またしても何も知らない狩人さん〜異能バトルよりパンチラが危ない〜   作:概ね右翼

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案外小説を書くのが楽しくて二話目となります。

今回の話は雨宮星空が主軸です。

いやぁ。お気に入り登録してくださるのは嬉しいですね。まじで嬉しいです。
このような私の性癖が煮詰まった、ようわからん小説を気に入って見れくれる方がいてくれることに喜びを禁じ得ません。


第二話 特影――雨宮星空の保護

白い。

やっぱり白い。

 

天井も壁も床も、全部まとめて白。

揺れ方は車なのに、雰囲気は完全に病院。

でも、病院ほど安心できない。

 

──いや、これほんとに大丈夫なやつ!?

 

雨宮星空は、簡易ベッドの端に座っていた。

手首に巻かれた柔らかい拘束具が、地味に自己主張してくる。

 

痛くはない。

でも、外せない。

 

保護って、こういう形なんだ……。

 

向かいの座席に、二人の少女がいる。

 

一人は、背筋がまっすぐな先輩っぽい人。

黒に近い茶髪をポニーテールにして、表情はきりっとしている。

制服──見たことがない。

 

……この人、年上だ。絶対。

同じ高校生とは思えない。

空気がもう「先輩」。

 

もう一人は、小柄で、フードを被った女の子。

多分、同い年か、一個下。

視線が合いそうになると、ちょっと逸らされた。

 

制服の上にパーカーって、ありなんだ……

え、どこの学校……?

 

車は静かに走っている。

運転席の大人は、こちらを一切振り返らない。

 

……無理無理無理。

この沈黙、心臓に悪すぎる!!

 

星空は、意を決して口を開いた。

 

「あの……」

 

声、ちょっと震えた。

いや、かなり震えてる。

 

ポニーテールの少女──鷹見さんが、すぐにこちらを見る。

 

「どうした」

 

短い。

でも無視されなかった!!よかった!!

 

星空は一度息を吸ってから言った。

 

「……わ、私……どこに、連れて行かれるんですか」

 

言ってしまった。

聞いてしまった。

 

聞いた瞬間に、怖くなるやつ!!

 

鷹見さんは、ほんの一瞬だけ間を置いてから、はっきり言った。

 

「特定異能影化対策防衛機関」

 

……え?

 

長い。

長いし、字面がもう怖い!!

 

星空が固まっていると、鷹見さんは続ける。

 

「通称、特影だ」

 

特影。

 

影。

 

その一音だけで、背中がぞわっとする。

 

「国の正式機関だ。影化者と、それに関係する事案を扱っている」

 

……か、国家!?

そんなところに!?

私が!?

 

「君は影化者と接触した。

 そのため、一時的に特影で保護される」

 

保護。

またその言葉。

 

でも──

 

保護される場所の名前が、全然優しくない!!

 

星空は、思わず自分の手首を見る。

 

私、犯罪者じゃないよね!?

一般高校生だよ!?

影化とか、よく分かってない側だよ!?

 

「……帰れます、よね」

 

声が、思ったより小さくなった。

 

鷹見さんは即答する。

 

「兆候がなければ、帰れる」

 

……兆候が、なければ。

 

その条件付きが、胸に刺さる。

 

その沈黙を、フードの少女がそっと埋めた。

 

「だ、大丈夫です……!

 本当に、検査が中心なので……」

 

──ありがとう……!!

 

今、その一言が命綱!!

 

星空は小さく頷いたが、内心は全然落ち着いていなかった。

 

──特影。

──影化。

──保護。

 

単語が、頭の中でぐるぐる回る。

 

……それと。

 

どうしても、考えてしまう。

 

──あの人。

 

血だらけだった。

ナイフ、刺さってた。

それなのに、平然としてて。

 

怖かった。

でも──

 

助けてくれた。

 

命の、恩人。

 

……なのに。

 

名前、聞いてない。

 

あああああああああ!!

なんで!?

なんであの時、名前聞かなかったの私!?

お礼すら言えてないとか、最悪!!

 

名前も知らない命の恩人って、なに!?

 

今さら聞けないし、

もう会えないかもしれないし、

ていうか生きてるの!?

大丈夫なの!?

 

胸の奥が、ぎゅっと締めつけられる。

 

「気分は悪くないか?」

 

はっきりした声。

 

びくっとして、星空は慌てて首を振った。

 

「……だ、大丈夫です」

 

声、裏返った。

最悪。

 

鷹見さんは一瞬だけこちらを見て、すぐ前を向く。

 

「そうか」

 

……終わり!?

