剣一つあれば良い   作:オルフェイス

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(◎n◎)<今章の終わりです。

(◎n◎)<次章は早ければ三日後、遅ければ一週間後になります。お待ちください


幕間・グランバロア出身マスターの自他

 

 海洋国家グランバロア。

 それは世界で唯一、海上に存在する国家。

 巨大な船を都市とし、土地とし、そして海を巡る者達の居場所。

 <グランバロア大船団>と呼ばれる冒険及び開拓、軍事、貿易、海賊の四つの船団グループによって国が形成されているが、今回はそういった部分は関係ないため割愛。

 

 今回は、グランバロアからスタートし一人で黙々と過ごしているとある<マスター>の話である。

 

 

 

 △△△△

 

 

 

 海流に揺蕩い、海上に浮かぶ船があった。

 いや、それは船というには歪で、明らかに違うものだった。

 黒い四角の、巨大な箱というべきもの。

 その箱から長短様々な筒が多く伸びている。

 まるでそこから放たれる何かがあるように。

 

 実際、それは砲身だった。

 伸びている筒の一つが動き出し、ある角度で動きを停止。

 

 爆音。

 

 音と共に凄まじい速さで砲身から砲弾が放たれ、放射線を描きながら海上に着弾、高い水飛沫を上げた。

 水飛沫が完全に落ち、水のカーテンが消え去るとそこには様々なアイテムが海の上で揺蕩っていた。

 着弾地点にいたモンスターを察知し、砲撃で殲滅したのだ。

 

 しばらくして、黒い巨箱は粒子となってその姿を消す。

 代わりに現れたのは小さな一隻のボートと、それに乗る一人の女だけだった。

 眼鏡をかけ、黒い髪を後ろに束ね、顔以外の全身を覆うフード付きのローブを着込む女。

 

 その手には、不死身の<マスター>であることを示すエンブリオの紋章があった。

 

 そんな彼女の顔は……何処か不満げだった。

 

 

「なんで自動回収とかないんだろ……そしたら態々戻さなくても良いのに……はぁ」

 

 

 ボートを動かし、ドロップアイテムの散乱する場所へと辿り着くと虫とり網……ではなくランディングネットでドロップアイテムを拾い上げていく。

 

 

「私のエンブリオは金食い虫すぎる……いや強いんだけどさ」

 

 

 でも利便性はもう少しなんとかならなかったの、と呟きアイテムを拾い終えると、紋章を宿す手を上に突きだした。

 

 

「出てきて」

 

 

 自身のエンブリオを紋章から出し、先程の黒い巨箱が姿を現す。

 そして着水の衝撃で海水が揺れ、波となってボートの上にいる彼女自身に振りかかり、びしょ濡れになった。

 

 暫く無言でいた彼女は、深いため息を吐くとボートを動かしエンブリオへと近づき、入り口から内部へと乗り込んだ。

 

 そして再び海を揺蕩う黒い巨箱が、敵が範囲内に入ってくるまで揺れながら鎮座する。

 

 それが彼女……アノマチボックスの、<Infinite Dendrogram>での日常だった。

 

 

 

 ▽▽▽▽

 

 

 

 アノマチボックス……阿野(あの)真知子(まちこ)は一般社会人女性である。

 本人もその自覚があるし、諸々を考えると冴えない女であると認識していた。

 

 真知子には友人がいない。

 小中高大、全ての学生時代において友人と呼べる人物が出来たことがない。

 

 理由は数多く存在するが、一番の理由は他者との交流を求めなかったからだろう、と本人は推測していた。

 彼女の家庭は、兎に角兄弟姉妹が多い。

 真知子は順番で言えば三子であり、兄弟姉妹を全員揃えると十にも及ぶ。

 

 故に、実家にいるときは一人でいられる時間が限りなく少なかった。

 だからなのか、学校では一人でいた。

 家では仕方がないにしても、それならばせめて家以外では、と。

 それが仇となって、結果として友達0人を記録している。こんな結果になっているのは家族全体でも真知子だけであった。

 

