剣一つあれば良い   作:オルフェイス

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(◎n◎)<……さて、誰でしょうね?


賊、剣、地

 

 砂漠の中を横断す。

 今の状況を一言で表すならそうなるだろう。

 夜中、冷え切った中を俺は一人で進んでいた。

 

 

『さーて、目当ての<UBM>はいないかデビー』

 

 

 場所はカルディナ。俺はとある<UBM>目当てにここまでやってきていた。

 なんでもカルディナの冷え切った夜中にしか現れないという<UBM>らしく、等級も最低でも伝説級はあるのだとか。

 最低でも、なんて曖昧な言い方をしている理由は、誰も件の<UBM>を見たことがないためだった。

 姿を見たかと思えば看破ができず、すぐに姿を消したかと思えば自分が死んでいた、ということが多数あったそうな。

 ちなみに俺は話を聞くまでそんなのは知らなかったし、討伐に行くつもりもなかった。

 

 じゃあなぜここまで来たのかと言うと、ティアンにクエストを頼まれたから、というのが理由。

 断る理由はなく、じゃあ倒してくるかと軽い気持ちでここまでやってきたわけだ。

 

 

『このあたりのはずデビー』

 

 

 ある程度歩き進んだところで足を止め、辺りを見渡す。

 曰くオアシスの近くにいることはなく、砂漠のド真ん中、遠くに何も見えない位置で襲撃に遭うという。

 とはいえこちらからは見えず、発見できていない。

 なので逆説的に居場所も把握できる。

 

 

『見渡しても見えないなら平面にはいない。空を見上げても同様。となれば……』

 

 

 いるのは砂中。

 グラムを上に掲げ、そして地面に振り下ろす。

 本来なら斬撃になって地面を斬り裂いてしまうんだが……今回は少し工夫して攻撃力=衝撃に変換した。

 《剣強化》や《剣撃張離》は一時的に解除し、それでも三〇〇万オーバーの攻撃力で地面を叩けば、それはどれほどの衝撃になるか。

 

 答えは、地震と勘違いしてしまうほどの揺れ。

 

 暫く揺れて、少しすればおさまる。

 そして離れた場所から何かが飛び出る音が聞こえてそちらを見る。

 それは蠍……いやアリジゴクか。兎に角、大きなアリジゴクだった。

 体色も完全に砂漠に紛れるような砂色。大きさは4m弱。頭上には【薄貼景牢 ミラージュロウ】という名前が出てきて、視てみる感じからして等級は……古代伝説級ほど。

 

 

『目当ての獲物発見デビ』

 

 

 剣を構え、装備も【だぶるかのん】に変更しておく。

 【ミラージュロウ】も引きずり出された原因が俺と理解し、すぐに砂中に潜り込もうとせずにその体を薄れさせていく。

 気配を断つスキル、光を使って幻を見せるスキル、と。大体こんな感じか。直接戦闘には向いておらず、奇襲と隠蔽及び隠密に特化した<UBM>なのだろう。

 俺なら幻を見せられようが見破れる。大した手間ではない。

 そう思いながら剣を振り上げ、

 

 次の瞬間、空間が()()()

 

 

 

 

☆☆☆☆☆☆☆

 

 

 

 

 ()()は空気だった。

 ただの空気である、はずだった。

 しかしその時は違った。

 組成が組み替えられた。

 空気から()()()()()()()が生成された。

 ─────()()()()()が引き起こされた。

 その結果起こるのは……広範囲の()()()に達する熱量による爆発。

 それにオールドポンドは巻き込まれた。

 いや……攻撃を喰らうことになった。

 それを成したのは……

 

 

 

 

☆☆☆☆☆☆☆

 

 

 

【<UBM>【薄貼景牢 ミラージュロウ】が討伐されました】

【MVPを選出します】

【【ゼタ】がMVPに選出されました】

【【ゼタ】にMVP特典【潜砂光景 ミラージュロウ】を贈与します】

 

 

「目標。討伐を確認」

 

 

 爆発が起きた中心点から、少し離れた場所。

 何もいなかったはずの空間から、揺らめくよう現れた一人の少女。

 包帯……らしきものを全身に巻き付けた少女。

 彼女の名前はゼタ。

 超級職【盗賊王(キング・オブ・バンディット)】ゼタ。

 そして、<超級>ゼタである。

 

 彼女こそが、この爆発を引き起こした張本人であった。

 なぜオールドポンドも巻き込んで爆発を起こしたのか。

 それは、彼女もまたクエストを受けて<UBM>討伐に来ていたためだ。

 しかし彼女の<エンブリオ>は探知探索には向いてるとは言い難く、捜索に時間が掛かってしまった。

 故に見つけた時にはオールドポンドが対峙していて……取られる前に取ってしまえの理論で、彼女は自身の必殺スキルを用いて()()()()()()()を引き起こし、<UBM>を爆殺した。

