またしても何も知らない狩人さん〜異能バトルよりパンチラが危ない〜   作:概ね右翼

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第七話 やっと始まる“学園“異能バトル

「今日からみんなの仲間になる、雨宮星空さんです。

 雨宮さん、みんなに挨拶を」

 

 教師の声に促され、雨宮は緊張のあまり顔を赤くしながら前に出る。

 

「み、みなさん。初めまして、雨宮です。

 どうぞよろしくお願いします」

 

 誰がどう見ても、雨宮はガチガチだった。見事な九十度のお辞儀を披露した後、震える手で次の紹介に目を移す。

 

「こちらは、わ、私の、異能の──

 

 “狩人“さん、です」

 

 紹介された貴方も軽く一礼する。

 黒づくめの長身、露出もほとんどない姿に、クラスの大半は息を飲む。

 

(……怖っ)

 

 教室内に緊張が走る。

 

 そんな中、雨宮は思う。

 

(なんで……なんで、こんなことに……)

 

 

 ────

 

【数日前/特影上層部 会議室】

 

 

 重厚な木製の扉が閉じられる。

 それを合図に、遮音結界、盗聴防止符式、非常時封鎖プロトコルが順に起動し、低く重なった駆動音が、これから語られる内容の重さを無言のまま告げていた。

 

 室内には、鉄と革、そして微かに焦げた匂いが残っている。数日前まで地下に存在していた施設の、消えきらない残り香だ。

 

 壁一面に展開されたスクリーンには、異能力者管理系統図、過去の収容・処分事例、都市災害級事案の記録が並び、そのすべてから意図的に切り離されるように、一枚のデータだけが表示されていた。

 

《対象:X》

《分類不能/再定義要》

 

 黒革張りの椅子に身を沈めた上層部の面々は、言葉を発することなく、二人を見据えている。

 

 包帯に巻かれた痛々しい姿の少女が一人。背は低く、体格も細いが、その眼差しだけは場違いなほど冷えていた。──黒鉄。

 その隣で、感情を表に出すことなく資料を整えている女性、白石。

 

 理事長が、低く、しかし明確な声で告げる。

「──報告を。今回の地下施設消失事案について」

 

 黒鉄は気怠げに背もたれへ体を預け、「お前らの指示通りだ」と短く応じた。淡々と、事実だけを並べる口調だ。

「Xを一度、完全に消滅させた。オレの最高火力──レールガンでな」

 

 白石の合図でスクリーンが切り替わる。地下空間の蒸発、鉄骨の融解、観測不能な磁場歪曲。

「被害は……見ての通りだ」

 

「Xの異能力反応は?」

 技術系理事の問いに、黒鉄は即答する。「一切ない。地下が吹き飛んだのはオレの能力だ。Xは、直接的には何もしてねぇ」

 

 会議室に、短い沈黙が落ちる。

 だが、次の一言で空気は一変した。

 

「……ただし」

 

 黒鉄の視線が、上層部をなぞる。

「次も同じ手を使えって言うなら、今度の代償は地下施設じゃ済まねぇ」

 

「具体的には?」と理事長が問う。

 

「都市が一つ、で済めば幸運だろうな」

 

 誰も笑わず、誰も否定しなかった。

 

 白石が立ち上がり、「補足説明をします」と告げる。資料が切り替わり、Xの消滅と再生、その全記録が映し出された。

「Xの再構築は、既存の不死・再生・時間干渉系異能とは明確に異なります」

 

「肉体再生ではない。時間巻き戻しでもない。因果保存ですらない」

 技術系理事の言葉に、白石が続ける。「消滅後、“再度構築されている”。しかも、元の状態を参照せずに、です」

 

「“不死”ではないな」

 別の理事の呟きに、白石は首を振った。「ええ。死の定義そのものが違います」

 

 会議室に、わずかなざわめきが走る。

 

「封印指定は?」倫理系理事が代案を出す。「隔離、もしくは異界転送」

 

「試算済みです」白石は即座に資料を提示する。「封印は破綻確率九割以上。異界転送は──帰還リスクが未知数」

 

「能力抑制装置の装着は?」

 その問いに、黒鉄が鼻で笑う。「効かねぇよ。あれは“能力”じゃない」

 

