またしても何も知らない狩人さん〜異能バトルよりパンチラが危ない〜   作:概ね右翼

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 ブラッドボーンの解釈や、世界観の説明などかなり大味となっておりますが、皆様は特に気になっていないのでしょうか?
 疑問があれば感想にて質問していただければ答えますので、気軽にコメントしてください!ここ長らく感想に返信できていない私が言っても信用できないかもしれませんが…


第十五話 狩人の攻撃が必殺過ぎて扱いづらい

 特影本部地下五階。地上に聳え立つ特影本部棟や学園と比較すれば、あまりにも無機質で冷たい空気に満たされている。地下の階層は一般へは公表されることは無く、科学的異能的要因で秘匿されている。そこに立ち入ることができるのは特影関係者か、人かどうか怪しい警備兵のみである。

 

 その地下に場違いな存在が廊下を走っていた。境界戰統率者、トキ。境界戰医療担当者、死なず。

 

「トキ氏。こちらの目的はすでに達成している……! すぐに撤退することをお勧めするよ」

 

「……」

 

 死なずの意見は最もである。特影本部の地下に侵入できただけでも奇跡に近く、目的を達成した時点ですぐに撤退すべきだろう。

 そもそも、特影が既存の常識を覆す異能が溢れる中で、いまだに権力を維持できているのは単に黒鉄のような強力な国家異能力者が所属しているからではない。

 

「まだ地下に潜る気かトキ氏! 君の異能がいかに強力といえ、いつから使えなくなるのか分からないのだよ……!」

 

「……分かってる」

 

 特影は異能を無効化する技術を保有している。

 

 地下五階、低階層ですら防衛設備の充実度が半端ではない。どうにかトキの異能で、力ずくで突破している綱渡り的な状況であり、異能が使えなくなった瞬間から全てが無駄になる。

 

「いいや君は理解していない……! 理解しようとしていないから安易な想像で納得しているだけだ! このままだと全てが無駄になる、カイ氏とキョウ氏たちの命を無駄にしてまで君は何をしたい……!?」

 

 トキは止まることなくさらに地下を目指す。エレベーターは迷うことなく最下層のボタンを押す。

 

 確実に異能が使えない領域。

 

 不死の異能を持つ死なずですら死の危険に晒される領域であり、異能の使えないトキは何一つとして戦力になりえない、ただの少女に成り下がる。

 そこまで愚かな蛮勇でありながら、トキがなぜそこまで自殺に準ずることをするのか、死なずには理解できなかった。

 境界戰。いや、元祖境界戰の構成員であった死なず。現存する境界戰はトキたちが勝手に名乗り出した特に関係のない組織であった。なんの因果か、死なずはそこに加わることになり、自身がたちが成し遂げることの叶わなかった蒙昧の理想を、少女たちが何を目指すための礎にするのか。それを見届けるために死なずは医療部門として支えている。

 だからこそ、死なずは知る必要がある。

 彼女たち。いや、トキはいったい何を目指すのか。

 

 静かに降るエレベーター。エレベーター自体に特に許可証が必要なかったのは不幸中の幸いである。しかし、同時に出るのに必要ないとは限らない。棺桶になりうる箱の割に、実に無機質で寂しい。

 

「ミライ」

 

 声が反響した。誰かを確認する必要もない。トキだ。

 

「未来……?」死なずはすぐさま聞き返す。

 

「未来……将来の話かい……?」

 少女が口にするのは未来への希望か、将来への夢なのか。そう考える死なずはすぐさま裏切られることになる。

 

「違う、この世全ての行く末を観測する。特影最重要異能力者。それがミライ」

 

「……」

 

 死なずは何も答えない。いや、返答しかねていた。自分と比較しなくとも幼い、たった十数年しか生きていない少女が述べる荒唐無稽な超人。

 仮にそのミライという人物が存在するのであれば、未来永劫現れるであろう反特影、国家にとって不利益となる存在全てが日の目を拝む前に解体される。その中には無論、境界戰も含まれている。だが、現実では境界戰は復活しカイとキョウは学園へと襲撃に赴いた。この事実だけで、そのミライという人物は存在しないと証明されている。

