懐から取り出した核鉄が眩い光を放つ。闘争本能の具現化、人々の日常を護る、力の象徴。それこそが武装錬金!
「べェリュシュトラーールッッ!!」
現れた二挺の拳銃を掴み、狙いもつけずにそのまま引き金を引く。合計4発。まっすぐに標的へと飛んでいく。
瞬時に、驚くべき跳躍力で樹上に取り付いたホムンクルス。最初から樹上で生活する生物のように自然な形だ。
「あ、あああ、当たるワケ、ないよ。そ、それとも、お、おれがキモ、くて、当てたくもないって事? ……おぉ、落ち込む」
空を切った弾丸は、特性を発揮して軌道を変える。暗殺者は静かにホムンクルスの後頭部に狙いを定めて向かっていく。
「カスの戯言は聞かない主義なの。そして……私を見下ろすな! ホムンクルス!」
「ほっ」
「!!?」
ペトラの狙いはあっさりと外れた。ホムンクルスが身を深く屈めた為、背後から迫ってきた弾丸は再び標的を見失い、そのまま地面へと激突した。
鋭い眼光を向けたペトラに、ホムンクルスは身体を震わせて答えた。
「き、きみは
震えた声を隠さずに弱者を装うが、その振る舞いは実のところ"余裕"だ。ホムンクルスはいまだ樹上からペトラを見下ろして……いや、見下していた。
「……ずいぶんと、詳しい事で。耳の早いお友達でもいるのかしら?」
「こ、この山、全体が……おれらの、庭みたいな、もん……! もう、みんな知ってる……」
見られていた。先日の戦いが。おそらくは小型のホムンクルスが潜んでいて、その詳細を伝えている。そして話しぶりからして、相手は1体や2体ではない規模の組織という事が予想できた。
「なら……早く本部に応援を頼まなきゃいけないから、とっととあんたをブッ飛ばさないとね」
「あ、あんまり、強がらない方が……い、いい、よ。そ、そうだ。こっちばっかり一方的に知ってるのはフェアじゃない、から……おれの、特性も……見せて、あげる……」
そう言うと、ホムンクルスは自身の特性を見せようとして……見えなくなった。
「……まぁ、カメレオンってとこからもうわかってたけど……『保護色』、なんてもんじゃないわね。『透明化』か……」
樹上の枝が独りでに揺れる。注視すれば空気中に
「ぁぇっ」
「っ! ……ちっ!」
ペトラが攻撃を察知して片脚を上げると、地面に小さなへこみができている。ホムンクルスは距離を取ったまま攻めてきた。
(おそらくはカメレオン特有の、長い舌……! 見えないうえにこの距離からの攻撃は……っ!)
再び弾丸を発射するが命中は期待せず、考える。見えない相手にどうするか?
二挺のうちの片方のシリンダーを開いた。ペトラの武装錬金、ベリュシュトラールの特性で特殊弾を生成し、再び装填する。
「醜い
新しく込めた弾丸を連射する。こちらは操作されないので、拳銃本来の軌道で真っ直ぐに飛んでいく。
木々や地面、校舎に命中するが、どれも破壊はされなかった。その代わりに、赤や青、黄など色取り取りに変化した。まるでペンキをひっくり返したように。
「ペ、"ペイント弾"って、こと? た、単純、だね」
姿は見えないが、ホムンクルスのあざけるような声が聞こえる。無視して、ペトラはペイントと並行して通常弾も撃ち続けた。
「こうすれ、ば……! 数撃ちゃ当たる、でしょ……ッ!」
「当たら、ないし。な、なんか、きみ……イメージと違った、なぁ。まぁ、いいけど……」
ホムンクルスはペトラを中心にして動き続けている。相手を回避行動に専念させているという観点で考えれば、銃弾をばらまくように撃つ事にも意味はあった。
しかし、数分もせずにこの均衡は崩れた。
「あっ!」
目まぐるしいホムンクルスの動きに合わせて自身も動いていたペトラは、脚をもつれさせて転んでしまった。その隙を待っていたとばかりに、ホムンクルスが樹上から飛び出してきた。
「いただきまぁぁぁぁぁ──ぐぇっ!?」
「……品の無い呻き声。所詮三下か」
大きな音と共に、一瞬で状況が変わっていた。
