武装錬金:Q.E   作:まぐろの勇気

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第5話 -獣たちの饗宴- 2

 メタリックグレーの光を放ち、手にした武器を見せ付ける聡志。まるで親にねだって買ってもらった新しいオモチャを自慢してるかのようだ。

 それは武装錬金と呼ぶにはかなりお粗末な代物。先の尖っていない石に短い棒を括り付けただけの、所謂【石斧】と呼ぶべきモノだ。凶器と呼ぶには原始的過ぎるが、打ち所が悪ければ命も奪うだろう。

 それを力強く握り、ステージを強く蹴り飛び出した。

 

「さぁお前も構えろ! 命の獲り合いの準備を──づッ!?」

「ぴーぴー喚いてんじゃねぇわよどさんぴん。武器を貸してもらっただけで、私たち戦士と同格にでもなったつもり?」

 

 聡志の手にはすでに持ち手だった柄の部分しか残っていない。ベリュシュトラールの弾丸が石の部分をあらかた吹き飛ばしてしまった。6発撃ち尽くしてしまったが、ペトラはとくに慌てる様子も無くシリンダーを出してゆっくりと装填している。

 

「……ペトラ。手を、出さないでくれ……。聡志くんとは……あの()()()()()()とは、俺が決着を…付ける」

 

 なんとか覚悟を決めたケイが顔を上げて前に出る。聡志も体勢を立て直す。その顔はまだまだ笑みを残している。

 しかし、ペトラは退かなかった。上司のお小言を右から左へ流しているように目もくれず、装填し終えたシリンダーを戻して汚れていないかチェックしている。

 

「……? おい。俺に任せてくれ」

Nein(ムリ)

 

 肩に手を置こうとしたケイの胸にベリュシュトラールの底面が当てられた。ペトラは顔を聡志に向けたまま、眼だけをケイに向けて言う。

 

「昨日のタコ野郎の戦い見ててわかった。あんたの闘争には輝きが無い。お世話になった先輩が傷付けられたから戦う、彼女の弟が非行に走ったから戦う。それで? 何か解決すんの?」

「それは……」

 

 ペトラの眼には呆れや怒り、悲しみの感情が見て取れたが、やはり何よりも優しさが伝わった。ペトラ自身、気持ちの言語化が下手なのかもしれない。

 

「あー、何かイラつく……とにかく! あんたはアイツと戦っちゃ駄目! 言ったわよね、あんたも私の輝きで照らしてあげたいひとり、って!」

「………」

 

 不器用なりに、ペトラの優しさがケイの身に染みた。確かにこの手で聡志を殴ったところで、どうなるというものでもない。任せられる事は任せろ! と言ってくれているらしい。

 

「輝かせたいものが一緒なら、私たちは”Kamerad(戦友)”になれる……でしょ?」

 

 言い終えて、ペトラは目線を外して聡志に向ける。その眼光で貫く様に。

 

「…あぁ。悪い、頼む相棒」

「ごちゃごちゃと喧しいのはどっちだ留学生。ボクの標的はそっちの男だ。退け!」

「…アルマだっけ?」

 

 先の無い柄を持ったまますごむ聡志。一見するとギャグなのかという姿だが当の本人は真剣そのものだ。先程まではその眼にペトラは映らず、ケイの姿を捉えて離さないでいたが今は違う。

 

「あ~らら。随分と威勢がイイみたいだけど…わかってんの? その棒切れで私と戦う気? まるで知能実験のサルね♪」

「サル、か……ふんっ…違うな」

 

 いまだに笑みを崩さない聡志に苛立ちを覚え始めるペトラ。直接こめかみに銃口を押し付けてやろうかと一歩近付くが、

 

「下がれッ!」

「!!」

 

 ケイの叫び声が響く。ペトラが言う事を聞いて下がらなければ致命傷を受けていただろう。

 いつの間にか、聡志の手には武器が握られていた。それは石斧などではないものだった。

 

「……槍!?」

「バカなっ! まったく違う武装錬金だと!? 一体どうなって……!」

 

 口に出してからケイはハッとする。1つの核鉄から、二対一組などではなく別の武器が出るなどという事はありえない。だが、同じ1つなら……?

 

「気付いたか? 増えたんじゃない。石斧では足りなかったリーチを補う為に、槍へと形を変えた…いや、()()したんだ!」

 

 よく見ると石斧の柄の部分が跡形も無くなっている。これは…まさか、聡志の武装錬金は……!

