『ガーメガメガメ、今日も楽しくモンスター狩りだガメー』
それはいつものようにモンスターを狩っていた時のことだ。
1週間……デンドロ内時間で言えば3週間ほど。実際にプレイした時間を考えれば2週間に達する前くらいか。
昨日エンブリオが第三形態に進化した翌日、なんかアナウンスが鳴った。
『……【
条件を達成したから就職できる、ということらしい。
下級職を終え、順当に他の下級枠を埋めて上級職に就職し、レベルを上げていた時に起こったことだった。
超級職についてはネットの情報から知っていて、何でも超級職は先着1名、取られたら相手がリセットするのを祈るしかないらしい。ティアンなら死ねば空くという情報もあったな。
なんであれ就いて損をすることはない。俺は迷うことなく転職クリスタルへ赴き、就職した。
『どんなもんガメー?』
俺は早速、件の剣神のスキルを見てみようとした。
ちなみにガメと語尾がついてるのは、天地から王国に移動した時に他の着ぐるみ着てたやつがクマとかワンとか語尾つけてたから面白そうだと思い真似してるから。ロールプレイには丁度良いだろう。
それはともかく、見てみた結果がこれである。
《剣強化》レベルEX
《剣撃張離》
スキルが2つ。一つは元々取得していた剣強化が最大レベルを超えてEXになったやつ。最大で300%に膨れ上がっている。
もう一つは奥義と呼ばれるもので、攻撃力に応じて剣の攻撃範囲を拡張するパッシブスキル。だいたい攻撃力100で1センチ伸びるらしく、俺の攻撃力がEXパッシブの強化を含めて……ざっと一万七千に達するくらいか。
なので単純計算で1.7メートル以上は伸びることになる。紙一重で避けようものなら確実に当てられる範囲だ。大抵のモンスターは一刀両断できそうでもある。
まぁそれはそれとして。
『なんであれレベル上げガメー。レベルを上げないことには始まらないガメー』
一旦、超級職はサブに置いておく。
先に上げてないのと埋めてない上級職のレベル上げと、残りの下級職を終わらせておきたい。
超級職に手を付けるのはそれからにすることにした。
そのせいで超級職のスキルは使えなくなってしまったが、必要になればジョブクリスタルで変更すれば良い。
そうして俺はモンスターを倒しながら奥へ奥へと進んでいった。
たまに見かけて襲撃してくるマスターも斬り殺しながら。
☆☆☆☆☆☆☆
『ガーメガメガメ』
<ノズ森林>と呼ばれている初心者用狩場のフィールドでモンスターを殺しながら進む事、幾ばくか。
レベルを上げるのなら弱いモンスターを沢山倒したほうが効率は良い。ましてシシカバネのせいでレベルの上がりが遅い俺は尚更。
そんなわけで上級職に就いてレベルが上がっているおかげでステータスも高くなっている俺は、モンスターを斬り殺してスイスイ進み、さらにはPKをしてくる輩も斬り殺して進み、ガメガメ言いながら森を進む。
『ガーメガメ……ん?』
ふと空を見上げる。曇り模様……というか暗い。
『雨が降りそうガメ……あ、降ってきた』
なんとなく口にしたら本当に雨が降ってきた。モンスターは、今のところ周りにはいない。引き返そうか、とも考え……特にやめる理由もなかったので進むことを選んだ。
今知ったのだが、【だぶるかのん】の着ぐるみは水を弾くらしく濡れない。
とはいえ雨程度なら、という非常に弱い性質のようだが、雨の中で行動するには問題のないことは確かだった。
そういうわけなので進むことにして……小屋を見つけた。まぁそういうのもあるかとスルーしようとして……小屋に向かう見知った顔、というか
『おーい!』
手を振り上げ、声を掛ける。
そいつは声に気付くと走りながらも視線をこちらに向けた。
黒い毛皮の狼もしくは子犬の着ぐるみを着た男、知り合いのマスター。
『その声、その姿は……オールドポンド!』
『なんか宿敵に会ったみたいな雰囲気の声をしてるガメな?』
シュウ・スターリング。以前に会ったマスターの知り合いである。
『……』
『どうしたガメ?』
『……雨に濡れてるけど平気クマ、じゃないワン』
『この着ぐるみは撥水加工されてるみたいだから平気ガメー』
『なん、だと……』
なんか古いセリフを口にし、ちらりと視線が小屋に向かった。
『ここで話すのもなんだし、小屋に入るワン?』
『入る入るー。ほら早く行くガメよー。どうやら先客もいるようだガメー。ルームシェアするガメー』
雨に濡らしたまま外に居させるのも悪いので、さっさと入ってしまおうと小屋へ近づく。
『……先客?』
後ろで何か、疑問を覚えた、とでも言いたげな声が聞こえた。後ろを振り返り雨に濡れるシュウを見た。
『どうしたガメ?』
『いや……まずなんで人がいるとわかった?』
『気配感じればわかるものガメよ?』
特に<Infinite Dendrogram>をやり始めてからはスキルに関係なく気配に敏感になった感じがする。
斬れないものが斬れたり、感じられないものが感じ取れたり。
このゲーム、もしかしたらそういう修行にも向いているのかもしれないと思っていたところだった。
『……まぁ、鍵が掛けられていないって話だったし、俺たち以外に人がいてもおかしくはない、か』
『お邪魔するガメー』
ボソリと呟かれたシュウの声は聞こえず、俺は扉を開けようとした。
しかし開かない。
ガチャガチャしても開かない。
少し力を込めてみるが、開かない。
『鍵が掛けられてるワン。……話と違うな。なんでだ?』
シュウの言葉に、改めてよく見てみると南京錠が掛けられている。
……ふむ。
内側にいるのに、わざわざ外側の鍵を掛ける理由なんてない、よな?