 死なずがトキにそう切り返そうと口を開くが、それは他ならぬトキによって阻まれることになる。

 

「死なずが言いたいことは分かる。ボクも……なぜミライが、ボクたちを阻まないのか……それを確認したくてここに来た……」

 

 どうやら、ミライの存在の有無については言っても無駄だろう。彼女の中では、“いる“ことで確定しているのだから。

 

「君の目的は理解した。ある意味、黒鉄誠よりも高い障壁なのだろう? 俺はあくまで医療担当。境界戰の行く末には統率者である君の意見が最も優先される」

 

 人類が異能を扱い始めて、たった60年。既存の概念が全て覆す大変革であったはずだが、世界中が大混乱に陥る中、日本はいち早く対処に成功した。あの時代の日本からでは到底信じられない対応速度だ。ウイルスが流行しようとも新たな技術が開発されようとも、全てがアメリカの後追いでしかなかった日本ではあり得ない対処。

 それもこれも、なんの兆候もなく現れた特影という機関。異能研究、都市の建造、異能への法整備、全てに対応した様はあまりにも異常。まるで、異能の出現を初めから“知っていた“かのような。そう考えれば、ミライの存在はあり得ない話でもない。

 

「だが、これは再三言っておく。境界戰は全て君に従う。だが、君の行動には責任が伴う。最悪の場合、カイ氏とキョウ氏が君の尻拭いで死ぬことは大いにあり得る」

 

「……肝に銘じておく」

 

 十代前半の少女に乗せられる責任。それを受け止めるにはあまりにも矮小。なのに、何故(君は背負ってまで、何をしたいのか?)そんなお節介を死なずは言わない。

 

 会話の終わりに呼応するかのように、エレベーターは最下層へと到達した。

 

 トキと死なずに嫌な汗が流れる。

 

 エレベーター扉が開かれた先の景色、ミライの領域。異能の不可侵領域。

 

「何……これ……?」

 

 トキの声が闇に吸い込まれた。

 

 ———————————

 

 どんなに強くてもあたしとカイちゃんのコンビには誰も敵わない。誰もがそう思ってくれるだろう。
 実際、狩人はかろうじて人型を保っているだけで、あとひと押しで崩れてしまいそうなほど不安定に見え、これ以上大立ち回りはできないように見える。

 

 狩人が懐から何かを取り出そうとしても、ナイフどころか、その辺に落ちてる石ころでも怯んで何もできていない。*1今のやつに出来ることなんてたかが知れてる。今まともに脅威になり得るのは、古めかしい単発式の銃だけ。距離をとって仕舞えば大して問題ないけどね。

 

 だから、ほぼあたしたちの勝利は確実みたいなもの。千尋ちゃんには悪いけど、このままコイツを殺す。

 

 だけど、この心の底から湧き上がる恐怖は何? 

 

 そもそも、あそこまで満身創痍になっても、何も変わらないその冷たい瞳は何? 

 

 あまりにも不気味すぎる。

 

 まあ、「やることは変わんないんだけどね」

 

 カイちゃんと一緒に反射体へと入り込む。今回はガラス片かな? 

 ここが野原とかならいざ知らず、近代化の進む学園なら反射体なんてどこにでもある。

 さっきは校舎ひとつ丸々燃やされちゃったけど、ここは中央特影学園。びっくりな敷地の広さに加えて、施設や何に使うか分からない物まで千差万別。

 

 異能実習棟1階

「ねえねえカイちゃん、これ使えるかな?」

「やめちょけ、今はかさばるぜよ。それより消火器の方がマシや」

「ちぇ、欲しかったのに」

 

 体育館

「ピアノはもう使っちゃったしな〜」

 

 総合体育館

「お! 見て見てカイちゃん! みんなここに避難してたんだね」

「あんまり刺激しなや、キョウ。どんな異能持っちゅうか、わかったもんじゃないぜよ」

 

 第一家庭科室

「ナイフいっぱい使っちゃったからなあ、補充しとこ」

 

 理科準備室、第三倉庫、重要危険物保管庫、兵器等武器製造工場、異能強化増幅装備金庫室、etc

 

 反射は光の速度、あたしの異能はありとあらゆる反射と一体化できる。

 ガラス張りの学園なんて、あたしのホームグランド。あたしが侵入できない場所はカイちゃんにバラして貰えばいい。あたしたちを妨げるものなんてこの世に存在しない! 

