またしても何も知らない狩人さん〜異能バトルよりパンチラが危ない〜   作:概ね右翼

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いえーい私復活ー。

雨宮と狩人

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第十一話 学園は襲撃されてなんぼ

 本日もまた、普段と変わらず朝日が昇る。

 

 一切の誤差なく東から昇るその現象は、深夜徘徊癖のある貴方にとって、実にありがたいものだった。

 

 貴方の狩りは、決して一定の範囲に収まるものではない。

 獣を求めて歩き続け、気づけば見知らぬ場所へと辿り着く。帰還という行為そのものが、最も難易度の高い工程となる。

 

 ──つまり、迷子である。

 

 だが、朝日があれば話は別だ。

 

 義務教育をまともに修めていない貴方であっても、太陽さえ認識できれば問題ない。方角など感覚で理解できる。

(月は信用していない)

 

 その結果、夜に徘徊し、日が昇れば帰る──そんな単純明快なルーティンが形成されていた。

 

 実に、充実した日々である。

 

 そんな貴方をよそに、特影学園は今日も変わらず始業する。

 

 ──はずだった。

 

 だが、今朝に限っては、空気の奥底にわずかな緊張が混じっていた。

 

 誰もそれを言葉にしない。

 だが確かに、何かが“ずれている”。

 

 原因は明白。

 

 黒鉄誠。療養のため、欠席。

 

 特影における“最大戦力”の不在。

 

 無論、黒鉄一人で戦闘のすべてを担っているわけではない。

 むしろその異能の性質上、都市内部では使用制限が多く、前線に立つ機会は少ない。

 

 だが──

 

 それでもなお、彼女は「いるだけで意味を持つ存在」だった。

 

 彼女の異能、“磁力”。

 

 その本質は単なる金属操作ではない。

 圧倒的な出力と干渉範囲により、近代兵器の体系そのものを無効化する。

 

 銃火器、通信、輸送、制御系統。

 あらゆる文明の利器は、彼女の前では“機能しない物体”へと成り下がる。

 

 戦うまでもなく、「手を出せない状況」を作り出す力。

 

 国家規模ですら抑止する、いわば“政治的な暴力”。

 

 だからこそ。

 

 彼女が“いない”という事実そのものが、均衡を崩す。

 

 都市の外に出たわけではない。

 しかし、有事の際に即応できないというだけで、防衛の意味合いは大きく変質する。

 

 そして──

 

 もう一つ。

 

 “ミライ”の動作不良。

 

 観測系の中核を担うソレは、特影の“目”そのものと言ってもいい。

 

 それが、沈黙している。

 

 貴方を観測しようと異能が処理落ちした彼女、特影はまだ原因を特定できていない。

 

 “見えない”。

 

 未来も、異常も、兆候も。

 

 何も、捉えられていない。

 

 敵を“見る目”と、敵を“止める力”。

 

 その両方が、同時に欠けている。

 

 すなわち現在の特影は──

 

 “防衛”と“観測”。

 

 その二つを同時に失った状態にあった。

 

 ————————————

 

 ピリリリリ! ピリリリリ! 

 

「っふが!」

 

 うおはようぃ……あまみぃやですぅ。まじ眠すぎて雨宮deathってね! ハハハハ! 

 本当はもっと寝ていたいのに……ミオちゃんの目覚ましが早すぎて起きちゃいました。

 

「あら、ソラも起きたのね。おはよう」

 

「ふぁ〜あ。おはようミオちゃん……ちょっと早くありやせん?」

 

「何その口調……普通よ普通。ソラが毎晩夜更かししてるからでしょう」

 

「グウ」

 

「ぐうの音は出るのね」

 

 だってー。毎晩狩人さんと添い寝するために待ってるのに、狩人さんが全く寝に来てくれないんですよ……

 そういえば、狩人さんは寮にほとんど帰ってきませんけど、普段、何しているのですかね? 

