今日、この日。
特別な日だといえた。
アルター王国にとっても、ドライブ皇国にとっても。
講和会議、だったか。
それが今日、行われる。
何も起こらないはずがないので護衛の戦力は集めており、<マスター>達が集結している。
あちらも、勿論こちらも。
あっちは【獣王】に【大教授】、あと【魔将軍】が来る。
こっちにはシュウと……あと弟のレイがオーナーである<デス・ピリオド>が参加している。あと【女教皇】とそのクラン。
……今更になるが、なんで<デス・ピリオド>なんて名前になったのだろうか。俺はその辺りは全く聞いてないのでよくわかっていないが、もう少し何とかならなかったのか……?
とはいえ、それに関しては考えても仕方がないことだから置いておく。
さて、俺がなぜ講和会議についていかないのか、それについて話さなくてはならないだろう。
理由の一つとして、この講和会議がフェイク……何らかの騒動を起こすための切っ掛けとするために行われる可能性があるから。
わかりやすい例を挙げれば王国への侵攻とか。
今現在の皇国は追い詰められている。
何をしてきても不思議ではない。
アルティミアはそうならないように願っているが、皇国が……皇王が何を考え、何を目的としているのか分からない以上、備えは必要だ。
そういうわけで俺が残った。
仮に皇国の軍勢が侵攻してきても王都に入る前に鏖殺できる。
「出来るの?」と問われたので『出来る』と答えておいた。それをアルティミアは信じて、結果俺は残ることとなった。
他にもアルティミアはテレジアのことを考え俺を残した面もある。
俺も俺で、ただ講和会議を終わるのを待つのもアレだからとカバネをアルティミアに預けている。彼女の必要次第で指輪状態で投げて、相手をカバネにぶつけることになるだろう。
アルティミアは講和会議に出てくる皇王にカバネをあてるつもりのようで、以前の反省を活かすらしい。
話を聞く限り、2つのジョブが共存されるとなれば<エンブリオ>もしくは特典武具が由来だろうが……それにしては互いに距離が離れていても維持されていたらしい。
直接視れれば分かったのだろうが……いや、これは置いておこう。
『そろそろ講和会議が始まってる頃か』
一人呟く。
順調に進めば何も起こらず、無事に戻ってくるだろう。
講和会議で戦争は起こらなくなり、これ以上の被害も出てこなくなる。
互いにとって、良いことのはずだ。
─────目的が合致していれば、だが。
『護衛に付くはずだった<マスター>の大部分が護衛開始前に暗殺。それも皇国のPKによる者と判明、と』
これで相手は何も企んでなんていない、皇国は安心安全な国だ……などと言えるのならそいつはよっぽどのお人好しだろう。
この講和会議は……タダでは終わらない。
どのようなものであれ、火蓋は切って落とされる。
あぁいや、正確には火蓋が切られる、っていうのが言葉として正しいか。
……あー、いや、これも少し違うか。
戦争が始まった時から……あるいはそれより前から。
こうなるだろうことは決まっていた。
『……あぁ、来たな』
城の外。
音が聞こえる。
詳しくは聞き取れず……だから魔力を薄く伸ばして音を広げて聴覚範囲を広げる。
人の怒号。
武器を振るう音。
叫び声。
恐怖に満ちた声。
足音。
身体を震わす音。
爆音。
焼ける音。
蒸発する音。
呻き声。
相談し合う声。
走る音。
鎧が擦れる音。
風を切る音。
呟く声。
羽音。
虫の音。
『そこか』
源泉……王都中に広がる敵の源は見つけた。
とはいえ王城に入って来ている奴らもいる。
対処するなら……王都は放っておけば被害が広がりそうだな。
俺はそっちに行けない。
少し考え……出したほうが良いと判断した。
時間は、三十分もあれば行けるか。
首にかけていたアクセサリーを触り、首から外して手に持つ。
そして口にする。
『初お披露目だな─────
それに合わせて装備を変える。
金色……いいや、
それは、デフォルメされた着ぐるみだった。
本家本元のものと比べれば随分と可愛らしい。
だが、その力は本物だ。
たった一つ。されど一つ。
今この場においては、十分すぎる。
『設定。消費三〇〇〇、時間一八〇〇秒─────【
着ぐるみに溜め込まれた莫大な魔力。
それを燃料に、アクセサリーから解き放たれた存在。
その圧は、並の<UBM>など軽く凌駕する。
例え生前より弱体化しようと、その力量は変わるはずもない。
アクセサリーを媒介としてその竜が姿を現す。
「─────ふむ。久方ぶりの肉体だな」
地に降り立ち、手を握ったり開いたりする
一目見ただけでは女にしか見えない。
竜の角らしきものが生えた、黒いドレスアーマーを着た美少女。この世界基準から見ても相当に顔立ちが整ってる。
見方によっては角も装飾品に見えなくもないだろう。
……いや、うん。
『お前なんでそんな姿してるの??』
今一番聞きたいことを目の前にいる女─────ドラグウォールに問い質した。
「む、悪いか? シシカバネにも聞いて神装を弄り、拵えたのだが……」
『そっちじゃない。いやそっちもあるけど……』
というかお前カバネと話してたの?
