剣一つあれば良い   作:オルフェイス

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(◎n◎)<〜♪


第一次騎鋼戦争・獣と武

 

 それは、戦争が起こる数日前のこと。

 彼……【超闘士】フィガロは、とある人物と会っていた。

 

 

「……記事を見ていると思うからわかっているだろうけど、僕は戦争には参加しない」

「そのようね。でも、私もそれを覆してもらうためにここに来たの」

 

 

 蒼い髪。そして蒼い剣を携えた女性。

 フィガロでさえ、()()()()()()知っている有名人。

 最近になってその正体も明かされたことから、王国で今一番注目を集めているであろうティアン。

 アルティミア・A・アルター。アルター王国第一王女の彼女が、この場にいた。

 その目的は、一連の会話で察せられる。

 戦争に参加しないフィガロを、どうにか説得するためだ。

 フィガロはそれを理解し、しかしどのような説得をされようと戦争に参加することはないと決めていた。

 仮に参加したとしても、自分では何の役にも立たないのだから、と。

 

 

「どうして参加できないのか、聞いても?」

「……深い事情があるわけではないんだ」

 

 

 そう前置きし、フィガロは語り出す。

 彼の弱点……ピーキーすぎるほどのセンスと、ティアンの殺害が不可能な点。それを知る者は片手の指で足りるほどに少ない。

 自ら公言することはないが、さりとて隠しているわけでもない。だからフィガロがそれを話すことに躊躇いはなかった。

 最後まで話を聞いたアルティミアは、内心で思う。

 対処可能な問題で良かった、と。

 おかげで次に言うべき言葉も思いつけた。

 

 

「ティアンは殺せない。他者と協力が出来ない。なら、それさえ避ければ戦争に参加することも可能ということよね」

「うん。それは間違ってないよ。でも……それはこの戦争では不可能だろう?」

 

 

 フィガロの言葉は正しい。

 これは戦争だ。敵となる相手は殺さなくてはならない。殺す相手が<マスター>であれティアンであれ、それは変わらない。

 そして他者とは協力しなければならない。例え自分がどれだけ不慣れであろうとも。

 今のフィガロ自身が弱点を取り除くこともできない。少なくとも今は無理だと確信していた。

 だから戦争には出れない。出たところで足手まといにしかならない。フィガロはそう考えた。

 

 

「でも、一対一なら?」

「え?」

 

 

 だがアルティミアはそうは考えなかった。

 

 

「一対一、もしくは一対多。それでいて相手が<マスター>だけなら……あなたも戦うことができる。違うかしら?」

「それは……確かに、僕でも戦える。でもそんなこと……」

「なんとかしてみせる。あなたが戦うのは<マスター>だけで良いし、その場もこちらで作る」

 

 

 だから、と。アルティミアは手を差し出す。

 

 

「お願い。力を貸して」

「……」

 

 

 フィガロは、咄嗟に言葉が出なかった。

 普段の彼ならここまで迷うことはなかっただろう。迷う場面に陥っていなかった、というのもあるだろうが、それでもここまで決断するのに時間がかかったことはない。

 アルティミアの真剣な眼差し。

 この場にはいないフィガロの親友。

 提示された条件。

 そして、フィガロ自身の意思。

 

 

(うん。そうしよう)

 

 

 悩んだ末に、フィガロはあっさりと決断した。

 

 

「わかった。参加するよ」

 

 

 アルティミアの提案を飲んだ。

 これは何もアルティミアに心動かされたから、というだけではない。

 戦争に参加できないこと。それはフィガロ自身も歯痒く思っていたことだった。

 相手にティアンが混ざっていなければ。

 あるいは、自身一人で戦えるような環境が揃っていれば。

 フィガロはきっと、誰に言われるまでもなく戦争に参加していた。

 

 こうしてフィガロは条件付きで戦争に参加することを決めた。

 そのことはアルティミアとの話し合いが終わったあとに友人である【破壊王】と親友である【剣王】にも話し、フィガロはアルティミアの行った準備の中で自身の力を最大まで高めていった。

 

 

 

◀▼◀▼◀▼

 

 

 

 そして今、その高めた力を解放する時が来た。

 

 

(ここまで大きい相手と戦うのは【グローリア】以来かな)

 

 

 そう思うほどに相手は強大。

 見上げなければならないほどの大きさは、それだけで脅威となる。

 幸いなのは周囲を巻き込む心配をしなくて良いこと。

 