 

 狩人は逃げもせずに棒立ちのまま。回復はしたのかな? だけどいくら回復しても関係ない。

 

 ぬ。

 

 急に現れた私に反応すらできてないじゃない。もう限界なんでしょ? 楽にさせてあげる。

 

「じゃあね 狩人」

 

 君の足元にいつから全身鏡が置かれてたのか気づかなかったでしょ? 

 その鏡の中に君の足が少し入っちゃってるの分からなかったでしょ? 

 鏡の中に、限界を超えた量が入ってるの気づかなかったでしょ? 

 

 やっぱあたし達は最強なんだ。

 

 カイちゃんが全身鏡に触れた。

 

 全身鏡が崩壊する。本来、その小さな枠の中に収まるはずのない膨大な質量。これまでに飲み込んできた物品、武器、薬品、そして数えきれないほどの「物質」が、次元の歪みの中で圧縮され、悲鳴を上げていた。

 パキリ、と鏡面が完全に砕け散る。

 

「リベレーション……!!!」

 

 物理的制約から解き放たれた鏡の裏側が、現実の空間と混ざり合う。鏡の破片を中心に、空間そのものが内側へ陥没したかと思うと、次の刹那──。

 轟音さえも置き去りにする、物理の暴力が噴出した。

 鏡の破片を起点として、異空間に閉じ込められていた「質量の濁流」が、弾丸のような速度で前方に押し寄せる。それはもはや、個別の物体としての形を成していない。無数の鋭利な破片と、無機質な塊が巨大な渦となって重なり合い、逃げ場のない波濤となって眼前のすべてを塗り潰していく。

 視界を埋め尽くすのは、鏡の中から吐き出された物質の嵐。

 壁を穿ち、地面を抉り、ただそこにあるだけの「質量」が、絶対的な圧殺として標的のすべてを飲み込んでいった。

 

「ふぅ終わったね……カイちゃん」

 

 刃物の中に潜ってたあたし達は無事に生還。見渡して状況を確認したいけど、なんか霧みたいになっていて視界不良。よく分からない薬品や消化器のせいかな? これ吸って大丈夫なやつ? 

 まあ、たぶん学園は部分的にしか吹き飛んでるじゃないかな。威力はあっても範囲は狭いのが自慢の技だもん。

 

 ガキン

 

 熱でもなんでもない、質量による暴発。たぶんこの世に防ぐ手段なんてないんじゃない? ブラックホールみたいなモノだから。

 

「ああ、これ以上ここに居たら危ないぜよ。すぐ撤退────」キンッ

 

 霧で見えない中、どうにかカイちゃんと手を繋いで————え? 

 

「ぅあ゛ァっ!」

 

 ごと……

 

 カイちゃんの腕が、カイちゃんが! 違うカイちゃんの腕じゃない! 

 

「カイちゃん!」

 

「ッ! あ゛! ぅぅ—————」

 

 カイちゃんの悲鳴! 

「カイちゃ……ん…………?」

 

 え……カイちゃん腕はどうしたの? 

 

「キョウ……逃げろ! ……はぁ……作戦は失敗だ!」

 

「カイちゃん何言ってるの? だって、だって」

 

 え? 

 

 白い霧の向こうから————いや、おかしい、だって

 

 狩人が生きてるの?」

 

 目の前の景色が信じられない。これが現実じゃないって視覚が訴える。これはきっと夢だ。だってそうでしょ? 

 

 だって狩人の杖は金属製

 

 あんなに、

 

 鞭みたいにしなる訳ないよね? 

