武装錬金:Q.E   作:まぐろの勇気

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第2話 -掴んだ力- 2

 -5-

 

「さっさとくたばれッ!」

「えひひひっ! やぁ~だよぉ~!」

 

 戦いは既に始まっていた。

 ケイとペトラが山を登り奇襲を掛けようとしたが、それは罠だった。ペトラの能力によるマーキングは、ホムンクルスがその部分を切り捨てて格好のエサにされてしまった。

 罠に嵌めようとしている側は、自分が逆に嵌められるとは思っていない。油断していたペトラだったが、昨日同様ケイの機転で危うきを脱した。

 ホムンクルスの千切った部分ももう再生しているので、まだ互いに無傷の状態だ。

 

「やるねぇ~、じゃ、お次はコレ~~」

 

 ホムンクルスが脚を止めて何かを射出してきた。昨日撃ち出してきたものだろう。

 その正体は卵の形をしたモノ。高速で撃ち出す事ですさまじい威力を発揮していた。

 

「そんなノロいションベン、当たると思ってんの?」

「うわ~~、ホント口悪いね~君。友達無くすよぉ~?」

 

 言いながら撃ち出すも華麗に避けるペトラ。奇襲のアドバンテージは失ってしまったが、ペトラの余裕は残ったままだ。自身の拳銃を見て不敵の笑みを浮かべている。

 

(私のベリュシュトラールが弾丸の軌道をいじれるのは発砲したときのみ……でも、だからこそヤツは油断する!)

 

 さりげなく視線を動かして位置の確認をする。

 ホムンクルスのすぐ横の木に撃ち込まれて停止している弾丸があった。避けられて打ち損じたものだ。

 

(アレに弾丸をぶつけて、威力を上乗せしてドタマを貫いてやる! ヘラヘラ笑ってられんのもいまのうちだ!)

 

 撃った弾丸が軌道を変えて、停止している弾丸目掛けて戻ってくる。ホムンクルスは一向に気付く様子は無い。

 

(よし……貫けッ!)

「……えひひっ」

「……ケイくん?」

 

 突然の乱入者に、ケイとペトラは動揺を隠せなかった。隠れていたケイは立ち上がり、ペトラの弾丸は軌道が逸れてあらぬ方向へと飛んでいった。

 乱入者は美雪だ。

 

「これって……いったい……?」

(しまった……巻き込んだ!)

 

 動揺の隙を突かれて、ホムンクルスは一瞬で美雪の背後に回った。そして尻尾をみぞおちに軽く打ち、美雪は小さく息を吐いて気絶した。

 

「クソ……! どうして、こんなところに……!?」

 ホムンクルスはたまらず吹き出してネタバラシをした。言いたくて言いたくてしょうがないといった様子だ。

 

「えひっひっひぃ~! 驚いた? 驚いた?? ……そ~れ~は~……()()だよ」

 

 どこから取り出したのか、その手には携帯電話が握られていた。もちろんホムンクルスが店で契約したものなどではない。ストラップなどもついていない無機質なデザイン……ケイのものだった。

 

「これを使って~……ミユキ……美雪……! ……ってね! 得意なんだよねぇ~こういうの! 蛙だからかな??」

 

 昨日の戦闘中に紛失した携帯電話を拾われ、そして利用されてしまった。あまりの歯痒さにケイは自身の膝を思い切り拳で叩いた。

 

「う~ん、言っちゃおっかな~、どうしよっかな~。でもベタすぎてなぁ~……うんっ! 言おう! ……人質を助けたかったら動くな♪」

 

 わざとらしく顔を覆い、ふざけた茶番を繰り広げる。絶対的余裕の表れだ。

 

「……」

 

 ベリュシュトラールに力を込めるペトラ。しかしホムンクルスはそれも見逃しはしなかった。

 

「おぉっと。さっきから視てたんだけどさぁ~……その拳銃、ひょっとして6発撃ったらリロードの為に核鉄に戻さなきゃいけないんじゃない?」

「……ッ!」

 

 ペトラの表情がいままでと違う険しいものとなった。どこか小馬鹿にしていたこのホムンクルスの抜け目の無さは本物だった。

 

「それ、向こうに放っぽっちゃってよ。じゃないといますぐこの子、コロすよ?」

 

 ホムンクルス……蛙井はいままでと比較にならないほどの邪悪な笑みを浮かべる。その引きつった頬に拳を叩きこめない事を心底悔やんだ。

 

「あぁ~……ボクちんはなんて賢いんでしょ♪ パパちんとも違う。ボクちんは油断なんかしない。勝つ為の努力ができる子なんだ! えひ~ひひっひひぃ~~ぃい!?」

 