 なぜなら今この場には、フィガロと【獣王】たちしかいないのだから。

 

 ──アルティミアが考えたフィガロを活かす策は、誰にも介入できない場所で特記戦力たちを相手に勝利させること。だからアルティミアは転移、あるいは異空間を形成して閉じ込める方法がないか探した。

 まず【大賢者】に話を聞き、ダメだとわかると次は目的の効果を持つ<エンブリオ>がいないかを探した。

 

 とはいえそんな簡単に見つかるようなら苦労はせず、駄目元で彼女の知る限りで最強の<マスター>に話を聞いてみれば、

 

 

『ん? MPさえあれば出来るガメ』

 

 

 と、至極あっさりと問題が解決してしまった。

 形成及び隔離の術式を作成し、その術式を見聞きした生産職がアイテムとして編み込む。

 本来ならば不可能な工程も、二人の理不尽と一人の規格外の手によって実現可能なものとなってしまった。

 そうして出来上がったアイテムは、単発消費型かつ一度使えば必ず壊れる代わりに一定時間は対象を隔離された異空間に放り込む、という代物となった。

 このアイテムには二つの使用方法があり、強制的に隔離する使用法を使えばアイテムは壊れるが、逆に自ら入る分には壊れない仕様となっている。

 そこで先にフィガロが異空間内で待機しておき、隔離された<超級>が来るのを待ちながらウォーミングアップを済ませていた。

 その放り込む作業を行うのは別の人間がするのだが、誰がするのかはフィガロも聞いていない。ちなみにこのアイテムはお値段数十億はくだらないが、フィガロは知らないし、なによりそこまで考えない。

 彼のやるべきことは単純明快だからだ。

 

 

「じゃあ、やろうか」

 

 

 フィゴロは武器を構える。

 その武器は、黄金に輝く剣だった。

 剣の種類としての名前はグラディウス。

 これこそがフィガロの得た【グローリア】の超級武具。

 【臨戦昇越 グローリアγ】。

 フィガロの戦闘スタイルにアジャストした、最高の剣。

 フィガロは獰猛に笑い、視線の先にいた100mを越す巨大怪獣と、その足元にいるあまりに小さな獣は警戒する。

 

 

(やっぱり、ここは旧ルニングスじゃない)

 

 

 彼女……【獣王】ベヘモットは警戒しながらも冷静に思考を続ける。

 いつの間にか放り出された荒野。

 そこには自身と、自身の<エンブリオ>である【怪獣女王】、そして王国の<超級>であるフィガロしかいない。

 周りに先程まで見えていた兵士や<マスター>たちの姿は一人も見えなくなっていた。

 

 

(強制的に一対一に持ち込む特典武具? それならこっちとしても好都合)

 

 

 ベヘモットとしても、この状況はありがたいと考えていた。

 下手に不意打ちをされるよりも、真正面から来てもらったほうが戦いやすいし倒しやすい。

 相手の底こそ不明。しかしある程度は情報は出回っている。

 フィガロの<エンブリオ>は不明だが、どのような能力であるのかは推測できるし、なによりあちらが超級武具を保有していることも知っている。

 自分なら、自分たちなら勝てる。

 そこに油断や慢心はなく……だからこそ。

 

 

『レヴィ』

『ええ!』

 

 

 ベヘモットは、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()と判断し、切り札を切った。

 

 

『『──《我らこそ怪獣女王(レヴィアタン)》!』』

 

 

 必殺スキルの宣言。

 ベヘモットと彼女の<エンブリオ>であるレヴィアタンは()()し、その身体を変えていく。

 身体は100mを超えてさらに大きくなり、そのステータスは融合により加算され増大する。

 現在のベヘモットのステータスは、【獣王】とレヴィアタンのシナジーによってSTR、AGI、ENDの三つはそれぞれ四〇万近くにまで達している。

 そして、そこで終わりではない。

 

 

『《ペネンスドライブ・フィジカル》───三三〇〇万』

 

 

 追い打ちをかけるように、ベヘモットは必殺スキルによって数千万をオーバーしているHPを捧げる。

 それにより強大なステータスはさらに膨れ上がり、三つのステータスが一〇〇万オーバーにまで達していた。

 

 ここまでして、なおベヘモットは止まらない。

 

 