 

 ———————————————

 

 “リベレーション“

 カイとキョウが繰り出す大技。ありとあらゆる物を無差別に選出し、それをひとつの反射体へと詰め込み、それを破壊することで発生する質量の暴発。

 

 単純な威力だけなら黒鉄のレールガンすら上回る威力の技である。

 

 限界を超えた密度は原子と原子の接触を限りなく過密にし、静電気力により加速で物理の挙動を超越させる。

 因みに、電子は静電気力の過剰な反発により放射線が発生する。

 

 狩人でも即死するだろう。

 

 だが、あくまでも直撃すればの話である。

 

 古都ヤーナム発祥の狩人独自の技術。自身の肉体を一律な方向へと回避行動を取ることにより、トンネル効果を自発的に招く。

 

 通称“ヤーナムステップ“である。

 

 狩人はわずか1秒の半分にも満たない間のみ、無敵となることで回避を成功させたのだ。

 

 ———————————————

 

「うぅっ…………」

 

「カイちゃん! カイちゃん!」

 

 カイはアドレナリンが切れたのか、今までの損傷を思い出すかのようにうずくまる。全身から脂汗を流して、キョウの言葉に答える気力もない。実に痛そうだ。

 だけど貴方は紳士でジェントルで伊達男な狩人なので、うら若き乙女を流石に狩りはしない。ただ無力化する過程で両腕を削ぎ落としただけで、命に別状はない程度に収めたので実に大変だった。

 

「カイちゃん逃げるよ! ———」そう言いながらキョウは懐から包丁をとり出すが、そう易々と見逃す貴方ではない。

 

 バンッ!! 

 

「っ!?」貴方が撃った弾丸によって包丁は甲高い音を鳴らしながら吹き飛んだ。

 

 こう何度も見ればある程度異能の性質を理解できる。なんかガラスとかナイフみたいなピカピカしているもので瞬間移動するらしい。

 包丁を落としたキョウは別の反射体、ガラス片を探すがそう都合よく落ちている物でもない。落ちていたとしても、目に見えるものはある程度貴方が回収している。

 

 ついぞ何もできなくなったキョウは、カイを庇うように貴方を睨むだけである。

 

 怒りや恐れ、さまざまな感情が入りみだった表情で貴方を睨みつけるが、貴方は人の表情から感情を読み取れるほど器用ではないので何もわからない。

 

「狩人……! お前はいったいなんなんだ……! なんで、どうしてまだ動けるのよ!?」

 

 キョウは貴方へそう質問を問いかける。いや、質問というよりただの当てつけなのかも知れない。

 化学的な白い霧が風により晴れていくにつれ、貴方の身体の異常性は曝け出されていく。カイに触れられたことによって関節や部位ごとの接合部、はたまた骨と肉、皮。それらの繋がりが失われ、動くたびに身体のどこかを落としてしまう。それほどまでに不安定でありながら、あなたの身体は崩れるどころか、形を取り戻しつつある。

 

「どうして……どうして……!? なんで生きてるの!? なんで動けるの!?」

 

 その質問には貴方でも答えづらい。大型の獣に潰されようが、レンガで頭を叩き割られようが、ありとあらゆる外傷を受けても、貴方の行動を阻害することはない。先程のように、崩壊しかけた身体でも貴方はなんの問題もなくヤーナムステップをすることができた。経験は無いが、仮に四肢全てを失ったとしても、貴方は問題なく戦闘を続行できるだろう。

 

「か、狩人…………」

 

 貴方が自分の体にちょっと怖くなってたら、蚊の鳴くような声が耳に入る。

 

「カイ……ちゃん。だめ! 今動いたら血が!」

 

 か細い声の正体はカイだったらしい。満身創痍な状態で立ちあがろうとするカイをキョウが咎める。

 実にタフだ。ついでに足も切り落とした方がいいかも知れない。

 

 右足か左足かで悩んでいたら、カイの体が縮こまった。いや、縮こまるというより、額を地面に擦り付けた姿。

 

「頼む……はぁ……キョウだけでも……はぁ……見逃してやってくれんか」

 

「カイ……ちゃん……?」

 

 土下座だ。

 

「今回の襲撃の首謀者はワシや。……キョウは元々捜査部の人間。それをワシが唆した」

 

「何言ってるのカイちゃん!? 違う、カイちゃんやめて!」

 

「だから……キョウに責任はない、助けてやってくれないか」

 

 カイの述べる内容は取引でもないただの懇願。正当性は低く正誤の判断もできない、そして何より当事者であるキョウが否定している。貴方相手にどうにか生存率を上げるための最後の手段。