「抑制装置は異能の発動を阻害します」白石が静かに補足する。「しかしXは、“存在そのもの”が異常です」

 

「国外移送はどうだ」

 その一言で、会議室の空気が一段階冷えた。

 

「アメリカだ。向こうの研究組織なら、喉から手が出るほど欲しがるだろう」

「管理不能なら、管理できる場所に投げるのも選択肢だ」

 

「無理だな」

 黒鉄の即答に、全員の視線が集まる。

 

「理由を述べよ」

 

「まず、輸送が成立しねぇ」黒鉄は指を一本立てた。「Xには麻酔が効かない。薬理、精神、異能──全部だ」

 

「拘束も意味を成しません」白石が続ける。「物理的・異能力的、どちらも」

 

「では、なぜ最初は捕獲できた?」

 技術系理事の問いに、黒鉄は一瞬だけ考える素振りを見せ、吐き捨てるように答えた。

 

「気分だろ」

 

 空気が凍る。

 

「逃げようと思えば逃げてた。殺そうと思えば、最初から壊滅してた」

 包帯越しに拳を握り、「でも、あいつは捕まった。──捕まることを、選んだ」

 

「つまり」白石が静かに締める。「我々がXを管理していた事実はありません。あったのは、“許されていた時間”だけです」

 

 理事長は深く息を吐いた。

「国外移送時の脱走確率は?」

 

「九割以上」

「脱走時の被害は?」

「最小でも都市壊滅」

 

 沈黙。代案は、すべて論理的に潰された。

 

「では、管理案は?」

 理事長の問いに、白石は一枚の映像を映す。

 

 雨宮星空とX。数値は、異常なほど安定している。

「唯一、安定する条件がこれです」

 

「少女を、楔にするのか」

 倫理系理事の唸りに、白石は否定しない。「はい。しかし、代替案はありません」

 

 黒鉄が肩をすくめる。

「正直、雨宮がいなければ、オレは死んでただろうな」

 

 その言葉が、すべてを物語っていた。

 

 理事長は再び深く息を吐く。

「……学園転入。管理・監視下に置く。雨宮星空を異能力者として診断し、Xを召喚系異能の発現体として扱う」

 

 白石が一礼する。

 

 ──こうして決まった転入計画。

 その数時間後、白石は病院に赴き、雨宮と貴方に全貌を説明することになる。

 

 

 ────ー

 

 

「というわけで、雨宮くんとXには特影学園に行ってもらう」

 

「え? エ? ゑ?」

 私、雨宮星空は絶賛困惑中です。

 いや、だってそうでしょう。目が覚めたら、隣のベットにXさん(鷹見さんに教えてもらった)が寝ていて、その時点で大パニック。

 一つ屋根の下で、男女(厳密には女女)が二人、何も起きないはずはなく……いや! 何もなかったけどね。

 

 ちょーとだけ、Xさんの素顔が見たくて、寝込みを襲おうとしたのは内緒だけど。

 

 言い訳させてください。だってさ。隣(のベット)に推しが寝ているのですよ。そりゃー気になるでしょう。隣を見る度に綺麗な鼻筋がチラつくのですよ。私の身にもなって下さい(あくまで私は被害者)。いや、この楽園は私のものだから絶対譲らないけど。

 

 もちろん未遂に終わりましたけどね! 

 実にタイミング悪く白石さんが私たちの病室に入ってきましてね。いったい何の用かと思ったら、まさか転校をいい渡されました。←今ココ

 

 なんか他にも私にも異能がウンタラ言ってましたけども……そうなんですよ。私も異能力者になったみたいです。いやーすみませんねぇ。どうもスーパー雨宮です。

 

 転校したらチート能力に目覚めて学園無双!! 推しとイチャイチャするのでもう遅い!! 