 家を出て一人暮らしになっても、他者との交流を求めることはなかった。

 一人でいることは苦痛ではなく、心地良さすら感じる。一人暮らしサイコー、と思っていた。

 

 しかし全く友人関係どころか交流すら持たない真知子は、会社の人間からはクールに思われていて密かにファンが存在しているのだが、そんなことはもちろん彼女は知らない。

 

 そんな生活を続けていた彼女は、とあるゲームのCMを見たことで「やってみようかな」と思い始めた。

 

 <Infinite Dendrogram>。無限の可能性を謳うゲーム。

 

 趣味にお金を使うタイプである真知子だが、ゲームを買うお金くらいはある。興味が湧いたのならやってみたくなるのが好奇心というもの。

 

 仕事帰りにゲーム機とソフトを買い、彼女は<Infinite Dendrogram>の世界にログインした。

 

 

「ようこそ、<Infinite Dendrogram>へ。歓迎するわ、新たな<マスター>」

 

 

 真知子のチュートリアルを担当したのは管理AIを名乗るハンプティダンプティという名前の少女。流暢な対応に本当にNPCなのかと疑うほどに本物そっくりだと思った。

 

 しかし、ログインしてすぐに真知子は思い知った。

 このハンプティダンプティを名乗る少女は、意地が悪い、ということを。

 

 一度はアバターを作り、流石にリアルに似すぎてアバターを変えようとした真知子……アノマチボックスは、そのハンプティダンプティ本人にアバター変更を拒否された。

 

 再三変えるように言っても面白そうに笑うだけで全く変える気配はなく、いつの間にか既に選んでいた国家へと落とされた。

 

 初手から最悪の気分だったと、アノマチボックスは眉を顰めた。

 

 その日はゲームを続ける気にはなれず、仕方なく後日に回してログアウトした。

 そして翌日、アノマチボックスは再びログインして降り立った国……グランバロアを探索した。

 

 ハンプティダンプティのせいで気落ちしたが、やはり相当高性能なゲームだと思えた。

 NPCの対応に違和感はないし、海の匂いはリアルそのもの、肌の触感や服の感触も違和感が無さすぎる。

 

 そうして探索を続けていた彼女に、自身に与えられたエンブリオが孵化した。

 

 一人くらいは乗り込めそうな大きな黒い箱。その中心には、一つの大砲が備え付けられていた。

 

【大砲機 アレス】

 

 TYPE∶キャッスルのエンブリオだった。

 スキルは大砲を放つというシンプルなもので、しかし肝心の弾がなかった。

 

 

「今後に期待、ってところかな」

 

 

 少なくとも今は使い道はなさそうだと思いながら、このエンブリオに合わせてジョブに就こうとアノマチボックスは一度ログアウトしてwikiから情報を閲覧した。

 

 そうして試行錯誤の日々が始まった。

 

 まずジョブ構成。大砲というのだから砲撃に補正が乗るジョブか、もしくは弾を作れるジョブにするか。

 悩んだが、そもそも弾がなければ使えないため、アノマチボックスは生産職になることを決めた。

 現段階ではアレスに使える砲弾は作れないため、兎に角ジョブレベルとスキルレベルを上げるため生産を続ける。

 

 その間にもアレスは進化していく。より大きくなり、砲身の数が増え、さらには素材となる金属を入れれば自ら弾を生成するようになった。

 それからは弾を作るのではなく、その前段階の金属を生み出す【錬金術師】のジョブに就いてレベルを上げた。

 

 しかし、費用対効果が釣り合っていない。

 素材として受け付けるのは金属だけ。あとは増えた砲弾の種類から【ジェム】を追加で要求されるものもある。アレスが大きくなるにつれて一度の砲撃で必要となる金属も増えていく。

 攻撃力は高いが、一度の戦闘で落ちるドロップアイテムでは群れをたった一度の砲撃で葬ってもギリギリ黒字になる程度。

 

 そのため、アノマチボックスは戦闘は出来る限り控えて生産職として活動した。

 

