剣一つあれば良い   作:オルフェイス

58 / 61
トーナメント十二日目 【龍寓歌媛】

 

 十二日目の”トーナメント“。

 その日の戦いを征したのは【殲滅王】アルベルト・シュバルツカイザー。元はカルディナに属していたはずの彼は、今では王国所属として猛威を振るうだろう。

 そして今回の<UBM>討伐は、相手が神話級であること、前回の【ディアー・ドォーン】の進化事件のこと、そして<UBM>が逃げ出した一件のこともあり、より厳重に結界を張り巡らされ、準備が進んでいた。

 周囲には【破壊王】【狂王】を始め、数多くの<超級>が所属する<デス・ピリオド>、諸事情あって不在な【剣王】を除いた準<超級>のいる<バビロニア戦闘団>も加わっている。

 万全を期している。

 しかし───()()()()()()()()()()()

 そう思う者が極少数ながら存在している。

 それは不安ではなく、確信であり予見だ。

 それが的中することは、このあとすぐ理解することになる。

 

 

 

☆☆☆☆☆☆☆

 

 

 

『点火!』

 

 

 運び出された人型サイズのそれが、合図と共に罅が入った。

 その罅は間もなく全体に広がり、そして解放される。

 【殲滅王】アルベルト・シュバルツカイザーは自傷の伴う無制御高出力の特典武具を構え、相手を見据えた。

 出てきたのは───少女だ。一言で述べても美少女である。

 足元につくほど伸ばされた蒼髪。

 手足は龍の鱗で覆われているが、宝石のような輝きがある。

 服として白い衣のようなものを身に纏っているが、海で発見されてから乾くことがなかったのか、本来はゆったりとしていたのであろう白い衣は【シング】の肢体を如実にしてしまっている。

 下着なども着用していない女体の()までわかってしまう姿に、【シング】を見た未成年は視界が検閲されていたりする。

 

 

『( - - *)ウトウト』

 

 

 ただしとうの本人である【シング】は寝ぼけ眼。なんなら目元をゴシゴシしているし、欠伸までしていた。

 あまりに気の抜ける姿に警戒していた<マスター>たちは気を緩め……すぐに張り詰めることになる。

 

 

「───攻撃開始」

 

 

 最初に【シング】を見たときには僅かな困惑を見せていたアルベルトが、一対の大砲型の特典武具による火炎放射を放とうと構えた。

 【殲滅王】アルベルト・シュバルツカイザーの特典武具は、彼の<エンブリオ>の特性もあり無制限かつ無制御の特典武具()()()()

 そのため今アルベルトが保持している特典武具は、自身もダメージを喰らう代わりに超級職奥義に近い威力となっている。

 それをまともに喰らおうものなら、耐久性の低い<UBM>ならば瞬時に燃やし尽くされることは間違いなく、

 

 

『〜♪』

 

 

 ───その炎は、【龍寓歌媛 シング】の声が聞こえたと共に停止した。

 否、()()()()()()()()()

 アルベルトは武器を構え、静止している。全くと言って良いほどアルベルト本人には動きがなく、代わりに軽やかな【シング】の声が響くのみ。

 結界の外で見ていた<マスター>たちは困惑する。いざ戦闘が始まると思ったら突然のアルベルトの停止。

 一体何が起こっているのか───それを理解できた者は、この場にいた数名のみ。

 

 

『……えげつねぇな』

 

 

 その数名の一人であった彼、【破壊王】シュウ・スターリングはぽつりと呟く。

 その近くには彼の所属するクラン<デス・ピリオド>のメンバーがいて、同じようにアルベルトの戦いを見ていた。

 

 

「なぁ兄貴。なんでアルベルトさんは動かないんだ?」

()()()()んだよ。アルベルトはもう動けない。予想はしていたが、レイレイさんとはまた似て非なるな』

「動けないって……」

 

 