 ちょっとショックである。なぜなら、貴方はまるで狩り殺す以外の選択肢を持ち合わせていないと思われているからだ。せっかく頑張って生け取りにしたのも否定された気になる。

 

 しかし、貴方は心広き狩人だ。女の子たちにここまで頭を下げられて許さないなど男の風上にも置けない。

 

 よくよく考えればハーレム要因も失ったばかりだ。ここで恩を売っておくのも悪くはないだろう。

 

 そんなことを考えていたら、貴方に違和感が広がる。

 

 なぜ、いまだに貴方の身体は中途半端に分解されているのだろうか。確かに、輸血液を用いれば回復することは容易だが、貴方は別に回復の必要がないから放置しているのだ。

 

 目の前のカイという女。異能は分解であり、それを直すこともできたはず。

 

 なのになぜ、彼女はいまだに貴方の身体を修復することなく、形だけ謝罪をしているのだろうか。

 

 だが、違和感はすぐに確信へと変わることになる。

 

 …………ゴポ

 

 …………ゴポ……ゴポゴポ……

 

 謎の音、いったいどこから。いや、似たような状況を経験したばかり。

 

 足元。

 

 影……! 

 

 銃口を影へと向け、引き金に力を込める。

 

「…………底翳(そこひ)

 

 バシャアアアアアン!!! 

 

 だが、不発に終わる。

 

 影から飛び出てきたのは、大型の影化者。多くの人型を歪め結合させて、まるで巨大な海洋生物のような姿に歪められた影化者が、影を引き連れて地上に現れた。

 

 貴方の銃声は闇に吸い込まれ、無意味になるほどの巨体。

 

 そもそも、影化者は貴方に見向きもしていない。

 

 何故いま現れたのか? 

 

「はぁ……はぁ……助かった……」

 

「あ?え?そ、底翳(そこひ)?」

 

「はい、底翳(そこひ)です。」

 

「え?なんで」

 

「ワシが呼んじょいた」

 

「じゃあ…あの土下座は?」

 

「あんなもん、嘘に決まっちょろうが」

 

「よ゛がっだぁ゛ぁぁカイちゃんあたしもう駄目かと思ったぁぁぁ」

 

「全く、あなた方は“我々“の扱いが雑。だが、災難でしたね」

 

 カイとキョウは貴方の前にはもういない。彼女たちはすでに影化者の口? の中に逃げ仰ることに成功したのだ。カイの土下座、修復されない貴方の分解。何もかもがこの時を待ち侘びていたのだろう。

 貴方は見事にいっぱい食わされたわけだ。

 

 影化者は巨体を引きずる形で、学園から過ぎ去っていく。学園裏の山を越えて海から都市を脱出するつもりだろう。

 

 カイとキョウ二人の生身の人間を連れているからなのか、影にも潜れていない。しかし、あの巨体では特に問題になり得なさそうだ。

 

 今回の襲撃で得られた成果はこちら側には何もなく、ただ被害を被っただけに終わる。

 

 しかし、それは気に食わない。

 

 貴方は狩人であるが故、獲物に逃げられることをは大いに気に入らないのだ。

 

 ————————————

 

 全身はゴカイ類の虫みたいだが、頭部はフクロウナギのような影化者、体高は5メートルにもみたいない程度だが、全長は100メートルは下らない。エラのような全身の穴から影をこぼし、そこから影化者となり、また纏わりついて一体化する。それが全て人らしき何かで構成されているのだから、集合体恐怖症が見れば失禁ものだろう。

 

「して、アレは?」

 

 底翳(そこひ)が質問を投げかける。アレとは言うまでもなく狩人のことだ。

 

「わからない。ただ、“狩人“とだけ……」

 

 もう会話する気力も残っていないカイに代わってキョウが答える。

 そもそも、今回の襲撃は捜査部だけが標的のはずだった。黒鉄をはじめとする国家異能力者はすぐには出動できない、特影鎮圧部隊に始まる治安維持組織も根回しは全て完了しており、1時間は余裕が生まれる手筈だ。

 血気盛んな学生や正義感の強い教員、指示に従わない特影所属異能力者。想定していた乱入はあくまでその程度であり、脅威になり得ないはずのものばかりだ。

 

