─────対処で精一杯。
それが、今の現状だと言えた。
地面を転がりながらグラムを振るい、奴の鎧の表面しか傷つけられない。しかもゆっくりと修復される。
転がった勢いを利用して立ち上がり走り出すと、後ろを空間を裂く攻撃が通る。
掠めることはあるが、致命傷は避けている。
奴を相手にした場合、【だぶるかのん】の防御力は意味を成さない。
既に装備を変えて一度だけ自壊を代償に致死を回避できる【れいやー・ますくど】を装備している。
そしてスキルを指定し封印する代わりに他のスキルを一つだけ強化する【戒律輪 シャツァン】を使い、使わないスキルを全て封印して《剣強化》を強化し倍率を上げる。
そのため今の俺の攻撃力は十五万オーバーとなり、射程もそれだけ伸びている。そこにMPやSPも加えればもっと上がるだろう。
それでも、足りない。
鎧は貫けないし、下の肉体にも届かない。
編み出したスキルを使えば、確実に奴の命を断つ事が出来る確信はある。
だが……だが、だ。
それをするには俺のスピードが、AGIが足りていない。
確実に命に届くと思ったところで振るっても、相手が速すぎて避けられてしまう。
推測するに、奴のAGIは優に七万を超えている。それ以上のことは正直わからない。STRもENDも不明だ。少なくとも俺のAGIとは比べ物にならないほどに差がある。
そして何より、チャンスが一度しかない。他の自前の武器では自壊させても届かない可能性がある。グラムで斬るしかない。
だから今は、なんとか防ぎ逸らし避けるしか手がない。
……一応、対処法は二つほど考えついてはいる。一つはタイミングが重要で、損なえば死ぬ賭け。もう一つは奴のMPやSPの使い方を見れば自然と学べたが、しかし俺がそれを自身の中で練り上げ、確固たるものとするには時間が足りない。
『ふっ』
短く息を吐き出し、僅かな小休憩を挟んで再び移動を再開。攻防を続ける。
兎に角、今は時間を稼ぐ他ない。
チャンスが来るのを待つためと、あとは俺が
こいつを殺すまでに俺が生きていられるのかは賭けだが………………………?
いや待て、
それなら……うん。
『やってみるか』
☆☆☆☆☆☆☆
『……手強い』
ソレは、呟くように唸った。
ステータスは圧倒的に自身が勝っている。
強度を高め、鎧となった■■■はもはや絶対防御で、壁を容易く斬り裂いた剣も、表面を傷つけるに留まっている。
ソレからすればそれだけでも賞賛に値することだが、それを目の前の人間が知ることはない。
油断はしない。慢心もしない。
だからこそ、
『(わかるのだ。奴はこちらに刃を届かせる手段を有しているのだと)』
至近距離にまで詰めれば、容易く目の前の敵を倒せるかもしれない。
速さの違いは圧倒的であり、避けられるよりも先に仕留められる。避けられても後の先を取れる。
だがそれは、きっと自身の命と引き換えになることだとソレは直感していた。
故に踏み込めない。自身が誇る防御は、最早絶対的なものではなくなっていた。
中距離からの爪状の刃を放ち、少しずつ削っていく。
相手の攻撃もこちらに届くが、それでも完全に突破できるほど強くはない。
そしてこの距離であれば、何かしようとしても一息に詰めることができ、なおかつ相手からの攻撃を回避することもできる。
それはわかっているが、もどかしさを覚えていた。
『(……動くか)』
ソレの心の機敏をわかっていたわけではないだろうが、相手が動く。
最初の亀の姿からモノクロの丸い人型としか言えない姿に変えていた相手は、自ら距離を詰めてくる。
このままでは削りきられると認識したのか。
ソレにとっては都合が悪く、ある意味では都合が良い。
時間をかけての決着よりも、早期の短期決戦はソレの気性に合う。
久しく忘れていた戦闘の高揚感。
ソレは、動いた。
爪を振るい、刃が飛ぶ。
相手はそれを逸らしながら直撃を避け……続く第二撃も、前に飛びこむことで避けた。
バキン、と。何かが砕け散る音が響く。
『まずは一つ』
ソレは、人間がダメージを置換し致命傷を防ぐアクセサリーがあることを知っていた。
だから必ず一度は致命傷を防いでくると想定して戦っていた。
相手を致命傷に追い込んだのは第二撃に重なるようにして隠した刃。
少し遅れて向かった刃が、その体を両断したのだ。
人間は、しかし足を止めない。
ソレもまた、距離を稼ぐことはしない。
真っ向から迎え撃とうとした。
両者はほぼ同時に、互いの刃を放つ。
ソレは避けずに受け止めて鎧に傷が残り、人間は片腕を失いながら避けた。
人間のバランスが、僅かに崩れる。
それを■は見逃さなかった。
『見事』
ただ一言。
呟き……ソレは身体を回転させて尾を振るい。
人間の頭ごと、首を刎ね潰した。
確実に死んだ─────それを確信したソレは、気を緩める。
自身の絶対を壊されるという新鮮な体験をし、自身にはまだ成長の余地があるのだと考える余裕すら見せ、
