願いの物語シリーズ【或る役者の妄言】   作:とーふ@毎日なんか書いてる

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第1話『僕達が三人で居たあの頃に、戻ろう。』

それは本当に偶然の出来事だった。

 

大きな映画の撮影を終えて、俳優仲間と酒を飲みながら趣味について話をしていた時の事だ。

 

一人の友が面白い物があると言って、彼が定期的に見ているという動画を携帯端末で映し出したのだ。

 

その時の衝撃をどう言葉にすれば良いだろう。

 

話しているのは遠い昔、僕が住んでいた場所で日常的に聞いていた言葉。

 

そして、それを話しているのは僕が幼少の頃から愛し、今でも変わらず想いを貫いている女性たちによく似た子供たちだったのだ。

 

「朝陽!? 里菜! 」

 

「違う。違うよジョージ。彼女たちの名前は『夢咲陽菜』と『立花光佑』さ。一人は元トップアイドルで、もう一人はあの大野晄弘のライバルだった男だぜ?」

 

「大野晄弘のライバルだって!? 彼は野球をやっていたのかい?」

 

「そうさ。残念ながら事故で引退してしまったがね。実に惜しい事だ。彼が打ったホームランの動画もあるけど、見るかい?」

 

「見せてくれ!」

 

「任せろ」

 

ワイワイと騒ぐ彼らをどこか遠い世界の様に感じながら、僕は彼らの名前について考えていた。

 

『夢咲陽菜』

 

そう。夢咲だ。

 

彼女は間違いなく彼女の……夢咲里菜の子供だろう。

 

姿は幼い頃の彼女によく似ている。

 

僕は気になって携帯端末で夢咲陽菜について調べたのだが、年齢から考えるにどう考えても僕と里菜の子供だった。

 

ちょうど陽菜を妊娠した頃の里菜は精神的に追い詰められていて、僕の家でずっと生活していたから。

 

僕もあの頃は一日中彼女の相手をしていたし、他の相手が居たとも考えられない。

 

でもそう考えると何故里菜は家を出て行ってしまったのだろうか。

 

陽菜がこうして元気に笑っている事を考えると、里菜は無事だと思うが……僕の傍は不満だったのだろうか?

 

いや、朝陽が居たからか。

 

彼女はいつも朝陽と同じである事を望んでいた。だから朝陽と違い子供が出来てしまった事に動揺したという事か。

 

それならば意味は分かる。

 

そして、もしその仮説が正しいとするならば、今彼女は一人で居るという事だ。

 

陽菜を育てながら一人で戦っているという事になる。

 

ならば、陽菜の父親として彼女を助けねばなるまい。

 

「すげぇ……おい、見ろよ! ジョージ。とんでもねぇぜ。光佑は!」

 

「なんだい?」

 

「これがさっき聞いたホームランの動画さ」

 

僕は彼らに手渡された動画を見ながら、その衝撃に目を見開いた。

 

これが高校生か。

 

「これは……すごいね」

 

「だろう? この時の光佑はまだ十七歳だ。それはまぁ晄弘も同じだけどね」

 

「いや、しかし実に惜しいな。彼がまだ現役だったのなら、晄弘と一緒に最高の試合を俺たちに見せてくれただろうに」

 

「まったくだ」

 

光佑。立花光佑か。

 

その面影に強く朝陽の姿を色濃く映した少年。

 

純粋に気になると思った。

 

朝陽が誰かと結婚するなんて考えられなかったし、ましてや子供を作るなんて理解出来なかった。

 

だって、僕達はずっと一緒だったはずだ。

 

どこに行くにしても三人で一緒だった。

 

里奈も、そう望んでいた。

 

だから、こんな風に僕達がバラバラなのはおかしいと、そう思った。

 

やり直さないといけない。

 

もう遅いかもしれないけど、それでも、まだやり直せる。

 

僕達が三人で居たあの頃に、戻ろう。

 

そうだ。それが良い。

 

僕はこの名案を形にするべく動き始めた。

 

まずは陽菜に会う。

 

その目的の為に飛行機やら仕事やらの調整を始めるのだった。

 

 

 

大きな仕事が終わった後だったからか、殆ど時間をかけずに僕は飛行機で海を渡り、陽菜の元を目指す事が出来た。

 

長い旅の中、僕は彼女の配信を見て暇を潰す。

 

朝陽の子供だと思われる光佑と共に笑う陽菜を。

 

いつかの日々を思い出すかの様な心温まる光景を、僕は見続けていた。

 

『んー。これ難しくないー? 本当に初心者向けー? 全然分からないんだけど!』

 

【陽菜ちゃんには難しいかもね】

 

【造形センスが】

 

【プラモにセンスもクソもあるかい。ただバラして嵌めるだけやろ】

 

【そうそう難しいのは塗装やら何やらを始めた時だよ】

 

【ここぞとばかりにプラモオジサンたちがうっきうきでコメントしててキメェ】

 

【どうせ企画リクエストしたのもこいつ等だろ】

 

