『相性悪いだろうに、やるガメ』
見上げる映像の先。
そこには満身創痍ながら、生きて立っているレイ・スターリングの姿が映し出されている。
相対したのはフランクリンの出す、レイ・スターリングという<マスター>を殺すことに特化したモンスター。
それをレイは乗り越えた。相性が悪かろうと喰らいつき、ついには勝利をもぎ取った。
とはいえ、レイ一人の勝利というわけではない。
その場にいたリリアーナたち近衛騎士団の奮闘も、モンスターを倒す一因となった。
特に面白かったのはリリアーナの繰り出した新技。これにはフランクリンも驚愕していた。
剣に回復魔法を一点集中で纏わせての
【聖騎士】であったレイの天敵となるモンスターは聖属性無効化が積まれていた。
が、流石に回復魔法までは想定されていない。
というか回復魔法を防ごうなんて普通は考えない。
そもそも回復魔法に他者を傷つける効果など本来は載せられない。
なので回復魔法をポーションと同じ原理での回復として再形成し、その過剰回復により細胞を破壊した。
だから通った。発想の転換だ。
俺が教えた技術が役立ったようで何よりだ。
しかし。
『とはいえ、ガメ』
それだけで終わるほど、フランクリン……いいや、<超級>は甘くはない。
生産系の<超級>は、時間を与えれば与えるほど凶悪になる。
実際、その憶測は正しかった。
『プラン
映像の先に見えるフランクリンは、そのようなことを口にしたのだから。
両隣の反応はそれぞれ異なる。
レヴィは興味なさげに、しかし面倒そうに表情を歪め。
ファトゥ厶は何処か困ったような顔をする。
レヴィは『自分達なら何の問題もないが、こちらまで巻き込むな』という感じだろうし。
ファトゥ厶は、『今ギデオンを壊滅させられるのは困る』という反応。
それは二人の目的及び目標が異なるからだろうが……今はいい。
『……』
まず大丈夫だろうと思える者たちは誰か考える。
とはいえこれに関しては考えるまでもなかったか。
フランクリンの近くにいるエリザベート以外は放っておけば死ぬ。モンスターによる殲滅を許してしまえば、そうなる。
勿論そんなことにはさせない。
させないが……さて、ここからどう行動するか。
一、俺が動く。一番確実。
二、シュウに任せる。でもエリザベートまで巻き込む可能性大。シュウなら巻き込むマネはしないだろうが……その場合はどうやってエリザベートを取り戻すか。
三、カバネを出す。確実ではないが今は一番丸い。エリザベートの救出も可能だろう。デメリットはカバネの所在を見られること。
手の指輪が、カタカタと震える。
私を出してと。そう言っているように。
『やるには、まだ少し早いな』
映像を見る。
立ち上がる者がいる。
満身創痍で、片腕は使い物にならない。意識も朦朧としていることだろう。
だがそいつは立っている。抗おうとしている。
レイ・スターリング。シュウの弟。それしか知らない。
だが……シュウの弟なのだ。
僅かな可能性であろうと手繰り寄せてくる。
それがあの兄であり……弟もまた、同じらしい。
なんともまぁ……
俺がそう思う先で、レイを筆頭に彼らが戦う。
ギデオンにいる上級職及び<上級エンブリオ>の<マスター>たち。
それに準<超級>の【
……ああいうのをカリスマというのだろうか。あるいはタラシ?
