剣一つあれば良い   作:オルフェイス

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■を統べる者 上

 

 天地での修業は一段落したので、俺は王国に戻ろうとしていた。

 ……いつ察知したのか知らないが、ティアンにスカウトされたり他のマスターに狙われる頻度が一気に増えたので出るのに苦戦したが、なんとか天地からは出れた。

 今は最短ルートを通りながら迫るモンスターは斬り殺し、進んでいるところだ。

 俺のエンブリオも月日が経ったからか第六形態に至り、今では攻撃力はスキル補正も含めて十万を超える程になっている。スキルによって射程も伸びているため、大体即死させられる。

 代わりにスキルは全くと言って良いほど得られる兆候がない。このまま行ったら完全に武器性能特化型のエンブリオが完成することだろう。

 

 

『エンブリオは自身のパーソナルと願望を反映する、か』

 

 

 呟く。

 ネットで調べたら出てきた文章だ。

 パーソナルか、願望か。あるいはその両方。それがエンブリオに大きな影響を与える。

 千差万別の変化をエンブリオが経るのはそういう理由だ。人の数だけエンブリオがある、と言って良い。

 ならば、俺のエンブリオは……一体、何を反映して成長していったのだろうか。

 パーソナルなのか、それとも……

 

 

『…………?』

 

 

 そこまで考え、足を止めた。

 何かが見えた、というわけではない。

 いや、それも間違ってはいないか。正しくもないだけで。

 ()()()()。それだけは一目見ただけでわかった。

 目に映るのは広々とした荒野。遠くにモンスターの影は見えるが、それだけ。

 

 ()()()()()()()()

 

 

『……見えない壁とは、中々ギミック感のある場所ガメ』

 

 

 そこに近づき、壁の前に立つ。

 壁、とは称したが、目では見えない。

 そもそも物理的に存在していなさそうで、どちらかといえば空間的に存在している壁だろう。

 どちらにしても壁は壁なのか、向こう側を見通すことができない。

 いや、実際には見えている……見えているけど見えていないっていうか……うーん。

 

 とりあえず斬ってみるか。

 

 エンブリオを取り出し、構える。

 俺のエンブリオであるグラムは、第一形態の時から刃渡りや長さなど変わっている部分が殆どない。

 敢えて言うなら剣身の色が変わってるくらいで……だからか、手に馴染む。

 剣を空間の壁……仮に空壁と名付けたそれへと振り下ろし、

 危険を察知し、後ろへ飛び退る。

 瞬間、地面にくっきりと跡が残った。長方形の何かを強く押しつけたような、そんな跡が。

 

 

『なるほど、そういう感じか』

 

 

 ギミック感があるとは称したが、実際にトラップだったわけか、と。そう納得した。

 

 同時に理解する。

 

 こっちに向かって攻撃を仕掛けてきたということは、あちらは完全にこっちを捕捉したということで─────

 

 そう認識した直後。

 見えざる刃が四方八方に発生し、俺のことを寸断せんと迫った。

 

 

 

 

☆☆☆☆☆☆☆

 

 

 

 

 

 ソレは、長い時を生きた■だった。

 ソレは誰にも知られることのない存在だった。

 ソレは全ての存在から身を隠せる存在だった。

 

 人ならざる妄執の機械も、古き■も、ある意味第二の親とも言えなくもない世界の管理者ですら、情報が返ってこずに行方を見失った。

 

 ■■■■■■に至り、■■■すら会得した。

 

 誰も■■■を見つけることは叶わないし、誰も倒すことはできない。

 

 それは事実であり、絶対の自負。

 

 それだけの力を持つと確信しているがゆえに。

 

 もし自身を殺す者がいるとすれば、同じ■■を保有する者か……自身では太刀打ちできない、より強大な存在だけであろう、と。

 

 だからこそ、近くに寄ってきた存在がいても、『またか』と、なんてことのないように寸断しようとした。

 態々何もない場所に向かうモノは珍しいが、決していないわけではない。

 

 作業のように殺す。それだけ─────そのはずだった。

 

 

『……?』

 

 

 困惑した。

 見えず、防げず、避けられないように囲んで放った攻撃。

 

 それが今……()()()()()()

 

 ありえない。そう口から漏れそうになった。

 ソレはようやく近くに来たモノを、しっかりと知覚した。

 

 それは亀に似た生き物だった。大砲の付いた甲羅を背負い、片手に剣を持つ、人型の生き物。

 それは剣を振り抜いた姿勢で止まり、そして走り出した。

 

 向かう先には─────ソレがいる場所だった。迷うことなく走ってくる。

 

 

『……』

 

 

 頭の中に生じたのは『なぜ』だった。

 なぜ斬れる。ソレの攻撃は防げないし、ましてや斬れるものでもない。そんなモノは長い年月で現れることはなかった。精々がすり抜けて攻撃する程度だった。

 