「《
背後からソレの鎧は斬り裂かれ、砕け散った。
『!??』
斬られた。
誰に……いや誰なのかなど分かりきっている。
問題なのは、どうやって生き残ったのか。
いや今はそちらよりも─────
考えるよりも先に、ソレは自身の周囲を壁で押し潰そうと─────した。
しかし、使えなかった。
壁は発生しないし、そもそもMPとSPが動かない。
まるで行き先を見失ったかのように。
さらには自身が身に纏っていた鎧すら塵のように解けていき、ソレの姿を完全に現していた。
『は……』
驚愕。それしかなかった。
どうやって生き残ったのか。どうしてスキルが使えないのか。
考えても答えは出ず、ソレは考えるのを一旦止めて後ろへ振り返った。自身の鎧を斬り裂き、あまつさえスキルも封じた相手を。
もしもソレがウィンドウを見て、自身のスキルを確認することができたのならば、スキルは今頃こうなっていたことだろう。
《■■/
■》。
まるで
そして、今のソレに、悠長に確認している時間などない。
振り向いた先にいた相手は、既に着ぐるみを着てはいなかった。
茶髪に碧眼の人間の男。
装備も大して着けておらず、片手に剣を持ち、振り抜いた体勢。その剣も……彼のエンブリオであるそれも、罅割れて砕け散った。
これで彼の手は尽きたのか─────否。
そんなわけが、ない。
壊れた剣から手を離し、既に彼の片方の手に刀が握られていた。
重厚な紫黒の刀身。
本命の、第二撃。
『ォ、ォォォォ!!』
初めて、ソレは吠えた。
刀を振られる前に、目の前にいる敵を今度こそ殺すために。
自身の防御が崩され隙がある今が、一番死に近いが故に。
超音速の爪撃を、振り抜いた。
そして、相手は避けようとしたのだろう。こちらに向かって飛び込んでこようとして、
上半身と下半身が分かれ、上半身は空を舞う。
相手のHPを超過する攻撃を繰り出し、身体は両断された。
もはや死ぬことは確定している。
それでもなお刀を手に持ち、離す気配はない。
ソレは今度こそ目線を外すことなく、相手の死を見届ける。
もう復活してこないか。3度目がないとは限らない。
ソレはそう考えた。
そして復活してきたとしても、すぐさま殺せるように身構えた。
彼にはもう、ダメージを防いだり復活したりするアイテムやスキル、装備はない。
今の彼に使えて、しかもソレに対して有効であるのは─────【
その効果はHPが0になっても行動可能にすることと、自身のHPが0になった時、対象を指定して与えるダメージを2倍にする。
彼は既に、死んでも殺すことを前提に作戦を組んでいた。
「《
空を上半身だけで舞いながら、彼はソレの首に向けて突きを放った。
《
変化は一瞬。
ソレは驚く時間を与えられることなく、動けない彼ごと極小に圧縮された超重力の引力に飲み込まれ─────両者は黒玉と共に消え去った。
【<UBM>【断竜王 ドラグウォール】が討伐されました】
【MVPを選出します】
【【オールドポンド】がMVPに選出されました】
【【オールドポンド】にMVP特典【断遮理 ドラグウォール】を贈与します】
勝者を告げる、アナウンスだけを残して。
《
オールドポンドが開発した奥義。自壊を条件に剣の性能を大幅に強化する。
名前は酷く安直なものだが、グラムという自身のエンブリオと同じ名前をつけたのは……如何なる理由だろうか。
《???》
オールドポンドが開発した奥義。パッシブスキル。【断竜王】の防御を突破できたのはこれが一番の理由。本命は【■神】。
【重星玉刀 クレーター・フォール】
古代伝説級特典武具。
スキルは《
【戒律輪 シャツァン】による《剣強化》のバフ、さらに《
【死兵】【決死隊】
『なんか面白そうだから就いてみたガメー。あと、死んでも殺すって時にあったら便利だなと思ったから』
グラムの必殺スキル
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我が剣に曇りなし
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剣一つあれば良い
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神剣
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一剣万象
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剣の理
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全なる一刀
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そんなものはない