願いの物語シリーズ【或る役者の妄言】   作:とーふ@毎日なんか書いてる

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第10話『僕の物語は、ここで終わったのだ。』

里菜と溺れるような日々を過ごしていた僕は偶然出演した映画が空前の大ヒットとなり、一躍有名人の仲間入りをしていた。

 

当時はこれでようやく里菜や朝陽と並んでも問題ない人間になれると喜んでいた様に思う。

 

しかし、僕のそんな活躍を知った里奈の表情を見れば、その様な事には何の意味もない事がよく分かった。

 

「里菜」

 

「お、おめで、とう。流石ジョージね。で、でも偶然ヒットしただけでしょ。まだ完璧じゃないわ」

 

「そうだね。これからもっと役者としての地位を確かな物にしないとね」

 

かつてと同じ様に放った言葉で里菜は顔をさらに青くしながらトイレに向かい、辛そうに吐いていた。

 

当時は分からなかったが、今になって思う。

 

この時に、里菜は陽菜をお腹の中に宿していたのだろう。

 

「里菜。病院に行こう」

 

「だ、駄目よ! まだ、駄目! まだ、私、全然何も、何もできてない。大丈夫。すぐに上手く行くから。すぐ成功する。だから」

 

「里菜。そんな体じゃ無理だ」

 

「煩い! 煩い!! 私の事何も分かってない癖に、勝手な事言うな!!」

 

「里菜!」

 

「成功しなきゃいけないの! じゃなきゃ、私。私のままじゃ駄目なの!」

 

「落ち着け!」

 

結局この時、僕は里菜を病院に連れてゆく事が出来ず、数日後に彼女は姿を消してしまう。

 

でも、同じ事を繰り返すのは嫌だ。

 

陽菜に寂しい思いをさせるのも、里菜をこのまま見捨てるのも、僕は嫌なんだ!!

 

「分かった」

 

「……ジョージ?」

 

「ならせめて帰ろう。僕達の生まれ育った国へ」

 

「待って、駄目だよ。そんなの。だって、貴方は折角チャンスを掴んだんじゃない」

 

「確かにこれは大きなチャンスだろう。このまま突き進めば世界的な大スターになる事だって可能だ」

 

「そうだよ。分かってるじゃない。なら」

 

「でも、そんな空虚な肩書よりも、僕は君の事が大切なんだ。君を失う事は考えられない」

 

「っ! なん、で」

 

「僕が君を愛しているからだ。生涯を共にしたいと考えているからだ」

 

幼い頃からずっと、僕の手を引いて、勝気に笑う彼女の笑顔に何度も僕は救われてきたから。

 

僕は、かつて結局伝えられないまま終わってしまった自らの人生も思い返し、その気持ちも上乗せして里菜に伝える。

 

トイレで、ボロボロの彼女に伝えるのは少し卑怯かもしれないが、こうでもしなければ彼女には伝わらないと考えた結果だった。

 

そして、ポロポロと涙を流しながら僕の服を強く掴んで、俯く彼女を僕は抱き寄せた。

 

「私、すごく面倒くさい女だよ」

 

「知ってる」

 

「朝陽みたいに、何でもできないし。可愛くもない」

 

「君には君の良さがある」

 

「……例えば?」

 

「そうだね。最初はやっぱり、寂しがりな所かな。一人では不安で泣いてしまう程なのに、強がってしまう所も魅力的だ」

 

「うそ、そんなのメンドクサイだけだもん」

 

「僕にとっては素敵に見えるんだよ。そうやって素直になれない所もね」

 

「……本当に、私で良いの?」

 

「君が良いんだ」

 

僕はまだ戸惑っている様子の里菜に口づけをして、やや酸っぱいその味に笑いながら、目元を軽く拭った。

 

「でも、わたし、きっとこのお腹の子にだって、嫉妬しちゃうかも」

 

「子供? 本当かい!? 里菜!」

 

「あ、いや、違う、違うの。お願い……嫌わないで」

 

「嫌うもんか!! そうか。なんて嬉しいんだろう! 里菜。大丈夫さ。僕は君の不安など全て吹き飛ばしてしまおう! 君も僕達の子供も! 二人とも全力で愛すると誓うよ! さぁ、そうと決まればやはり帰ろう! こんな狭い所には居られないな! さ。君の荷物は僕がまとめてしまうからね。僕の女王様はソファーで座っててくれ!」

 

僕は里菜を抱き上げると、そのままソファーへと向かい、衝撃を与えないように座らせながら、ドタバタと飲み物を用意して、予定は全てキャンセルして、帰国の為の準備を始めた。

 

多くの人に止められたけど、僕は止まるつもりなんて欠片も無かった。

 

ただ、帰国してからの仕事は必要だと、国の俳優業界に声は掛け、今最も話題の有名人という看板を背負って突撃した。

 

幸いにも仕事は次々と決まり、両親に頼んで里菜の面倒をお願いし、さらに里菜の両親への挨拶にも行った。

 

病院では偶然朝陽にも出会い、朝陽も子供が出来ている事を知って、自分の事の様に喜ぶのだった。

 

僕と里菜の子供が朝陽の子供と同じ年なのだ。

 