会話終了!?

え、もうちょっと安心させる言葉とか……

 

内心で慌てていると、フードの女の子が口を開いた。

 

「急で、驚きましたよね」

 

あ、優しい……。

この子、優しい……。

 

「はい……正直、まだよく分からなくて……」

 

本音だった。

 

すると、鷹見さんが淡々と続ける。

 

「影化者と接触した。事実だな」

 

現実、直球。

 

星空は喉を鳴らしながら頷く。

 

「影化者と接触した人間は、影化の兆候が出やすくなる。

 そのため、一定期間の経過観察を行う」

 

経過観察。

 

……それって、要するに。

 

「もし、私が……」

 

言いかけて、止まる。

 

鷹見さんは、真っ直ぐこちらを見た。

 

「今のところ、異常はない」

 

……今のところ。

 

「私の直感では、だが」

 

直感。

それ、仕事で使っていいやつ……?

 

車は、街灯の少ない道へ入っていく。

景色が、どんどん知らないものになる。

 

ねえ。

私、ちゃんと帰れるよね?

 

それより──

 

あの人は。

 

あの人は、どうなったの。

 

怪我、してた。

血も出てた。

なのに、あんなに強くて。

 

名前も知らない。

お礼も言えてない。

 

もう一度会えたら、

ちゃんと──

 

「ありがとう」って、言いたい。

 

────ー

 

車が、ゆっくりと減速した。

 

エンジン音が落ち、タイヤが砂利を踏む感触が伝わってくる。

 

……あ、止まる。

 

雨宮星空は、思わず背中に力を入れた。

 

到着。

ついに。

 

車体が完全に停止すると、運転席の大人が短く言った。

 

「着いたぞ」

 

それだけ。

 

え、それだけ!?

「着きました」とか「大丈夫ですよ」とかないの!?

ここ、怖い施設じゃないよね!?

ねえ本当に保護だよね!?

取り調べとかじゃないよね!?

 

後部座席の扉が開く。

 

外の空気が、すっと流れ込んできた。

 

冷たい。

夜の匂い。

雨上がりみたいな、鉄っぽい匂い。

 

ゆっくりと顔を上げる。

 

そこにあったのは──

 

街だった。

 

整然と並ぶ建物群。

ガラスと金属を基調とした外観。

道路は広く、照明は白くやわらかい光を放っている。

 

上空には、空中通路やレールのような構造物が張り巡らされ、

遠くでは自動運転らしい車両が静かに行き交っていた。

 

(……え)

 

思わず、声が漏れる。

 

病院じゃない。

研究所でもない。

基地、という言葉もしっくりこない。

 

これは──

生活のために作られた街だ。

 

どちらにせよ、

 

「普通の場所」じゃない。

 

ここが──

特定異能影化対策防衛機関。

 

つまり。

 

(ここが、特影……)

 

名前は聞いたことがある。

ニュースの端っこで。

ネットの噂で。

「関わったら戻れない場所」って。

 

……戻れない!?

 

「降りるぞ」

 

鷹見が言った。

 

声は落ち着いている。

落ち着きすぎている。

 

星空は、言われるままにベッドから立ち上がる。

 

足は、ちゃんと動いた。

……よかった。

 

けれど、施設の入口が近づくにつれて、

胸の奥が、ぎゅっと締めつけられていく。

 

これ、

入ったら──

簡単に出られないやつじゃない?

 

入口の前で、ピタリと止まる。

 

金属製の扉。

カードリーダー。

認証音。

 

ピッ、という乾いた電子音。

 

扉が開く。

 

中は──白くない。

 

灰色。

無機質。

床も壁も、冷たい色。

 

そして。

 

……人、いる。

 

白衣の人。

スーツの人。

装甲服みたいな人。

 

視線が、一斉にこちらへ向く。

 

ひっ……!!

 

思わず、肩がすくむ。

 

なにこの目!

なんでみんな、そんな「観察する目」なの!?

私、虫じゃないんですけど!?

