願いの物語シリーズ【或る役者の妄言】   作:とーふ@毎日なんか書いてる

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第6話『今更僕がどんな顔をして、何を里菜と話せば良いのだろうか。』

僕は陽菜と光佑と綾ちゃんという光佑の妹さんが住んでいるというマンションにお邪魔して、客間に寝ころびながら朝陽に聞いた番号を見つめていた。

 

そこには里菜の番号が書かれており、電話をすれば繋がるとの事だった。

 

しかし、何を話せば良いのだろうかと悩んでしまう。

 

今更僕がどんな顔をして、何を里菜と話せば良いのだろうか。

 

悩み、悩んで、悩んだ結果、僕はみんなが寝静まったリビングに移動して、コップ一杯の水を飲み干してからソファーに座り、電話を鳴らしてみる事にした。

 

数刻の呼び出し音の後、酷く懐かしい声が向こうから聞こえる。

 

『もしもし? どなたですか?』

 

「僕だ。ジョージ・ウィルソンだ」

 

『っ! ジョージ!? なんで』

 

「朝陽に番号を聞いた」

 

『朝陽に会ったの!?』

 

「あぁ。陽菜にもな」

 

『そっ、そう。それで? 今更何の用?』

 

「何の用。か……いや、電話をしておいて申し訳ないが、何も思いついていないんだ」

 

『そう。貴方、昔から何も変わらないのね。私や朝陽が居ないと何も出来ない。何も決められない』

 

「そうだね。うん。その通りだ」

 

『もう貴方なんて必要無いの。私たちは上手くやってるし。今更出て来ても邪魔なだけだわ』

 

「そうかもしれないね。でも、陽菜と約束したし。僕は陽菜の傍に居るよ」

 

『陽菜には! 朝陽が居るし! それに私だっているわ!! 必要ないって言ってるじゃない! 陽菜は朝陽を求めてるのよ!』

 

「それなら僕も朝陽と陽菜の傍に居られるように頑張るだけさ」

 

『勝手な事ばっかり言って! そうやって朝陽の傍に居たいだけなんでしょ! 朝陽の事好きだったんでしょ! だから陽菜を利用して、近づこうっていうのは卑怯なのよ!』

 

「そんな事はない。って言っても君は信じないだろうね。もう良い。分かったよ」

 

『何が、分かったのよ』

 

「君とは分かり合えないって事がだよ。とにかく僕は陽菜と朝陽の傍に居る。それが嫌なら君も来ればいい。ここに。それで解決する話さ」

 

『私は……その、仕事が』

 

「そうだろうな。まぁ良いさ。僕は陽菜が望む限り、傍に居る。それだけだ」

 

『ちょっと! 待ちなさいよ!! ジョージ!!』

 

「そろそろ君も寝る時間だろう。話すなら直接だ。そうだろ?」

 

『そんな自分勝手……!』

 

僕はまだ電話の向こうで叫んでいる里菜の声を無視して電話を切った。

 

そして、深く息を吐きながら頭を抱える。

 

難しいな。本当に。

 

何もかも。悩ましい事ばかりだった。

 

でも、一つ覚悟を決めた事はある。

 

それは例え仕事を辞めたとしても、陽菜の傍に居るという事だ。

 

幸いにも稼いできた金は大量に残っている。それを使えば陽菜とずっと生活する事は可能だろう。

 

ならば、これまで何も出来なかった分、全て陽菜に尽くしたい。そう思うのだった。

 

「……ジョージさん?」

 

「あぁ! すまない。起こしてしまったか!?」

 

「いいえ。ちょーっと空気の読めない電話で起こされただけです。それで水飲もうかなって考えてたらジョージさんがいたので」

 

「そうか。こんな深夜に。困ったものだね」

 

「そうですね。まぁ、私の事なんて興味ないんですよ。だから時差の事なんて何も考えてない。あの人は、いつも!」

 

「陽菜っ!」

 

「……なんですか?」

 

人が話をしてる最中に割り込むなんて、いけない事だろう。

 

陽菜も悲しい気持ちになる。

 

でも、僕は言わなければいけない気がしたのだ。

 

寂しさと憎しみと、怒りを押し殺したような表情をした陽菜に。

 

「僕は、まだ父親になってから数日の男だ。でも、これから僕が死ぬまで多分百年以上ある。もしかしたら二百年以上生きるかもしれない」

 

「……」

 

「陽菜がこれまで寂しい思いをしてきた分の十倍以上の時間が、僕達にはあるんだ。だから、その、なんだ……?」

 

「なに?」

 

「僕はどんな時でも、陽菜の味方だよ」

 

「……ジョージさんはさ。例えば私がお母さんと一緒に暮らすから出て行って、もう顔を見せないでって言ったら、どうする?」

 

「それを陽菜が望むなら、僕は叶えるよ」

 

「会いたくないの?」

 

「会いたくない訳が無いだろう? 会いたいさ。もう会えないなんて身が引き裂かれそうだ。きっと耐えられない」

 

「でも、会わないんでしょ」

 

「あぁ。陽菜が望むなら、僕はそれを叶えるよ」

 

「そっか」

 

陽菜は読めない表情で目を伏せると、僅かな迷いを見せた後、僕を見上げた。

 