 まぁ異能は何かは、まだわかってないそうですけど。

 

 そんな脳内パニックな私に白石さんが話を続ける。

 

「二人には特影学園に通うに当たって、何か困ることがあったら私のとこに来てくれ。雨宮くんは狩人で特に困り事が増えるからな」白石さんが首筋をかきながら、安心させるように言ってくれる。

 

「ん? 狩人って誰ですか?」そんな疑問が私の口から、思わずこぼれた。

 

「ああ。確かに言い忘れていたな」白石さんが間を空けて言う。

「Xは雨宮くんの召喚獣として特影学園に入学してもらう。狩人はXの召喚獣としての名前だ」

 

「ほぇ?」

 

「あと、特影学園は基本全寮制でな、特別な事情がない限り、寮に住むことになる。それに伴ってX……もとい“狩人“も雨宮と同室になってしまうが……まぁ、うまくやってくれ」

 

 白石さんが、頭がパンク寸前の私に、新たなトンデモ情報をお出しやがった。「マジっすか……」

 

「ああ。大マジだ」

 またもや口から漏れ出た私の声に、白石さんも同じ口調で返してくれる。ちょっと面白い。

 

 えー。花の女子高生である雨宮星空は好きな人と一つ屋根の下で三年間過ごすことになりました。大丈夫かな、私の理性……

 そんな他人事のように思いながら、私は現実逃避でXさん改め、狩人さんの横顔を見ていた。左側の大半が髪で隠れてしまって惜しい気持ちになる。はぁー私の推しの寝顔サイコー。

 

 脳内お花畑の私をおいて、白石さんは狩人さんに向き直って口を開けた。

 

「狩人も理解したか?」

 白石さんが狩人さんに問いかけたら、狩人さんの首が縦に振られた。

 

 いや、起きてんのかーい。

 

 

 ─────

 

【特影学園 部室】

 

雨宮への説明に続いて当事者である鷹見と矢井へ説明する。

 

 

「……で、結局、どういうことなんですか?」

 鷹見が眉を寄せて問いかける。

 

 白石は、いつも通り淡々と答えた。

 

「簡単に言えば──雨宮とXは、学園に転入することになった」

 

「……え? 

 あの雨宮さんと……Xっていう“人”を?」

 

 矢井の声には、隠しきれない驚きが混じる。

 

「そうだ」

 

 白石は短く頷く。

 

「今回の騒動を受けて、上層部が判断した。

 雨宮には異能力者としての適性がある、と“診断した”ことにする」

 

 鷹見の表情が険しくなる。

 

「……“する”、ですか」

 

「そうだ」

 

 白石は視線を鋭くする。

 

「Xは危険極まりない存在だ。

 制御不能なまま放置するより、学園で管理・監視する方が、まだ安全だと判断された」

 

 一拍置いて、続ける。

 

「雨宮を異能力者として登録し、

 Xはその“召喚獣”という扱いにする。

 あくまで、都合のいい分類だ」

 

 矢井はしばらく黙った後、言葉をこぼす。

 

「……すごいですね。

 人ひとりを、そんなふうに……」

 

「まったくだ」

 鷹見が小さく息を吐く。

 

 白石は言い聞かせるように言う。

「倫理は後回しだ。問題が起きなければ、それでいい」

 

「でも、それで学園としては“安全”を確保できる、というわけですか」

 

 鷹見の問いに、白石は肩をすくめる。

 

「問題が起きなければな」

 

 そして静かに言った。

「とにかく、君たちは学園で──二人の様子を、よく見ておけ」

 

「了解しました」

「わ、わかりました」

 

 ────

 

 そして、冒頭から少し時間が経ったときに戻る。

 

「はぁ……」

 

 雨宮の小さなため息は、放課後の教室の喧騒にあっさりと掻き消えた。

 チャイムが鳴ってからというもの、机を囲む人の輪は途切れる気配がない。転校生であること、それだけでも十分に注目の的だというのに、教室の隅にはもう一つ、明らかに異様な存在があった。

 

 召喚獣──貴方、である。

 

 休み時間になるたびに飛んでくる質問は決まっていた。「あの人誰?」「召喚獣なの?」「強いの?」

 好奇心と警戒心が入り混じった視線が、雨宮と貴方の両方に向けられる。

 

 召喚系の異能は、本来、動物や架空の生物を呼び出すものだ。広く解釈すれば、武器や道具といった無機物もその範疇に含まれる。実際、矢井の刃物生成などは、分類上は部分的に召喚系とされている。

 だが、人型──それも、人間そのもののような存在を召喚する異能など、少なくともこの学園で前例はなかった。

 