 

「そうだ! 学習して進化する武装錬金! それがボクの【石器の武装錬金】ストライド アーム!!」

 

 手品の種明かしをしてご満悦な聡志はくるくると槍を振り回す。それは演舞のように見事なものだ。しかしそれこそ奇妙だ。現代のただの高校生の聡志が、ここまで槍を身体の一部の様に扱うなど考えられなかった。

 その疑問を言葉にするよりも早く聡志が自ら種明かしをした。

 

「ストライド アームの特性は、どんな形に変じようとも『手に()()()』事だ! これならボクでもお前らの首に手が届くんじゃないか!?」

 

 槍を構えて正面から向かってくる聡志に、再びペトラの銃撃が放たれる。しかし先程と違い、旋回させた槍によって弾かれ届かない。それを見るや否や今度はペトラが距離を取った。

 リロードした二挺のベリュシュトラールで後退しながら撃つと、聡志の手の中の殺意の塊は再び変貌を遂げる。

 

「やはりサルの様に逃げ回るのはお前の方だったな! ストライド アーム!」

「……弓矢!?」

「ケイ!!」

 

 たまらなく飛び出そうとしたケイを、ペトラは眼光で止める。飛んでくる矢を難なくと躱し続けるペトラ。武装錬金の特性があったとしても、戦闘に於いて相手の先を読むという力が聡志には欠けている。矢が標的に到達する事は無かった。

 

「ちぃっ!」

「この程度なら……ぁッ!?」

 

 ペトラの動きが止まった。脚をもつれさせた訳でも無く、矢が命中したとも違う。いや聡志の弓から放たれたものではあるが、矢では無かった。

 

「これは……槍!?」

 

 槍は槍でも形が違う。三叉に分かれた、所謂三叉槍(さんさそう)やトライデントと呼ばれる武器だ。弓から放たれた矢が空中でその形へと変わって、ペトラのズボンを縫い止めた。

 

「言っただろう、進化したと! 成長は一方向ではない! その場その場に合わせて形を変えていくのがボクのストライド アームだ! 舐めるなぁ人間ッ!!」

 

 絶対絶命かと思われたが、ケイは動かなかった。動けなかった訳でも、間に合わなかった訳でも無い。動く必要が無い事がわかっていた。

 聡志の武装錬金は相当に恐ろしい能力だと思われる。一流の戦士が使えばどんな相手であろうと戦えるだろう。……一流の戦士が使えば。

 

「……っがぁ……!」

 

 弓矢から再び槍を手にして襲い掛かった聡志だが、その先端がペトラを貫く事は無かった。槍での攻撃を、構えた銃の前面で逸らし体勢を崩したところを腕を捻り、合気の要領で転ばせた。そのまま背中から上に乗り、完全に組み伏せた状態。

 一般人と戦士の違いが如実に現れる結果となった。

 

「そんな…そんな、バカな……!?」

 

 余裕の表情は消え去り、愕然としている聡志。後頭部にベリュシュトラールを押し付けられている。こうなる事がケイにはわかっていた。ツラいからとペトラに甘えてしまったが、最期まで縋る訳にはいかない。

 ホムンクルスを元の人間に戻す事は絶対に不可能…。そんな事は錬金術に関わった者なら誰だろうと承知の常識だ。ゆっくりと聡志に近付く。

 

「……聡志くん」

「…その名で呼ぶなと、言った筈だぞ…ボクは”アルマ”。無謀な夢だろうと、跳び続けていればいずれ月にだって手が届く可能性を秘めた名前だ……!」

「…武装錬金」

 

 ヴィブラ ブレーサーを発動するケイ。ホムンクルスを滅するには錬金術の力、すなわち武装錬金でなくてはならない。一体美雪にどう説明すればいいのか……。どうしたって恨まれる事は避けられない。いや、恨んでくれるならまだいい。もしその傷に美雪が耐えられなければ……いくら考えても仕様のない事だった。どちらにせよ、その(ごう)は自分が背負う。

 

「くっ…くく、はは……悔、しいが、ここまでか…如何せん付け焼き刃ではこれが限界だったという事か……。いいだろう、殺れよ! 路傍の石だってこれくらい──痛ッッ!!?」

「えっ!?」

 

 辞世の句が途中中断された。語り手である聡志が痛みでしゃべれなくなったからだ。その原因は…ペトラにより肩を脱臼させられた為。戦士の、冷たい仮面を被ったままなのでかなり恐ろしい。

 

「おっ…前…! なんの、つもりだ、ぁ…!?」

「……やっぱりね」

 

 ペトラが立ち上がる。組み伏せていた人間がいなくなった為、当然聡志の身体は自由を取り戻す。力の限り這う様に動き、距離を取った。

 

「何て女だ、クソ……!」

「ペトラ……?」

 

