またしても何も知らない狩人さん〜異能バトルよりパンチラが危ない〜   作:概ね右翼

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今日がバレンタインデーである事を書いてから気づきました。


第九話 みんなと一緒に入部しないと視線が気まずい

【黒鉄視点】特影学園保健室

 

「なぁ白石〜」

「…………………………なんだ」

「腹が減ったんだが」

「食事なら目の前にあるだろ」

「お前本当に医者か?」

「研究職だ」

「ならオレの現状把握しているよなァ?」

「…………」

「どう食えってんだよ!!」

 

 相も変わらず愛想の無ェヤツだな。

 現状のオレは両腕に固定具とギブス。全身が包帯まみれで自分ながら実に痛々しい。普通はこんなか弱ェ姿したオレを丁重に扱うべきだろ。

 

 白石の野郎は──いや、女だから「野郎」はおかしいか? 

 ……まぁいい。白石は白石だ。

 

 そいつは保健室の隅で、平然と分厚い本を読んでいやがる。何だよ「三体」って……三体なのに二巻なのか……二体と一体どこいった? 

 

「はぁ……そもそも私は別にお前の面倒を見る立場じゃ無いんだが……」

「ならナースなり何なり呼べばいいだろ」

「ここが病院ならな……」

 

 ベッド、カーテン、消毒液の匂い。どう見ても病室だろうが。

 

「違う。ここは“学園の保健室”だ」

「細けェこと気にすんなって」

 

 白石は本から目を離さず、ため息だけを寄越す。

 

「お前の我儘で、何故か私は学園の保健室で治療する羽目になっている。その時点で十分おかしいと思わないのか」

「思わねェな」

「即答か……」

 

 ページをめくる音がやけにうるさい。

 

「普通なら、完治するまで大人しくしていろと言いたいところだ」

「言ってるじゃねェか」

「“言いたい”だけだ。お前のことだ、どうせ聞かんだろ」

 

 その通り。よく分かってんじゃねェか。

 

「だってよォ」

 オレは天井を見ながら言った。

「学校に来ねェと、Xに会えねェだろ」

「…………今は狩人だ」

 

 一瞬、ページをめくる手が止まった。

 

「それにだ」

「雨宮も入部するなら、部長直々に歓迎してやろうと思ってな」

「お前はそんな理由で学園に来たのか」

「当然だろ」

 

 白石は本を閉じ、ようやくこちらを見る。

 

「……本当に、理解に苦しむ」

「褒め言葉として受け取っとく」

「褒めていない」

 

 白石は立ち上がり、ベットのそばに近寄ってきた。オレは目の前に出された食事に視線を落とした。

 

「……でだ」

「何だ」

「マジでこれ、どう食えばいいんだ?」

「……」

 

 白石は顎に手を当てながら「お前なら口でいけると思ってたんだが」とかふざけたこと言い出しやがった。

 

「犬かオレは」

 

 白石がまたため息を吐いて箸を持ち上げた。

 

「仕方ない」

「お?」

「今回だけだぞ」

「マジか」

「しかし……条件付きだ」

 

 何故こうもコイツは無償奉仕を嫌うのか。

 

「大人しく食べろ。無駄口を叩くな。そして──」

 

 白石はオレをじっと見下ろした。

 

「次に無茶をしたら、今度こそ病院送りにする」

「……善処はする」

「約束しろ」

「…………努力はする」

 

 白石は小さく舌打ちして、何も言わずに箸を進めた。

 

 ——————

 

 雨宮・狩人 学園生活二日目

 

 雨宮は貴方に紹介したい人物がいるそうだ。

 いやはや実に素晴らしい。かの古都では対人関係といったものが実に希薄で、貴方の対人能力(戦闘)は高くとも対人能力(交流)は年相応どころか、幼児以下と評されても致し方ない。

 

 それゆえ、この申し出は実に好機である。

 

 廊下を歩く。

 昼下がりの学園は静かだ。窓から射し込む光が長い影を床に落とし、白い壁をやわらかく照らしている。最新式と謳われる校舎も、日常の光景に溶け込めばただの建築物にすぎない。

 

「ここです」

 

 雨宮が立ち止まり、控えめに扉を叩く。

 貴方は存外、わくわくしている。未知との邂逅。戦場ではなく、平時の接触。

 

 扉が開く。

 

 個室の空気はわずかに淀んでいた。

 窓は閉じられ、机と椅子が整然と並ぶ。資料の匂い、インクの匂い。人の生活の匂い。

 

 中には二人の少女。

 

 視線が貴方に向けられる。

 

 警戒。

 怯え。

 それでも、逃げずに立つ姿勢。

 

 実に健全だ。

 