「ねぇ」

 

「なんだい?」

 

「お父さんって、呼んでも……いい?」

 

「あぁ。いくらでも。呼んでいいよ」

 

「パパとかダディとか親父とかでも?」

 

「勿論だとも。何ならジョージと呼び捨てにしても良いよ」

 

「そっか……ならさ。パパって、呼んでも良いかな」

 

「当然じゃないか」

 

「……パパ」

 

「なんだい。陽菜」

 

「ん」

 

陽菜は僕に向かって両腕をやや広げる。

 

なるほどと思いながら、陽菜を抱き上げた。

 

「陽菜は甘えん坊だなぁ。また一つ君の魅力を知ったよ」

 

「……パパは、あったかいね」

 

「それが僕の数少ない自慢さ。陽菜に気に入って貰えると嬉しいね」

 

「……ふふ。全然、駄目。こんなにあったかいんじゃあ、一緒の布団には眠れないよ。朝、起きられなくなっちゃう」

 

「それは、確かに困るね」

 

「そういう訳だから、私は、いつも通り一人で寝るよ」

 

「あぁ。おやすみ」

 

「それと、パパって言うのは、恥ずかしいから……二人きりの時だけ、ね!」

 

「分かったよ。またその時を楽しみにしてる」

 

「ん。じゃあ……おやすみ」

 

「あぁ。良い夢を」

 

僕は陽菜の頬に口づけをしながら、別れを告げた。

 

どこか恥ずかしそうにしながら部屋に帰っていく陽菜を静かに見守る。

 

これが正しい事。それは間違いない。

 

間違いないが、どこか不安な気持ちは消える事が無かった。

 

 

 

そして僕は陽菜と共になるべく多くの時間を過ごしていたのだが、遂にというかその時がやってきた。

 

そう。里菜が陽菜に会いに来たのだ。

 

いや、どちらかと言うと、僕を追い出しに来たというのが正しいだろうか。

 

何せ里菜は陽菜が居ない時を、僕が一人の時を狙って接触してきたのだから。

 

町中で突然腕を掴まれて、店の中に連れ込まれた僕は一瞬ビックリしたが、その主が里菜だと気づいて落ち着きを取り戻した。

 

「やぁ、久しぶりだね」

 

「別に会いたくなかったけどね」

 

「それは残念だな」

 

「フン。そういう所は変わってないのね」

 

「そういう所?」

 

「チャラチャラとさ。軽口叩いて、うざったい性格してる所」

 

里菜は機嫌が悪そうに頼んでいた紅茶を一口飲むと、眉間に皺を寄せながら僕を睨みつけた。

 

そんなに睨まれても困るのだが、僕から出来る事も言う事も何もない。

 

ただ静かにコーヒーを飲みながらケーキを口にするだけだ。

 

「……その、朝陽には何もしてないでしょうね」

 

「まず真っ先にそれかい? 陽菜の事を心配した方が良いと思うけどね」

 

「知ったような事言わないでよ。最近知っただけの癖に!! 陽菜なら私が心配しなくても大丈夫だから」

 

「まぁ、そうだね。それはそうだ。なら新米の父親として一言言わせてもらうよ。親ならまず真っ先に子供の心配をするべきだろ? 僕の相手なんかしてる場合じゃ無くてさ」

 

「自惚れないでよ! 陽菜となら毎週話をしてるし。プレゼントだっていつも送ってるわ」

 

僕は思わずため息を吐きたくなる様な気持ちで、里菜を見つめた。

 

かつて、あんなにも恋焦がれ、愛した女性は、今やこんなにも変わってしまったのかと。

 

いや、変わってはいないのかもしれない。

 

思い返せば彼女はいつだって朝陽の事ばかりで、周りの事など何も見えていなかったのだから。

 

「そうか。君が良いのなら僕も多くは語らないけどね。で? ここに来た理由は何だい?」

 

「決まってるでしょ。この前言った通り、さっさと自分の国に帰りなさいって言いに来たのよ。わざわざね」

 

「それはご苦労な事だ。じゃあ言葉は聞いたし。帰ると良い」

 

「は?」

 

「僕は君の言葉を聞いた。返事はノーだ。しかし、君は伝えるという役割を果たした。これで満足だろう? なら早く帰れば良い。仕事が忙しいのだろう?」

 

「馬鹿にして……! アンタが成功した事なんてね! ただの偶然なんだから! アンタの実力じゃない!!」

 

「突然何の話だ?」

 

「私の方が、地位も財産も上なの! アンタなんて、所詮ただの顔だけ俳優ってだけじゃない! 偉そうな顔して、ふざけんな!」

 

「ふざけたつもりは無いし。偉そうにしたつもりもないよ。ただ、僕と話をしていて不快になるのなら、これ以上話さない方が良いだろう」

 

「逃げる気!?」

 

「あぁ。そうだ。僕は逃げるよ。トラブルが嫌いなんだ」

 

僕はテーブルに置かれたレシートを持って、レジへ向かい、迷惑料として多めに置きながら店を出た。

 

里菜はまだ憎々し気に僕を睨みつけていたが、まだ彼女と話すのは難しいと感じるのだった。

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