 

 は! まさか……

 狩人さん、夜の街、何も起きないはずもなく…………

 

※雨宮の想像

 

 ダン。

 

「……」

 

 夜の街角。

 狩人さんが壁に手をつき、女性に迫る。

 

「あら、素敵な方。ふふ、初対面なのに随分熱心じゃない」

 

「…………」

 

「あら……私、これから狩られちゃう? がおー」

 

 ギシ……ギシ……

 

「ふふ。獣に負ける気分はどう?」

 

「……っ……っ♡」

 

「可愛らしい声……もっと聞かせて……」

 

 ギシ……ギシ……

 

「あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛脳が破壊される音ぉ」ベットゴロゴロ

 

「あんた情緒どうなってのよ……普通に怖いんだけど

 ほら、ソラ。早く準備しないと全校集会に間に合わないわよ」

 

「うううう……ミオママぁ〜」

 

 ああ、ミオちゃんにバブみが……あったかくて気持ちい…………でもやっぱ胸がなぁ。

 

「くっつくな! 涙で服が汚れ——ぎゃ! ソ、ソラ鼻水まで出てるじゃない! さっさと離れろ!」

 

「ぎゃー! 引っ叩きやがった! 親にしかぶたれたことがないのに!」

 

「普通は『親にもぶたれたことがないのに』でしょ! それじゃただの虐待クソ親じゃない!」

 

「可愛いパンツ履いているクセにツッコミが鋭い! 一緒に芸人でも目指す?」

 

「目指さない! あと、私のパンツは関係ないでしょ!」

 

 コンコン「あ、あのー、廊下まで響いてます……」

 

 朝っぱらからミオちゃんとイチャイチャ(いや、別に私はミオちゃんとイチャイチャしたいわけではなく、本当は狩人さんとイチャイチャしたいしチュッチュしたい。ついでにアンアンさせたい)していたら、ドアから千尋ちゃんの声が! 

 

「もうソラのせいで注意されたじゃない!」

 

「おはよう千尋ちゃん! 千尋ちゃんも一緒に行こう!」

 

「ふぇ? 、は、はい」

 

「無視しないでよ! あとスカート履きなさい!」

 

 —————————

 

「ふあぁぁぁ……ミオちゃんも一緒に登校できたらよかったのに……」

 

 朝の空気はまだ冷たくて、あくびと一緒に白い息がふわっと漏れる。

 眠気と寒さで、脳の回転数はだいぶ低めだ。

 

「し、仕方ないですよ……し、白峰さんは委員会の仕事がありますし……」

 

「むぅ……真面目だなぁミオちゃんは……」

 

 ミオちゃんは今朝、委員会の集まりがあるとかで先に行ってしまった。

 それでも、ギリギリまで私たちと一緒にいてくれたのだから、本当に優しいやつである。

 

 ……いやほんと、あいつツンツンしてるくせに、根はめちゃくちゃいい子だよね。

 

「あれ? そう言えばミオちゃんって、なんの委員会に所属してるの?」

 

「わ、わからないです……わ、私もあまり白峰さんとは話したことなかったので……」

 

「千尋ちゃんぼっちだもんね」

 

「うぐ……」

 

 しまった、軽い気持ちで刺してしまった。

 

 千尋ちゃんがしょんぼりしている。

 うわぁ罪悪感! でも可愛い! 守りたい! 

 

「だ、大丈夫だよ千尋ちゃん! 私がいるから!」

 

 フォローのつもりで距離を詰める。

 

 というかこれはチャンスでは? 

 

 落ち込んでる→慰める→自然な流れで密着

 これはもう抱きしめても合法では? 

 

 よし。

 

 れっつ! ハグ!! 

 

 ———ぐぎゃ! 

 

「うおぉぉおおお……首がぁ……喉がぁぁ……!」

 

 急に、襟元がギュッと締まった。

 

 ぐ、苦じい……

 

「おい、危ないぞ雨宮」

 

 背後から低い声。

 

 い、いつの間に……!? 

 そしてこの落ち着いたハスキーなボイスは——

 

「おはようございます! 沙織先輩!」

 

 勢いよく振り向く。

 

 そこには、いつもよりなんか疲れ気味な表情の沙織先輩。

 

「お、おはよう雨宮。元気そうでよかった」

 

「はい元気です! さっき死にかけましたけど!」

 

「それは……すまない」

 

「お、おはようございます鷹見先輩……ソ、ソラさんは、大丈夫なんですか……?」

 

 千尋ちゃんが心配そうにこちらを見る。ああ、なんて健気……守りたいこの笑顔。

 

「だ、大丈夫大丈夫! 首がちょっと締まっただけだから」

 

