「ただいま戻ったガメー」
「おかえりなさい」
いつものように王城へと出向き、テレシアと会う。着ぐるみを着ていないのに口調がそのままなのは気にしてはいけない。
───王国と皇国による戦争、別名第一次騎鋼戦争が終結し、王国と皇国は互いに打撃を受け、そして一時休戦となって幕を下ろした。
それがだいたい一週間前の話。時間が過ぎるのは速い。
この戦争で得られたものは王国にはなく、皇国は被害を出しながらも得るものを得た形となった。
まず、王国は人的損失を被ることになった。まぁそれは皇国も同じ被害を出しているが、失う者がこの王国にとってかなり大きなものであるのが皇国との違いだ。
【大賢者】、そして国王であるエルドル・ゼオ・アルター。この二名が死亡した。
【大賢者】は【獣王】によって殺害。
国王エルドルは、何者かによって暗殺された。
何者か、ということで察せられるだろうが誰が殺したのかはっきりしていない。いや、というより分かりようがないと言うべきか。
話を聞くに、国王は姿を隠した下手人に一撃で殺された後、その殺した当人が
目撃者も纏めて自爆に巻き込んで殺したようなので、誰も下手人の姿や人相を見ていない。つまり真相は闇の中。
国王が死んだことにより統制が崩れた王国は、下手をすればそのまま攻め落とされてもおかしくはなかったが、実際にそうなることはなかった。
ここで皇国の話になるが、王国側の奮闘により単純の被害の数で言えば王国よりも多い。早々に皇王側の<超級>たちが死亡ないし孤立させられたのが大きいだろう。
とはいえ皇王は死んでおらず、<マスター>もまだまだいる以上、戦争もやろうと思えばやれる。
だが、今はもうそんな事をしている暇はないだろう。
国王が死んでから少しして、皇国にカルディナが攻め入ったのだ。
これに対して対処を余儀なくされた皇国側は急いで本国へと戻り、カルディナへの警戒を余儀なくされている。しかし旧ルニングス領はしっかりと占拠して確保しているあたりしっかりしている。
これで皇国は旧ルニングス領という土地を手に入れ……さらには追加で一つ手にしている。
「アルティミアは、今日も訓練か?」
「うん。姉さま、【アルター】を奪われたのがよほど堪えたみたい」
「まぁメインウェポンだし、加えて国宝でもあるしな……」
皇国は【アルター】を奪取した。
王国はこれで国王の命に加えて国宝も奪われた形になる。
王国という国にとってもかなりの痛手ではあるが、何より影響が大きいのは担い手本人であるアルティミアだ。
何せ【聖剣姫】はそもそもが【アルター】を扱う事が大前提。それゆえにレベルで上がるステータスは控えめであり、スキルも【アルター】がなければ使うことができない。
アルティミアはとても悔しそうにしていたし、かなり凹んでいた。まぁ既に立ち直って必ず取り戻すと決意して訓練に励んでいるが。
それと、【アルター】を奪われたことは公表しないことになっている。王国はまだ死んではいないが、【アルター】が奪われたことを公表しようものなら求心力が低下するのは間違いないそうだ。そのためこのことを知るのは極一部の人間に限られる。俺はアルティミア本人から教えてもらった。
「それと、あとでいつもの場所に来てほしいって姉さまが言っていたわ」
「おうおう。腕が鳴るガメー」
訓練に励んでいるアルティミアだが、専らギデオンでランカー斬り殺すか俺と斬り合うかして経験を詰め込んでいる。今度はどんな奇襲が来ても斬り返してやるつもりらしい。
そのためには生半可な剣では駄目だが……そこはシシカバネが解決できるかもしれないから一旦置いておく。
「……ところで、ミリアーヌはいるか?」
「ミリアーヌは
「そりゃそうだ。【女教皇】の手を借りれば……いや、それはラングレイさん本人が断るか」
【天騎士】ラングレイ・グランドリア。
彼は王国の主要人物の中でも生き残ることができた人物の一人。
戦争では獅子奮迅の如く活躍したそうだが、準<超級>と戦闘を繰り広げた末に重傷を負って欠損したらしく、利き腕と片足を無くしてしまったらしい。そして彼の率いた近衛騎士団も半数が死亡したそうだ。
彼等はカンストにまで到達した腕利きを含めたティアン達であったが、相手がそもそもカンスト前提かつ死を知らず、<エンブリオ>を保有する<マスター>であったことが災いした。
<エンブリオ>とはオンリーワン。それ故に全てに対策を立てるのは困難で、初見殺しは当たり前。
結果、<マスター>と当たった騎士たちの大半が死ぬ事となったらしい。他にも高レベルのモンスターに殺されたという話も聞く。