体勢を崩していたペトラに向かって矢のように放たれたホムンクルスの身体は、上空から降ってきた大きな物によって潰された。もっともホムンクルスを倒すのは錬金術の力でなくてはいけないので、動きを封じたにすぎないが。
ホムンクルスに落ちてきた物、それは巨大なフェンスだった。校舎の上……屋上に設置されていた物だ。
「別に……あんたが透明になろうがどうだろうが、関係ないわ。タイミングさえこっちで用意してやれば、簡単に引っ掛かると思ってたからね」
ペイント弾はおとり、フェイクだった。ソレを当てようとしているように見せかけて、本命は通常弾を操って上空に放っていた。屋上のフェンスに届かせる為に、威力を殺して射程距離を伸ばしていたので何発も撃つ必要があったが、余裕を見せていたホムンクルスはこちらのミスを待っていたのでまったく気付いていなかった。
「自分が上手くいってるときは、罠に掛かっていても気付けないものね」
「ぐ、ぐぐっ……ひ、ひひ、ひどいな……子どもたちの為の施設を破壊するなん、て……」
「もともと撤去する予定の物だもの。手間を省いてあげて感謝してほしいくらいだわ。……で、本題だけど」
フェンスに圧し潰されて手足をじたばたとさせてるホムンクルスに、ペトラはゆっくりと近付いてからベリュシュトラールをつきつける。この状態なら何をしでかすよりも早く、撃ち抜ける。
「あんたの組織の事、洗いざらいしゃべりな。数、場所、リーダーがいるならその詳細」
「……しゃ、しゃべると、思うの? な、仲間を……うひゃぅっ!」
ホムンクルスの片脚が撃たれてもがれる。ペトラは眉一つ動かさず、役人が何枚もある書類にハンコを押していくように、淡々と仕事をこなす。いまはホムンクルスの尋問がペトラの仕事だ。
「答えなかったら順に四肢を撃つ。ダルマになったら次は胴体、そのあとは目玉。再生を待って、しゃべるまでいつまでだって続ける。覚悟しなホムンクルス」
「数はたくさん! 場所は前にきみたちが戦っていた山の更に奥地! リーダーは『人型ホムンクルス』!」
すぐさまぺらぺらとしゃべりだした。まったくどもらずにしゃべっているところを聞くに、先程までは油断させる為の演技だったのかもしれない。
そして、要領を得ない先の2つの答えはともかくとして、最後のは明確な答えだった。
「『人型ホムンクルス』……!? そ、そいつの特徴は!?」
ペトラが声を荒げるのも無理はない。人型ホムンクルスとは、動物型とは一線を画す存在だ。爪や牙を持たない代わりに、知恵と精神力、何より人間と同じ闘争本能をもつ為に武装錬金を使いこなす。100体の動物型ホムンクルスより、1体の人型ホムンクルスを警戒すべきなのだ。
「え、えぇっと、目が2つで耳も2つ……あっ! 口と鼻は1つずつ!」
「……なんだ、コレは……!?」
「!!?」
慌てふためいてわめくホムンクルスにペトラがイライラしていると、後ろから闖入者を許してしまった。フェンスの音で誰かが来るとは思っていたが、想定よりずっと早い。両手に拳銃を持ち、フェンスに潰された異形を平然と見下ろす姿を見られてしまった。
「お前は……留学生!?」
「天兎、聡志……!」
巻き込んでしまったのは、休み時間にやってきたクラスメイトの聡志だった。驚きに顔を歪めている。
「あっ、こ、これは、ね! コスプレした不審者が校内に侵入してたっぽくて! そしたら急に上からフェンスが――」
「しゃあぁぁぁーーー!!」
何とか取り繕おうと聡に向き合った隙を突き、ホムンクルスは強く地面を蹴ってフェンスの下から抜け出した。そしてそのままの勢いでまだ固まっている聡志に襲い掛かろうとしている。
「ッ! クッソ! 危ない! 逃げてぇーー!!」
「武装、錬金!」
一瞬の出来事だった。結果的に、聡志はまったくの無傷。突如現れた人物によりホムンクルスは後方に吹き飛び、ペトラの放ったベリュシュトラールの弾丸で額の章印を撃ち抜かれた。うつ伏せに地面に倒れ、えづくような音を鳴らしながら身体が崩れていった。
「ぁがががが、が……」
「【
