最高傑作を退学に出来るわけないじゃん、ムリムリ!(※ムリじゃなかった!?) 作:三次創作()
四月十八日、深夜。
俺は一夏から作戦が失敗したとの連絡を受けていた。まず起きたことを説明するなら、つい一時間ほど前、綾小路・堀北・須藤・宝泉・七瀬が接触したらしい。そこで、宝泉が一年生寮の裏手で喧嘩を吹っ掛けたという話だ。結果、まず宝泉が須藤をノックアウトし、堀北を仕留めようとしたところで七瀬が仲裁。その後、一夏が渡したペティナイフで綾小路に刺傷を与えるように見せかけ自身の身体を傷付ける作戦を実行。結果、綾小路がそれを掌で受け止めることで制止、そして弱みを握られた。
いくら綾小路の指紋が付いているからと言っても、刺したのは宝泉。普通に考えれば、言うことを聞かざるを得ない状況だ。結果、恐らくだが2-Dと1-Dの対等な協力関係、それに加えて綾小路から宝泉へパートナー結成の打診があったと見てるらしい。遠くから盗み見ていたため詳しいことは不明だと言っているけど、ほぼ確定だな。
「─────良かったの? 大分まずいように見えるけど」
「…………考えうる最悪のシナリオだ」
「でも、綾斗ならそれに備えて手は打ってる、でしょ?」
「─────ああ。あくまで考えられる範囲での最悪。対処は可能だ」
「どうするの?」
「宝泉と接触する。詳しいことは全てが確定したあと話す」
「分かった。任せたよ」
「ああ。任された」
想定の範囲内での最悪ならば、手は打てる。一番恐れるべきだったのは最高傑作にしか切れない手札を切られ、俺が対処できない事態にまで一気に進められること。
だけど、アイツが宝泉とパートナーを組んだ時点で、最初から俺の計画通り。あとはアイツを納得させさえすれば、綾小路に切れるカードは残っていない。大丈夫だ、行ける。
「──────ええ。ですから、本気で彼を追い込みたいなら、彼女を利用してみるのもまた一興かと」
「…………感謝します。これで、計画の成功率は99%から100%になった。例の件、根回し頼みますよ」
「ええ。任されました」
翌日。
「──────宝泉。少し良いか?」
「ああ? てめぇは確か…………」
「真弓綾斗。同じクラスでしょ?」
「俺に何の用だ? パートナーの件なら今朝話したろ」
「そうじゃない。俺が話したいのは…………
四月十八日。試験の内容が明かされてから一週間が経過した日。今朝、宝泉から2-Dと正式に組むことになった旨が宣告された。まだパートナーが決まってない者は、先輩方と組むことになるらしい。そんな話を差し置いて、俺は宝泉に話しかけている。俺がそんなことを口にすれば、宝泉は目の色を変えた。
「…………廊下で良いか」
「勿論。構わない」
「ついてこい」
宝泉とパートナー。つまり、綾小路清隆についての話があると俺が遠回しに彼に伝えた。彼も、俺が裏で動いている綾小路清隆退学特別試験について知っていると勘づいたのか、すぐに話は決まった。
「──────それで、なんでてめぇがそんなこと知ってる」
「無駄な話は嫌いだから、先に本題を伝える。今回の試験、0点を獲れ」
場所を変えて廊下の隅。誰も寄り付かないような場所で、俺は宝泉と二人で向かい合っている。この男は意外と頭が冴える、だから本題から話した方がいいと判断したわけだ。
「馬鹿言ってんじゃねぇ。手抜いたら退学だぞ? 俺が決めるなら兎も角、なんでお前に決められないと行けねぇんだ。ふざけんじゃねぇ」
「話は最後まで聞きなよ。誰も、お前を退学にするなんて言ってない。これを見ろ」
俺は宝泉に見せつけるように、スマホの画面を翳す。そこに表示されているのは、2105万プライベートポイント。これが何を意味するのかは、説明するまでもない。
「…………どうやって手に入れた」
「企業秘密」
「もし俺が0点を獲っても、その2000万で救うってのか? 俺にメリットがねぇよ」
「0点を獲るならボーナスで50万ポイントやる。三か月間で本来損する額は多く見積もっても約24万、倍以上の大高値だ」
「…………どうせ知ってんだろうが、俺には刺した事実がある。訴えられればアイツの退学もなしになるかもしれねぇ」
