ついに始まった<超級激突>。
【超闘士】フィガロと【尸解仙】迅羽。
その最初の衝突は、意外にも言葉……というより宣言から始まった。
『オレはこの試合、フィガロが膝をつくまで一歩も動かねエ』、と。
迅羽は確かにそう言った。
観客はそれをフィガロへの侮辱として受け取りブーイングの嵐だったが、それも決闘が開始されれば言葉を失う。
両腕による超音速攻撃が、フィガロを襲った。
結界で囲まれ、速度も観客に見えやすいように遅くしてなお速くて見えない高AGI。
大きな両腕が迅羽から伸び、その腕が超音速機動よりも速い速度で攻撃を行なっている。それをフィガロは両手に武装する多数の武器で応戦、自分よりも速いだろうに一度も被弾せずにいる。
それを可能としているのは、ステータスに加えて本人の戦闘センスか。
もしあそこに俺がいたなら……うーん、一太刀で全部斬るだけで済むんだよなぁ。
流石に【断竜王】と比べても意味がないとはいえ、俺の求める水準にまでは達していない。
だが、それは今の段階での話。これからどんどん状況は変わっていく。
お互い、手札を徐々に晒していくことだろう。
と、そう思っていたところで状況が動く。
まず召喚モンスターが迅羽によって呼び出され、フィガロへと襲うも一瞬で倒され消滅。
しかしその一瞬で迅羽も伸ばしていた手を戻して【符】を持ち、さらに戦闘中にばら撒かれた数百数千の【符】が発光。
超級職の奥義が込められた魔法が炸裂、結界内を火柱で埋め尽くす。
だが……火柱が消えてもフィガロは無傷。
フィガロの周囲には、球状のバリアが張られている。
『特典武具か。空間防御、結界。それで伝説級ってところか』
フィガロが身に纏っていたロングコートの装備スキルで身を守ったのだろう。
空間防御による結界を張るスキル。確かに並の攻撃では傷一つつけることは敵わないだろう。
……けど、それは自分も動けなくしてしまうという欠点がある。空間を飛び越える装備でもあれば良かったのだろうが、フィガロはきっとそれを持ち合わせていない。
だから、今回に限ってそれは悪手だった。
『心臓を掴み損ねたナ。こレ、肺じゃないカ』
迅羽が右足を上げれば、そこには内臓……肺が掴まれていた。
炎を放つ直前、迅羽は必殺スキルを使っていた。
【テナガアシナガ】、だったか。そう宣言するのが見えた。
その内容は空間跳躍攻撃……つまりワープ。
足の先をワープさせて内臓を奪い取った。
心臓を掴み損ねたのは、単にフィガロの<エンブリオ>が心臓だったから。
系統はアームズ。視た感じからして装備枠は使ってない。その特性は……
「……私達をあれほど追い詰めたというのに、このザマですか」
レヴィの独白が聞こえてくる。思わず漏れたのだろう。その言葉には複雑な感情が載せられている。
確か戦争では【獣王】は【剣王】に倒されたと聞く。その時のステータスは一〇〇万オーバーだったらしく、その噂が広まった結果”物理最強“の名前で有名になったようだが、それはともかく。
アルティミアの話では【獣王】はフィガロに当てたと聞いている。恐らくその時にもステータスは一〇〇万オーバーだったろうから……最大限準備を行ったのだろう。そうでなければ【獣王】は負けてない。
とはいえ相手からすればそんなことは関係ないだろうから、
『戦争中と決闘じゃ状況が違いすぎるガメ』
と、ひとまずその一言だけ伝えておいて決闘に集中する。
経緯はどうあれ、今のフィガロは先程の迅羽の宣言通りに膝をつき吐血している。
肺を奪われたのだ、相当なダメージとなっているだろう。
このまま何もできなければ負けるのはフィガロだが……そうはならないだろう。
現に、フィガロは立ち上がり装備を変えた。