 なのに場に現れた狩人はなんだ。何もかもめちゃくちゃで、説明する気も起きない。

 

 あまりにも雑な説明に対して底翳(そこひ)は何も答えない。

 黒ばんだ包帯に全身を包んだ人型はただ沈黙していた、境界戰に所属しない外部協力者でしかない底翳、たいした興味もなかったのかもしれない。

 

 だが、そう考えたキョウの想像はすぐに間違いだったと思い知らされる。

 

「……底翳(そこひ)?」

 

 底翳は笑っていた。

 

 ただ、キョウの投げやりの説明“狩人”で笑っていた。

 

 表情などわかるはずもないほど、包帯を何重にも巻かれた底翳の顔が歪んでいる。

 包帯の皺が大きく歪み、黒い染みは今までの比ではないほど広がる。キョウは何故かそれを“笑っている”と感じた。

 

「底翳……何を笑いよる……」

 

 そう感じたのはキョウだけではなかった。仰向けに倒れたカイも底翳の表情を笑っていると解釈した。

 

「失礼、失敬、不躾、非礼を詫びる」

 

 謝罪。歪んだ喋りはいつも通り。

 

「まあ、えいわ。今は逃げんといかん——————」

 

 カイの言葉は言い終わることはなかった。

 

「「「!?」」」

 

 皆が乗った大型の影化者が急に体制を崩したのだ。

 

「何だ……」

 

「阿……あ……アあ……亜……」

「あ゛亜゛、ア゛……安……ア゛っ……」

「ア゛……逢……あ゛……嗚呼……アアアア……」

 

 大型影化者の口の外の景色は、大量の影化者がいたはずだった。だが、今では寿命の尽きた羽虫のように、出血と共に力なく落ちている。

 

「影化者が……」

 

 異常事態。大型影化者は動き出さない。

 

 だが、原因はすぐにわかることになる。

 

「ッ!! 狩人! 早く口を閉じさえせろ!!」

 

 

 狩人の登場である。まさかここまでついてくるなど誰もが想像していなかった。

 

 大型影化者の口は閉じられ、ひと時の安全は保障されたが、キョウとカイに言葉にできない恐怖が全身をめぐる。ただ、とんでもない相手に手を出してしまった。

 

 ぐちゃ……ザザッグチャ……

 

 影化者の口内に響く異音。

 周囲の影化者が切り裂かれ、大型影化者の体内に侵入せんと、力ずくでこじ開けんとする音。

 

「ヒ!」

 

 大型影化者の頭頂部は切り裂かれて内側からも青空が見える。

 

 だが、青空よりも、こちらを見つめる狩人の、赤い瞳に心臓を掴まれた気分になる。

 

「おお! 貴方が狩人!!」

 

 墨汁のような返り血で塗りたくられた狩人の姿から、ここに来るまでの影化者全てを狩り尽くしたのだろう。その狩人が目の前で、大型影化者の上顎を切り飛ばした。

 

 先ほどまでの傷は全て癒え立ち塞がる狩人の姿に、カイとキョウの戦意はもうない。この場でどうにかできるのは底翳のみ。

 

 相対した底翳(そこひ)と狩人。

 

 底翳(そこひ)は自身の影を広げ、四方一町の影化者を攻撃体勢、大型影化者はもはや使い物にならない、すぐに自爆させる方向へチェンジ。

 

「覧しろ! 新世抗原(ネオアンチゲン)!!!」

 

 だが、全てが不発に終わる。

 

 バンッ!! 

 

「ッ!?」

 

 獣であれ異能力者であれなんであれ、必ずしも行動には“力み“が必要。それが最大の弱点となり、僅かな干渉程度で簡単に力は霧散し大きな弱点へと転ずる。

 

 ガラ空きとなった腹部に狩人は腕を捩じ込み、“内側“を全て外側へと引き摺り出す。

 

 真っ赤に染まった なピンク色の肉塊が全てを曝け出されるかと思いきや、出てきたのは真っ黒な影だけだった。

 

「ガ ハッ……はぁ……はぁ…………ふぅ」

 

 底翳(そこひ)の支配下にあった影化者は、急な信号の停止に対応しきれずに活動が一時停止。

 