 いや全然大丈夫じゃない気もするけど……

 

「さっきはなんで首を絞めたんですか? あ、いや別に責めているわけじゃありませんから!」

 

「ん? ああ、そういえば雨宮はまだ知らなかったな。矢井の異能は雨宮も知っての通り刃物生成だ」

 

「はい」

 

「しかし制御が甘い。不意に近づかれると自動的に反応して“刺す”。今の距離なら普通に串刺しだったな」

 

 いや怖。え、何? 私今死にかけたのか。ていうか冷静に考えたらここにいる人全員、普通に人殺せるのでは? コワ。

 

 つまりは沙織先輩は私の命の恩人……一生ついていきます姉御。

 

「ご、ごめんなさいソラさん……私が未熟なばっかりに……」

 

「いや千尋ちゃんは悪くないよ! ソーシャルディスタンスを心得なかった私が悪いよ!」

 

「今回は私が先に勘づいたからよかったが、下手をすれば命に関わる。雨宮も、癖をすぐに直せとは言わないが、ここでは行動の一つが今まで以上に危険を伴うと頭に入れておけ。矢井も同じだ。私や黒鉄先輩はともかく、雨宮は生身の人間だ。制御の練習は今まで以上に必要になる」

 

「はーい」「わ、わかりました」

 

 やっぱ姉御はすげぇや。本当に私たちと一歳しか変わらないのが信じられない。本当は10歳ぐらい年上なのでは? このしっかりとした「大人」って感じが憧れるわぁ。私も大人のレディを目指して狩人さんを悩殺できるように頑張ろ! 

 

「そう言えば、沙織先輩は大丈夫なんですか? 何か寝不足って感じですが」

 

「雨宮は話題をコロコロ変えるな……」

 

 そう言いながら沙織先輩は肩にかけていた銃を手に持った。

 

 ……え? 

 

「すみません先輩、もう二度と話題変えませんから! 許してください!」

 

 ぎゃー撃たれる!! 

 

 バン!! 

 

 うおおお、発砲音で鼓膜に大ダメージ……私死んだ……あれ「い、生きてる」

 

 目を開けてみたら沙織先輩は、明後日の方向に向けて銃を撃っていた。

 

「ソ、ソラさん、大丈夫ですよ……よくあることですから……」

 

 いや“よくあること”って何!? 怖すぎるんだけど! 

 

「えー……沙織先輩……どこ撃ってるんすか」

 

「ああ、実は今朝から私の直感が鳴り止まなくてな。先のように1キロほど先に影化者を感知して鎮圧するために発砲した……今日だけですでに5件目だ」

 

 すっげー沙織先輩パネェ……いや、違う。それはおかしい。

 

「な、何か嫌な予感がします……」

 

「こんなことは初めてだ」

 

 その一言で、空気がわずかに重くなった。

 

 —————————

 

 周囲一帯。

 民家は倒壊し、コケやシダが壁を侵食するように覆っている。

 

 崩れた屋根の隙間からは木々が突き出し、床を突き破った根が、かつての生活空間を無遠慮に分断していた。

 風が吹くたび、乾いた建材が軋み、どこかで何かが崩れる音がする。

 

 ──自然に敗北した町。

 

 ここは非異能力者の居住区、“一般区”。

 

 その中でも、影化者に対抗する術を持たなかった者たちが追われ、消えた区域。

 

 通称、“(もぬけ)”。

 

 人が世界に敗れた場所だ。

 

 本来ならば、誰も立ち入らない。

 いや、立ち入れないはずの場所。

 

 だが──

 

 その死んだはずの町に、一箇所だけ灯りがあった。

 

 他の民家より一回り大きい建物。

 朽ちかけてはいるが、構造は比較的保たれている。

 

 ──かつての公民館。

 

 外壁にはツタが絡みつき、窓は半ば割れている。

 

 しかし内部だけは、意図的に“生かされている”。

 

 雑に引き回された電線。

 規格の違うバッテリーを無理やり繋いだ発電機。

 異能力による補助も併用されているのだろう、電圧は不安定ながらも灯りは落ちない。

 

 机の上には地図。

 

 集まっているのは二十名ほど。

 

 異能力者。非異能力者。

 年齢も性別もバラバラ。

 

 銃を持つ者もいれば、鉄パイプのような即席武器の者もいる。

 中には、ただの工具を握っているだけの者もいた。

 