変身(チェンジ)────《天翔ける一騎当千(グレイテスト・トップ)》』

 

 

 その巨体に、黄金の鎧を纏う。

 それこそがベヘモットの保有する超級武具【半騎天下 グレイテスト・トップ】。

 その効力は超級武具であることを考えても絶大で、多彩。

 超防御力、あらゆる熱量変化の無効、周囲を無重力にすることによる重力無効、そして超振動熱線砲。

 それらを、何の消費もなく行使を可能としている。

 あまりに強力過ぎるために使用可能時間は5分。そしてクールタイムが500時間と短く長い時間を必要としている。

 しかし、だからこそ強力無比。

 あまりに強力過ぎて、どんな<マスター>であれ今の【獣王】を倒すのは困難を極めるほど。

 <SUBM>、<イレギュラー>とすら単独で殴り合える力の権化と化した存在と渡り合える者など────

 

 

「そちらも全力。なら、こっちも応えないとね」

 

 

 ───()()()()()()

 

 

『っ!』

 

 

 フィガロの呟きを聞いて、というわけではないだろうが、ベヘモットは動いた。

 今の自身からすればあまりに小さな<マスター>が一人。その相手に向け超STRを全力で発揮。フィガロへと拳を振り下ろす。

 あまりに強力過ぎる拳は容易く地面を崩落させ、大穴を作り出す。

 しかしSTRと同様に超AGIで動けるベヘモットは大穴に巻き込まれることなく退避を済ませ、

 

 自身の腕から、()()()()()()()()()()()()()()()()()()フィガロの姿が見えた。

 

 

『───』

「───フフ」

 

 

 フィガロが笑みを浮かべるのが見える中、ベヘモットの考えることは一つ。

 

 

(なんで、そんなに速いの)

 

 

 フィガロが参加すると聞いて、相対する可能性があったベヘモットは情報収集を行っていた。

 どのような<エンブリオ>なのかはわからず、しかし時間経過で強くなるのだろうとは察しがついていた。

 AGIが速いのは、何らかの条件を満たし続け、維持したからであろうことはわかる。

 ─────だとしても速すぎる。

 今の超ステータスと化したベヘモットに近しい速度なのは、明らかに異常だ。

 

 

(これがフィガロの超級武具の効果? いや今はそれよりも……!)

 

 

 咄嗟にフィガロを振り払おうと腕を振るう。

 一瞬、僅かにフィガロが足場であった腕から足が離れる。

 そのフィガロに向けて、ベヘモットは【トップ】の口腔から《分子振動熱線砲(メーサー・キャノン)》を放つ。

 すぐに熱線に飲み込まれ姿が見えなくなったフィガロは、

 

 熱線が止んですぐ、()()()()を負ったフィガロが現れ駆け出し始めた。

 

 ことここに来て、ベヘモットも漸く理解する。

 この、あまりにもありえないことの連続。ベヘモットは内心でありえないと断ずる。アレを無効化する手段もなく喰らい、それで軽傷で済むはずがない。無効化したのなら傷など負わない。何らかの方法で、減衰や耐性などはあれど自力で耐えたのだ、と。

 

 フィガロの高すぎるAGI。

 《分子振動熱線砲(メーサー・キャノン)》を喰らい、軽傷で済ませる耐久力。

 これらは全て、超級武具と<エンブリオ>のシナジーによって成立している。

 本来のフィガロならここまではいかない。

 原典のフィガロならここまで強くはない。

 だがこの世界のフィガロは、原典のフィガロよりも()()

 

 【臨戦昇越 グローリアγ】。

 この超級武具の特性は、HP反比例強化。

 それは原典のシュウ・スターリングが獲得したものと変わりなく……しかし違う点がいくつか存在する。

 一つ、初期値が低いこと。

 フィガロの<エンブリオ>とのシナジーを顧みてアジャストされ、それによって【臨戦昇越 グローリアγ】には結果的にHPの減少以外では消耗がない。

 もう一つは、強化する対象。

 原典では必殺スキルを対象に攻撃力とステータスを上昇させていた。

 では、フィガロの場合はどうだろうか。

 フィガロの<エンブリオ>の特性は、装備品強化。

 そう、()()()()()。それも時間経過に比例して上昇する類の。

 それに合わせてアジャストした超級武具は……攻撃力及び()()()()()()()()()()()

 

