それは、【剣神】の専属生産職チームである<MDQB>の四人がデンドロ旅行をしようと思い至ったことから始まった。
「せっかくですから行きましょう、旅行!」
「……賛成」
基本デンドロにログインしては装備やアイテムを作り、モンスターを倒し、素材を集め、素材を(有り余るほど貰っても)使い尽くし、スイーツを食べに行ったりする。
最初期から順調に仲を深めていた四人だが、流石にそれぞれの住む場所の違いから現実では会うことはできないため、オフ会などはしていない。
そこから連想して旅行に行こうと提案したのが魔天シャワー。デンドロでは旅行は初めてだった他三人も頷き、王国を暫く離れることになった。
これは、ギデオンで<フランクリン・ゲーム>が発生し、王都で発生した大規模テロの間に起こった出来事である。
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そうして旅行に勤しむ事となった<MDQB>の四人が来訪したのは、カルディナだった。
特に理由があるわけではない。
ただ過去にカルディナに属するクランから勧誘を受け、断ったことを思い出したために選ばれた。
あと、四人とも砂漠に行ったことがなかったということも理由になるだろう。
そんな四人は現在、
「大負けしました!」
「……こっちは儲けた」
「二人とも極端ですね……」
「こっちは勝ったり負けたりしてた」
賭博都市と呼ばれるカルディナの一都市、ヘルマイネの賭博施設で遊んでいた。
最初はただの観光だったのだが、四人は最初に観光に来たのがカルディナのこの都市だったため、それならばと遊んでいくことになった。
四人はそれぞれカジノに相応しい装いをして賭博を楽しんでいた。
魔天シャワーは普段は三つ編みでドーナツヘアーにしていた水色の髪を伸ばしてミディアムヘアーにし、黒いミニスカートドレスを。
Qは腰まで伸ばしていた金髪をハーフアップに仕上げて目元を隠していた髪を見えるように纏め、小さな体躯に見合わなさそうな淡いピンクのアワーグラスドレスを見事に着こなし見た目の年齢に不釣り合いなほどに『大人』を思わせる。
百々目は茶髪をシニヨンにしてエンパイアドレスを着込み、眼鏡は今回は外していた。なお蛇足だが胸部は豊かであった。
そして■■……ブックはと言えば。
「それにしても、ブック」
「はい?」
「とっても男装の麗人って感じ。似合ってる」
「……見事」
「かっこいいですよブックさん!」
「あ、ありがとうございます」
男装をしていた。
黒髪を後ろに束ね、黒のタキシードを着用している。
そして見事に美形の、女顔の男子に仕上がっていた。チラチラと女性の視線を集めるくらいには注目されていた。
何ならシャワーやQ、百々目も整った顔立ちをしているため注目が集まっていた。ブックは少し身を強張らせていたが、注目を集めることに慣れた様子の百々目とQは動じた様子はなかった。
なおシャワーはそもそも気にした様子もなかった。
一度はカジノ内で別れた四人だが、今はカジノで遊ぶためのお金を再分配するために集まっていた。
「……ひとまず山分け」
「はい! ありがとうございます! それじゃあ早速、ぅ?」
「シャワーはこっちで一緒にやろうね。ちょっと
「あはは……」
負けすぎなシャワーを見かねた百々目は彼女の腕を掴むと別の場所へ行こうと連れ出そうとした。
しかしその前に、四人に近づく者がいた。
近づいてきたのは女性だった。
赤い髪の一部に白銀のメッシュが入った、左右で異なる色を持つ女性。
左目は赤く、右目は白銀の瞳。
しかし見る者が見れば、白銀の瞳がただの目ではなく義眼の類いであると気付けるだろう。
その装いも下半身はホットパンツ、上半身はビキニのようなインナーの上にフライトジャケットを羽織って、スタイルのいい身体を惜しげもなく晒している。
そんな女性が四人に近づき、
「へいへいそこの美少女たち! ちょっとお姉さんといいこと、しない?」
「──帰れ」
「帰れ!?」
ナンパを仕掛けてきた女性を、Qが「帰れ」と一蹴した。
思わずギョッとしたブックと百々目。シャワーは百々目に腕を掴まれたままじっとしていた。
「ちょっ、せめて話だけでも、ねっ?」
「論外」
「ろ、論外……」
Qの罵倒に心にダイレクトアタックされ響いたのか、女性は頬を引き攣らせていた。
それを見ていた二人は口を開いた。
「あの、Q。流石に初対面の人にそれは……」
「話を聞くだけなら良いんじゃない?」
「良いこと言ってくれたねそこの二人! ハグしていい?」
「やったら蹴る」
「あっ、はーい」
Qの言葉に抱きしめようとした動きを止めた女性は、こほんと咳をつき、
「アタシは【
と、そう名乗った。
超級職。それだけでも十分すぎるほどのネームバリュー。それが真であるのなら目の色を変える者も少なくはないだろう。
が、Qの反応は冷淡だった。
「要件を十秒以内に言わないなら帰れ」
「十秒!?」
「……なんだかQがとても辛辣に見えます」