もしかして∶誘拐。
その考えが浮かんだ時点で、俺はエンブリオを取り出していた。
『ちょっと南京錠叩き切るガメー』
剣を振り下ろし、南京錠を切り裂いた。
これでようやく開けられる。扉に手をかけ、中を覗いた。
そこで見つけたのは……幼女だ。
『………』
『こんなちっちゃい子が一人だけクマ? 誘拐犯とかいないクマ?』
俺が言葉を出せずにいると、シュウも小屋の中を覗き込んで至極当たり前のことを口にした。
そう、当たり前の事だ。当然考えることだ。
だが……
『お前、
そう問いかけずにはいられなかった。
『オールドポンド』
正気に帰れたのは、シュウの言葉が出てきてからだった。
『エンブリオを戻すクマ。こんなちっちゃい子に見せるものじゃないワン』
『あ、あぁ』
未だに手に持っていたエンブリオを戻し、頭に手をやる。
今の自分が少しおかしくなっていることは、自覚できた。
『すまん、ログアウトする。この子は任せた』
『応』
シュウは言葉短く返し、俺は幼女をもう一度ちらりと見ると、ウィンドウを開きログアウトボタンを押した。
☆☆☆☆☆☆☆
「……ふぅ」
ベッドに座り込み、深く、息を吐く。
あの幼女を視認した瞬間、今まで体験したことのないほどの動揺が俺に襲い掛かっていた。
口に手をやり、考える。
何を感じたのか。どう思ったのか。それを、整理する。
「……確か、特殊超級職……なんてのもあったな」
ポツリと呟き、言葉にして整理を促す。
<Infinite Dendrogram>を調べる過程で出てきた単語。ティアンしか就くことのできない特別である超級職の中でも更に特別な超級職。
あの子は人間だった。であれば、ああいうのが特殊超級職………というやつなのだろう。
そうでなければ、UBM。あるいはそれとは別の何か。
だが、重要なのはそこではない。
「無理だな」
断言した。
だが……いずれ斬れる、とも感じた。
「上等だ」
今までは、ただなんとなくやってきた。自分のエンブリオを見たくて始めて、なんとなく続けていた。
だが、目標ができた。
斬りたい。
あの子を……あの子の中にある何かを、斬ってしまいたい。
邪魔だ、縛るな、決めるな、抑えつけるな─────
あれがそういうものだと、なんとなく理解できた。
「……なんだろう、な」
あぁ、とても。
俺は今、とても─────
「今、とっても楽しみだ」
俺は自然と、笑みを浮かべていた。
この日、運命と出会った。
俺はそう確信した。
☆☆☆☆☆☆☆
彼女……テレジア・C・アルターは、狼の着ぐるみを身に纏う男に連れられ、考える。
今日出会った3人を。
一人は彼女を攫い悪を成すことだけを考え、テレジアの正体に気付きかけたゼクス。
一人は今、テレジアを連れて城へと帰還するクエストを達成しようとする、テレジアの
そして、最後。
テレジアを見つけるな否や、その本質を見抜いたかのような発言をした、オールドポンド。
名前は、シュウがオールドポンドに話しかけた時に覚え、説明されて知った。
誰もが予想外ばかりの人物だった。
全員マスターで、全員おかしい。
少なくともテレジアからすればその様な人物ばかりだった。
わかるはずがないのに、それぞれが【■■】であるテレジアの偽りに気付いた。
だからなのか─────テレジアの心臓は早く脈打ち、高鳴っている。少しだけ、高揚感に包まれている。
特に、オールドポンドと出会ってからは、特に。
(何かしら、これ)
胸を押さえ、しばし考える。
テレジアの持つ記憶に、このようなものはなかった。
だから考えて……結論づけた。
(もしかして……殺せるから?)
あの時、あの瞬間。
直感したのではないだろうか。
【■■】の持つ歴代の記憶が、経験が、勘という形で答えを導いたのではないだろうか。
テレジアを殺せる。今は無理でも、いずれそうなる、と。
だからこんなにもドキドキしている。
テレジアはそう考えた。
(だとすれば……喜ばしいわ)
自分を殺せる相手。今じゃなくても良い。マスターは死なないと聞いている。
他のティアンよりも確実に、早く力をつけ、登り詰めていくはずだ。
超級職にも手を届かせるだろう。
そしていずれ、私に刃を届かせられるようになる。
テレジアは顔を綻ばせた。
テレジアは、会って短い相手のことばかりを考えていた。
─────それが所謂■であることに、彼女は気づいていない。
(……また、会えるかしら)
【■■】と【剣神】が再び出会う時は、そう遠くはない。
<オールドポンド
超級進化トリガーを引いた。
<テレジア
少し歪んだ■を心に宿した。なおまだ無自覚
【
剣スキル特化型超級職。
他の【神】シリーズと比べて必要な才能の値が高く、【斬神】等にギリギリ就ける才能の持ち主ではまず届かない。
剣以外を装備して使うと就職できなくなる武神タイプ。
これから就くことになるマスターたちと比べて、カシミヤと同じく純粋な技量と才能のみで得た。
なお才能や就職条件云々はオリジナル設定である。
グラムの必殺スキル
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我が剣に曇りなし
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剣一つあれば良い
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神剣
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一剣万象
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剣の理
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全なる一刀
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そんなものはない