<SUBM>へと進化し名を変えた【零落破器】と、ジョブというシナジーの片割れを失い、それでもなお自前の技量と超級武具で互角に近い戦いを繰り広げるオールドポンド。
それを見ている者がいた。
「……してやられたな」
一見して成人男性のようにも見える者。
しかし身体の各所が異形で構成されており、皮膚の一部が竜の鱗、獣の革となっており、頭部には悪魔のような角が生えている。あとメガネもかけているのが人間的要素だった。
その男の名前は管理AI4号、ジャバウォック。
<UBM>のデザイン・認定や討伐された<UBM>の情報確認を行っている彼は、今まさにオールドポンドと【零落破器】の戦いを見ていた。
その顔は、とても苦々しい。
まるで『こんなはずではなかった』と言わんばかりで、事実それは正しい。
ジャバウォックの想定ではこうなるはずではなかったのだから。
遠い昔。
かつてジャバウォックは、<SUBM>として認定する前の【ロスト・システム】……いいや、【ユナイト・ゼロ】と接触して捕獲しようと試みた。
その時の【ユナイト・ゼロ】は、微かだが自我を残していた。
【ユナイト・ゼロ】とジャバウォックは対面し……ジャバウォックと契約を交わした。
ジャバウォックは【ユナイト・ゼロ】を<SUBM>として<マスター>のいる時代に投入するため。
【ユナイト・ゼロ】はとある存在との融合と、それまでの生存のため。
そして回収された【ユナイト・ゼロ】は……<Infinite Dendrogram>がゲームとして開始された
とある存在との融合を行い、問題がなければそのまま再回収される……そういう手筈だった。が、問題が起こった。
とある存在……カバネが<UBM>と化し、即座に討伐されてしまったことだ。
これにより当初はカバネの魂が眠る場所を目指していた【ユナイト・ゼロ】はカバネを倒した<マスター>の元へ向かうことへと目標の変更を余儀なくされた。
契約の範疇であったため再回収もできず、<SUBM>である【ユナイト・ゼロ】が放置されるという事態となってしまい、今日まで回収するのが不可能だった。
脅威からの逃走、見つけた
だがついに戦争期間中に王国へと到達し……あろうことかジャバウォックの想定外にもカバネとの融合を行った。これには彼も驚愕し、さらにはまた新たな<SUBM>として新生した【零落破器】には二重に驚いた。
ジャバウォックとしては精々がオールドポンドとの戦闘になるのだろうという考えしかなかった。そのためカバネと融合を行い、あろうことか特典武具であるカバネと自身を融合させて解放するなど、想定しようがない。
同時に、もう既に介入が不可能となっていることもジャバウォックは理解していた。
オールドポンドと戦闘を行っているから、というだけではない。
「……主導権が【ロスト・システム】に移っている。これでは【ユナイト・ゼロ】との契約は履行できない。これを想定して私と契約を結んだのか」
既に【ユナイト・ゼロ】は【零落破器】へと変化している。
融合した【ユナイト・ゼロ】は消滅し、【零落破器】へと変わった。
これはつまり、かの<SUBM >は【ユナイト・ゼロ】ではない、ということ。
もう管理AIが直接干渉する以外に、【零落破器】を止める手段はない。
「【ロスト・システム】の能力は……ふむ、なるほど。対【剣神】を想定してスキルを構築したのか」
ジャバウォックは気を取り直して【零落破器】のスキルを確認していた。
元より最初に【ユナイト・ゼロ】を放置する事態になった時点で半ば諦めていたのだから、これ以上落ち込む必要もない。
むしろ場合によっては【零落破器】がオールドポンドに勝利し、<マスター>の<超級進化>を誘発してくれる可能性があった。
もしそうなれば……誰もこの【零落破器】に
あまりに特化した……しかしだからこそ、この世界を生きる人間範疇生物では勝負にすらならない。
可能性があるのはモンスターか、あるいは異邦人たる<マスター>だけだろう。
【零落破器 ロスト・システム】は……ある意味では【三極竜 グローリア】と同等以上に<マスター>の試練として完成されている<SUBM>であると、ジャバウォックは確信していた。