これを喜ばない理由がどこにある。

 

僕達は次の世代になったとしても一緒なのだ。

 

いっそ生まれた子同士が結婚でもしてくれれば、真実僕達は家族になる事が出来るが、どうやら二人とも女の子な様だった。

 

それを少しだけ残念に思ったが、まぁ随分と身勝手な願いだ。神様が怒ったのだろうと思う。

 

しかし、陽菜も綾もとても可愛らしく、僕のくだらない考えなんて全部どうでも良くなっていた。

 

そして、僕はなるべく国内にとどまりながら、役者としての地位を高めていった。

 

里菜は陽菜や朝陽と共に居ながら、始めたデザインで有名になり、世界の反対側に招待され、そこで働かないかと言われたらしいが、陽菜の事や僕の事があり、断ってくれたらしい。

 

「本当に良いのかい? 本場で仕事をする事にずっと憧れていただろう?」

 

「……うん。でも、私にはもっと大事な事があるから。ね。陽菜」

 

「ひなは一人でも大丈夫だよ」

 

「ホントかなー? この前パパが帰ってこないってお気に入りのうさちゃん抱っこして泣いてたのはどこのお姫様だったかなー?」

 

「ひなじゃないもん! パパ。ホントだよ? ひな。全然大丈夫なんだから。だから、パパもママもやりたい事やっていいよ!」

 

「やりたい事か。なら、陽菜とママを抱きしめる事かな!」

 

「きゃー。あははは。パパ。あつーい!」

 

「ママも、ぎゅー!」

 

「アハハ」

 

僕は満足だった。

 

たまに撮影で帰る事が出来ない日もあるけれど、朝陽や幸太郎が里菜の手助けをしてくれて、陽菜の事も見てくれている。

 

すくすくと育ってゆく光佑は朝陽によく似て、やたらとモテて困っている様だったが、逆に僕が相談に乗る事が出来た。

 

やがて、加奈子ちゃんや紗理奈ちゃんも朝陽が引き取って僕達は大きな家族となっていった。

 

そして僕は、最後にずっと心に引っ掛かっていた願いと出会う。

 

「は、はじめまして! 今日からよろしくお願いいたします! 星野雛です!!」

 

「そんなに緊張しないでくれ。自分の家だと思って」

 

「師匠! でも!」

 

「大丈夫。里菜も陽菜も気にしないさ」

 

「は、はぁ」

 

僕は芸能界で一人行き場もなく、潰されそうだった星野雛と交流を深め、家に招き入れた。

 

彼女の両親は遠い昔に亡くなっており、今では体の弱い祖母と二人暮らしだ。

 

だから、僕は彼女に手を差し出して、言ったのだ。

 

朝陽の様に。僕と家族になって欲しいと。

 

そんな僕の言葉に彼女は頷いてくれて、彼女の祖母には最高の病院で治療してもらい、彼女自身は家に招待したのだ。

 

「雛? 陽菜と同じだねー。よろしく。雛お姉ちゃん」

 

「お姉ちゃん……! なんて感動的な響き! はい! お姉ちゃんですよ! 陽菜ちゃん!」

 

「えへへ。綾ちゃんに自慢しちゃお」

 

「良かったね。陽菜。雛さん」

 

楽し気に笑う天使たちを見て、僕は満足げに笑う。

 

新聞を見れば、僕と雛、そして耕作と清史郎の四人で演じた映画がとんでもない興行収益になったと発表があった。

 

これから世界はより幸せな夢を見る様になるだろう。

 

なんて、コーヒーを飲みながら考えていた僕は不意に太ももの上に座った里菜の気配にコップをテーブルの上に置いた。

 

「ところでジョージ?」

 

「な、なにかな。里菜」

 

何故か怖い笑顔で僕の上に座る里菜に僕は背中に冷や汗を流した。

 

「さっき聞いたんだけど。雛さんを引き取る時に言ったそうね。家族になって欲しいって」

 

「あ、あぁ。言ったね」

 

「ふぅん。つまり、もう私には飽きちゃったって事? やっぱり若い方が良いの?」

 

「そ、そんな訳無いだろう! 僕は何歳であろうと君を愛しているよ!」

 

「わ、わ! ひ、陽菜ちゃん。見ちゃ駄目!」

 

「かくれんぼー? いいよ! ひな、強いから!」

 

僕は里菜を強く抱きしめて、キスを落とした。

 

顔を真っ赤にしている里菜、楽しそうに笑っている陽菜、そして陽菜の目を隠している雛。

 

みんなを見て、僕は叫んだ。

 

「みんな愛してるよ!」

 

もう届かない言葉を僕は夢の中で放った。

 

もっと、早くこうしていれば良かったと後悔を胸に。

 

僕は終わっていく世界の中で、僕は里菜を、陽菜を、雛を。抱きしめて、泣いた。

 

時は戻せない。

 

後悔は取り戻せない。

 

全ては終わってしまった。

 

ただ、それだけが事実であった。

 

 

 

僕の物語は、ここで終わったのだ。

 

あの時、こうしていれば良かったという意味のない言葉だけを胸に抱きしめて。

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