 高笑いを上げて油断した蛙井に、横から思いっきり体当たりをかました影があった。ケイだ。いくらホムンクルスといえど唐突な衝撃エネルギーは耐えられなかった。

 

「ぐぇっ! ……なんっ──」

「いまだ、やれっ!」

 

 ケイは美雪の全身を隠すかのように覆い被さり護っている。しかしその周りを蛙井の尾と卵が睨みつけている。ペトラとの距離は数メートル……どう考えてもフォローできる距離ではない。

 

「大丈夫だ! 何発撃たれようが、絶対に美雪は護り抜く! だからその間にヤツを……!」

 

 普通なら無茶な物言いだが、鍛え抜いたケイなら数秒間守り通すのは可能かもしれない。骨や内臓は間違いなく致命的なダメージを受けるだろうが。

 しかし、ペトラの攻撃は無かった。

 

「…………」

 

 ペトラは笑っていた。声は上げなかったが、美しい聖母のような笑みを浮かべていた。それでいて少し困ったような、やんちゃする弟を優しく叱る姉のような儚げさだった。

 

「なん、で……」

「だって、あんたの事をもう知っちゃった。あんたの切望も、逡巡も……そしたらもう、あんたも私の輝きで照らしてあげたいひとりなのよ……だからッ」

 

 ぶんっ、と力強く風を切る音が鳴る。ケイたちとは反対方向の茂みにペトラのベリュシュトラールが落ちる音だ。

 ()()だ。()()、遺されるのか。

 

「……えひっ! えひひひひひひ! ほんっっっとバカだよねぇ~~!」

「……ぅッ!」

 

 ホムンクルスがその場から放った卵がペトラの腹部に命中する。距離があったからか威力はかなり落ちていて血も出ていない。しかし少女に膝を地面につけさせるには充分なものだった。

 

「やめろ……」

「錬金の戦士ってみんなこうなのぉ~~? せめて弱い方を囮にすればイイ勝負にもなりそうなのに。足手纏い庇って本命が負けちゃったらさぁ~あ」

 

 2発、3発と撃ち込む。右足、左手と、撃たれた箇所がだらんと力なく垂れ下がる。距離だけではない。意図的に速度を緩めて楽しんでいる。下卑た思考が、この場を悪趣味なショーへと変貌させている。

 

「意味無いよねぇ~~! 頭、わぁるいんじゃないのぉ~~!?」

「やめろぉぉっ!」

 

 ケイにはもはや叫ぶ事しかできない。聞こえている筈の声も、完全に無視されている。

 そのとき、上着のポケットの重量感を思い出した。乱暴に手を突っ込んで取り出す。核鉄だ。

 

(俺が……俺が、起動できれば……!)

「頭当たったら終わっちゃうから~、慎重に慎重にぃ~。次はぁ~……」

「武装錬金ッ!」

 

 ホムンクルスもさすがに無視できない単語が、すぐ近くから聞こえてきた。笑みを消して声の方向を睨みつけると、しかし再び笑みを浮かべた。

 

「武装錬金! 武装錬金……!」

「なぁ~んだ~。アレアレ!? どうしちゃったの!? もしかして、頑張っちゃってる感じ!?」

 

 ケイが核鉄を前に突き出して叫ぶが、一向に核鉄は何の希望も見せない。電池の切れたおもちゃのように、無力感を突き付けてくるのみ。

 何万回と繰り返した動作だが、ただの一度も成果は得られていない。

 

「おんもしろぉ~~い♪ きみに免じて、ちょっと待ってあげようか。ほらほら! ガンバレ、ガンバレ♪」

 

 突き出された手が繰り返されるが、やがてその手にも力が入らなく、声も小さくなっていった。

 

「武装、錬金……! 武装……っ……」

「えぇ、もう終わり!? つまんないのぉ。無駄な頑張りゴクローさん。んじゃ、また女の子で遊ぼう~っと。って……!」

 

 ホムンクルスは思わず顔をしかめた。手足は動かず、綺麗な金髪を乱して無様に顔を土埃で汚したペトラの”眼”がまったく輝きを失わずにこちらを見据えていたからだ。

 

「……はぁ~……ツマンナ。まだ何とかなるかと思っちゃったりしちゃったりしてるワケ? ……もういいや。もう一人の女の子で遊ぼう~、っと。そっちの娘はもっとキャワイイと良いなぁ」

 

 溜息交じりに心底ガッカリしたという風に肩を落とすと、膨らんだ腹を突き出す。そこからいままでとは比べ物にならないほどの大きさの卵が産み出されようとしていた。

 もう一度、ホムンクルスはペトラに向かって薄汚い笑みを向けた。

 

