだが、
現在レイフォンは手持ちがそこまで無かったのだから今の喜びようも仕方のないものだ。
今晩は豪勢に行こうかな
などとつぶやきながらレイフォンは買い物をするため、繁華町へと足を向ける。
高級食材を豪快に大人買してから家に帰ろうとした時にそれは声をかけてきた。
「あなたがレイフォン・アルセイフさんですね?」
レイフォンが今まで見たこともないほどの美少女だった。
作り物めいた人形のような顔立ち、透き通るような白い肌、腰まで伸びた長い銀髪。そのすべてが彼女の冷え切った雰囲気とマッチし、周囲に圧倒的な美を振りまいていた。
本来ならば、こんな美少女に町中で声をかけられれば飛び上がって喜ぶのだが
この後の展開を知っているだけに気がめいる。
「ナンパかな?お兄さんナンパなんてされたこと無いから、どうすればいいか分からないんだ、だからごめんね?」
レイフォンは逃げることにした。
「私はあなたより年上です。生徒会長と話していた件で話があります。ついてきてください」
気にしていたのだろうか、声音は冷たいままだが周囲の温度がいくらか下がった気がした。
そしてレイフォンのふざけた言葉は黙殺するつもりのようで、そのまま踵を返して歩き出す。
レイフォンもごねるつもりはないのか、ため息をつきながらその後ろをついていく。
「てか生ものとか入ってんだけど、このまんま行かねえとだめなのかな」
呟きはやはり黙殺されて、レイフォンは両手いっぱいの食材を手に美少女の後ろを歩くのだった。
たどり着いたのは広い殺風景な部屋だった。
武芸の鍛錬に使われるだろう部屋は教室数個分の広さがあり、端には様々な形状に復元されたダイトが置いてある。
ここまで案内してくれていた銀髪の美少女は役目を終えたとばかりに部屋の端にあるベンチへと向かい、座り込んで傍観をきめこむ。
部屋には他にも人が3人いた。
部屋の真ん中に金髪の女、隅で寝転がっている美形の男、その隣に油で汚れたつなぎを着た男がいた。
「貴様がレイフォン・アルセイフか」
部屋の真ん中で金髪の目つきが鋭い女がこちらを睨んでいた。
「わたしはツェルニ第17小隊隊長のニーナ・アントークだ。」
レイフォンの返答を待たず、また気にも留めず話を続ける。
そのまま長々と小隊員についての説明を続ける。
当のレイフォンは心の中で『なんで買い物袋引っさげたままこんな話をきかねえといけねえんだよ』と毒づいていた。
事実端から見たらなかなかに滑稽な場面で、壁際の美形がニヤニヤしているのが視界の端に映る。
「貴様を第17小隊員として任命する。拒否は許されん。これは生徒会長の承認を得た正式な申し出だからだ。なにより、武芸科に在籍するものが、小隊在籍の栄誉を拒否するなどという軟弱な行為を許すはずがない。」
途中から火がついたのか熱弁するニーナという名の少女、
それをレイフォンはつかれ切ったような顔で眺め、やがて小ばかにするように
「はっ、許さないって誰が許さないんだ?おまえか?カリアンか?悪いが、俺は軟弱だから小隊員の栄誉は遠慮させてもらう」
吐き捨てた。
断られることなど考えてもいなかっただろう、身も蓋もないレイフォンの返答にニーナは二の句がつげなくなってしまう。
レイフォンはそれを良しとしたのか踵を返し、出口へと向かう。
が、それをさえぎる声があった。
「まあ待てよ、新入生。会長のこと呼び捨てにしてるあたり、話は聞いているだろ?いまツェルニははっきり言って崖っぷちなんだ、それでも俺たちはここを守るために頑張っている。お前も武芸者なら都市を守りたいって気持ちはもってんだろ?俺らはお前のこと買ってんだ、小隊に入るチャンスなんてそうそうないぜ?」
ニヤニヤしている美形が出口の手前に立っていたのだ。
口元はニヤニヤした笑みを浮かべているが、目は笑っておらず、どうやらレイフォンの言葉に怒りを覚えたようで、どくつもりは無さそうでその手は腰の剣帯近くをさ迷っている。
ダイトを抜くつもりはないだろうが、脅しといった所だろう。
「その努力が無意味だったんだろ?じゃなきゃ鉱山があと一個なんてことにはなってねえはずだ」
そう言ってレイフォンは嘲るように、見下すように美形に相対する。
脅しは意味を成さなかったようだ。
レイフォン本人も美形なためなかなか見ごたえのある絵のはずだが、手に持っている買い物袋からはみ出した食材のせいでどうにも滑稽にしか見えない。
そうこうしている内にニーナが再起動した。
その体は怒りでわなわなと震えていて、拳はギュッと握り締められている。
それもそのはずだろう、レイフォンの言はつまりツェルニの武芸者全員を存在価値なしと断じているに等しいのだから。
誰よりも武芸者の誇りを大事にするニーナにとって、その言葉は許されるはずもなく
かといって前回の武芸大会では確かに失態演じた以上自らに義はなく
つまるところ怒りで今にも沸騰しそうな頭を理性によって必死に押さえつけようとしていたのだ。
しかしその甲斐なく、理性の戒めはレイフォンによって解き放たれる。
「そんなお前たちと仲良く努力したところで高がしれる」
─プツンッ
ニーナの中で何かが切れた気がした。
ツェルニを守るために自分が積み上げてきた物を侮辱され、黙っていていいのだろうか?
いや、良い訳がない!
やがてその手は剣帯へと伸び、
「貴様ぁああ!ふざけるな!貴様に何が分かる!レストレーション!!」
叫びとともにダイトを復元し、レイフォンにつっこむ。
レイフォンは美形に向き合ったままで、反応しない。
そのままニーナはレイフォンを間合いに入れ、元の形状に復元され、剄を纏った漆黒の鉄鞭を振り下ろした。
直撃してしまえば一般人は言うまでもなく武芸者すらも当たり所が悪ければ死に至る。そんな一撃がレイフォンに迫り…
ドスッ
鈍い音が部屋に響きニーナが吹き飛んだ。
その場には両手に買い物袋を携え足を振り上げた体勢のレイフォンがいた。
しかし、やはりカッコ悪かった。
このお話はアンチニーナでできております。
この主人公は風の聖痕の和真を参考にしています。
好き嫌いなどきっとあるでしょうが、それでもこの駄文を読んでもらえるとうれしいです。
にしてもやはり読むのと書くのじゃ違いますね。
ぜんぜん思うようにいかないです。
アドバイスなどありましたら感想にてお願いします。