 大型影化者は中途半端な崩壊により力なく影へと帰っていく。

 

 だが、全てが終わったわけではない。

 

 不発ではあったが、意味がなかったのではない。

 

 影は止まっていなかった。

 

 飛行型影化者が、空を埋め尽くしていた。

 

「え? ちょちょちょ! くっさい!」

 

「お!? オエ……」

 

 カイとキョウは飛行型影化者に咥え、捕まられる形で空中に退散していく。

 

「ただでは死にはしない!貴方も、貴公が欲しい」

 

 底翳はまるで大規模オーケストラの指揮者にでもなったかのように、腕を振るう。その姿は優雅であれどどこまでも悍ましい。

 

 あまりに膨大な量の飛行型影化者。鳥の群れなど比にならない量が羽虫のように空を支配し、青を黒で埋め尽くす。大型影化者での逃亡が難しいと踏み、空からの逃亡を試みた。しかし、少数では狩人に撃ち落とされる懸念が拭えないための大群だろう。これほどの量を前にしては、いかに正確無比な射撃だったとしても対象を撃ち抜く可能性は皆無となる。

 

 底翳は何故か狩人を連れ去る方向へシフトし、狩人めがけて影化者が幾万も濁流のように襲いかかってくきた。

 

「嗚呼ッ、阿、ア゛嗚呼ッ、あ゛あ゛あ゛っ!」

 

 一発の水銀弾は数十もの影化者を貫き、変形した仕込み杖は縦横無尽不規則に影化者を断裂することによって、狩人は応戦するが、それでもすぐに限界はきた。

 

 ガギィィィィン! 

 

 仕込み杖の軌道が受け止められた。硬質化の異能を持つ影化者によって。

 

「いけ」

 

 その瞬間を逃す訳もなく、狩人は影化者に捉えられた。丁寧にも武器を振るうために重要な関節を潰すように力加減して咥えられている。

 

「ねえ! 本当にそいつも連れていく気!? 底翳(そこひ)正気なの!?」

 

「ああ……勿論だとも!」

 

 狩人の逃亡を許さないとばかりに影化者がまとわりつき続ける。果ては空を覆い尽くすほどの影化者が一つの黒い真球となるほどに。

 

「嗚呼…………実にmajestic……!」

 

 黒い真球は、動き出す。カイとキョウを無事に帰還させるはずの目的が、底翳(そこひ)の中ではすでに大きく変動していた。

 底翳(そこひ)の包帯の隙間という隙間から黒い染みが垂れていく。本人の興奮に比例していくように、形は大きく歪み全身で喜びを表現しているかのよう。

 

 だが、

 

 その歓喜は長くは続かなかった。

 

 ドゥォォォォンッ!! 

 

「は?」

 

 黒い真球が崩壊した。

 

 底翳は何が起きたのかが見当もつかない。

 

 影化者の暴発か? それとも新たな乱入者か? 

 だが、探知系の影化者は半径10メートル以内には新たな反応はないと突きつけてくる。

 いったい何が? 何が起きた? 

 

「マジか……」

 

 最初に気づいたのはカイだった。

 今回の襲撃における最重要ターゲットだったからか、こんな芸当ができる相手をそいつ以外に思いつかなかった。

 

「嘘……でしょ……」

 

 特影学園からはもう既に1キロメートル以上は離れていた。だが、攻撃は明らかに学園方向から飛んできていた。

 

 ——————————————————

 

 特影学園第四棟—屋上—

 

「痛っっっっっっっっったい!!! もう凄く痛いめっちゃ痛い!!! え? 大丈夫? 私の肩まだあるよね? クッッソ痛テェええ!!」

 

「雨宮!! 次弾装填急げ!」

 

「ゑ!? 沙織先輩もう一発はガチで肩が吹っ飛びます!!」

 

「次! 照準、上へ2ミル修正」

 

「ああもう! JKにデカブツライフル撃たせるこの学園終わってんな!! ていうかミル*2って何!? だけど狩人さんのために頑張れ雨宮ソラ!!」

 

「ちょっと! ソラあまり騒がないで! 集中力が散っちゃうじゃない! えい!」

 

