剣一つあれば良い   作:オルフェイス

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王都にて 4

 

 ─────一方、()()()

 王城への侵入者……【奇襲王(キング・オブ・レイド)】の改人(イデア)、【ウェスペルティリオー・イデア】──一言で言えば蝙蝠男──ことモーター・コルタナは、自身の魔力感知から消えた反応に対し、安堵したと言わんばかりに大きく息を吐いた。

 

 

(あっぶねぇ……! あの翁、何考えてやがる!? 危うく俺も巻き込まれるところだったぞっ!?)

 

 

 自身に組み込まれてしまった<エンブリオ>のせいで、感知したとしても逆らえず逃げ出せないモーターは間一髪で命を拾い、自分ごと自爆しようとしたフュエルに悪態をついた。

 しかし、とはいえ。

 それで安心できるというわけでもないことはモーターも理解していた。

 

 

(まだ撤退の指示も受けてない。目当てのモノを見つけて、さっさと片付けないと俺の命も危ない……が)

 

 

 モーターは、()()に来るまでに見つけたモノについて考える。

 家具だと思ったものが突然モンスターになり、殺しても光の塵となって消失せず、ドロップアイテムにもならずに元の家具に戻る。

 それに加えて、モーターが感知した強大な魔力が複数。特にフュエルのいた場所では一気に二つも増えていた。その二つの魔力がフュエルを仕留めたのだろうから感謝でも言いたいくらいだが、同時にその相手はモーターも相手にしなくてはならない可能性があった。

 

 

(こんな化物の巣窟に長居してられねぇ。ゼタの指示に従って……というか従うしかないが、この扉の先にいる奴に《サドンデス》をぶち込む)

 

 

 自身に内蔵された《暗黒結界》という相手の視界を奪い去る機能と、相手がこちらを目視してない時に発動可能な奥義《サドンデス》による防御力・耐久・耐性無視の貫通攻撃。さらには【襲撃者】系統のスキルでダメージを上げれば、大概の相手は跡形も残らない。

 仮に膨大なHPを有していようと、致命部位は消し飛ばせる。そういう算段だった。

 

 

(入れば、すぐにでも決着はつく)

 

 

 それをモーターは予感していた。

 扉の先にいる魔力の持ち主は、明らかにこちらを待ち構えている。

 ウロウロと移動していたかと思えば、モーターが近づいた途端にこの部屋で動きを止めた。こちらを感知しているとしか思えない動きだ。

 モーターはこの強大な魔力の存在が彼の上司にあたる人物から指示された『奇妙な人物』であると認識していた。そうであってほしいという願望も含まれているが、異常な存在であるのは間違いない。

 

 

(……行くぞ)

 

 

 退いても先がない以上、モーターは仕掛ける他なかった。

 モーターの勘とでもいうべき感覚は先に進むことを拒絶していたが、先にあちらが攻めてくるのを待つより、こちらが攻めたほうがマシ。

 そういう考えで扉を蹴破り、対象を視認する。

 そこにいたのは一人と一匹。

 齧歯類に似た大きなネズミモドキと、それに乗るドレスを着た幼子。

 

 モーターが()()()()()で認識できたのは、そこまでだった。

 

 

『ごっ、が!?』

 

 

 瞬間、モーターは()()()()()()

 

 

(なに、が……っ!?)

 

 

 ()()によってモーターの動きは封じられた。

 上から押し潰すように、何かが力を加えている。

 その何かがモーターが動くことを許さない。

 動かない身体。それでも動かねばとなんとか目を動かした先、ようやく見えたのは自身が()()()()()によって、床の形が変わるほどの力で押さえつけられている、ということ。

 そして、そのオーラは幼子を中心に発せられている、ということだった。

 

 

(なんだこのスキルっ! くそっ、怪我は動ける程度なのに、身体が動かせねえ!)

 

 

 モーターは知らない。

 その赤いオーラが《 ()()() 》と呼ばれるスキルであることを。

 本来ならば<UBM>か、その特典武具か。若しくは特定のジョブにしか扱えない、ということを。

 それがその三者のどちらにも該当しない、ということも。

 

 

「すこし、やりすぎたかしら」

 

 

 その言葉が聞こえると共に、ふっと身体が軽くなった。

 自身を押さえつけていた赤いオーラが消えたのだと理解し、すぐさまその場から退く。

 しかし、逃走は出来ない。モーターの中にある<エンブリオ>の分体がそれを許さない。

 モーターにできたのは、部屋の隅に移動し、即座に対応できるように構えることだけだった。

 

 

「これはね、《りゅうおうき》というの」

『……あ?』

 

 