 

 

「帰還。もう用はありません」

 

 

 彼女は自身の手に入れた特典武具を確認すると、すぐにアイテムボックスへと収めて再び姿を消し、

 

 ()()()()、彼女の近くに超音速機動で近づいた白い少女が、首を狙って刀を振るった。

 

 

「《コードⅡ:シェルター》」

 

 

 その刃は、ゼタへ届く前に見えない壁に防がれ、

 僅かな抵抗の末、刀は振り切られた。

 しかしその時にはゼタは既に斬撃から逃れていた。

 

 

「《コードⅣ:アーティラリィ》」

 

 

 そして、透明な無数の弾丸が放たれる。

 囲むように放たれた無数の見えない弾丸。鋼鉄程度ならば容易く貫く攻撃。

 その攻撃も、白い少女……シシカバネの放つ《竜王気》によって全て打ち消された。

 

 

「……疑問。あなたは誰ですか?」

 

 

 ゼタは訝しむ。目の前のシシカバネの正体に。

 その服装は、白い無垢を想起させる。ゼタの知るところの花嫁衣装であるとは、見たことはあった。

 しかしそれに不釣り合いなほどに物騒な戦国風な兜が色々と台無しにしていた。多少はゼタも気になりはしたが、今気にするべきはそこではないと切り捨てる。

 問題なのは何処から現れたのか、ということ。

 見た目は明らかに人にしか見えず、しかし突然現れたとなれば選択肢は限られてくる。

 転移でもしてきて呼び出されたか、あるいはそもそも─────そこまで考えたところで、

 

 

『【盗賊王】、確認候』

 

 

 兜が、喋った。

 それも自身のジョブ名を当ててみせた。

 そちらに一瞬意識を取られ、

 

 

「確認そーろー」

 

 

 一気に近づいてきたシシカバネの刃が、ゼタの首を斬り裂かんと届きかけた。

 

 

「っ!」

 

 

 咄嗟に紙一重で避けて飛び退り、距離を離そうと《コードⅣ:アーティラリィ》を放ちながら距離を稼ごうとするが、シシカバネはものともせずにゼタとの距離を詰める。

 そして、()()が擦り減るような……吸い取られるような感覚をゼタは覚えた。

 

 

(これは……まさか、吸収している?)

 

 

 ゼタは即座にスキルを使いシシカバネの制圧を行おうとした。

 しかし、何も起きない。

 いや、起きようとはしたが、それを行うためのリソースを吸い取られたのだとゼタは理解した。

 

 

(MPやHPどころではない、リソースの吸収スキル……!)

 

 

 彼女の<エンブリオ>は多様性に優れているが、反面出力は低い。

 仮に相手の出力が範囲に割り振られ低かろうが、自身の<エンブリオ>も低いのではほぼ対等。決して上回ることはないだろう。

 それは実質、ゼタ自身のスキルの大半を封じられたことを意味していた。

 使えるのはジョブスキルと、出力を上げた必殺スキル。

 しかし必殺スキルはマニュアル操作。今使おうものなら思考の隙を突かれて殺されかねない。

 それも相手の方が速いとなれば、尚更。

 

 

「くっ……!」

 

 

 避けきれなかったシシカバネの刀が、ゼタの身体についに届いた。

 シシカバネの刃がゼタの首を斬り、そして砕かれる【救命のブローチ】。

 これでもう、ゼタには後がなくなった。

 一か八かジョブスキルを使って()()を抜き取るか、あるいは隙を見せてでも必殺スキルを使い、仕留めるか。

 一瞬の判断が要求され、シシカバネが再び刃を振り上げるのを見たゼタは、

 

 しかし、斬られることはなかった。

 

 

「!」

「っ、……?」

 

 

 シシカバネが何かに気付いたように後ろへと下がっていったことで、ゼタは命拾いした。

 なぜ退いたのか。

 それを考える前に、ゼタは()()()()に飲み込まれた。

 

 

(っ!?)

 

 

 荒波に揉まれるように流される。ゼタの体を大量の砂が削り、押し潰そうとする。

 このままでは死ぬ。

 直感的に理解したゼタは、咄嗟に直前のことを思い出してとある特典武具を取り出し、装備した。

 

 そしてゼタは、今もなお勢い良く動き続ける砂の津波の中を()()()()()

 

 【潜砂光景 ミラージュロウ】。先ほど手に入れたばかりの特典武具。その装備スキルの中には、地中を泳ぎ移動可能とするスキルが備わっていた。

 とはいえ地中でも呼吸するためのスキルは備わっていないが、それもゼタの<エンブリオ>ならば解決できる問題であったため、シナジーは合っている。

 

 

(間一髪、でした)

 

 

