凍える猛攻を掻い潜る。
触れたら必死の雪結晶の刃。
氷の城から放たれる氷の槍や、ゴーレムによる物量攻め。
【凍竜王】の数々の猛攻を避ける、戦闘を成り立たせる三者。
一人、<超級>【
一体、神話級<UBM>【磨刃超獣 キル・キル・バ】。【凍竜王】の激しい攻撃によりその命を確実に削られつつある。
そして、最後の一体。
蒼い髪が風を切り、白い肌に迫り射出される氷の武器の数々を避け、避けきれないものは赤いシールドを展開して回避までの時間を作る。
彼女もまた、この一定以上の強者を選別する空間内で生存を可能とする<UBM>。
額から一対の蒼角を生やした人に似た、人ならざるモンスター。
銘を【報復蒼鬼 シーラハリティ】。
逸話級の<UBM>であり……【群狼王 ロボータ】に従うモンスターの一体。
それ故に逸話級でありながら、【シーラハリティ】……部下Aと呼ばれる彼女は神話級と対等に戦えるだけの力を得ていた。
STR、END、AGIがそれぞれ一万オーバーと、前衛系超級職を上回るステータスを獲得している【シーラハリティ】。
しかし、それだけではあまりにも足りていなかった。
この三者の中で一番低いステータス。それだけでは共闘相手であるオーを含めるとはいえ【凍竜王】と対等以上に渡り合うことは困難だ。
だから必然、三つのステータス以外の強みが彼女にはある。
まず、HP。
【ロボータ】の固有スキル、《王の群れ》の効果により全ステータスは十倍化。
そのため【シーラハリティ】のHPは
さらにはMPやSPも、HPほどではないが後衛系超級職に匹敵する数値にまで強化されている。
HPという質量を強化された【シーラハリティ】は、しぶとさに於いては三者の中で一番だった。
次に固有スキル。
彼女が憧憬を思い出し、試行錯誤を続けて修練の末に会得したスキルが<UBM>の固有スキルとして成立していた。
《命煉換鬼》、《鬼瘴讐盾》、そして《罰鬼報撃》の三つ。
《命煉換鬼》はHPを消費して《罰鬼報撃》と《鬼瘴讐盾》の発動に必要なダメージカウントに変換する。
《鬼瘴讐盾》は蓄積されたダメージカウントを消費して消費した分のダメージまで吸収して防ぐ。
《罰鬼報撃》はMPとSPを消費して発動。触れた対象にダメージカウントを消費し、その数値の三倍の固定ダメージを与える。
現状、【凍竜王】との戦闘を行っている【シーラハリティ】に必要なスキルは《鬼瘴讐盾》。
少なくとも《渦静銀雅》の極限冷気による耐性や無効化を貫通する攻撃による致命傷は防げる。
耐性や無効化を貫通できようと、ダメージ量が変わるわけではない。
だからこそダメージを吸収する《鬼瘴讐盾》で防ぐことができる。
【シーラハリティ】は《鬼瘴讐盾》のシールドを適切必要な場所、相手に張って三者の消耗を防いでいた。
【キル・キル・バ】の延命にもなるし、オーの回避の時間を作り出すことにも貢献していた。
だから、この場で今一番の猛攻を受けているのは【シーラハリティ】だった。
「……っ!」
(なんて物量……! 警鐘が鳴り続けて、気を抜いたらすぐに死ぬ……っ)
命の警鐘……彼女がそう称する、常に生死の境にいたことで培った死への超直感がなければ、ステータスで劣る彼女はすぐにやられていてもおかしくはなかった。
【キル・キル・バ】の命は削れてきており、【シーラハリティ】のシールドがあろうとそう長い時間をかけることなく死に至る。
オーこそ切り札を隠しているようだが、それを踏まえて【凍竜王】はオーが近づけられないように釘付けにしている。
【シーラハリティ】が参戦したことで一気に安定した場を崩すために、【凍竜王】の物量が彼女を襲う。
カウントを消費してシールドを継続的に展開し、【キル・キル・バ】やオー、そして自身を守りながら致命傷を避けてカウントを継続して溜め込んでいく。
《王の群れ》に含まれる《自動修復》がなければ、あるいは【凍竜王】の領域による継続ダメージがなければ、すぐに破綻していたことだろう。
だが、この状況を維持し続けることは遅かろうと死に至る道にしかならない。この場にいる三者のうちの誰かが欠ける前に、勝負に決めに行く必要があった。
【シーラハリティ】がそう考えていた時、状況が動く。
しかし動いたのはこの場ではなく、遠くで戦っている巨竜の方だった。
「っ、これ」
(気配が大きく……あっちは一号とボスがいるけど、信じて任せるしかない。こっちは、どうやって相手のところまで手を届かせるか考えないと……)
巨竜の崩壊。それと同時に高まるプレッシャー。
あちらの敵も切り札を出したのだと理解し、仲間の安否が気になる。しかしかと言って、こちらを放っておくわけにもいかない。
あるいは一か八か───そう考えていた時、警鐘が鳴り響く。
脳内に聞こえた時には既にその場から動き出し、突然せり出してきたトラバサミに似た氷像を避ける。
しかし、避けれたのは【シーラハリティ】だけだった。
『一人逃したが、ようやく掛かったか』
「くっ……!」
オーと【キル・キル・バ】、両者の足がトラバサミに挟まれていた。
そこに迫る《渦静銀雅》を前に時間を稼ごうと《鬼瘴讐盾》を展開して置こうとし、それを邪魔するように氷像が、氷の武器が、【シーラハリティ】を遮り、射出される。
オーは、彼の挟まれた足を
しかし【キル・キル・バ】は挟まれた足を噛み切ろうとして、迫った《渦静銀雅》による刃の回避に遅れた。
結果、【キル・キル・バ】の首は胴体と別れた。
そしてその巨大は光の塵となり消滅した。
(【キル・キル・バ】がやられたっ。【凍竜王】がレベルアップ、を……え?)