 困惑したように兄に問いかけていたレイは、なぜアルベルトが動けていないのか把握できていなかった。他のメンバーの大半と同様だ。

 しかし、シュウ以外にわかる者はこの場に一人いた。

 なぜならその方法は、彼のよく使う手法だったから。

 彼──ルーク・ホームズは理由を把握できていないレイに対して口を開いた。

 

 

「レイさん。アルベルトさんは【()()】にかかっているんです」

「【魅了】? でも、そんなのいつ……あっ」

 

 

 ルーク・ホームズの言葉に、レイは思わずといった様子で思い至る。

 【シング】───【龍寓歌媛 シング】。

 歌。この単語が入っている時点で、アルベルトがどのような方法で動きを封じられたのかレイにも察しはついた。

 【シング】は声を出し、アルベルトはそれを聞いた。

 恐らくその時点でアルベルトは【魅了】され……身動きが取れなくなっていた。

 しかしアルベルトの<エンブリオ>であれば、状態異常であっても復活して耐性を獲得できる─────

 

 それは不可能だ。

 

 

「アルベルトさんの耐性獲得は、()()()()()()()()()()()()

『もし出来るのならとっくにしてるだろうしな。今動こうとしないってことは……アルベルトには抵抗する手段がないってことクマ』

 

 

 シュウの言葉に一同は沈黙する。

 特殊な相手や特化型に対して極めて高い対応能力を持つアルベルトだが、そもそもダメージを与えず状態異常で行動を封じる相手には抵抗する手段が存在しなかった。

 

 

「で、でも、もし瀕死になればそこから復活も……」

「出来ないんだ。【魅了】の状態異常がそれを許さない。仮にもし瀕死になったとしても、獲得できる耐性は恐らく瀕死になるダメージを与えた原因への耐性……【魅了】への耐性を得られるのかは、賭けになる」

 

 

 クランメンバーである霞が希望を口にするも、ルークはそれを出来ないと、その理由も告げる。

 あるいは一度でもスキルを発動できれば、仮に耐性を獲得できなくとも一時的に【魅了】から逃れることもできるのかもしれないが……【シング】が声を発してから僅かな時間でアルベルトが動きを止めたことから、攻撃が届く前に再び【魅了】されるだろう。

 誰もが言葉を発せられない中、次に発したのはルークだった。

 

 

「それよりも気になるのは……どうしてアルベルトさんが動いていないのか」

「「「え?」」」

 

 

 ルークの言葉に反応した何人かは、言っている意味がわからないとばかりに頭に『?』を浮かべていた。

 

 

「えー? どういうことー?」

「それはね、バビ。【魅了】の状態異常になっているなら強制的に動かないとおかしいからだよ。【魅了】は<マスター>であっても身体の自由は奪われる……元々の効果は、相手の価値観を変えて味方にしてしまうことだからね」

 

 

 状態異常【魅了】。

 その効果は、相手の価値観を一時的にすり替え、自身を最上位とする、というもの。

 つまり自分にとって相手は都合の良いように動かすことができる、ということ。

 どれほど敵意を向けてきていた相手であろうが関係なく、相手自身が愛していた者を殺させることができる。そんな凶悪な状態異常。

 では、そんな状態異常に罹ってしまったアルベルトはなぜ動かないのか。なぜ【シング】にとって都合の良い行動を取らないのか。

 自殺、結界の破壊、【シング】の護衛。

 やろうと思えばいくらでもあるというのに、実際にやっていることは武器を構えたままでの静止。

 そのような奇妙なことになっている理由は───

 

 

『そもそも、いらないからか?』

 

 

 シュウがそう呟くのと、ほほ同時。

 

 ─────パキン

 

 そんな、ガラスが割れたような音が闘技場に響いた。

 それが結界が1つ目の破壊された音であることに瞬時に気付けたのは極少数。

 そして、即座に続く音に対応できた者は、一人もいなかった。

 

 パキン、パキン、パキン、パキン─────

 

 音が連鎖する。

 本来ならば強固であるはずの結界が、【大賢者】インテグラが増設した結界すらも紙のように破り去ってしまった。

 それを成したのは、推測するまでもない。

 アルベルトが動いていないのであれば、出来るのは一人……一体だけ。

 