四肢の半数を失ったラングレイさんだが、欠損も治癒できる【女教皇】には頼らなかった。というか【女教皇】の要求を呑んででも治そうとしたアルティミアを止めたほどだ。
そのため今も欠損中ではあるが、リリアーナに聞く限りだと四肢を半分失っても戦えるように調整中だとか。
皆が皆、失ったものが多くある。
皇国という脅威は未だに消えてないし、何ならカルディナもその内の一つに加わってる。
それでも、王国はまだ死んでいない。
一歩間違えれば崩れかねない、薄氷の上ではあるが。
そして今している話とは全く関係のないことを唐突に思い出した。
いや、正確には全くというわけではないのだが……とりあえず伝えておこう。
「そうだテレジア。一つ言っておかないといけないことがあった」
「なぁに?」
「……戦争前にファンクラブクランが結成されたことは知ってるか?」
「<AETL連合>、だったかしら。アルティミア姉さまとエリザベート姉さま、リリアーナに、それと私のファンの人達が集まったクランよね」
「あぁうん、それ」
知ってたんだ、とか思ってしまったが、そういうこともあるのだろう。
……あと、『なぁに』とか、そんな甘い声で言うのはやめてくれ。かなりクる。
「ごほん」
「?」
「えー、まぁその<AETL連合>なんだが……少し面倒な事がわかった」
「面倒なこと?」
「あぁ───多分、お前を<終焉>にしたがってる奴らの仲間が潜り込んでる」
「───そう」
テレジアは一言そう呟き、表情を変えることもなく平静だった。
かなり重たい事態を告げたつもりだったのだが、テレジアの反応は予想したよりもずっと軽かった。
「視てみたらなーんか探りをいれてるみたいだったからな。気になったから調べてみたら、案の定」
「どうするの?」
「……暫く放っておく。どんな手を使ったところで一気に<終焉>になるレベルまで達することはまずないだろうし、そもそもテレジアに死なれたら困るだろうからな」
だからこそ、テレジアの危機となれば奴らは介入してくる。
なぜ態々世界を滅ぼしたいのかとか、そこまでは知らない。深い事情でもあるのかもしれないし、あるいはないのかもしれない。
が、どんな理由であれそれを見逃すつもりはない。
こっちにも都合というものがある。
「とりあえず注意しておいてほしい、ってことガメ」
「わかったわ。でも、私に出来ることなんてあるかしら」
「それとなく気にしておいて欲しいんだ。来るようなら俺が斬るから」
「ふふ、頼りにしてる」
テレジアがこてんと頭を預けてくる。思わず頭を撫でる。
うーん、やっぱ幼女とはいえ美少女なんだよなぁ……………ヤバいな一旦落ち着こう。
ふー。よし、落ち着いた。
……さて。
「……」
「……」
暫く二人とも無言となり、俺は頭を撫で続ける。
「……お父様が死んでしまったの」
テレジアが、そんなことを口にする。
それに対して、俺は何も言うことができない。
俺はその場にいなかった。守ることができなかった。
だから、何も言えない。
「あなたを責めるつもりはないの。そんなのただの八つ当たりでしかないし、私も本当にそんなことは思ってないから」
「……」
「……お父様が死んだことを知って、アルティミア姉さまは悲しんでた。エリザベート姉さまも悲しんでた。私も……多分、悲しかった」
手が胴に回され、ぎゅっと抱きしめられる。
「大切な人がいなくなるのは、悲しい。だから、」
「それ以上、言うな」
「───」
言葉を遮る。
何を言わんとしたのか、もうわかってしまった。
だから止めた。
テレジアを抱きしめ、俺の意思を口にする。
「テレジアがそれを望んだとしても、俺はそれを許さない。そんなことにはさせない。だから……そんなことは言わないでくれ」
「……、ごめんなさい」
「いや、いい」
多分、本当に分かってもらえたわけではないことは察せられた。もし本当にそのような事態になれば、きっとテレジアは自分が死ぬことを躊躇わない。
だからこれは、俺が何とかしなくてはならない問題だ。というより俺にしかできない。
今はまだ、時間がある。その時のために備えなくてはならない。
テレジアは死なせない。
そのための方法も、既に考えてある。
「……そろそろ、行く」
「……うん」
手を離し、立ち上がる。
「またな、テレジア」
「……ええ、また」
互いに軽く手を振り、その場をあとにする。
これ以上の言葉は必要ない。
俺はアルティミアが訓練しているという場所まで、歩いていった。
「──好きよ、オールドポンド」
(◎n◎)<ちなみにこの後アルティミアとの訓練が終わって王城から出ると件の<AETL連合>の人達に囲まれることになる。