 統一感はない。

 

 練度も、おそらく高くはない。

 

 だが。

 

 その場に漂う空気だけが、異様だった。

 

 全員が同じ方向を見ている。

 

 視線が揃っているのではない。

 “認識”が揃っている。

 

 誰もが、自分の役割を理解している。

 

 命令を待つ必要がない。

 

 それが、この集団の危うさだった。

 

 その中心に立つ、一人の少女が口を開いた。

 

「……十年」

 

 声は高い。

 幼さが残る。

 

 だが、その響きには、時間の重みが沈殿していた。

 

「十年だよ?」

 

 少女は笑う。

 

 だがそれは、余裕からくる笑みではない。

 どこかひび割れたような、不安定な笑み。

 

「ここで起きたこと、全部」

 

 視線が落ちる。

 

「なかったことにされた」

 

 拳が、きしむ。

 

「助けが来なかったことも」

 

「見捨てられたことも」

 

「泣いてた人がいたことも」

 

 声がわずかに震える。

 

「……全部」

 

 沈黙。

 

 誰も、言葉を挟まない。

 

 同情でも、慰めでもない。

 

 それは、この場の全員にとって“過去形の共有”だからだ。

 

 少女は顔を上げる。

 

「安全な都市、だってさ」

 

 吐き捨てる。

 

「選ばれた人間だけ守って、それ以外は切り捨てて」

 

「それで完成?」

 

 誰も答えない。

 

 だが、否定もない。

 

 その代わりにあるのは、静かな同意だ。

 

 壁にもたれかかっていた女が、低く口を開く。

 

「……完成はしちゅうがやろ」

 

 落ち着いた土佐訛り。

 

 感情の起伏は薄い。

 

「連中の中ではな」

 

 腕を組み、視線だけを少女に向ける。

 

「守るもんは守って、切るもんは切った。合理的や」

 

 事実の提示。

 

 冷静な分析。

 

 だからこそ、重い。

 

 少女は一瞬だけ言葉を失い──

 

 すぐに噛みつくように返す。

 

「だから壊すんだよ」

 

 即答だった。

 

「その“合理”が、間違ってるから」

 

「……間違い、か」

 

 女は短く呟く。

 

 否定はしない。

 

 肯定もしない。

 

 ただ、その言葉を“受け取る”。

 

 少女は一歩踏み出す。

 

 床が軋む。

 

「異能力者も、そうじゃない人も

 同じ場所で生きられるようにする

 線なんて、最初から引かなきゃよかったんだ」

 

 その言葉は、理想だ。

 

 非現実的で、幼稚で、危険ですらある。

 

 だが──

 

 ここにいる全員が、その理想を理由に集まっている。

 

 だから成立している。

 

 女が静かに続ける。

 

「準備は整うちゅう。外縁部の誘導、完了。影化者の流入も計画通りや。監視網の遅延も確認済み。反応は平均で三十秒遅れる」

 

 机の地図に視線を落とす。

 

「十分やろ」

 

 少女は小さく頷く。

 

「……そっか」

 

 その顔に、わずかな迷いが浮かぶ。

 

 だが、それも一瞬。

 

「じゃあ」

 

 顔を上げる。

 

「始めるよ」

 

 空気が切り替わる。

 

 誰も動かない。

 

 だが、全員が“動ける状態”に入る。

 

「まずは、“目”を潰す」

 

 少女の視線が鋭くなる。

 

 何人かの呼吸がわずかに乱れる。

 

 だが、誰も異を唱えない。

 

 無謀だと理解している。

 

 それでもやる。

 

 理由があるからだ。

 

 女が最後に確認するように言う。

 

「……後悔はないがやろ?」

 

 少女は、ほんの一瞬だけ目を伏せ──

 

「あるよ」

 

 と答えた。

 

「でも」

 

 次の瞬間には、笑っていた。

 

 ひび割れたままの笑顔で。

 

「それでもやる」

 

 灯りが揺れる。

 

 発電機の音がわずかに大きくなる。

 

「“境界戰“は──」

 

 少女はゆっくりと言い切る。

 

「まだ終わってない」

 

 ──襲撃が、始まる。

 




境界戰の二人

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他の作品の投稿も随時再開していきます。たぶん。
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