「そっちにも根回しは済んでる」
「負けるぞ」
「勘違いするな。お前は裁判に勝つわけでもないし、負けるわけでもない。そもそも
そう。去年1-Dが起こした須藤健の暴力事件も、生徒会主催で裁判が行われたというのは重要じゃない。大事なのは『被告側に明確な証拠』があったから、裁判が起きたという点。そしてそれは、生徒会ではなく学校側が正当性を確認し、しっかりとした証拠となる場合のみ裁判が行われる。つまり、
「起きねぇって………」
「それ含め、契約書で誓える。どうだ? お前にメリットもあるし、デメリットは存在しない。強いて言うなら2-Dに多少恨まれることになるけど、そういうの気にするタイプじゃないだろ?」
「…………一つ聞かせろ。なんで、お前はアイツを退学にしようとしてる?裏で動いてるアレを、七瀬からでも聞いたのか? アイツは、無駄に他言するようには見えなかったが」
「いや、俺は少し訳アリでな。完全に私怨で動くつもりだった。けど、理事長に協力を持ち掛けられてな。報酬は出ないが、代わりに裏で動いてる奴の名前を把握してた」
当然、宝泉に本当のことを言うことはない。というか、彼に限ってではなく、これからも俺たちは嘘を吐き続けるのだろう。それは保身の為でもあるし、余計な人間を巻き込まないためでもある。善意と言えるほど、綺麗な感情じゃないけど。
「そうか。…………分かった。契約書を持ってこい、読んでからもう一度判断してやる」
「オーケー。ありがと」
「利害の一致、そんだけだ」
俺は宝泉との会話を終わらせる。反応からして、恐らくだがもうアイツはこっちに傾いてる。メリットを提示し、デメリットを無くしたんだから当然か。ただ、ここからもう一仕事あるのが面倒だ。まあ、これも綾小路篤臣との約束を果たすためには仕方ない。
全ては、俺たちのために──────
「──────というわけだ。だから、口裏を合わせてくれ」
「…………どういうことですか。何故あなたがそのことを?」
「そんなことは今関係ない。それに、理事長から聞いてる。綾小路を、恨んでるんだろ?」
時は放課後。俺は七瀬翼と相対している。目的は当然、計画の支障にならないように釘を刺すために他ならない。彼女のことは断片的だけど月城から聞いてる。綾小路に、私怨を抱いてるらしい。どうでもいいけど、それも利用するだけだ。
「手段も過程も関係ない。最終的に目的を果たせれば俺はそれでいい。もし計画の邪魔をするなら、七瀬には数日間眠ってもらうことになる」
「話し方すら偽装だったんですね。ですが、私にデメリットはない…………」
「そういうことだ。全部こっちで片付けてやるから、黙って見てればいい。それで最後に、学校を去っていく綾小路に『全部私がやりました』とでも言って鬱憤を晴らす、どうだ?」
「私は…………彼の仇をこの手で取るためにここに入学しました。それなのに、退学だけで…………」
「退学だけじゃない。アイツは、ここを退学になれば一生人として扱われなくなる。ただのロボットと同じだ。言うなれば生き地獄。誰かは聞かないが、それだけでも充分、アイツに苦しみを与えることは出来る」
「確かに、あの人も同じようなことを言っていましたね。本当に、私が宝泉くんと口裏を合わせたら、彼を退学に出来るんですね?」
「ああ。約束する」
「なら、私は──────」
その後、俺は宝泉・七瀬の協力を取り付けることに成功した。代わりに得たポイントはほぼ全て誰かの手に渡ってしまったが、それでも得たものは大きい。試験の日が待ち遠しいな。
「──────そういうわけだ」
「凄いね。二日目で既に生徒会長を脅してたなんて」
「俺の考えた作戦には、多額のポイントが必須だったからな。一番持ってそうなヤツに目をつけただけだ」
「でも、これで…………」
「ああ。そうだな。これで…………
俺は軽く息を吸う。直面している現実が、どこまでも信じられないものだから。ずっと、夢見ていたもの。ずっと、欲しかったもの。それが今、手の中にある。
──────俺たちは、正真正銘の自由を手に入れた」