「見えるっていうか、明らかに辛辣。嫌いになる要素でもあったかな」
「んー……」
様子の違うQの反応にヒソヒソと話し合うブックと百々目。
それを他所に、シャワーは指でカメラの形を作ってAR・I・CAを見つめていた。
まるで何かを推し量るように、AR・I・CAを視界におさめていた。
「えー、じゃあここからは真面目な話ね」
「10、9、」
「本当に数え始めたっ!? ス、
「スカウト、ですか?」
AR・I・CAの言葉を聞き、<MDQB>のリーダーを務めているブックが話に入ってきた。
「そ。まぁ出来たらって話らしいんだけどね? うち……というかカルディナに鞍替えしないかって話」
「そう。断るから帰れ」
「アタシ、そんなに嫌われることした?」
「生理的に無理」
「ううっ、アタシのハートが粉々になりそう……」
ここまで罵倒された経験はなかったらしいAR・I・CAは落ち込んだ様子で沈み込んでいた。
「あの、申し出は嬉しいのですが、私たちは王国からは出ません」
「えー、そう? カルディナはお金とか欲しいものならいくらでもあげれるよ?」
「確かに、お金は色んなモノを買えますけど、私たちはそこまで困っているわけではなくて……それに、これはお金の問題ではありませんから」
そこまで答えたチラリとブックの視線は三人に向いていた。
百々目はブックが言うまでもなく頷く。
Qもまた同じように頷きながら、AR・I・CAに向けて人差し指と親指で丸を作っていた。
未だに手でカメラを作りAR・I・CAを見ていたシャワーは、こちらを見ていることに気付くとにぱーと笑った。
「あー、これは駄目そう。じゃあ仕方ないから真面目な話は終わりだね」
「え、その……いいんですか?」
「話が終わったならむぐぐ」
出来たらで良いとは聞いていたが、あまりにもあっさりと引いたAR・I・CAに困惑した様子を見せるブック。Qは早くどこかに行ってほしいために帰らせようと口を開くもブックの手で押さえられていた。
「良いよ? アタシとしても絶対にやらなくちゃいけないことじゃないし、言っちゃあなんだけどついでだからね。さて、そんなことよりも♪」
「え、えっ、あの、」
AR・I・CAはブックに近づき、その手を取る。
左右異なる瞳が輝き、ブックだけでなく百々目やシャワーにも向けられていた。
「君、男装してるよね。その姿、とっても似合ってる。どうかな、連絡先でも交換してアタシと良いことしない? そっちのお嬢さん方も一緒に!」
「勝手にうちのパーティメンバーを喰おうとするな殺すぞ」
もはやQは殺意すら浮かべて睨みつけていた。
怒りや殺意を見せたことのないQの初めての姿に百々目が驚く中、ここまで観察に徹していたシャワーが動き、AR・I・CAの手を
「私たちは(多分)異性が好きなので! ご遠慮願います!」
「今括弧入れなかった?」
「気の所為ですよー?」
「嘘つけー」
やんわりと手を離したブックの姿を見たシャワーはAR・I・CAを掴んでいた手をすぐに離し、そのまま百々目とのじゃれ合いを始めた。
AR・I・CAは、掴まれた手を静かに見つめていた。
先程までとは様子の異なる姿を見せた彼女。
睨んでいたQや見つめていたブックはその異変に気付いたが、すぐさま表情をニッコリとしたものへと変えた。
「おっと、そろそらアタシも予定があるんだった。名残惜しいけど今日はここまで。それではお嬢さん方、また会える日を楽しみにしてるね!」
「二度とその面見せるな」
去っていくAR・I・CAを睨むQは、最後まで罵倒をやめることはなかった。
「あの、それでなんであんなに嫌ってたんですか?」
「……全てが合わないし、嫌い」
「あっ、元に戻りましたね!」
「こっちのほうが良いよ。頭撫でてあげる」
「……むん」
「お待たせ~。ユーちゃん聞いてよー。あそこにいるお嬢さんたちを口説こうとしてたんだけど、初手から嫌われてさぁ。他のお嬢さんにしようかと思ったんだけどガードが固くてね?」
「無理強いはしないんじゃなかったんですか」
「いやしてないよ? でも嫌われてる娘はともかく他はいけそうかなって。でも断られちゃった」
「あいかわらずのへんたい」
「そうそう、こんな感じでキューちゃんよりもツンツン、というかトゲトゲしてる娘だった。かなり可愛かったし、お持ち帰りしたかったけど……本当に残念」
「きもちわるいからやめて」
「師匠……」
「……ま、市長の言った通り、面白い子たちだったかな。
「師匠? 何か、」
「いーや? なんてもないよー」
☆☆☆☆☆☆☆
─────最初は、このような些細な繋がり。
しかしこの細い繋がりはすぐに、太く絡み合っていくこととなる。
(◎n◎)<Qは経験からAR・I・CAの本性を見抜いて『こいつ嫌い』となった。
(◎n◎)<シャワーが見つめていたのは『相手の眼をどうやって潜り抜けるか』を探るためでした。
(◎n◎)<
(◎n◎)<AR・I・CAの議長から頼まれた<MDQB>へのスカウトには優先順位がありました。
(◎n◎)<一番良いのはパーティごと。最悪できなくても