 フィガロの<エンブリオ>、【獅星赤心 コル・レオニス】には装備品を強化するのに限界があった。

 装備品そのものに、いわば才能とでも言うべき上限があり、それに達すると必殺スキルでも使わない限りそれを超えて強化することはできなかった。

 

 しかし、今のフィガロであれば。

 

 【臨戦昇越 グローリアγ】が強化上限に達しない限り、いくらでも他の装備品を強化し続けることができる。

 【臨戦昇越 グローリアγ】そのものに上限強化は効果を発揮しない、というデメリットは確かにある。

 だが、例えそうだとしても強すぎる。

 今目の前にいる、ベヘモットと同じように。

 上限すら超えて強化することを可能となったフィガロのステータスは、もはや原典の最高地点を容易く更新している。

 そのステータス、凡そ九〇万オーバー。

 そしてその攻撃力は、【臨戦昇越 グローリアγ】使用時には()()()()()()()()にまで上昇している。

 

 その攻撃力は、超防御力を誇る【トップ】の鎧すら貫く。

 

 

『なっ!?』

 

 

 フィガロが腕を駆け上がりながら、ついでのように剣を振るって超級金属の鎧を斬り裂き、その下の肉にまで傷を届かせる。

 それと同時、ベヘモットの片腕が動かなくなる。

 

 

(っ、まさか、筋肉の繊維を斬られた!?)

 

 

 ベヘモットの持つ特典武具なら、時間経過で肉体の損傷は回復する。

 だが、その時間を待ってくれるほどフィガロは甘くはない。

 さらに駆け上っていくフィガロに、ベヘモットは残る片方の腕に自身の腕ごと叩きつけ……その指ごと、フィガロに斬り裂かれた。

 

 

(なんっ、でっ……!)

 

 

 なんで届かない。

 なんで効かない。

 なんで届く。

 なんで効く。

 なんで……こうまで一方的になる。

 ベヘモットの加速された思考で生じた疑問に、敢えて答えるのであれば。

 

 相手がフィガロだから。これに尽きる。

 

 既に肩にまで到着しようとするフィガロに対して……ベヘモットは、

 STRとAGIに任せて、まるで独楽のように凄まじい速さで()()()()()()()()

 

 

(おっと)

 

 

 突然のことに、フィガロも思わず足を止めた。

 兎に角振り払うこと。そしてもう一つの思惑もあって、ベヘモットは単純なステータスで物を言わせることを選んだ。

 ただ回るだけのそれが、ベヘモットが行えば嵐も同然の破壊を撒き散らす。

 フィガロは装備を変えて身体に張り付き、決して離れない。離れれば、決して近づけさせないだろうという確信があったからだ。

 実のところフィガロは【グローリアγ】以外にも武器を装備し、物理攻撃以外での方法で【トップ】の突破を試みていた。しかし、出来なかった。

 純粋な攻撃力、あるいは防御を無視して突破する攻撃方法が必要であるとわかり、同時に「離れられたら遠距離からの攻撃じゃ通じないね」と察し、フィガロは身体から離れないことを優先した。

 優先しつつ、登るのをやめない。遅くはなったがそれでも歩みを止めるほどではない。

 ベヘモットが回り続ける中、フィガロはさらに距離を縮めていく。

 向かう先は首。確実に息の根を止められる場所へと向かっていき─────

 

 フィガロは、ベヘモットの片手を見た。そして何らかの()が爪に巻き付いているのを、目撃した。

 ベヘモットの思惑は、フィガロを引き剥がすこと。

 それが出来なければ回復の時間を稼ぐこと。

 これを使うには、最低限片手を握れる力が必要だったから。

 ベヘモットは独楽のように身体を回転させながら、まるで何かを掴むように引っ張り─────空間を、()()()

 

 それは、とある特典武具とベヘモットの超STRの合わせ技。

 後に《剥界の裂爪(ワールド・ブレイカー)》と名付けられる、【破壊王】の最終奥義と同じ銘を持つ技を行使し……

 自身諸共、フィガロを排除しにかかった。

 

 




(◎n◎)<【臨戦昇越 グローリアγ】のスキルの名前は《器資改成(グローリア)》となっております。
(◎n◎)<【獣王】の【アルセイラー】については時期がわからんのでもう入れとくことにしました。
(◎n◎)<あとこうまで一方的なのは、フィガロならやりかねないと作者が考えているからです。
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