☆☆☆☆☆☆☆
─────現在のカバネの能力を整理しよう。
まずジョブの機能停止。これは透明な結界のようなものがあり、その範囲内にいるからジョブが機能停止してステータスもスキルも失われている。
恐らく遠距離から攻撃しようとしてもスキルの補正が消えてなくなり、攻撃が無力化されるだろう。
次に吸収能力。これは前から持っていたスキルだ。恐らく吸収速度もこれまでと変わりない。こちらは斬って無力化したから考えなくていい。
そしてスキルコピー。ジョブと<エンブリオ>、両方のスキルをコピーしてストックする。こっちも前と変わりない。現在ストックしてるのは、ジョブが【機皇】、【機械王】、【盗賊王】、【剣神】。
<エンブリオ>は、【喰王】、【盗賊王】、そして【女教皇】と“不屈”。
コピーしてるのはそれぞれスキル一つずつであり、ストックできるのは装備の分も含めて四つまで。
ジョブは【剣神】の《断刻》以外はスルーしていい。
問題となるのは【盗賊王】と“不屈”を除いた<エンブリオ>の方だ。
【喰王】コピー、《渇きの刃》。SPを消費して攻撃命中時に物理・斬撃への耐性を50%下げる。
【女教皇】コピー、《除算結界》。MPを継続消費して10秒ごとに範囲内にいる者に判定を発生させ、ランダムにステータスを除算する。倍率も、どのステータスが何個下がるのかもランダムだ。
【盗賊王】は風で身を隠すスキルだし、“不屈”は与えられた統合ダメージを触れた相手に何倍にもして跳ね返すスキル。今は気にしなくていい。
まぁ正直な所、これだけならカバネのステータスが上がっていても対処できる。
少し面倒にしているのが、カバネが保有している機械刀だった。
名称は不明だが、その能力は対象を指定して保有している武器と同等の攻撃力と強度を得るというもの。
なのでグラムでも斬れなかった。俺もMPやMPから変換したSPを使って壊そうとしているが、カバネもまたスキルで耐性を下げられるしMPやSPも豊富にあって、それで機械刀を強化している。
だから、壊そうとしても壊せない。
おかげでカバネを斬り崩せない。
それにカバネには《竜王気》もある。俺も使えるが、最悪はカバネの《神装》を想定しなくてはならない。
総じてやりにくい相手、という印象だが────まぁ、なんだ。
そろそろ、
☆☆☆☆☆☆☆
正直に言うと、もっと早く終わるものだと思い込んでいた。
ステータスがない、スキルがない、HPもMPもSPもない。
ジョブを封じた今、勝つ要素は微塵もありはしない。
─────そう思い込んでいた。
だけど実際は違う。
「……っ!」
激しく斬り結ぶ。
装備を変えた彼は、かつて倒した……と言って良いのか迷うけど、ともかく手に入れた超級武具を内蔵した着ぐるみを装備して応戦している。
その手に持つ剣は、金とも銀とも取れる色合いをした無骨な剣、【質実剛剣 グラム】。
ただ攻撃力が高く、強度が高いだけの剣。
必殺スキルだってない。他の固有スキルさえも有していない。
だから、総合的な攻撃力で上回り、耐性を下げるスキルをこちらが保持している以上はあっさりと折れるものだと思っていた。
けどそれを超級武具で溜め込んだ莫大なMPで補い、時にはSPに変換して相殺している。
ステータスを高め、武器を強化し、拮抗している。
いや、むしろ、
「ぁっ」
打ち合う刀を潜り抜け、肩を斬られた。
再生は、出来ない。治らない。少なくともこの傷は戻らない。
だが動かないほどではない。
まだ戦える。
スキルもリソースも万全。
それでも……
一太刀交わす度に読まれる。太刀筋を、動きを、思考を、視られる。
速いのはこっちなのに、技が全てを無為にする。
長引けばこちらが殺られるのだと理解させられる。
以前もそうだった。
どんどん有利になっていくのはこっちなのに、それでも凌駕してくる。
全てを斬り伏せてくる。
たった一つの剣さえあれば良いと、そう言わんばかりに。
わかってる。このままじゃ負ける。
だったら迷うことはない。
技で駄目なら、
速度そのものはこちらが速い。だから距離は離す。
既に《竜王気》は体内で練り上げている。