「最後に何か言い残す事ある~? キャワイイ事言えたら助けてあげるかもよ~?」

「……おい。その娘に手ぇ出すつもりか……」

「えっ? もしかして信じてたの? 頭、お花畑??」

「まさか。お前らがクソッタレのゴミ野郎って再確認したのよ……」

 

 ホムンクルスの腹がはち切れんばかりに膨らんでいく。これだけ巨大な一撃なら、直撃でなくとも助からないだろう。そんな圧倒的な”死”を纏っていた。

 

「俺が……俺のせい、じゃないか……!」

 

 こんなときでも、ケイは自分を責められずにはいられなかった。それ以外にする事ができなかった。

 

「携帯を落としていなければ……いや……」

 

 もう何も見たくないと、両手の指を顔に食い込ませうつむく。

 

「4年前に……めぐみじゃなく、俺が死んでいれば……!」

Idiot(バカ)

 

 どこからそんな声が出たのか、木々を震わせる程の声量が響いた。思わずホムンクルスも動きを止めてしまった。

 声の主、ペトラの眼光は死んでいなかった。輝きを失っていなかった。

 

「いつまでうじうじと俯いてんだ! 暗くても立ち止まってても構わないけど、バカな事は許せない!」

 

 嗚咽交じりの筈なのに、不思議とよく通る声でペトラは続ける。

 

「”死んでいれば”? はぁ!? ふざけんな! 丸眼鏡から聞いたわよ! あんたヴィクター事変のとき、戦場に志願したんですってね!?」

「…………っ!」

「当時は猫の手も借りたい程だったから、準戦士からも募ったのよね、あのバカげた"死地”に! あんた、『理由』がほしかったんでしょ!」

 

 これ以上聞きたくなかった。しかし止める事ができない。

 

「大切な妹ちゃんを失って、そこに行きたくて! でも行けないから、大層な理由がほしかったのよね!? 『精一杯頑張った』っていう実績がッ!」

「やめてくれ……」

「でもあんたは戦場に行けなかった。許可が下りなかった。なんでか知ってる? あんたの両親が戦団に直談判したのよ! ……あんたは妹を失ったかもしれない、でも両親は娘を失ってんのよ! このうえ息子まで奪う気!? はぁッ!?」

「……やめて……くれ……」

「あんたがあんたの命を粗末に扱おうとも、それを許さない優しい人たちがいんのよ! Idiot(バカ)!」

 

 一息に言い切り、ようやくペトラは息を吐き切った。対照的に、ケイは沈黙を友とした。

 しかし闇の中にこもったのではない。その瞳には微かな輝きが宿っていた。

 ただ、思い出していた──。

 

 

 -6-

 

 ケイの両親は錬金の戦士でも、戦団のスタッフでもない。数年前にとある地域の土砂災害で小学校がまるまるのみ込まれた。それは自然災害などではなくホムンクルスの隠蔽工作で、戦士により処理された。その犠牲になった子供の親が戦団のスタッフとなり、親戚だったケイの家族にも存在が伝わった。

 だから、妹のめぐみが行方不明になったとき、ケイは真っ先にホムンクルスの仕業を疑った。何故なら誰よりも真っ当に、清らかに生きていた妹が襲われる理由など、日常ではありえない巨悪の他にないからだ。

 

(けど……実際は違った)

 

 遺体が発見されてすぐ、1人の男が検挙された。男は都会から流れてきたヤクザ崩れで、薬物中毒者だった。本人曰く狙った理由は「手が綺麗だったから」と。

 その後の捜査で男が住処としていたネットカフェから、クッキー缶に大事に入れられていた手首が見付かり、鑑定の結果めぐみのものと一致した。

 もちろん……男はホムンクルスなどではない。

 

(わかっていた……わかっていたんだ……)

 

 ケイは両親に縋り戦団とコンタクトを取った。いつか妹の仇を取るために強くなる。そのときに出会ったのが久坂で、準戦士として迎えられ師事を受けている。

 娘の凄惨な事件の真相も探ろうとしない両親に嫌悪を抱きながら、目を、逸らし続けた。

 

(めぐみが死んだのは、ただの不条理……世界には何も影響を与えない、日常の出来事……)

 

 妹を襲った男は判決を下され、正当に実刑を受けた。多くの人が悲しみ、手向けを送った。

 

(俺には『何か』ある筈だ……! 俺にしか出来ない……めぐみにしてやれる事が……!)

 

 その『何か』を、ケイは4年間探し続けていた。

 強く握り過ぎた拳は爪が食い込み、血が流れだす。だが少しも痛くなかった。まるでその血が自分のものではないように。

 そのとき、すぐ目の前に気配を感じ取った。

 

 

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