 もしこの特典武具を一秒でも思い出すのが遅れていたら、ゼタはデスペナルティとなり今頃は<監獄>内にいたことだろう。

 

 

(しかし、この津波……と言って良い事象は一体……)

 

 

 ゼタがこうして泳ぎ思考している中でも、地中に振動が届いている。何かしらの戦闘が今も発生中であることは間違いなかった。

 ゼタは津波の勢いがなくなるまで泳ぎ続け、それがなくなってからも振動が響いてこないところまで泳ぎ続け、十分に離れたと判断すると地中から這い出て地上に姿を現す。

 勿論自身のスキルで姿を隠すことも忘れてはいない。

 

 そうして這い出たゼタは、遠くに見える()()を見て誰がやったのかを把握した。

 

 

「……理解。【地神(ジ・アース)】の仕業でしたか」

 

 

 遠くに見えるのは、余りに巨大な半円状の土壁と、それを囲むように配置された全長約200mを軽く超す二体の巨大なゴーレム─────

 

 

 

 

 

 ()()()と思わしき、綺麗な断面を残して破壊されたゴーレムと土壁の姿だった。

 

 

「…………帰りましょう」

 

 

 ゼタは帰ることにした。

 流石にあんな大規模な攻撃をされようものなら、ゼタの<エンブリオ>でもどうしようもない。

 やれなくはないのかもしれないが、その時はきっと死を覚悟しなくてはならなくなる。

 今のゼタにそんなことをしてまでここで戦う理由は存在していなかった。

 

 幸いにもゼタを殺しかけたシシカバネこと白い少女はおらず、ここから去るのは容易い。

 

 

(しかし、結局何者だったのでしょうか。《看破》を使う余裕がなかったので名前もわからず仕舞いでしたが……左手に紋章がなかったことから<マスター>ではないはずで、)

 

 

 そのようなことを()()()()()()()()で考え始め、

 

 

「……え?」

 

 

 気付けば、何かが地面に落ちる音が聞こえてきた。

 それもすぐ近くで、そちらに視線を向ける。

 それは腕だった。

 先ほどまで生えてくっついていたはずの、()()()()だった。

 

 

「ッッッ!?」

 

 

 気付いた瞬間に走り出す。

 そして、先程までゼタのいた場所を、見えない刃が通ったことが風切り音でわかった。

 攻撃された。

 相手を認識できない遠距離から。

 恐らく、【地神】を撃退したと思わしき存在……<マスター>による攻撃。

 そこまで考え、ゼタは兎に角走った。

 後先考えず、自身の持つ超級武具の使える水のある場所まで、止まることなく走った。

 

 走り続けるゼタを押しているのは、恐怖。

 かつてトラウマを植え付けられた【超闘士】への恐怖。それと全く同じものを感じ取ったゼタは、もうなりふり構わず逃げ出した。

 

 

(なんでこうなるのっ!?)

 

 

 と、もはやロールプレイも剥ぎ取られた中で、ゼタは逃げ続けた。

 

 

 

 

 

 

 

 そして、それを遠目に見ていた者が二人。

 

 

「いいの? 逃げちゃうよ?」

『いや……うーん』

 

 

 一人はシシカバネで、もう一人は【剣神】オールドポンド。

 その首元には、彼の特注した【レジステア・フレイム】が装備されていた。

 オールドポンドはシシカバネの言葉に、何処か悩ましげに唸り……結局剣を納めた。

 

 

『なんか……本当に泣きそうな感じしてたし、もう良いガメ』

「……新たな女の気配?」

『違うが?』

 

 

 ゼタ、情けをかけられ生存。

 勿論必死に逃げているゼタには、そんなことは知る由もないのであった。

 

 

 




<ゼタ
(◎n◎)<オールドポンドと目標がダブルブッキング。
(◎n◎)<ここで先に取られる前に取ってしまえとしてしまったのが運の尽き。
(◎n◎)<普通に耐えられて新たなトラウマを植え付けられた。


<【地神】
(◎n◎)<なんか知らない内にフェードアウトしていた人。
(◎n◎)<初手で何もさせない内に囲んでボコろうとしたらその前に斬られて死んだ。
(◎n◎)<ちなみに彼を派遣したのは妻である。


(◎n◎)<どうやって核に耐えたのかって?
(◎n◎)<【レジステア】シリーズなら【だぶるかのん】併用すれば耐えれるよ。
(◎n◎)<でも【レジステア】って耐性獲得ではあるけど、数値に依存するから普通の耐性とは違う部分がある。
(◎n◎)<ただ、数値さえ高ければ理論上は《極毒》も防げる。

グラムの必殺スキル

  • 我が剣に曇りなし
  • 剣一つあれば良い
  • 神剣
  • 一剣万象
  • 剣の理
  • 全なる一刀
  • そんなものはない
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