 最初のうちは、物珍しさから直接話しかけようとする者もいた。

 しかし、貴方はこうした大人数からの視線や言葉に慣れていない。どう返せばいいのか分からず、結果として黙り込んでしまう。その沈黙はやがて、「喋らない」「反応しない」という印象にすり替わっていった。

 

 ──コミュニケーション不可の召喚獣。

 

 誰かがそう決めつけ、誰も訂正しないまま、その認識だけが広がっていく。

 

 居心地の悪さに耐えきれなかった貴方は、すでに教室を後にした。

 収集癖と探索欲が強い貴方にとって、無駄に広い学園敷地内を彷徨うのは、苦にならない。

 

「……あれ? 狩人さん、どこいったの?」

 

 ふと口をついて出た雨宮の呟きに、机に頬杖をついていた女子がくるりと振り返った。

 

「ん? あー、あの黒ずくめの人?」

 日焼けした褐色の肌に、短めの髪。制服も程よく着崩していて、全体的にさっぱりした印象の少女だった。

 

「さっき教室出てったで。人多いの、苦手そうやったし」

 そう言って、親指で廊下の方を指す。

「多分、外ちゃう? 中庭か、グラウンドの方やと思う」

 

「そ、そうなんだ……ありがとう」

 

 雨宮がぺこりと頭を下げると、少女はにっと笑った。

 

「ええってええって。初日からアレは、正直しんどいやろ」

 教室のざわつきを示すように、視線だけを巡らせる。

「転校生に加えて、見た目ラスボス級の召喚獣やもんな」

 

「ラ、ラスボス……」

 雨宮は内心、ほんの少しだけむっとした。

 顔面偏差値が高すぎるだけで、別にラスボスではない。はずだ。

 

「褒め言葉やで?」

 

 フォローになっているのかは分からないが、悪意がないことだけは伝わってくる。

 雨宮は肩の力を少し抜いた。

 

 そのとき、控えめに肩を叩かれる。

 

「あの……雨宮さん」

 

 振り向くと、そこに立っていたのは矢井だった。いつも通り、少し遠慮がちに立っている。

 

「お、矢井やん。珍しいな。雨宮さん、貸してほしいん?」

 褐色の少女はそう言うと、あっさりと席を立ち、別の生徒の輪へ戻っていった。

 

「どうしたの? 矢井ちゃん」

 

 雨宮の問いかけに、矢井は少し視線を泳がせ、もじもじと指先を絡めながら口を開く。

 

「よかったら……私のところの部活に、興味ないかなって……」

 

「部活?」

 雨宮は一瞬きょとんとしたが、すぐに思い出す。そういえば、入る入らないはともかく、部活見学は自由だった。

「うん、興味ある。矢井ちゃんは、何の部活に入ってるの?」

 

「えっと……よかったら、見に来ませんか……?」

 

「ありがとう。じゃあ、お言葉に甘えて」

 

 即答すると、矢井の口元がほんの少しだけ緩んだ。

 

「じゃ、じゃあ……案内するね、雨宮さん」

 

 矢井の後について教室を出る。

 いくつかの廊下を曲がり、階段を上り、少し人通りの少ない区画へと進んだところで、二人は立ち止まった。

 

 扉の横に掲げられた部活名を見て、雨宮は首を傾げる。

 

「……超常現象捜査部?」

 

 興味を引く名前ではあるが、同時に少しだけ危ない香りもする。

 本当に、矢井のような大人しそうな子が所属しているのだろうか。

 

 そんなことを考えている間に、矢井は扉を開けた。

 

 促されるまま中へ入る。

 

「あの! 本日、見学に来ました。雨宮星空です!」

 

 そう言って、雨宮は反射的に九十度の礼をした。

 

「よく来たな、雨宮」

 

 返ってきた声は、どこか聞き覚えがあった。

 

「え?なんで私の名前を……」

 

 顔を上げた雨宮の視界に映ったのは──

 

「超常現象捜査部へ、ようこそ」

 

 尊大不遜としか言いようのない態度で椅子に座る、傷の癒きってない少女。

 

「歓迎してやる」

 

 黒鉄だった。

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