槍と刀が打ち合い、火花を散らす。
相対するのは三つの超級職を有する”
もう一方は元【■神】にして現・特典武具の召喚モンスターであるシシカバネ。
彼女たちは互いの武器を打ち合い殺し合いを繰り広げ、現在はラインハルトが劣勢を強いられていた。
まず、初手で片腕を失ったことが戦闘力の減少を招いてしまった。ハイエンドであるラインハルトであればその害も最小限に抑えられるが、それでも減るものは減る。
次に有効打が存在しないこと。何らかのスキルでラインハルトの放つ《パラドックス・スティンガー》の始点を読まれ、時に躱され時に防がれ、時にシシカバネから放たれる《竜王気》で弾かれる。
そして、常に行われ続けているリソースドレイン。これにより《パラドックス・スティンガー》を始めとする魔法的要素の強いアクティブスキルはリソースを吸われ威力を殺されてしまい、さらには直接HPやMPも吸収されてしまっている。既にラインハルトは《パラドックス・スティンガー》を放つことができないほどMPを吸われていた。
(もって数分。しかし、それでは
既に自分がここで死ぬと判断したラインハルトは、自分の命は捨て置き如何にしてこの神話級相当の化け物を相手に時間を稼ぐかを考え始める。
MPが尽きてなお戦闘を行えているのは、ラインハルトが防御に徹していることと、技量では自身が勝っているからに他ならない。しかしその技量の差も少しずつ詰められている。
ドレインの範囲外に出るという選択肢もあるが、その範囲が広大であれば逃げるだけ無駄であり、むしろ余計に消耗しかねない。
(なら、攻めよう)
防戦一方から一転、ラインハルトは槍を突き出した。
その一突きはシシカバネの刀に逸らされ、槍は刀によって切断される。
しかし、
「!」
切断された時には既に槍から手を離していたラインハルトは、その手に新たな槍を持つ。
そして、奥義を放った。
「《ディストーション・パイル》」
至近距離から放たれる、【衝神】の旧い奥義。《パラドックス・スティンガー》が開発されたことで上書きされ【衝神】の奥義としては消え去ったはずのスキルを、ラインハルトは打ち放った。
さもあらん。確かに消え去った奥義ではあるが、それが【衝神】でもあるラインハルトが使えない道理はない。
このスキルは空間に突いた衝撃と威力を伝えて距離の離れた前方へ攻撃を当てる。新たに開発した《パラドックス・スティンガー》の方が有用であったラインハルトは今まで使ってこなかったが、MPが心許ない今ならば使うべきなのはこちらの方だった。
放たれた衝撃がシシカバネの虚を突き命中、彼女達の距離を離す。
「むう」
シシカバネは不満気に口を尖らせていたが、大した痛手となっていないことは見ればわかる。直前で《竜王気》を放出してダメージを軽減したのだ。
シシカバネは先刻の攻撃を警戒し、距離を詰めてこない。だがその間にもドレインによりHPに加えて残り僅かだったMPも吸い付くされていく。
まだ動くことはできる。槍を振るい、時間を稼ぐことができる。だが、ここでラインハルトの命は尽きる。それは構いはしないが、それでクラウディアに追いつかれアルティミアを奪還されるのは不味い。
アルティミアさえ確保できれば、こちらも強引な手段に出れる。
今は見つけ出せていない【邪神】を炙り出し、最悪都市一つを消滅させることになるが確実に世界滅亡の芽を断つ事ができる。例えアルティミアに恨まれ憎まれようと、彼女が生きてさえいてくれれば、それで良い。
ラインハルトが今もその命を持ち堪えているのは、それが理由だ。
「……」
「……」
周囲が静寂に包まれる。
その時間は僅か数秒ほどで……先に動いたのはラインハルトだった。
一息で距離を詰めたラインハルトの槍がシシカバネを貫く。
シシカバネの
「っ!」
ラインハルトは自身の失策を悟る。
シシカバネの優先順位を読み違えたのだ。
多少時間をかければ確実に倒せる者よりも、今すぐにでも追わなければならない存在を優先する。これは普段のシシカバネならば真逆の判断を下しただろうが、彼女にとってのオールドポンドは何よりも重い。それをラインハルトは読み解くことができていなかった。
しかし、それは何もラインハルト本人の判断ミスというわけではない。
シシカバネはラインハルトと相対し戦闘を行い始めた時、目の前の存在がハイエンドもしくはそれに匹敵する才能の持ち主であることを看破した。そして、それが頭脳面に才能を割り振られていることも。
それも元【■神】としての知識から来る推測だったが、兎も角シシカバネは相手をハイエンド相当であると認識した。
だから雰囲気や表情、僅かな気配などから内心を悟られないよう筋肉を硬直させた。それでも戦闘での先読みは防げなかったが、代わりに何を目的とするのかは読まれることはなかった。
だから、距離を離された時点で幻像を作り出したシシカバネは姿を隠し、別の……いいや、