 当然の疑問をぶつけるケイに、ペトラは今度は視線すら送らない。手で制止を訴えただけだ。続けてペトラが取った行動は、聡志に向かって片手をクイクイと指だけ自分に折り曲げる……要は挑発だった。

 

「かかってきなさいよホムンクルス・アルマ。せっかく身体を自由にしてあげたんだから。武器なんて捨ててかかってこい!」

 

 いつまでも余裕を漂わせるペトラに対して、聡志の表情はみるみると曇っていく。歯ぎしりをして、顔を赤く染めてもいる。首から上こそ百面相だが、首から下は動く気配が無い。

 

「……動けない、か。そうよね~。実際脱臼の痛みって半端ないもんね。私も初めて隊長にやられたときは泣き叫んだもん。…ちょっと漏らしたし」

「何だ……何を言ってる…?」

 

 この場でケイだけが理解していない。聡志の、肩を外されてぷらんと垂れている腕を見て。

 もう一度おさらいしよう。超再生力を持つホムンクルスは、錬金術の力である武装錬金以外の攻撃では傷付ける事ができない。つまり──

 

「その肩、いつ治るのかしら? 30秒? 1分? それとも……3日後とか?」

「──っ! あ!」

 

 聡志の外れた肩は一向に治らない。それが答えだ。

 

「あんた……まだ人間でしょ」

 

 

 -5-

 

「ホムンクルスの調整は一任していただろう。お前の方が詳しいんじゃないか?」

 

 リカンからユーソキアに質問を投げかけた。興味があったというより、退屈しのぎの話題提供でしかない。山道を下っていく間のユーソキアは無言だったが、おしゃべりがしたいという顔が雄弁よりうるさいからだ。案の定話題を振った途端に表情を明るくしてずかずかと近寄ってくる。

 

「聞きたいッスか? 聞きたいッスよね? じゃあ聞かせてあげるッス! そもそも獣人型は人型と違って成功率が低くないんスよ! 一方的に捕食する動物型、力を支配する人型、それに対して人間を辞める覚悟と細胞の親和性さえ良ければ上手くいくのが獣人型。そんで、あの子はその条件も難なくクリアしてたんスけど……」

 

 色々なジェスチャーを交えつつ解説するユーソキア。公園で子供たちへの紙芝居でもやれば人気が出そうだ。この話題で果たして良かったのか? 麓に着くまで終わらないのではとも思ったが、気を回して質問をする。

 

「何か問題があったのか?」

「そこなんスよ! あの子は人間である未練はあっさりと捨てておきながら、深い深い『執着』は捨て切れなかった! だぁ~から中途半端な結果になっちゃったんスかねぇ~~!」

「ふむ……」

 

 執着…その言葉にだけはリカンも反応した。

 錬金の戦士ですらないただの人間、しかも子供。ホムンクルスからすればエサでしかないそれがやってきたときは適当に済まそうと考えたが、その眼を見て考えが変わった。

 ホムンクルスに従う人間、『信奉者(しんぽうしゃ)』と呼ばれる者たちがいる。永遠の命や恐怖に脅かされる事の無い道を求め、人生を逸れてしまう者たち。彼らのほとんどは黒い、濁った眼をしていた。

 しかしあの子供は違った。とても澄んだ、透き通ったせせらぎを想像させるような眼をしていた。

 

「…あんな間違え方も、あるのだな……」

 

 数百年を生きるリカンだが、その想像を超える存在はいくらでもいた。だからこそ見てみたくなった。その先を。

 

「変化といえば、頭にちっちゃいツノが生えただけッスもんね~。かわゆっ♪」

 

 

「人間って……本当、なのか…?」

 

 信じられないと言った風に開いた口が塞がらないケイだったが、すぐに希望の表情が灯る。手遅れだと思った覆水が、盆に返せそうなのだ。たまらず駆け寄り、聡志の両肩に手を置いた。

 

「良かった……! これで、戻れる──!」

 

 ケイにとって聡志は恋人の弟、だけではない。わからないものをそのままに出来ない好奇心、できないことに対しても努力する向上心、周りから奇異な目を向けられても自分の道を信じて進める自尊心。そのすべてをケイは1人の人間として尊敬していた。

 だから──その言葉が聡志への逆鱗を撫でる行為だという事は誰にも責められない事だった。

 

「戻る…戻る、だと……? 巫山戯(ふざけ)るなよ…! 先に道を違えたのはお前だろうが……!」

 

 聡志の声は地から響くようだった。おそらくはさっきまでの高揚としたものがイレギュラーで、これが”素”なのだろう。肩に置かれたケイの手を乱暴に外すと、再びその鋭い眼光はケイへと注がれた。

 

 

 

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