【キル・キル・バ】のフォローに回れず倒されてしまったことを悔い、より強大になってしまったはずの相手を見据え……視界の端に、奇妙なものを見た。
それは、その場にあってはならないもののはずだった。
(【キル・キル・バ】の……
それは、二振りの刃に見えた。
本来は【キル・キル・バ】の犬歯であったもの。
それが凍土に落ちていて……まだ
黒紫のオーラを纏い、確かな存在感がある。
オーと【凍竜王】は……気付いていない。
遠くで起こった出来事、大きくなったプレッシャーが消えたことに気を逸らしていた。
何より【キル・キル・バ】が死んだのだと両者は思っていると、短い間に【シーラハリティ】は理解した。
理解して、駆けた。
足場のようにして展開した《鬼瘴讐盾》を蹴り砕き、飛び跳ねながら、【凍竜王】のコアへ迫る。
それに気付いた【凍竜王】も迫ってくる【シーラハリティ】へと対応しようとして……彼女が囮であったことに気付けず、対応が遅れた。
『『!』』
瞬間、二つの刃がオーと【凍竜王】の元へ
【キル・キル・バ】の刃……いいや、本体であった刃が全てを切り裂こうと向かう。
オーは姿を変えて防御を試みて。
【凍竜王】は《渦静銀雅》と《晶永冷瓏》で撃ち落とそうとして……それを幾重にも展開された《鬼瘴讐盾》によって阻まれた。
「お返し」
先ほど【キル・キル・バ】を守ろうとした際に阻まれたことへの意趣返しのように展開されたシールドは、【凍竜王】からの攻撃から【キル・キル・バ】の刃を守り───
そのコアに突き立てられ、【キル・キル・バ】の固有スキルである《致命創》がコアを真っ二つに亀裂を走らせ、両断した。
それを確かに見届けた【シーラハリティ】は安堵に息を吐き、気を緩めかけ……即座に
向かうのは、真っ二つにされた【凍竜王】のコア。
(終わってない! 中にまだ……っ!)
それは、自身の命の警鐘が未だに響いていたから得られた確信。
今、恐らく最も無防備な状態の【凍竜王】へと迫り……まるで閉じ込めようとするように発生した氷柱を避けた。
「―――面白い。外気を浴びるのはどれほどぶりか」
聞こえた声は、聞き覚えのあるようで聞き慣れないものだった。しかしそれが誰の者であるのかなど、考えるまでもない。
【凍竜王】。それが真の力を開放した瞬間だった。
コアというカバーが外れ、本来の力を直接振るえる様になった【凍竜王】は先程よりも強い。
(まだ上があるなんて……ここからどうやって近づけば、……?)
レベルアップは防げたが、より強力となった【凍竜王】を相手にどう勝つのかを考え……近づいてくる気配に気付いた。
そしてそれが、自身のよく知る者であることも。
『《
『──横から失礼』
オーが何らかの札を切ろうとしたのと、ほぼ同時。
燃え盛る金と紅の体毛の人狼……【ロボータ】の部下一号である【烈火迅狼 バーストライカ】が、超音速で飛来して【凍竜王】を蹴りつけた。
(一号……! 来てくれた!)