なんであれ人が集まったことには変わりない。
彼らは抗う。モンスターの群れに。
数で言えば二十数人。そしてぶつかるモンスターの数は、出だしということもあって五千体ほど。数で言えば一割にも満ちていない。
だが……数分間、よく保っている。
理由は<エンブリオ>の多様性。
回復、強化、妨害、攻撃、防御。
上級でもシナジーが噛み合えば準<超級>になることもあることを考えれば、あり得ない結果ではない。
しかしそれも薄氷の上に過ぎない。
今もモンスターたちは溢れてきているし……何ならフランクリンが<UBM>級のモンスターを出してきて戦況が崩れた。
思わず手が動き……映像の先に見えた人物を視認し、手を止めた。
『ようやく来たか』
「……?」
言葉が漏れ、隣のレヴィが疑問を浮かべこちらを見る。
このまま行けば抗っている彼らはモンスターに潰され、モンスター達はギデオンに到達する。
そんな未来は、もうなくなった。
『【獣王】……あー、名前わからないからこう呼ばせてもらうけど……よく見とくガメ』
頭の位置を調整して、より映像が見えやすくする。
その先ではレイを倒そうと【竜王】の特典素材で作り出したと思われるモンスターが襲いかかっていて、
『面白いものが見れるぞ』
俺がそう言った次の瞬間には、その男が現れていた。
そして、襲い来る巨大なモンスターを天高くまで
それを成したのは、一人の男だった。
見た目は毛皮を被った男。鍛えられた上半身が曝け出されている。流石にズボンはあった。
俺も見たことのない姿ではあったが、それが誰なのかは視ればすぐにわかった。
そして男……シュウはフランクリンに向けて宣言する。
「お前自慢のモンスターは──この【破壊王】がまとめて“破壊”してやる」
☆☆☆☆☆☆☆
後のことは態々語るまでもない。
シュウの拳がモンスターを消し飛ばし、<エンブリオ>が向かってくるモンスターたちを殲滅した。
フランクリンに囚われていたエリザベートも【絶影】とレイによって救出されてフランクリンはデスペナルティ。
殺しきれなかったモンスターがいるので完全に解決とまでは言えないが、それでも事件が終息したのは間違いない。
あぁ、それと。
【獣王】とファトゥ厶についても話しておかないといけないだろう。
【獣王】は楽しそうにシュウの活躍に注目して視聴したあと、ギデオンに残ってログアウトしたのは見ている。
何らかの用事……クエストか。王都に戻ったらアルティミアには暫くギデオンに行かないよう言ったほうが良いだろうな。
ファトゥ厶に関しては、事件が終わってからギデオンを出ていった。本当に要件はそれだけ……というわけではなかっただろう。
あるいは既にやるべきことは終わっていたのかもしれない。
兎も角ファトゥ厶は事件が終わってすぐに姿を消し、恐らくカルディナに戻った。
……結局あいつはフランクリンのもう一つのプランも潰したみたいだし、本当にギデオンでは何もするつもりはなかったんだろうな。
『おっすおっすシュウ。大活躍だったガメー』
『オールドポンド』
歩いていたらシュウを見つけたので声をかけ、互いに着ぐるみの姿で握手した。なんかファンシー。
『あいつは?』
『【獣王】はログアウトしてたけど、今はどうしてるのかわからんガメ』
『こっちに残ったか。オールドポンドはこのあと王都に戻るクマ?』
『そうするつもりガメ。シュウはどうする?』
『……流石に放っておくわけにもいかないから、ギデオンに滞在するクマ』
『ま、そうするしかないよな』
ギデオンには【剣王】、【超闘士】、あと今は【尸解仙】もいるが……”物理最強“の相手をする場合を考えると少し弱い。
【剣王】は必殺スキルを使えば凌駕可能だがその前に殺されるかもだし、【超闘士】は時間が必要。【尸解仙】はそもそも速さが足りてない。
総じていきなり暴れた【獣王】を相手にするには向かないので、ロボになったというシュウが大きさ的にも向いている。
多分。
『じゃ、後のことは任せた』
『おう。達者でな』
『そっちこそ』
短く言葉を交わし、それぞれ違う道に向かって歩き出す。
少し進んだところで指輪が震え、肩に重さを感じた。
「あれが【破壊王】?」
『ああ、そうだよ』
肩に乗って足をブラブラとさせるカバネ。
人物に興味があった……とか、そういうことではない。
「【超闘士】、【破壊王】の二人は欲しかった」
『またギデオンに行くから、その時にでもやり合えば良いだろ』
「ん、そうする」
2つの超級職の奥義と固有スキル。
今のカバネからすれば喉から手が出るほど欲しいものだろう。
カバネが今も<UBM>だったなら周囲の被害も気にせず、襲いかかっていただろうな。
『王都に帰る前にお土産でも買って帰るガメー』
「チョーカーが欲しい」
『マニアックなものを……まあそれも合わせてテレジアのお土産も買うガメー』
テレジアの名前を出した途端にカバネが不機嫌そうに頭に抱きついて身体を揺らしてくるのを受けながら、夜のギデオンを歩く。
─────このフランクリン事件をキッカケに世界が大きく動き出すことを、今の俺は知る由もなかった。
(◎n◎)<ちなみに既にオールドポンドはシュウに王都に服飾店があることを教えてます。まぁ暫く行けないんですけど。