 だが、貴方は彼女らに見覚えがあった。どこで出会ったのかは思い出せない。記憶の奥に引っかかる、砂粒のような違和。とりあえず部屋の奥へ進む。靴音が小さく響く。少女たちの肩がわずかに強張る。

 

 近づく。

 

 まじまじと視線を向ける。

 

「っ……」

 

 片方が息を呑む。

 

「ヒッ」

 

 もう一人は小さく悲鳴をあげた。

 

 貴方は遠眼鏡を取り出す*1

 レンズ越しに拡大された顔。瞳孔の震え、頬の強張り、呼吸の浅さ。細部まで観察するが、やはり思い出せない。

 

「……狩人さん、紹介しますので一旦離れてください」

 

 背後の雨宮の声は実に能天気だ。

 

 貴方は一歩引く。

 

「おほん! では、紹介しますね。こちらは鷹見沙織先輩と矢井千尋ちゃんです!」

 

 ポニーテールの少女がぎこちなく会釈する。

 

「よ、よろしくたのむ」

 

 眼鏡の少女は声が裏返った。

 

「ご、ごごご無沙汰しています!」

 

 名前を聞いても思い当たる節はない。

 しかし貴方も礼を返す。狩人の礼。形式的で、無駄のない所作。

 

「えーと、こちらのお二人と狩人さんは、あの施設以来ですね!」

 

 その瞬間。

 

 ガン*2「っ!」

 

 鈍い音。

 

 杖が壁に打ち込まれる。

 

 乾いた石膏がひび割れ、白い粉塵が舞う。

 

 ああ、なるほど。

 

 ついに貴方は思い出した。

 

 そうだそうだ。

 

 こちらの世界へ赴いた際、最初に敵対した二人。

 

 ポニーテールの少女──鷹見沙織。

 

 敵対者であれば話は早いと思い、顔面を目掛けて杖を突き刺した。

 しかし回避された。

 

 路地裏での戦闘でもそうだ。まるで未来を読んでいるかのような狙撃。そういう能力だろうか。

 

 厄介だが、身体能力以上の回避は不可能。

 

 いくら初撃を避けられようと、彼女は今、腰を抜かしている。

 

 尻餅をつき、小刻みに震えている。

 

 次を外す道理はない。

 

 壁から杖を引き抜く。

 石片が床に落ちる。乾いた音。

 

 空気が裂ける。

 

 踏み込む。

 

「やめてください!」

 

 貴方の視界に雨宮が飛び込んできた。

 

 彼女は両腕を広げ、貴方と鷹見の間に立ちはだかったのだ。

 

 生死のかかった静止。笑える。

 

 ほんの数センチ。

 杖の先端が彼女の制服に触れる寸前で止まる。

 

 部屋は静まり返る。

 誰も呼吸をしていない。

 

「狩人さん安心してください! お二人は狩人さんを攻撃しません!」

 

 なるほど。

 

 確かに、貴方と敵対した者の中には、友達だと言ってくるハゲ頭のクモがいた気がする。報復の際に唐突に友情を宣言してきた、あの奇妙な節足生物。理屈は最後まで理解できなかったが、結果として敵ではなくなった。

 

 今回も、その部類だろう。

 

 出鼻を挫かれはした。しかし、よくよく考えれば──これは吉兆なのではないか。

 

 視線を巡らせる。

 

 目の前には少女が二人。

 そして貴方を体を張って静止したのも少女。

 

 部屋は密室。

 窓から差し込む午後の光が、三人の輪郭を淡く縁取っている。

 壁に穿たれた穴から零れ落ちた石膏の粉が、まだ空気中に漂い、きらきらと光を反射していた。先ほどまでの殺意の余韻が、白い粒子となって宙に残っている。

 

 これは。

 

 あるのではないか。

 

 貴方の、ハーレムの可能性。

 

 少女に囲まれ、少女に止められ、少女に見つめられる。

 夜では得られなかった布陣。

 

 そう考えれば、悪い気はしてこない。

 むしろ、非常に前向きな状況である。

 

 というわけで、貴方は矛(杖)を収めた。

 

 杖の石突きが床に静かに触れる。

 戦意は解除。

 敵対条件は未成立。

 

 驚かせてしまった鷹見沙織に、貴方は謝罪した。

 

「あ、ああ……」

 

 鷹見沙織は未だ状況を処理しきれていない様子で、口を半開きにしている。

 呆然としたその表情も、よく見れば整った顔立ちだ。怯えが抜けきらぬ瞳が、光を受けて揺れている。

 

 可愛らしい。

 

「か、狩人さん、ありがとうございます! ……やっぱり私達は心が繋がってるんですね!」

 