【キル・キル・バ】という戦力が減り、それに匹敵する戦力の味方が戦場に参戦した。
しかも、【バーストライカ】が強くなっていることも感じ取れる。ステータスはかつて以上に高まっている。
しかし【凍竜王】は【バーストライカ】の攻撃を先読みして氷の壁を挟んで威力を軽減し、最も硬いコアで受け止められた。
そして即座の反撃で数十枚もの《渦静銀雅》が迫り、オーと【シーラハリティ】、【バーストライカ】は回避に移った。
途中、【バーストライカ】とオーが会話を交わしたのが見えた【シーラハリティ】は仲介はいらないと判断して改めて戦況を確認する。
(これで戦況は五分……ううん、少しずつあちらに傾く。これ以上の手はないと嬉しいけど、楽観視は出来ない)
長期戦になれば不利になるのはこちら。
命尽きる前に相手に致命傷を与えなくてはならず……そのためには、ここにいる三者では接近が大前提。
誰か一人でいい。至近距離まで接近し、一撃を当てる。恐らくそれで決着は付く。
そのための道筋、作戦を【シーラハリティ】は脳内で思案し───
『A!』
【バーストライカ】の声が届く。
短い言葉、されど意味は伝わる。
攻めろ。そう言っているのだと察した。
彼女はそれまで組み立てようとしていた作戦、道筋の全てを捨て去り、駆けた。
同時に目の前から迫る《渦静銀雅》という断頭台の刃。
命の警鐘は未だに脳内に鳴り響き、『避けろ』と命じてくる。
しかし彼女は避けなかった。
仲間を信じた。
その結果、
───傷一つ負うことなく、突破した。
命の警鐘は、【シーラハリティ】の脳内から静寂という形で消え去っていた。
どうしてだとか、今は考えない。
「───行くよ」
輝けるオーラを、まるで祝福のように纏いながら。
あらゆる防御の一切を捨てた特攻を、【シーラハリティ】は実行する。
瞬間、【凍竜王】を中心に赤いシールドが位置もバラバラに、無数に囲うように展開される。
それを足場に【シーラハリティ】は跳び回る。
三次元を乱反射するように跳ね回り、【凍竜王】に触れようと手を伸ばし、氷の壁に拒まれようともそれすら足場にして動くのをやめない。
攻撃をして殺そうとしても、出来ない。
何故なら今の彼女は
【シーラハリティ】が参戦しなかった戦闘、古代伝説級という格上との戦闘に勝利した【群狼王 ロボータ】は新たにランクアップして古代伝説級となり進化し、銘を【群狼大王 ロボータ】と改めた。
そして進化により得た新たなスキルが《群狼総進撃》。
───【ロボータ】の配下たちを、三分間無敵化させる。
これの恩恵を受けた【シーラハリティ】は死ぬことなく相手に致命を与えるための猛攻を仕掛け続けることができ……当然ながら、無敵となっているのは【シーラハリティ】だけではない。
今この領域には【バーストライカ】という配下がいて……さらには【バーストライカ】が連れてきたロボータ・ファミリーが攻め込んで来ていた。
【凍竜王】は強大だが、その思考リソースにも限界がある。
触れられれば致命となる札を持つ【シーラハリティ】に、直撃すれば同様に致命となる【バーストライカ】が、無敵となって攻めてくる。さらにはロボータ・ファミリーという無数の死なない敵もいて、【凍竜王】の思考リソースは大幅に削られている。
───それを見逃す
『───《
<超級エンブリオ>の切り札、必殺スキルを切った。
姿を変え、見る者の正気を失わせるような冒涜的な姿となった今のオーは、この場にいる誰よりも高いステータスを誇る。
【バーストライカ】よりも速く、【凍竜王】の先読みすら上回る速度とダメージにして三十万近い威力の攻撃。
「捕まえ、た!」
「ッ!」
【シーラハリティ】の手が、【凍竜王】のコアへと触れた。
対応が遅れた【凍竜王】では【シーラハリティ】の接近を阻めず、
「《罰鬼報撃》!」
固定ダメージによる消滅が、コアの割れた
次の瞬間には《晶永冷瓏》による氷柱で突き飛ばされ距離を離してしまったが、何も問題はない。
出来た隙を、【バーストライカ】とオーが攻める。
噛撃で中にいた本体を狙い体勢を崩し、オーが血の鎖で本体をコアから引きずり出した。
【シーラハリティ】は空中で体勢を整え、着地時に凍土を削りながら衝撃を殺すと即座に駆け出そうとして……近くに落ちていたある物を見つけ、それを拾い上げてから【凍竜王】との戦闘を再開しようと……したところで、こっちに向かってきた【バーストライカ】の肩に担がれ、その場を離脱されていく。
「一号?」
『そろそろボスのスキルが切れます。あとはあちらに任せて撤退しますよ』
「……そっか、そういう。うん、わかった」
見れば他のファミリーたちも無敵化が切れる前に急いで山を下っていた。
【シーラハリティ】も自分で走ろうかとも思ったが、全力で走っている【バーストライカ】の方が速いため、彼女は担がれたままとなる。
そして、今も自身の手の中にある
(……今は、危険はなさそう。最悪砕けばいいかな)
そう考えた。
■□
そうして山を降りてから、僅か。
<スリーブ山>と呼ばれる、文字通りの意味で神話級の争いが起こった山は、爆発した末に青い氷像となった。
それを成したのが一時は協力した<マスター>と、命を奪う争いをした【凍竜王】と察した【シーラハリティ】は、アレに巻き込まれずに済んだことにホッとしたのだった。
なおあとで合流した【ロボータ】はわしゃわしゃした。
【報復蒼鬼 シーラハリティ】
(◎n◎)<ざっくり言うと<UBM>版ネメシス。
(◎n◎)<汎用性ではこっちが勝るけど、消費はこっちのほうが高め。
(◎n◎)<ステータスはHPやMPなどに特化。バフも込みで四桁万まで行った。
(◎n◎)<あと、ちょっとした拾いものをした。暫くは自分のメインウェポンとして扱うつもり。
【ガルドランダ】
(◎n◎)<この場にはいないけど、ビビッときた
【???????】
(◎n◎)<拾った。
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