殺すのも、妨害するのも、今の状態じゃ間に合わない。
これは絶対に当たる。
「《死神装》」
既に完成させていて、でもお披露目して驚かせようと思って隠していた《神装》を解放する。
わかりやすく言えば───そう。
「《弔鐘死《剣神装・一統凌断》屍》」
《竜王気》で瞬時に創り上げたはずの、死を届ける鐘。
それが斬られた。
───斬られてるけど、それだけじゃない。
私の身体も、真っ二つだ。
それだけなら、死ぬはずもないんだけど。
HPはあんまり減ってる分も含めても1000万は残ってたけど……今は空っぽだ。
死ぬみたい。
《一統凌断》で斬られたから当然だけど。
……あーあ。
「ねぇ、なんで邪魔してたのに出来たの?」
『慣れたからな』
「……ふふ、すごいなぁ」
途中、《吸神権能》は斬られた。けどなんとか戦闘中に修復して、吸うのを【グレイテスト・コア】に集中してた。吸われるのが自分のHPやMPじゃないから放っておいたみたい。
それでも吸われてるせいでいつもよりも扱い難かったはずなのになぁ。
「流石、私の旦那様」
『誰が旦那様だ』
「じゃあ、ご主人様?」
『それも違う』
「ワガママ」
『どっちが……はぁ』
楽しいな。
今は死んでないけど、なんとか死んでいくのをリソースを掻き集めて遅くしているだけ。
何もしなくても、もう死ぬ。でもあと数分くらいは保つかな。
今のうちに、聞いておきたいことは聞いておこう。
「ねぇ」
『今度はなんだ?』
「【断竜王】を呼ばなかったのは、なんで?」
呼ぶ隙はあった。
【断竜王】には私の《絶職界》は通じない。
呼べば私には隙が出来たし、もっと楽に倒せたはず。
そんな疑問が浮かんで、だから聞いてみた。
『ここには、お前と俺しかいない』
「うん」
『つまり二人きり……あーいや、戦闘中に他の奴らを巻きこんだ感じはするけど……ともかく、二人だけでの戦いだったわけだ』
「うんうん」
『……他の奴を呼ぶのは、無粋だと思ったんだよ』
「───うふ」
『笑うな』
無茶を言わないでほしい。
これを喜ばないなんて、無理だ。
本当にズルい。好き。結婚する。
絶対、特典武具に戻っても意識を残す。
諦めない。
うん、決まった。
だから、もういいかな。
「じゃあね」
『ああ。……またな』
そんな言葉を聞いて。
私はリソースの制御を手放し……この身をリソースへと溶かした。
【<SUBM>【零落破器 ロスト・システム】が討伐されました】
【MVPを選出します】
【【オールドポンド】がMVPに選出されました】
【【オールドポンド】に【零姫死屍 ロスト・システム】を贈与します】
【零落破器】
(◎n◎)<オールドポンドじゃなければ苦戦するどころじゃありませんでした。
(◎n◎)<まずジョブの機能を停止する《絶職界》を展開することでステータスやジョブスキルが失われます。
(◎n◎)<つまり装備や特典武具、<エンブリオ>だけでの戦闘を余儀なくされるわけです。
(◎n◎)<さらにはその状態で【零落破器】は高ステータス、豊富なスキルを保持した状態で戦闘を行うわけです。
(◎n◎)<さらには奥の手の《神装》もあるわけで……まぁ死にます。
(◎n◎)<仮に先々代【龍帝】や【覇王】が相手になっても……少なくとも【龍帝】なら初見殺しで確実に死にます。
(◎n◎)<ジョブの機能停止となると【龍帝】が一時的に失われるのと等しいので、システム的に死ぬ、という感じで。
《弔鐘死屍》
(◎n◎)<全部死ね。
(◎n◎)<この言葉に偽りはありません。
(◎n◎)<見境なく死にます。
《剣神装・一統凌断》
(◎n◎)<一つにまとめて斬り捨てる。
(◎n◎)<スキル、HPやMP、他多数のあらゆる要素を一つに統合、その一つとなったモノを斬ることで全てを終わらせる。
(◎n◎)<あと副次効果として攻撃力が十倍以上に跳ね上がる。
誰の話が見たいですか?
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<MDQB>の誰か
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幕間の誰か