 モーターは何が起こっても良いように警戒していた。

 だから、突然言われたことに思考が追いつかなかった。

 それは、()()だった。

 

 

「ほんとうなら《りゅうおうき》はボウギョようなのだけど……ためてるSPをたくさんつかえば、コウゲキすることもできるの。コウリツはとてもわるいのだけど」

『……』

「わたしが《りゅうおうき》をつかえるのは、このドレスのおかげ。大切な人からのプレゼントなの。ジョブには就いてないけど、このコのおかげであなたをうごけなくできたから」

『さっきから、何を言ってる』

 

 

 思わずそう投げかけ、話している幼子を止めた。

 意味がわからないというのではない。話している内容は、理解できる。

 色々とおかしいと思う部分はあるがそこではなく。

 

 

『なんでこうもペラペラと喋るんだよ』

 

 

 なぜ、こうもあっさりと話しているのか、という疑問だった。

 奇襲を仕掛けようとした時には分かりづらかったが、目の前にいるのは子供だとはっきりとモーターにはわかった。

 彼女の言うことが正しいのなら、あの着ているドレスがモーターを完封してみせたタネなのだろう。

 というよりそれ以外には考えられないと、《看破》で見抜き彼女がジョブに就いていない第三王女であることを把握しつつ思う。

 だが、嘘ではないとわかったからこそわからない。

 

 

(何を考えてやがる、こいつ)

 

 

 なぜ喋る、と。

 それに対して、彼女は。

 

 

「……なぜかしら?」

『いや、こっちが聞きたいんだが……』

 

 

 なぜか腕を組んで悩みだした。

 あまりの空気の読まなさに気が抜け始めたモーター。

 少し悩んだように見えた彼女は腕を解くと、答えを出した。

 

 

「そうね。じまん、かしら」

『自慢?』

「そう」

 

 

 そう言った彼女は齧歯類から降りると、くるくる回りだした。

 

 

「あの人が贈ってくれたモノは凄いの、って。そうだれかにじまんしたかったのかも。わたしにこんなおもいがあるなんて、はじめてしったわ」

『おう、そうか』

(あのドレスはともかく、中身は多少大人っぽいだけの子供だな。だからって油断はできないが……)

 

 

 言いたいことを告げた彼女のことをそう判断したモーターは、少なくとも目の前にいる子供が『奇妙な人物』ではないと確信した。

 だが……それは警戒を解く理由にはならない。

 テレジアの言うドレス。

 あれが最大の脅威であることには変わりないのだから。

 

 

『正直、罪悪感はあるがな。俺も命が掛かってる。悪いが、』

「そうね。だから、しなないでね?」

『は、』

 

 

 そう言って手を伸ばしたテレジアの腕の先から赤いオーラの《竜王気》が伸ばされ、それをモーターは回避して部屋の中を跳ね回る。

 

 

(前言撤回! ただの子供がこんな容赦ない攻撃なんて出来るかっ!)

 

 

 モーターは全身から赤いオーラを放ち腕の代わりとでも言うように暴れ回るオーラの腕を避け、決して捕まらないように立ち回る。

 捕まってしまえば最後、きっとこの子供は動けないモーターを殺すなり気絶させるなりで仕留めに来る。

 そうなる前に、今度こそ《サドンデス》を当てる。

 

 

(まだ《暗黒結界》はバレてない。まずは出来る限り近づいて、その上で《暗黒結界》で視界を潰して《サドンデス》を当てる)

 

 

 一応、相手の消耗を待つこともモーターは考えたが、それがどれほどの時間を必要とするのか分からなかったモーターには選べない。

 先ほど『貯めてる』と言ったテレジアの言葉を信じるなら、SPと、それにMPも貯蓄しているはずだ。少なくとも一度の戦闘で消耗を気にしなくて良い程には溜め込まれているのだと、途切れることなく発動されている《竜王気》で察せられる。

 

 故に、モーターは止まることなく仕掛ける。

 

 超級職としてのAGIに、改造で加算されたAGIも加わった超音速機動。迫る《竜王気》はそれよりも遅く、モーターを捕らえることは出来ない。

 隙間を縫って接近するモーターに、テレジアは放出する《竜王気》の量を増やして彼女の纏う分厚い壁としてモーターを拒む。

 

 

(ここだ!)

 

 

 瞬間、モーターは自身に組み込まれた《暗黒結界》の機能を発動。

 部屋の中が闇に包まれ、テレジアの視界は暗闇と化す。

 そしてモーターは自身に備えられた機能で周囲を感知し、テレジアの背後へと回る。

 一瞬、彼女の傍にいるネズミモドキにも目を向け……すぐに《看破》によって()()()()()()()()()()()()であると判断したモーターは、テレジアに意識を集中させる。

 

 

(──《サドンデス》!)