「装備を脱いだ?」
『枠を空けて強化を集中してるガメ』
「わかるのかい?」
『視れば大体な』
【地神】の疑問に応え、直後にフィガロが動く。
動きが悪い。先程まで無傷で済んでいたというのに掠り傷が増えている。
だがそれでも戦えている。
明らかに不利な状況であるにも関わらず、先ほどまでの戦闘とほぼ変わりない状況を作り出している。
そして、フィガロの刃と迅羽の片手の爪、義手がぶつかり合う。
一方は砕け散り─────もう一方は、当たった爪の部分が欠けた。
「これは……」
先程とはまるで違う結果。
そこからフィガロの攻勢が始まった。
徐々に……というには早すぎるほどにフィガロが迅羽を削っていく。
使用する装備枠を減らし、使用している装備枠に強化を集中させて装備品を強くする。
装備数反比例強化。
それも、元々の装備枠の数に応じて出力が増すタイプのスキル。
そしてもう一つ。
戦闘時間比例強化。
これらがフィガロの保有する<エンブリオ>のスキルであり……それ故に、フィガロは長期戦に滅法強い。
それに加えて【超闘士】とのシナジーもある。装備枠を増やすスキルもあるのだから、それはもう相性抜群だろう。
『ま、そろそろ決着ガメ』
フィガロの剣が、迅羽の爪を削る。
今度はもうフィガロの武器が壊れたりはしていない。
完全に形勢は逆転した。
迅羽が全ての手札を曝け出すつもりがない以上、このままでは迅羽の敗北は必至。
だが……多少は手を晒すつもりではあるらしい。
取り出したのは、黄河に現れたとされる<SUBM>の超級武具。銘は迅羽曰く【応龍牙 スーリン・イー】。
迅羽は<SUBM>討伐者の一人。ここで出したとしても何もおかしなことはない。
それに合わせるように、フィガロもまた切り札の一つを切った。
「あの剣……」
『……』
レヴィと【獣王】の雰囲気が変わった。
多分、戦争でやられた時の事を思い出しているのだろう。
あの剣は……あぁなるほど、フィガロにピッタリなスキルだ。けど、それを今出すメリットは薄い……あぁいや、【応龍牙】に対抗するために今出せる最高の武器を出したのか。
確かにアレは、並の武器では相手にならない。例えそれが本領を発揮できていなかったとしても、だ。
フィガロと迅羽、互いに見合い、僅かな静寂がその場に満ちる。
時間にして数秒ほど。されど会場全体からすれば何分も止まっているように思えるほどの、長く短い時間。
ついに、両者が動く。
超音速……それを超えた速度で互いに進み、刃を振るう。
勝ったのは─────フィガロ。
片腕をもがれても接近し、しかし【応龍牙】すらも布石とした迅羽の義手が心臓を貫こうとしたが、それは背中まで突き破ることなく心臓で……フィガロの<エンブリオ>によって受け止められた。
隙ができた。それを見逃すようなフィガロではなく……フィガロの超級武具が迅羽を縦に両断。
それでもなお動こうとした迅羽をさらに横に両断して決着─────かに、思えた。
瞬間、両者の動きが完全に静止する。
『……時間停止か。そっちの事情ガメ?』
『NO』
「あんなのと一緒にしないでください」
ボロクソに言われてんなぁ。
【地神】は……驚いてる様子からして知らなかった感じか。知らずにここに派遣された、と。
そう頭を回しながら、視線を結界の上部へと向ける。
そこに立つ着ぐるみの影。
『はぁい! みなさんこんばんはぁ! いい勝負でしたねぇ! 面白かったですねぇ!』
明らかに元凶とわかるような立場で、その声が会場全体に鳴り響いた。
……どうやら、ただのイベントだけで済むことはないらしい。
(◎n◎)<ちなみにオールドポンドはこの場から動くことはありません。