「ぐっ、……ふ、うぅッ……」

 

「あっ! ごめんなさい鷹見先輩!」

 

 特影学園屋上にいる3人の人影。

 

 鷹見沙織の対物ライフルを構える雨宮。

 バラけた体を部分的に接合され、雨宮のスポッター*3にまわる鷹見沙織。

 

 そして、鷹見沙織の体を縫合する白峰ミオ。

*1
この世で投石が一番強い

*2
1ミル = 0.001 インチ = 約 0.0254 ミリメートル

*3
狙撃手の相棒。 観測手として距離や風向きなどのデータを収集し、スナイパーにターゲットの位置や着弾点を伝える役割




白峰ミオ
異能:裁縫
 対象の質量や硬度を問わず、あらゆる物質を「布地」と見なし、針を通すように縫い合わせる能力。
 生体組織の縫合も可能だが、異能自体に麻酔・止血などの医療効果は付随しない。あくまで物理的な接合能力に留まる。
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ヤーナム経験者の悠仁くん(作者:4R1ES)(原作:呪術廻戦)

獣狩りの夜を経験した悠仁くんが、狩人的な思考回路と行動で原作ブレイクします。▼あらゆる武器を使いこなす、メンタル鬼つよ悠仁くんになる予定。独自解釈を含みます。▼※Bloodborneを知らなくても読めると思います。▼イカレてる奴といえば、Bloodborneの狩人様。▼死ねば夢で目覚め、呪われた古都ヤーナム……悪夢で獣を狩り彷徨う。▼完結しました。


総合評価:10049/評価:8.51/完結:32話/更新日時:2026年03月27日(金) 08:00 小説情報

ハリー・ポッターと上位者の娘(作者:アーマウニー)(原作:ハリー・ポッター)

ヤーナムにて果てしない狩りの果てに上位者となったクリスティーナ・ブラウン。▼ある日彼女のもとに届いたのは聞いたこともない学校からの入学許可証だった。▼ホグワーツ魔法魔術学校。▼より良い存在となるため、赤子を抱くため、何よりも好奇心を満たすため。彼女は''神秘''ではない新たな世界へ身を投じる。▼(初めての投稿となる為、非常に粗…


総合評価:1777/評価:8.47/連載:11話/更新日時:2026年06月07日(日) 23:36 小説情報

喪失が疼痛は消えず -弟子の性癖をぐっちゃぐちゃにして逝くTS師匠-(作者:クソデカ感情好き)(オリジナルファンタジー/冒険・バトル)

魔物に襲われた村で唯一の生存者である少年フェンリックはリャンという女武人に拾われる。▼今度は大切なものを自らの手で護れるようになるため、彼はリャン師匠から戦う術を教わる。師匠は人格的に問題のある酒狂いTS女だったが、その技は確かなものだった。▼しかしフェンリックは、師匠が死ぬ瞬間に何もできなかった。▼ ▼師を喪った後、フェンリックは贖罪のように人助けをする。…


総合評価:238/評価:8.33/連載:6話/更新日時:2026年03月20日(金) 20:09 小説情報

【特異点は】ブルアカ世界にK社を設立する!【私の神秘】(作者:空の鏡)(原作:ブルーアーカイブ)

大金を手にするためにK社社長になりたいキヴォトスアルフォンソモドキ▼VS▼安価を駆使して面白おかしくしたい転生者掲示板に集うスレ民▼VS▼アルフォンソモドキとスレ民にめちゃくちゃにされるブルアカ世界▼VS▼ダークライ▼ファイ!


総合評価:647/評価:8.29/連載:6話/更新日時:2026年05月28日(木) 17:59 小説情報

変身ヒロインの内なる敵だけど乗っ取りとか考えてない。いやマジで(作者:三重雑巾)(オリジナル現代/日常)

変身ヒロインの力の源になっている内なる怪物▼関係は良好で変な事を起こすつもりも全然ない▼だけどある日ヒロインに成り代わらなきゃいけなくなって……?▼「アナタ、誰……!?」▼「ククク……(これどうすればいいの?)」


総合評価:2310/評価:8.61/連載:3話/更新日時:2026年04月12日(日) 23:00 小説情報


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