 

 

 モーターの攻撃が、視界を失ったテレジアへと向かう。

 彼女は未だに《竜王気》を纏っているが、問題ない。

 防御力・耐久力・耐性を無視する《サドンデス》ならば、《竜王気》も突破できる……はずだとモーターは考えた。

 ……【竜王】と対峙したことがなく《竜王気》も使われたことのないモーターには初めての経験であるため、彼からすれば賭けではあるが。

 そうして放たれたモーターの奇襲がテレジアの首後ろへと迫り、

 

 

『……くそ』

 

 

 《竜王気》によって減衰され、()()()()()

 賭けに負けた。

 そうモーターが認識した時には、攻撃を受け止めた《竜王気》が赤いオーラをモーターに纏わりつかせ、壁に押し付け行動を封じる。

 それは所謂、衝撃即応反撃(インパクトカウンター)と呼ばれる技術であることは、両者とも知らないことだった。

 ─────モーターの《サドンデス》は、確かに《竜王気》も突破可能なスキルではあった。モーターはこれを《サドンデス》の三倍撃では突破できないスキルだったからだと認識したが、実際はもっと単純な話だ。

 つまり《サドンデス》が()()()()()()()()()()()()()

 テレジアが部屋の各所に生成していた()が魔力を視界として捉えていたため、《暗黒結界》であっても防げず、かつ《サドンデス》の使用条件である『相手が目視していない状態』を満たさなかったためだった。

 

 尤も、テレジアはそのことを話そうとは思っていないためモーターがそれを知ることはないが─────

 彼女は傍にいたネズミモドキことドーの背中に乗ると、《竜王気》で動きを止めたモーターに近づく。

 

 

「かえってくれない?」

『は?』

 

 

 そして、そのようなことをモーターに言ってのけた。

 

 

「かえってくれるのなら、カイホウしてあげれるのだけど」

『……見逃してくれる、ってのか?』

「ええ。あなたのさがしてるものは、ここにはいなかったでしょう?」

 

 

 テレジアの言葉に沈黙するモーターは、少しして首を振った。

 

 

『なんでそれを知ってるのか知らないが、無理だな。俺としてはすぐにでも逃げ出したいが……俺の中にある<エンブリオ>が、それを許しちゃ、』

「えい」

『ちょっ、おまっ……が、ぁあああぁ!?』

 

 

 話の途中ながら『これが原因なのだろうな』と理解したテレジアは、至極あっさりと肉体と完全に一体化していたはずの<エンブリオ>の分体、イデア分体を取り除き……しかしすぐに苦しみ始めたモーターを何処か困惑しているようにも見える無表情さで見つめていた。

 

 

『テレジア。この者の体はその<エンブリオ>で繋がっていたのである。繋ぎがなくなればバラバラになる道理。そも、取り外した分だけ体内に隙間ができるのである……』

「ああ、そうだったのね。ごめんなさい、知らなかったから……でも、それじゃあどうしましょうか」

 

 

 こてんと首を傾け、悩んだ様子を見せる。

 しかし、すぐに傾げていた首を戻して『じゃあこうしよう』と言うように《竜王気》を解除し、地面に倒れ伏したモーターを見下ろす。

 

 

「ねぇ、あなた」

「このまま死ぬのと、人を辞めて生き残るの、どっちがいい?」

 

 




【MDQB・永遠(エテルニテ)
・現在解放されているスキル
《魔魂蓄蔵》
《源資徴収》
《消費削減》
《術式補助》
《竜王気》
《???》
《???》
《???》
《???》
《???》
・ステータス補正
MP補正∶EX
SP補正∶EX
・スキル説明
《魔魂蓄蔵》
 MP、SPを蓄積するスキル。《源資徴収》による強化に応じて貯蓄量は増加する。
《源資徴収》
 周囲に存在するリソースを吸収、【永遠(エテルニテ)】の強化に使われる。また、緊急時にはMPやSPに変換することもある。
《消費削減》
 消費する量を削減する。《源資徴収》の強化に応じて削減量は増加する。現在は30%ほど削減している。
《術式補助》
 自身を装備している対象の使用する術式、つまりスキルを補助する。本来、その者では使えない魔法や技術を使用可能とする。
《竜王気》
 全てを対象に減衰させる赤いオーラ。テレジアの場合、SPの大量消費によるゴリ押しで《竜王気》での攻撃を実用化させている。
 《神装》の習得のためこっそり練習中。《術式補助》もあるため習得難易度は他の者と比べても圧倒的に低い。




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