 雨宮が安堵と謎理論を同時に放つ。

 その頬はほのかに紅潮し、先ほどまでの緊張を無理やり笑顔に変換している。声が少し裏返っているのもご愛嬌だ。

 

「ひぃー……し、死ぬかと思いました……星空さんは何言ってるんですか?」

 

 矢井千尋は壁際に寄りかかりながら、心底疲れた声を漏らす。

 

 そして、床に座り込んだままの鷹見が、小さく息を整える。

 

「よく考えれば……最初に路地裏で君に攻撃したのは私だ」

 

 声はまだ震えているが、目は逸らさない。怯えと、責任と、わずかな意地。

 

「まぁ……今回はお互い様ということにしよう」

 

 そこで一度、視線を落とす。

 

「……すまないが狩人、立たせてくれないか……腰が抜けてしまってな……」

 

 実に正直である。

 

 貴方は杖を脇に立てかけ、片手を差しだす。

 

 鷹見沙織がその手を取る。

 

 人生で初めて、貴方は女の子と手を繋いだ。

 その事実に貴方は心臓がバクバクである。やはり少女の手は良い。手袋越しであっても、確かに柔らかい。細い指が、ぎこちなく、しかし確かに貴方の手を掴んでいる。

 

「……ありがとう」

 

 小さく、しかしはっきりと告げられる感謝。実に今更だが、このように感謝を述べられるのも存外良い気分だ。

 

「ふぅ、一時期はどうなるかと思いましたが、これで皆仲直りできたので、狩人さんも部員ですね!」

 

 雨宮が両手を合わせて満足げに言う。

 まるで一件落着とでも言いたげだ。

 

 部室の空気は、先ほどまでの殺意が嘘のように緩んでいる。

 

 実に波乱に満ちた、穏やかな始まりである。

 

 ——————

 

 白石はカルテを閉じ、椅子を引いた。

「少し席を外す」

「おう、ついでに午後茶でも買ってきてくれ」

「黙れ病人」

「けち」

 

 廊下に出ると、少し雑に扉を閉じた。夕刻前の校舎は静まり返っている。放課後前の中途半端な時間で、部活動の声もまだ上がらず、人影はない。古びた蛍光灯の白い光だけがやけに冷たく、足音が規則正しく響いた。

 

 迷いのない足取りで廊下を進み、やがて使われていない旧資料室の前で立ち止まる。周囲を一瞥し、人の気配がないことを確認すると旧資料室の中に入り鍵を閉める。白石はポケットから小型端末を取り出した。短い操作ののち、通信を開始する。

 

 数秒後、回線が繋がった。

「報告します」

 

 その声は、温度を排した事務的な音だった。

『聞いている』

 

 低く抑揚のない声が返る。白石は視線を落としたまま続けた。

「対象との接触を確認。初動は鷹見、矢井の両名にて対応。状況の悪化により、雨宮が介入。戦闘は発生しましたが長期化は回避。最終的に対象は戦闘行為を停止しました」

 

『理由は』

 

「不明。ただし、自発的な停止に近い。外的要因による制圧ではありません。現時点では敵対意思は低下しており、監視段階へ移行可能と判断します」

 

『了承した』

 

 わずかな間を置き、白石は言葉を選ぶ。

「一点、補足を」

 

『言え』

 

「黒鉄を今回の接触に同行させなかった件についてです。現場判断ではなく、指示通りに行動しましたが、理由の確認を求めます」

 

 短い沈黙が流れる。

『損耗許容範囲の問題だ。鷹見と矢井は代替可能だが、黒鉄は違う。お前もだ』

 

 淡々とした声が続いた。

『今回の検証は未知の要素を含む。失敗すれば戦闘へ移行する可能性が高かった。重症の黒鉄を投入する合理性はない。お前は非戦闘員であり、同時に代替困難な研究職でもある。失うには価値が高い。被害を最小化する。それだけだ』

 

 合理的で、正しい判断だった。白石自身でも同じ結論に至るだろう。

「……了解しました」

 

『他に』

 

「ありません」

 

『次の段階へ移行する。準備を進めろ』

 

 通信はそこで切れた。静寂が戻る。白石はしばらくその場に立ち尽くしていたが、やがて端末をしまう。

 

「変えが効く、か……」

 

 ──チッ。

 

 短い舌打ちだけが、旧資料室に残った。

 

 表情を整え、歩き出す。足取りは先ほどと変わらない。保健室の前で一度だけ呼吸を整え、何事もなかったように扉を開けた。

「戻ったぞ」

「お、午後茶は?」

「売り切れだ」

「嘘つけ」

「病人は黙って寝てろ」

*1
人の顔は望遠鏡で確認するのがマナー

*2
ヤーナム野郎あるある




意外と戦闘シーンって需要あるのですね。アンケートして良かったです。
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