 わざわざ戦闘をしなくても<Infinite Dendrogram>の世界は十分に楽しめた。

 だが、エンブリオを使わずに楽しんでも、それは最大限に楽しめたと言えるのか。彼女はそう疑問に思い、貯めた資金や金属はアレスに投資した。

 

 パーティでも組めば、常に発生する資金難は解決したのかもしれない。しかし彼女はこの世界であっても一人でいることを望み、他者との交流を避けた。

 

 それからどれほどの月日が経過したのか。

 

 アノマチボックスのエンブリオであるアレスは<超級エンブリオ>に到達し、TYPE∶フォートレスに。名前も【砲弾要塞 アレス】へと変化した。

 元からあったスキルが必殺スキルへと変化し、スキルが必殺スキルを含めても2つしかないために出力も高いものになっている。

 <超級>とは、<マスター>の中でも特別な存在。その力は並のマスターを凌駕している。

 

 しかし、アノマチボックスは喜ばなかった。

 

 

「エンブリオは、自身のパーソナルと願望を反映する」

 

 

 彼女は小さく呟き、アレスを見上げる。大きく、強くなった自身のエンブリオ。

 そのことは最初にログインした時から知っていた。

 その上で、自身のアレスは何を反映したエンブリオなのか。それをアノマチボックス……いいや、阿野真知子は理解していた。

 アレスは、きっと()()()()()()()()()()

 砲弾を自身で生み出すのは、他者に頼りたくないから。

 アレスにチャリオッツ系列が含まれず動けないのは、自身が今まで他者と繋がるために動いたことがないから。

 砲撃なのは、煩わしいものは遠くに行って消えてほしいと思っていたから。

 最後の願望は、彼女自身も自覚していない願いだったが、それも必殺スキルと化した砲弾生成のスキルに追加された砲弾で理解させられた。

 

 彼女のエンブリオは、如実に阿野真知子という人間を表している。

 他者に意味を見出だせず、一人こそを望む。それが自身の本質なのだと。

 彼女はそれを理解し……しかし、すぐに開き直った。

 

 

「今までと変わんないよね、それ」

 

 

 突きつけられた事実を受け入れ、アノマチボックスは変わらないことを選んだ。

 なぜなら困らない。

 一人でいるのが好きなのは本当だし、<Infinite Dendrogram>でなら他者と交流する必要はない。

 現実でも、彼女は一人だ。

 だから困らない。

 今までと変わりない。

 敢えて言うならアレスがより強力になり……より扱いづらくなった。

 それだけでしかなかった。

 

 

「さ、今日は何をしようかな」

 

 

 そして、今日も彼女は海を揺蕩う。

 一人で黙々と、何者にも関わることなく。

 他者の方が彼女に接触する、その時まで。

 

 




『アノマチボックス』
(◎n◎)<自称・普通の女性。もちろんそんなわけがない。

(◎n◎)<真知子を知る人(親や兄弟姉妹)からは『メンタルモンスター』と称されていることを本人は知らない。

(◎n◎)<名前は苗字+名+適当な英単語で決定した


【砲弾要塞 アレス】

(◎n◎)<見た目∶四角いウニ。

(◎n◎)<砲弾生成&砲撃が特性。火力ではクマニーサンを軽く上回ってる。けど種類では負けてる。

(◎n◎)<そして外部コストを必要としているため、火力は高いけどお金が掛かる。

(◎n◎)<進化してもその分の消費を軽くせず火力に注ぎ込んだので素材を得るためにお金が必要。

(◎n◎)<結果・資金難で常に金欠。

(◎n◎)<超級職になるか、あるいは相性の良い相手と組めば状況も変わるけど、本人が自発的に動かないので基本は超級職待ちになる。

(◎n◎)<ちなみに、アレスの砲撃はアノマチボックスのマニュアル操作。

グラムの必殺スキル

  • 我が剣に曇りなし
  • 剣一つあれば良い
  • 神剣
  • 一剣万象
  • 剣の理
  • 全なる一刀
  • そんなものはない
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