武装錬金:Q.E   作:まぐろの勇気

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第5話 -獣たちの饗宴- 4

 -9-

 

「なんっ……だ? なにが…! 起こっ…た…!?」

 

 ヴィオスの理解が追い付かない。錬金の戦士を追い詰めて、可哀想だが敗れた少年(アルマ)はぺちゃんこにして、ゆっくりと核鉄だけは回収する…そんな簡単な作業のハズだった…だというのに。

 

「どうして…! 目の前に空が広がってるんだ……!?」

 

 すでに日は沈み、夜が目前に迫っている。まだ同胞たちは人里に辿り着いていないようで、周囲は静かなものだ。

 べリュシュトラールの最大威力を至近距離で受けたヴィオスの身体は遥か上空へと打ち上げられ、その胴体を章印ごと空洞にした。すでに手足の先から崩れている。下に着く頃には跡形もなく消え去っているだろう。

 

「あぁっ…これで終わりか。結局あたしは何も()せやしなかったか……悔しいなぁ……」

 

 その時、一陣の風がヴィオスの後ろから過ぎ去っていく。その風は空へ、空へと向かう。まるで意思を持つように。

 

「…みんな、ここにいたのかぁ……そうかぁ」

 

 最期になって気付く事ができた。空を飛びたかったわけではない。空へと、(かえ)りたかっただけなのだと。

 

 

「はぁっ……は、ぁっ……ぁー、しんど……」

「……大、丈夫か…っ!?」

 

 さすがにすぐには立ち上がれずその場で気遣うケイ。ペトラは両手を投げ出し脱力して倒れ込んでいる。息も絶え絶えではあるが、とりあえず意識はハッキリしている。すぐ傍にいたハズの聡志の気配を感じず周囲を見渡すと、衝撃で飛ばされたのか、3m程先で倒れている。低い声で唸り声が聞こえるのでこちらも無事なようだ。

 

「大丈夫…じゃ、ないわよ……」

 

 ペトラはツラそうに顔を歪める。

 

「テストで3点も…笑顔満点も無いわ」

 

 ゆっくりと手を動かそうとするが、痛みですぐに下ろす。べリュシュトラールの隠し玉は、強力なだけあって難点も明確であった。

 

「反動を殺し切れないから両肩とも脱臼してるし、体力も根こそぎもってかれてる。そんで…闘争本能をエネルギーに無理やり変換してるから、3日は核鉄を起動出来ないわね……」

 

 急場は凌げたが、この先が繋げない。だからこそ、ケイにすべてを託した。もうこの戦い、ペトラは参戦する事が出来ない。

 

「充分だ…休んでてくれ。ありがとう」

 

 ケイは聡志の様子を確認するべくやっとの思いで立ち上がるが、倒れていたハズの聡志の姿が無い事に気付く。慌てて辺りを見渡すがやはり見つからない。そのとき、眼に光りが差し込んできて天井を見上げると、そこにはぽっかりと大きな穴が空いていた。ベリュシュトラールにより開けられた大穴からは、光り輝いている月がよく見える。今夜は満月だった。

 そして、その大穴を出た先の地上に聡志はいた。ここからただの跳躍であそこまで登ったのなら、なるほど確かに兎の力を有しているというのも頷ける。

 聡志は一瞬だけこちらを振り返ると、そのまま何も言わずに去っていってしまった。

 

「……いいの? ほっといて」

「大丈夫なハズだ。今度こそ…あの子を信じたい」

 

 ホムンクルスには食人衝動がある。しかしあの数のホムンクルス集団が近隣の山に潜伏しているというのに、町の失踪率はそう高くない。奴等には何か衝動を抑える術があるのだろう。聡志にもそれが適用されている事を祈るしかない。

 

「私は大丈夫。だから、あんたは奴等を追って」

「あぁ。約束したからな」

 

 ケイは町へ向かって走り出す。

 敵はまだ主力を残しており、こちらで戦えるのはケイのみ、状況は圧倒的に不利…だが不思議と脚はぐんぐんと前に出ている。こんな状況だが、仲間から使命を託された事が、ケイに錬金の戦士としての自覚を目覚めさせた。闘争本能が奮い立つ。

 勝てる。この戦いはきっと勝つ事ができる。

 ──だから、次の瞬間すべてが叶わぬものに変わったという事実を、ケイもペトラも受け入れられなかった。

 

 ──ゥゥ──

 ──ウゥゥ──

 ──ヒュウゥゥ──

 

「……ぁっ…」

 

……ッオォォォン

 

 ペトラは眼を疑った。視界に収めたハズの現実を脳が処理し切れない。上手くいっていたハズだ。なのに、どうして……どうして。

()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

「……ぁがっ……ぅぅぅぅ、……ぐぼッ! ……」

 

 よろめくケイ。その場に尻もちをつくとその衝撃で吐血する。内臓にもダメージがいっているのか、目の焦点が合っておらず、口は開き続けていてそのうち泡が漏れ出てくる。どう見ても重症、いや致命傷かもしれない。

 攻撃の正体は入り口から飛び込んできた謎の物体だ。それが風を切って、凄まじい速度でまっすぐに過ぎ去った。その過程でケイの片腕を奪っていった。

 

「ケイ、ケイ! …くっ、ぅ……!」

 

 匍匐(ほふく)前進で何とかケイのもとまで近付いたペトラは自分の核鉄を傷口に押し当てる。核鉄の治癒力に期待しての行為だったが、それでどうにかなる域では無い事は火を見るより明らかだ。僅かに出血量が減ったに過ぎなかった。

 

「どうして…!? こんなの…こんなの、無理ゲーじゃない……! 全部無駄だったっていうの!?」

「そんな事は無いぞ。君たちは頑張った」

 

 ペトラの慟哭が響くこの場に、新たな人物の声が混じった。

 

「………えっ?」

「すまない、遅くなった」

 

 その声は、ペトラを落ち着かせ、労うものであった。

 いつの間にか、入り口に3人分の姿が見える。そして、その服の意匠にペトラは見覚えがあった。

 

「あっ……貴方たちは…戦団の!」

 

 圧倒的に不利な状況からの、更なる絶望。しかし、痙攣して倒れているケイの、その左手は、拳を強く握りしめている。

 まだ、負けていない。

 

 

 ―つづく

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