ラインハルトはすぐにでも追いかけようと足を踏み出し……ラインハルトを囲むように地面から飛び出してきた複数のトーテムらしきもの。
それらは飛び出してきてすぐに急速に発光して輝き始めると─────凄まじい轟音を響かせ、爆ぜた。
☆☆☆☆☆☆☆
「たーまやー」
遠くから衝撃と音が響き渡る。
予め設置しておいた《竜王気》の爆弾が作動したらしいと、シシカバネは空を見上げて理解し、口に手を添えて起爆した時に発するらしい言霊を口にする。
その傍らには、シシカバネが即座に見つけ確保したアルティミアが気絶して寝転がっている。
本当なら相応に扱うべきなのだろうが、そこまでは言われてないシシカバネの対応は雑だった。
ただ、それとは別に大きな問題があった。
「【アルター】が
アルティミアの傍らから、【元始聖剣 アルター】がなくなっていた。
シシカバネが到着した頃には既に地面に降ろされていたアルティミアの近くに誘拐を目論んだ者の姿はなく、既に逃げたあとであることはわかりきっていた。
シシカバネが迫ってくるのを感知し、逃げ切れないと悟ったからアルティミアだけを置いて【アルター】は回収した……
なんてことでは、恐らくない。むしろこの場合は─────
「……」
シシカバネは周辺を見渡す。
戦闘の痕跡。そして魔力の痕跡。
何らかの戦闘が起こったことは明白だった。
「誰だろ?」
誰がアルティミアを狙い、交戦したのか。
何者かがアルティミアを……【聖剣姫】の命を狙っている。
【アルター】を持ち出したのは両者の思惑が一致したからか。
色々と頭を回したシシカバネ。
しかし、すぐに頭を振って考えるのをやめた。
考えたところでわからないし、そもそも考える必要はない。命さえ無事なら、それで良い。
「……?」
アルティミアが起きるまでは離れられないためその場に待機していたシシカバネだが、ふと意識が外へ向く。
音が聞こえない。戦いの気配が、命が失われリソースが流出する感覚が消えている。
より深く感覚を研ぎ澄ませば、王国と皇国の命たちは未だに健在。互いに大小様々な被害を出しつつも、まだ戦える範囲……の、はずだった。
だが、ある時から王国と皇国の両方が一斉に退き始めた。
それが意味するのは……
「ぼーなすたいむしゅーりょー……」
戦争の、終結だった。
◀▼◀▼◀▼
「で? 結局どうなったんだ?」
「それは、戦争の結果でしょうか。それとも私達の望みの方でしょうか」
「両方だ」
「……そうですね。ひとまず皇国のために必要なものは得ることが出来ました」
「旧ルニングス領か」
「ええ。皇国の飢餓を解決するためには不可欠でした」
「それでも完全じゃない、だろう?」
「【皇玉座】、そして【地竜王】。二体の<イレギュラー>がいる限り、飢餓の大元はなくなりません」
「そのために戦力は必要、と。【獣王】だけじゃ足りないな。【獣王】を倒したっていう【剣王】に、あと<アルター王国三巨頭>は必須だ」
「今は動けませんが、いずれ地竜王統とは戦わなくてはなりません」
「だろうな。それで、お前たちの望みの方はどうだ?」
「……彼女の確保には失敗しました。予想していない相手が現れ、対処を強いられてしまいましたから」
「確か、<UBM>相当のモンスターだったか? お前でも勝てないなら、それこそ【獣王】の出番だろ。まぁアイツはアイツで負けてたけどな」
「何事にも相性があります。特に【剣王】とは相性が悪かった。必殺スキルを使わなければ勝ち目はあったのですが」
「【超闘士】がとても強かったらしいな。で、そろそろ話を戻すが、【聖剣姫】は確保に失敗したんだろ?」
「アルティミアは、以前よりも成長し強くなりました。私の予想を上回り、純粋な実力勝負で敗北を喫しましたから」
「負けたけど、肝心なものは確保に成功したんだろ?」
「……ええ」
「【元始聖剣 アルター】。この剣さえ確保してしまえば、彼女が最終奥義を使うこともなくなる」
「それで、代わりに【聖剣姫】の戦闘力は大幅に下がるわけだ」
「ですからアルティミアは必ず確保しておきたかったのですが……想定外が多すぎました」
「カルディナの侵攻。【獣王】の敗北。未知の<UBM>級モンスターの存在。【聖剣姫】を狙う何者かの襲撃。これが皇国にとっての想定外……というより無視できない事柄だが、王国の方はどうだ?」
「……」
「国王が
(●_●)<結局なにが起こってたの?
(◎n◎)<複数の陣営の思惑や行動が重なった
(◎n◎)<その結果、国王は暗殺されました。
(◎n◎)<あぁもちろん、皇国というか皇王がやった訳じゃないですよ。暗殺に向いてるのがいたので複数同一人物がそれぞれ派遣されました。
(●_●)<……それ、答えじゃないの?
(◎n◎)<そうとも言う。
<【アルター】
(◎n◎)<先にクラウディアが気絶から目を覚ましていたのですが、その時に襲撃にあったので応戦。【アルター】だけ持って行くことになりました。
(◎n◎)<最善ではないけど次善策。