 出力は、確かに低かった。防御力やENDが意味を成さないソレの攻撃に、出力など大した意味を持たないからだ。

 

 ソレはもう一度、見えざる刃で攻撃した。

 今度は通常通りの出力。数も先程よりも多くした。

 確かに見えざる刃は奇妙な生き物に向かって放たれ、狙いを外すことはなかった。

 だが─────見えざる刃が命を刈り取ることはなかった。

 あろうことか逸らされ、潜り抜けてきた。

 

 ソレは目を細め、向かってくる存在を分析し始めた。

 

 

『(奇妙な出で立ちだが……人間、特典武具か。こちらを察知したのも装備によるものか? 斬られた原理はわからないが……通常通りの出力ならば、斬られることはないようだな)』

 

 

 先程との違いを認識したソレは手を翳し、そして振り下ろす。

 

 

『(ならば、埋め尽くせば良い)』

 

 

 瞬時に発生した見えざる刃が、まるで断頭台のように空中に大量発生し、同時に落とされた。

 

 それとほぼ同時。

 人間は頭上に剣を振るった。

 

 届くはずのない距離。

 だが実際には届き、人間の頭上の刃だけが斬り裂かれ、元の害のないものへ霧散する。

 

 

『(攻撃範囲を広げているな。斬れないと思ったのは尚早だったか)』

 

 

 ソレは相手を探るために次々と刃を繰り出し、命を絶とうとする。

 見えないはずの攻撃を予測し、斬れないはずのそれを斬る。そしてわからないはずの自身を認識し、駆け出している。

 

 この時、既にソレは迫る人間を作業のように潰す対象ではなく、自身を殺しうる敵と認識していた。

 

 

『(これはどう対処する?)』

 

 

 自身が笑みを浮かべていることに気付かぬまま、指を指揮棒のように振るい、見えざる壁を操る。

 

 線ではなく、面で。壁を重ね、押し出すように。左右前後、さらに上からも壁が迫る。

 

 斬れるというのであれば、斬られる前提で攻撃するまで。そう言わんばかりに物量で押し潰さんとする。

 

 それに対して、

 

 

『(ほう)』

 

 

 人間は元々持っていた剣とは別の剣を取り出し、

 

 ()()()()()()()()()()()()

 

 斬り裂かれた壁の隙間を走り抜け、片手に持っていた剣を投げ捨て、元の剣を装備し直すと一気に距離を詰める。

 

 投げ捨てられた剣は地面に落ち……すぐさま罅が剣身に広がり、自壊した。

 

 

『(破壊を代償に一撃を高める……そういったスキルか。しかも、先程よりも攻撃範囲が広がっていた……別々のスキルであるならば、攻撃力に応じて範囲が広がる類のものか?)』

 

 

 ソレが悠長に考えている間にも、人間は既に距離を詰めている。

 

 元々、荒野の中心にいたわけでもなく、ソレの最大射程も決して広すぎることもない。

 

 そして目の前にいるのは規格外の人間。到達は、ある意味必然だった。

 

 だが─────これで終わるほど、ソレは弱くなどない。

 

 

『久しいな、ここまで近づかれたのも』

 

 

 ソレが、ついに喋りだした。

 未だに弱かった時以来か、と続けて呟く。

 

 

『……』

 

 

 目の前にいる人間は、剣を構えて無言でソレを見据える。

 未だに見ることの叶わない物理的な姿ではなく、それの宿す莫大なリソースを。

 

 ソレは自身の手を伸ばし、そっと空を掻いた。

 

 瞬間、人間が飛び退き……そのすぐ後に、地面に巨大な爪痕が発生した。

 

 ソレは純粋性能型。真正面からの衝突こそ真骨頂としている。

 そして、通常の手段での攻撃では突破できない防御能力を持つ条件特化型でもある。

 ソレは自身の戦闘形態を整えていく。

 広域に伸ばしていた力を自身に集中させ、鎧のように身に纏う。

 元より強固であった壁が、鎧となってさらに強度を増していく。

 そして完成したのは、あらゆる攻撃を防ぐ鎧を身に纏い、あらゆる防御が意味を成さない攻撃を繰り出し、さらに莫大なリソースによって高められたステータスで襲い来る怪物。

 ソレが、腕を掲げる。

 

 

『容易く死んではくれるなよ』

 

 

 難攻不落の化け物(モンスター)が、矮小な人間へと腕を振り下ろした。

 

 

 

 

 

グラムの必殺スキル

  • 我が剣に曇りなし
  • 剣一つあれば良い
  • 神剣
  • 一剣万象
  • 剣の理
  • 全なる一刀
  • そんなものはない
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