ヒーローになれる暇がない   作:蓮太郎

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7.持つべきものは同じ苦労をした者である

 

「はあ、はあ、はあ、はあ…………」

 

「お巡りさん、大丈夫か?」

 

「なんとか…………本当に何なんだよあれ」

 

「俺もそう思う」

 

 初めてだ、誰かと一緒に逃げ切れるなんて。

 

 あの赤い空間に囚われた回数は30回は超えているのに誰とも一緒に逃げ切れたことは無い。

 

 だから、めっちゃ嬉しい。語彙力が極端に無くなるけど死ぬほど嬉しくて泣きそうだ。

 

 いや、既にちょっと泣いてる。

 

 何度でも言うぞ、誰かと一緒に逃げ切れたのは初めてだ!

 

「…………なあ、もしかしてあの日に角材を持ってたのは」

 

「あいつらから奪った」

 

「…………別に幻覚とか妄想とかでも」

 

「みんなが共通して見る妄想が存在するのか?」

 

「麻薬を使えばあり得る」

 

「集団麻薬中毒???」

 

 思ってるよりもお巡りさんが物騒な気がする。

 

「だけどよく分かった、ここ最近に行方不明が多いのが不思議に思っていたんだ。年齢もバラバラ、性別もバラバラ、明らかに事件性があると思っているのに痕跡が一切なかった…………」

 

「全員食べられたんだろうな。あのゴブリンは叩けそうなものなら何でも持ってた。明らかに人のバックで殴りかかろうとしてきた奴もいた」

 

「道具も全部持ち帰り…………」

 

「変な武器を奴らが持ってなくて良かった。刃物だったらもっと危なかった」

 

 棒のようなものであれば腕で防御してもいいまだ動かせるが、刃物は切り付けられたら血が出るし、出血が止まらないとそのまま倒れることもある。

 

 腕が折れた程度で止まる訳はないが、流石に出血多量はどうしようもない。

 

 なんかお巡りさんの俺を見る目がやばい奴を見る目になっている気がする。

 

「君、何回これに関わったの?」

 

「30回はあの中で逃げてる」

 

「その中に、その、他の人がいたとかは?」

 

「……………………」

 

 答えは沈黙、それだけでもお巡りさんはある程度察した顔をしていた。

 

 これも何度でも言うが、あの中では誰もが必死だ。俺だって例外じゃない。

 

 むしろ必死であるからこそ脱出できていると思っている。

 

 逃げ切れなかった人たちは、運と体力がなかった。

 

 変な方向へ進んで狭い道でゴブリンもどきに襲われて、逃げるために走り続けて消耗して足がもつれてしまいゴブリンもどきに追いつかれて。

 

 そうなっていった人は何人も見てきた。

 

 お巡りさんみたいに助けられたか?いや、お巡りさんは自力でここまで走ってこれた。俺が助けた訳じゃなく、俺が進んだ道に着いてきただけだ。

 

「まあ、その…………ありがとう。おかげで助かった」

 

「…………気にするほどじゃない」

 

 だから、こうして礼を言われるのはそんなに悪くない気分だ。

 

 そもそも俺の人生、礼を言われること自体が中々なかった。

 

 最後に言われた覚えがあるのはコンビニで商品案内をした時くらいか。

 

 それも機械的なもので、ただの社交辞令として言われた物だから何の感情も抱くことは無い。

 

 やばい、本当にちょっと泣けてきた。

 

 それでも涙をこらえて、俺はちょっと気になった事を言う。

 

「そういえば、さっき銃みたいな音が聞こえたけど、もしかして拳銃を使ったのか?」

 

 お巡りさんが居ると知った理由の一つである発砲音、あれは間違いなく拳銃の音だと思ったのだが…………

 

「ああ、あいつらに効くかと思って」

 

「効果はあったか?」

 

「全然ダメだった。一匹を仕留めたところで数が減るって訳じゃないし、向こうも全く引く気もなかったから二発しか撃ってない」

 

「やっぱり飛び道具は巻き込むタイプじゃない限りは無理か」

 

「殴った方が早い…………ああーっ!?」

 

 銃は効果的に見えてコスパが滅茶苦茶悪いんだなと思ったその時、お巡りさんは何かに気づいたかのように叫ぶ。

 

 いきなり叫んだことで俺はめちゃくちゃビビったが、それよりもお巡りさんが急に動揺し始めた方が気になる。

 

「や、やばい、発砲したから報告書あげないといけない…………こ、こんなの書ける訳ないだろ…………!」

 

「あぁー…………」

 

 絶望したようにお巡りさんが膝をついて慟哭する。

 

 確かにこんなファンタジックな状況になってモンスターに襲われたから武器として銃を使いました、と報告書に書かないといけないのか。

 

 シャブでもやったか?みたいなこと言われそうだな。

 

 それか死ぬほど疲れてるから一度寝ろと言われそうだ。

 

 そもそも今の彼って勤務中だよな?これ何の言い訳だよって言われるだろ。

 

 それで発砲した周囲で聞き取り調査しても、あの赤い空間に取り込まれていたから外に音が聞こえないし、物も全てあの空間が消えた際に消えている、筈だ。

 

 物的証拠もない、外傷もないから証明しようもない。

 

 ただ単に銃弾を無くしただけのお巡りさんがここに居る。

 

「どうしよう、これ本当にどやされるやつだ…………おぉん…………」

 

「ま、まあ頑張れ」

 

「待て、協力してくれないかな?な?流石に色々あって、また、逃げるな!逃げるなぁぁぁっ!」

 

 俺は一目散に逃げ出した。

 

 流石にちょっと巻き込まれる規模がデカくなるし、下手したら詐欺に加担してると疑われたら一巻の終わりだ。

 

「待って!事情聴取!逃げるな!公務執行妨害!いや、速ぇっ!?」

 

 何度でも言うぞ、俺は割と薄情な人間だ。

 

 ゴブリンもどきから逃げるよりも早くお巡りさんから逃げ切れるのであった。

 

 後日、お巡りさんは死ぬほど叱られたのを恨み節を込めて聞かされた。

 




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