【せやろな感】

 

『あー! もう! 分かんない! お兄ちゃん教えてー!』

 

『あぁ、これはね。ほら、ここが説明書でこうなってるだろ?』

 

『うん』

 

『だから、こっちからこうやってカチっとくっつけるんだよ』

 

『ほえー。流石お兄ちゃん!』

 

光佑と陽菜は本当に兄と妹の様であった。

 

彼女たちが兄妹である可能性はかなり低いと思うが、このままの関係を維持する事が望ましいだろう。

 

つまり、誰かが朝陽と里菜の二人を養う必要がある。

 

まだ先の長い未来を、子供たちとその子供たちの未来も守らなければいけないだろう。

 

それが出来るのは誰か。当然僕だろう。

 

僕はそのために世界で最も愛される役者になったのだから。

 

全ては彼女たちと共に歩む未来の為に。僕は今日まで頑張ってきたのだから。

 

輝かしい未来の為に。

 

『でっきたー!!』

 

『おめでとう。陽菜』

 

『でへへへ。私くらい才能があればこれくらい余裕だよ。今度佳織ちゃんに自慢しよー』

 

【まだ塗装が出来てないぞ】

 

【最低限スミ入れくらいはしないと完成とは言わない】

 

【その狭い世界の常識を押し付けないで貰って】

 

【ほら、完成したぞ。お帰りはあちら】

 

『今日はなんかいつもより荒れてんねぇ。しょうがない。今日は陽菜ちゃんが優しさを見せてあげましょう』

 

『何するんだい?』

 

『ふっふっふ。このプラモデルを作るという配信にちょうど良いゲームを、私! ゲットしてきました』

 

【なんか嫌な予感するな】

 

【それ以上はいけない! ここを動物園にするつもりか!!】

 

【ヒナーニィ! もう戦わなくていいんだっ!】

 

『じゃじゃーん! このロボットで戦うゲームだよ!』

 

【終わった……】

 

【ロボットじゃないから】

 

『えーっと、ねぇ。この対戦ゲームは二人対二人で戦うゲームなんだって。ほら、見て。陽菜が作ったロボットもここに居るよ!』

 

『へぇ。本当だね』

 

【ロボットじゃねぇって言ってんだろ!!!】

 

【相方ァ!!】

 

【いよいよカオスになってきたな】

 

【こんな状況でも淡々とゲームの説明してる陽菜ちゃんと兄さんのメンタル】

 

【まぁ兄さんガチ恋勢が暴れるとこの比じゃないから、慣れてんだろ】

 

『という訳で、はい。お兄ちゃんのコントローラー』

 

『最初は何をやる?』

 

『まぁ軽く動かし方覚えたら、このネット対戦って奴をやろうよ』

 

『分かった。そうしようか』

 

【地獄が始まるな】

 

【でも、一応ランクで別れてるし、そんな酷い事にならないんじゃない?】

 

【ランク?】

 

【要は上手い人は上手い人と、下手な人は下手な人と対戦する様になるってこと】

 

【へー。良く出来てんだな】

 

【まぁ初心者を増やさないとゲームは先細りするばかりだしな】

 

【なお】

 

【まぁ、どうせ出てくるだろうな。屑共が】

 

【どういうこっちゃ】

 

【わざとランクを上げない様にプレイする奴とか、わざわざ新規アカウント作ってまで初心者狩りに精を出す気持ち悪い奴が世界には居るんだわ】

 

【その行為に何の意味が……?】

 

【下手くそでも勝てるから嬉しいんじゃねぇの?】

 

【勝ちたいだけなら、今陽菜ちゃん達がやってるみたいに動かないCPU相手にやれば良いのでは?】

 

【対戦相手が居ないと嫌なんだろ。知らんけど】

 

【まぁ初心者狩りをする連中の気持ちなんて分かりたくもねぇからな。どうせ、現実世界に居場所の無い奴だろ】

 

【嫌われてんなぁ】

 

【そら。好きなゲームを荒らされてんのやぞ。キレもするわ】

 

【しかし、逆に言えばここがチャンスだぞ。ここで高い民度を見せつける事でゲーム人口が増える事もあり得る】

 

【信じるしかねぇ】

 

『よーし。大体覚えた。お兄ちゃんは?』

 

『まぁいつも通りな感じだね』

 

『ふふふ。なら陽菜ちゃんにお任せだよ! んじゃー行こう!』

 

【頼むぞ】

 

【無理そう】

 

『んー。マッチング中ー。おっ、来たねー。相手の名前は……陽菜ちゃんわからせ隊? このゲームにも陽菜って子が居るのかな? もしくはロボットの方?』

 

【終わった……!】

 

【まだ分からんやろ】

 

【いや、流石にこの名前で初心者はどうだよ】

 

【あーあ。これでもうゲームの宣伝は最低値になっちゃった】

 

【購入しようかな。なんて考えてた奴全員キャンセルしそう】

 

【もう営業妨害だろ。ここまで来たら】

 

【解散!!】

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