嬉しいのだが、嬉しくない……
個人的な話ですが、最近ケータイやパソコンの時計を見るとよく44分だったりします。
これって、なにか不幸の前兆なのか……
まあそれはともかく
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超えました!
ありがとうございます!
これからも読んでやってください!
そして気が向いたら感想書いてやってください!
やる気もろもろにつながります!
いきなり声をかけてきた優男の先輩を伴って、男3人で店に向かう道中の空気はエドにとって実に重苦しい物だった。
チラチラとレイフォンと優男を伺う周りの女子の目線の、自分を見つけたときのなんとも言えない温度の落ち方が全く気にならないぐらいには重苦しかった。
レイフォンがずっと無言なのである。優男になにか思うところがあるのだろうが、何もいわずに淡々と歩いている。
当の優男は逆にずっとニヤニヤ笑いを浮かべたままで、まるで挑発でもするかのようだ。
一般人のエドとしては、万が一レイフォンが怒って暴れたりすれば、冗談抜きで命の危機なのだ。
もちろん怒る可能性など極少なのだろうが、
レイフォンとは今日出会ったばかりで、まだ人となりなも分かっていない……
しかし、だ。
武芸者全般に言えることだが、武芸者と言うやつはとにかくプライドが高い。
小さい頃から特別な存在であることが自然な武芸者は基本的に、他人から見下されることに慣れていないのだ。
つまり何が言いたいのかと言うと、武芸者にはキレやすいやつが多いのだ。
そして一度キレてしまえば一般人にはどうしようもない。本当に困ったものだ。
この前の入学式のときも知らない武芸者が暴れてたこともあって、エドはレイフォンにひたすらビビッていた。
そして案内する、などと言った手前、逃げるなどと言う選択肢などあろうはずもなく、エドはただ何処かに存在するかも知れない神様に心の中で祈る(愚痴る)ばかりだった。
そしてエドの祈り(愚痴)が天に聞き届けられるわけもなく、男3人連れ立って店に入る。
育ち盛りの男性客をターゲットにした店のようで、席に着いている客の食べている量がなかなかにすさまじい。
太り気味で食べ盛り過ぎるのエドにはピッタリな店である。
エドが席に着き、その隣にレイフォン、そして向かいに優男が陣取る。
「そういや、名前言ってなかったな、俺はシャーニッドだ!以後よろしく、新入生ども!」
席に着くなり優男、シャーニッド先輩が自己紹介してくれた。
ついにこの重苦しい空気が破られたのだから、エドにとっては素直にうれしい。
このまま場を和ませようと、とりあえず自己紹介しようとするが、ため息が聞こえると共にそれを遮る声があがった。
「はぁ~、で結局何の用事なんっすか?シャーニッド先輩?」
レイフォンだ。
こいつには空気を和ませる気など、さらさらない様で、エドにはひたすらに恨めしい。
しかし口調からして怒っていると言うわけでも無さそうだ。そこだけは一安心。
ただ、言いながらもチラリとこちらを一回見たことは引っかかるが、
『やるなら、一般人のいないところでやろうぜ!』
みたいな意味なんだろうが、エドは自分が被害を被らなければあとは何でも良かった。
「いや、大したことじゃあねぇよ、まあ、話は飯食いながらにしよーぜ」
シャーニッド先輩が言いながらこちらに向かってくるウェイトレスに目を向ける。
注文をし終えた後、去っていくウェイトレスを見送りながら、エドはキッチンの方向に縋るような視線を向ける。
今すぐ何かが起きるわけでは無さそうだが、それでも逸早くこの場から離脱したい。
とりあえず武芸者二人は何か話があるようだし、多少不自然でも食べた後なら逃げる言い訳も立つ!
いつしかその気持ちが、興奮が心の叫びとなり、
早く料理持ってきてくれ!そして早く俺を家に返してくれ!
ああ、早く!早くしてくれ!
「早くぅうう!」
いつの間にか口に出ていた……
「ぶはははははは!おっもしれぇ!うはははは!な、なんだよ、早くぅぅうって!く、くくくはははははは!」
爆笑するシャーニッド。もう先輩なんてつけない。
「クスクス……」
そして、それを見て笑う従業員たち。
最悪だ。
これじゃあ、ただの食い意地の張った、頭のおかしいデブじゃないか……
恥ずかしさで自分の席にうずくまる。
もうエドは、逃げるだの逃げないだの、どうでもよくなってきていた。
▼
しばらくして、料理が全部運ばれてきた頃にようやく、エドの一人漫才で爆笑していたシャーニッドが落ち着いてくる。
「あぁ~久々にこんなにわらったわ。おお、これうめえな!色々とサンキューな新入生。ぶっくくく」
思い出し笑いで噴出しそうになるが、口に入れたものは吐き出さずに気合で飲むこむシャーニッド。
どうやらまだ尾を引いているらしい。
「そんで結局なんなんだ?いい加減本題はいろうぜ」
レイフォンも笑ってはいたが、同時に一緒に座っていたために恥ずかしかったのか、シャーニッドと比べて比較的冷静だ。
さっさと終わらせたいらしく、話をせかそうとする。
「そう焦んなよ。本当、たいしたことじゃねぇんだからな。ただの確認だ。
この前のアレ見て思ったんだが、俺らの小隊ができたのはつい最近だ。
本当はこんな時期に小隊つくんのは無理があったんだが、会長が支援してくれてな。
なんでかは、分かん無かったんだが、この前のアレといいタイミングが良すぎるとは思うんだわ。
単刀直入に聞くが、うちの会長が呼んだのか?」
この男はどうやら意外と気が利くらしい。
さっきエドに一瞬向けた視線の意味を正確に理解して、その上で話を暈してくれている。
顔といいきっとモテるんだろうな、などと下らない事が頭に浮かんでくる。
レイフォンは自分の中のシャーニッドの評価を上げながら答える。
「呼ばれたわけじゃねぇよ、たまたまカリアンが俺のことを知っていただけだ。まあ、あんたらにとっては、そう違いは無いんだろうがな。」
「そういうことか、ツェルニにとってはいい事なんだろうな……。ごちそうさん、俺は帰るから、じゃあな」
そういって3人分の代金テーブルに置く迷惑料のつもりなんだろうか、
貰えるものはありがたく貰っておこうとレイフォンの中でシャーニッドの株がまた上がったのだった。
ちなみにエドはレイフォンたちが話している最中ずっと机に突っ伏したままで、冷めた料理を微妙そうな顔で食べていた。
▼
翌日
「やっほ~!ねぇねぇ!君たち、昨日17小隊のシャーニッド先輩と話してたんだよね!だよね!何はなしてたの?教えて?スクープ?」
どうやら厄介ごとは連続してやってくるものらしい。
朝、教室でエドとしゃべっていたらブロンドの髪をツインテールに結んだひたすらに五月蝿い女の子に絡まれてしまった。
原因は分かりきっている。
言い訳がめんどくさい事も、……分かりきっている。
レイフォンの中で、昨日随分上昇したシャーニッドの評価が地に落ちた瞬間だった。