 

「雨宮星空。影化者との接触歴あり」

 

鷹見が、淡々と告げる。

 

「現時点で異常反応はなし。経過観察対象として搬送した」

 

……名前、呼ばれた。

 

呼ばれただけなのに、

少しだけ、ほっとする。

 

私は、番号じゃない。

まだ。

 

白衣の人物が、柔らかく言った。

 

「不安だろう。だが、必要な検査だけだ」

 

……その言い方がもう不安なんですけど。

 

すると。

 

少し後ろにいたフード姿の女の子が、もじもじしながら前に出てきた。

 

「あ、あの……」

 

声、小さい。

 

でも、ちゃんと届いた。

 

「心配、ですよね……」

 

星空は、はっとしてそちらを見る。

 

「私……矢井って言います」

 

一瞬、言葉に詰まったようにしてから、

小さく頭を下げた。

 

「矢井、です」

 

……自己紹介。

 

この空気で!?

この場所で!?

 

でも──

 

その一言が、

妙に胸に染みた。

 

「あ……雨宮、です」

 

思わず、名乗り返していた。

 

矢井ちゃんは、ほんの少しだけ安心したように、

肩の力を抜いた。

 

「怖かったら……すぐ言ってください」

 

優しい声。

 

この場所で、その言葉は反則だと思う。

 

天使か?

 

……少し、息がしやすくなった気がした。

そんな錯覚をした、その直後だった。

 

視界の端に、違和感が走る。

 

廊下の奥。

ガラス越し。

 

赤いランプ。

警備兵。

そして──

 

床に残る、乾いた血痕。

 

……え。

 

血?

 

心臓が、跳ねる。

 

まさか。

まさか──

 

あの人。

 

あの人、ここにいるの?

 

生きてる?

 

それとも──

 

言葉が、喉で詰まる。

 

星空の視線に気づいたのか、

鷹見が、ほんの少しだけ声を落とした。

 

「心配するな」

 

……え?

 

「彼は、生きている」

 

────!!

 

生きてる!?

 

今、生きてるって言った!?

 

星空は、思わず顔を上げた。

 

「本当、ですか!?」

 

声が裏返るのも構わずに。

 

鷹見は、一瞬だけ困ったような顔をして、

それから小さく頷いた。

 

「……ああ」

 

短い返事。

 

でも、それで十分だった。

 

胸の奥が、一気に軽くなる。

 

よかった。

本当によかった。

 

名前も知らない。

今どこにいるのかも分からない。

 

それでも──

 

生きてる。

 

それだけで、救われた。

 

施設の奥へと案内されながら、

雨宮星空は、ぎゅっと拳を握る。

 

次に会えたら。

 

絶対、言う。

 

名前を聞いて。

ちゃんと顔を見て。

 

「ありがとう」って。

 

それが、今の一番の願いだった。

 

 

 その頃。

 

 同じ建物の、さらに下。

 

 ここの存在は、地上には明かされない。

 

 地下で何が起きようと、

 地上の生活区画にそれが届くことはない。

 

 この建物は、そう言う運用を前提に作られていた。

 

 エレベーターは、既に番号表示を失っていた。

 地下何階かは、誰にも分からない。

 

 ここは、記録上は使われていない区画だった。

 本部へ送るまでの、仮置き。

 検査と分類のためだけに用意された、一時隔離層。

 

 しかし、あまりにも異常事態。

 

 気圧が違う。

 空気が重い。

 

 壁は白ではなく、灰色の装甲材。

 衝撃と、異能と、爆発を想定した造り。

 

 ここでは、人は「保護」されない。

 

 ──「収容」される。

 

 厚い隔壁の向こう、ひとつの区画。

 

 警告灯が、低く唸っている。

 

 拘束具の破壊を示すランプは、すでにすべて赤だった。

 

 「……ありえない」

 

 監視室の誰かが、呟く。

 

 関節可動域を潰し、筋力では破壊できないはずの拘束具。

 その全てが、内側から歪んでいる。

 

 金属疲労。

 だが、想定時間を遥かに下回っている。

 

 カメラが映すのは、一人の人間。

 

 血に濡れた腕。

 自傷を一切気にしない目。

 

 眠っていない。

 鎮静も効いていない。

 

 「深層区画、コードX」

 

 誰かが、震える声で言った。

 

 「やはり、飼い殺しにはできない……」

 

 その言葉が終わる前に。

 

 画面の中で、強化ガラスが砕けた。

 

 鈍い衝撃音。

 糸のように走る亀裂。

 次の瞬間、映像が激しく揺れる。

 

 ──脱走。

 

 警報が、施設全体に鳴り響いた。

 




今回は特に新キャラがいないので、キャラ紹介は無しです。

やっぱり皆様、他のキャラのイラストとかあった方がいいのですかね。
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