 

『──♪』

 

 

 【龍寓歌媛 シング】の声が、響き渡る。

 彼女が結界を破壊したのだと理解するには充分過ぎた。

 だからこそ<超級>が、準<超級>が、それぞれ臨戦態勢を整えた。

 しかし臨戦態勢となりながら、攻めることはできなかった。

 なぜなら【シング】は神話級であり……そして彼女の近くには【魅了】された【殲滅王】がいる。

 もしもアルベルトの火力が結界の消えた闘技場で炸裂すれば……ギデオンは無事では済まない。どころか、地図から消えることもあり得る。

 そのため一種の硬直状態が作り出され……

 

 

「では、行ってきます」

『任せたクマ』

「ルーク!?」

 

 

 硬直を破ったのは、ルークだった。

 まるで予めそうすることを決めていたように、隣にいたシュウはルークを送り出しレイがそれを驚愕した様子で見ていた。

 【シング】の声が響く中で闘技場に降り立ったルークは声を発し続けている【シング】に、()()()()()()()()()()()()()()

 そして、<UBM>と対面したルークは、

 

 

「僕と話をしませんか?」

『(*´ω`)ウン』

 

 

 そう、言ってのけた。

 なお顔文字で即答されたルークは一瞬硬直した。

 

 

 

 

☆☆☆☆☆☆☆

 

 

 

 

 そうして。

 ルークは神話級……のさらに上の<イレギュラー>の<UBM>と対話を図り……結果。

 

 

『(*´༥`*)モグモグ』

「かわいい」

「おい正気に戻れ、アレは<UBM>だぞ」

「なんだぁてむぇ。ぶちころすぞ」

「可愛いの前では種族なんて障害にすらならない。中身が良ければなおさら」

「推せる」

「ちょっとお話に……ぐえ」

「馬鹿野郎抜け駆けしてんじゃねぇ!」

「シングちゃんぺろぺろ」

「お前レジェンダリア出身だろ」

 

 

 ギデオンに在住することになり、<マスター>たちの目を集めることとなった。今はケーキを美味しそうに頬張っている。

 なお若きギデオン伯爵の胃には穴が空いたそうな。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「なぁ、ルーク。なんで話をしようなんて思ったんだ?」

「そうですね、理由は幾つかあります。まず、【シング】には害意が見えなかった。やろうと思えばアルベルトさんを使って結界を破壊して大規模破壊をすることもできた。けど彼女はそれをしなかった。次に、レイさんの反応です」

「俺の?」

「だってレイさん、結界が破れても彼女に対して立ち向かおう、倒そうって気持ちがなかったですよね。」

「それは……言われてみれば、そうだな」

「だから僕はレイさんの感覚を信じることにしました。レイさんなら、きっと敵を間違えない」

「買い被り過ぎだよ。俺だって間違えることはあるし……」

「かもしれません。勿論それだけを当てにした訳ではないです。最後は証言がありましたので」

「証言?」

「───タルラーが、彼女の古い知己だそうです」

 

 

 




(◎n◎)<なんと生き残りました。

(◎n◎)<ルークとの会話でギデオンに一時的に在住することになったようです。

(◎n◎)<伯爵にも胃が空きましたが、これで一番頭を悩ませてるのは管理AI側です。

(◎n◎)<現状だと、王国サイドに<イレギュラー>が2体管理されてる状態ですからね。

(◎n◎)<ちなみに【龍寓歌媛 シング】の人間時代は丁度タルラーや【龍帝】の生きていた時代となります。六百歳は超えてますね。

(◎n◎)<つまりレベルも相当上がり続けてます。





(◎n◎)<更にちなむと、やろうと思えば闘技場にいる大半を皆殺しにしてギデオンを滅ぼせましたけど、そうしたら<超級>の誰かと相打ちでした。本人の気質的にやらないけど。
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定
▲ページの一番上に飛ぶ  X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。