聡志の前に立っているケイが武装を解除する。呆然としているペトラに向かって小走りで近付いてくる。
「大丈夫か!? 怪我は……無さそうだな。あっ、でも転んだときに髪が汚れたな」
「なんっっっで! アンタがここにいんのよ不法侵入者! 大学は!? 来んなっつったわよね!?」
そこにいたのは、紛うことなきケイだった。ペトラの服の砂埃を払おうと手を出すが、叱責を受けては引っ込めざるをえない。
目を逸らしつつ、バツの悪そうな表情でゴニョゴニョと口を動かす。
「大学は休講で……自主的に」
「あんた、単位ヤバいんじゃないの!? 私のせいで留年になったりしたら絶対許さないからね!」
わめくペトラをおさめて向き直る。問題はまだ解決していない。
「……どういう、事だ……」
一歩も動かず、顔を俯いたまま、聡志はハッキリと尋ねる。
自分のせいで巻き込んで、命の危機にも晒してしまった手前、ペトラは強く出づらかった。
「あ~~っ……さっきも言ったけど、コスプレ不審者が入ってきてたみたいでぇ~。私の正義の心が許せない! ってイキリ立っちゃって……」
「ホムンクルス、だよ」
錬金戦団は完全に隠匿しているわけではないが、堂々と表沙汰にしているわけでもない。それはひとえにホムンクルスとの凄惨な戦いに巻き込まない為の配慮である。
だというのに、聡志に包み隠さずに話すケイにペトラは驚愕した。
「あんた、どうして……!?」
「彼は賢い子なんだ。中途半端に情報を与えたまま放置すると、好奇心から自分で調べようとして危険に飛び込むかもしれない。なら、むしろ教えた方がいい」
今日初めて知り合ったクラスメイトの情報をスラスラと話すケイを訝しむ目で見ていると、「あぁ」と思い出したように付け加えてきた。
「彼は天兎聡志。美雪の弟なんだ」
-5-
フェンスの落ちた音で校舎裏に人が集まり出してしまった為、見つかる前に3人は場所を変えた。浮いている転入生と完全な不法侵入者では、あらぬ誤解を生みかねない。
学校の敷地の外に出て、すぐ目の前にある学生たち御用達の小売店で3人は話の続きをした。小さいがイートインスペースもあり、飲み物を買って入った。
「つまり、世間から隠れている人喰いの化け物がいるんだ」
簡単に要約して説明する。主にホムンクルスの危険性を伝えるのを主とし、武装錬金についてはボカシておいた。何でもかんでも教えるわけではない。
「私はそいつらに対処する組織の派遣員ってとこね。もう解決したから安心してズズッ」
本当はまだ敵の本体が残っているのだが、無闇に不安を煽る必要もないとペトラは判断した。ちなみに一人だけ小さなカップ麺をすすっている。
しかし、聡志の表情は曇ったままだった。
「おい……はぐらかすな。肝心の事を聞いていないぞ」
ケイを睨みつけるように……というか目を細めて睨みつけながら聡志は言った。
「何故お前はそんな事を知っている……!」
適当に誤魔化す事も出来たかもしれないが、安全云々以前に、ケイは恋人の弟に嘘をつきたくなかった。
「俺も……その組織の一員だからだ」
「…………そうか。わかった」
その言葉が聞きたかったとばかりに、聡志は立ち上がった。それからはケイに一瞥もせずに店から出て行ってしまった。
「ちょっと……大丈夫なの? っていうかあんた何か目の敵にされてない?」
「あぁ……まぁ大丈夫だ。初めて会ったときからあんな感じだったし。それに、少し変わってるところはあるけど、決して美雪に心配を掛けるような事はしない子だからな」
この日を境に、聡志は行方をくらました。
-6-
時間は遡り、山奥の窪地を隠れ家としたホムンクルスたちの本拠地。そこを偵察していた
(ある程度の規模の組織だとは覚悟してたが、これはさすがに想定外やろ……!)
久坂の見えている範囲でも、騒いでいる動物型ホムンクルスの集団は200を超しているだろう。そして彼らの眼前、様々な廃材を積み上げて小高い丘となっている舞台の上で演説をしている、人型ホムンクルスだとおぼしき男。その後ろに同じような気配を持つ者が3人いた。