いや繋がりが出来てるなとは思ってたが、お前そんなことして……あー、うん。いいか、別に。細かいことは後で詳しく聞かせてもらおう。今は時間が惜しい。
「ふふ、話せば長くなるのだがな。それでも聞くか?」
『なら後にする。今はそれよりも王都だ。外に虫がいる。出来る限り被害を出さずに、必要なら周りとも協力して排除しろ』
「承知した」
言葉少なくも、話がわかるタイプであったようですぐに動き出した。
空に手を差し出し、ゆっくりと下ろす。
そして
王城から全く別の風景が穴の先で見える。
思わず驚くとドラグウォールがこちらに顔を振り向き、したり顔で微笑む。
「生前、こちらは修練していなかったので使えなかったがな。改めて鍛え直し身につけたのだ」
尤も開くのに時間を必要とするので戦闘中には使えないが、と付け足したドラグウォールは開いた穴を通り抜け、直後に穴が小さくなっていき、
「今回、私も楽しませてもらう。そちらも楽しむといい」
最後にそう言い残し、穴は消え去った。
『……はぁ』
思わずため息をつく。
この状況で楽しめ、ときたか。
そう言えるのも、アイツが元々人ではないのもあるだろうが……本人の性格だろうな、きっと。
そこまで考え、
『少し急ぐか』
走る。
今から向かう先では、まだ敵は近くにいない。
だが……進行方向からして当たってしまう。
テレジアは問題ない。【永遠】もあるし、【邪神】としての無敵に、あとドーもいる。
テレジアのいる方向に進んでいるのが二人ほどいるが、どっちも視た感じ<エンブリオ>があるから放っておいても問題はない。
問題なのは一人だけ。
一人は地下へと地面を融解させながら降りている。
もう一人いたみたいだが……そいつはもう消えている。恐らく誰かが倒したのだろう。視た感じ超級職だったみたいだが。
……このままだとこっちが着くより先にあっちが到着するな。
『すまんがショートカットデビ』
そう誰に言うでもなく謝罪しながら……剣を振るって目の前の障害物を
■▼
オールドポンドが動く、その裏で。
「あぁ、彼も動いたみたいだね」
王城に居座り、ただ
「さて、私はどうしたものかな。俯瞰か、介入か。彼が動いたのなら全て丸く収まりそうな気もするけど」
その名を、フラグマン。
「今は私が出る必要はない。それこそ城ごと消し飛びそうにならない限りは……あぁいや、こういうのをフラグというのだったかな」
【大賢者】インテグラ・セドナ・クラリース・フラグマン。
「ともあれ……期待してるよ、オールくん。今も、その先もね」
それが、彼女だった。
【ドラグウォール】
(◎n◎)<雌です。
(◎n◎)<……でもおかしいな。本当は竜の姿にするはずだったのに……
【大賢者】
(◎n◎)<前に書いたラングレイとの決闘時に交流を深めた二人の内の一人。
(◎n◎)<ちなみに、何とは言わないけど本人に自覚はない。