(あれも人型だとすると、戦団の記録でもそうはない、大規模な組織って事になる……)
いったいこれだけの集団がいままでどこに隠れ潜んでいたのか。諜報員としての自信を失って落ち込んでいると、演説していた人型ホムンクルスの空気が急に変わった。
「さて諸君。そろそろお開きのつもりだったが……招待状を届けていない部外者の方に登壇していただこうか」
「っ!!」
人型ホムンクルスの頭がぐるんっと回り、真っ直ぐ久坂のいる方を向けている。相当な距離があり表情どころか輪郭すらおぼろげなハズなのに、獲物を見据えた捕食者の目をしていると確信した。
(まずいっ……! 急いで逃げ――)
「キキキィーーー!!」
反転して脱出を試みた久坂だったが、突然目の前に現れたコウモリのような小型のホムンクルスたちに行く手を阻まれてしまった。そのまま落ちていき、問題なく着地は成功したが動物型ホムンクルスたちの群れの中心に降り立ってしまった。
(この数、捌き切れるか……? 考えろ! 一番層の薄い箇所を探して、そこから……!)
四方八方から襲い掛かられる……そう予想していた久坂の考えは外れた。先程まで大人気アイドルの大型ライブのような盛り上がりをしていたホムンクルスたちが、途端に棒立ちになり言葉を発さなくなっている。
「こちらに来たまえ。話をしようじゃないか」
その声に合わせて、動物型ホムンクルスたちが動き出してステージまでの道を作る。聖書のモーゼが海を割る記述を彷彿とさせた。
警戒しながらもゆっくりと近付いていき、そこで始めてリーダーらしき人型ホムンクルスの顔が見えた。
ごく普通の男の顔だ。痩せ型で欧米風の顔立ち。年齢は30代ほど。もっとも、ホムンクルスに見た目の年齢など何も意味をなさないが。
「……光栄やなぁ。ぼくみたいな末端の構成員相手に、組織のリーダーさんがお相手してくれるなんて」
言いながら久坂はステージにあがった。いまだに動物型ホムンクルスたちは姿勢良く整列したままで、ステージの後方にいる人型ホムンクルスと思われる他の面々も動こうとしない。リーダーに忠誠心が無いのか、それとも逆にリーダーへの実力を微塵も疑っていないからか。
「会話とは礼儀を尽くす事だと私は考える。そこに人間かホムンクルスかは、無関係だと思うね。そうは思わないか、みんな?」
「オォーー! その通りだ! ロゴス・リカン!」
リカンと呼ばれたホムンクルスたちのリーダーが観客に半身を向けると、それまで黙っていたホムンクルスの大群が再び堰を切ったように騒ぎ立てる。しかしリカンが久坂に向きを戻すと、少しの遅れもなく騒ぎがぴたりと止まった。ありえない統率力だ。
「……そりゃ同意見。ぼくらイイ飲み友達になれそう……っやね!」
勢いにのまれそうになるのを、得意の軽口でいなして久坂は懐から何かを放つ。それは真っ直ぐと相手に向かって飛んでいく。
「サビ臭い挨拶だな。それに、ホムンクルスになる前から私は下戸だよ」
久坂が放ったのは1本のナイフだった。しかし軽々と躱されて、後方へと飛んでいく。
「ツレないやん。もうちょい……付き合ってや! 『武装錬金』!」
まばたきをする間に状況が変わっていた。久坂が立っていた場所には1本のナイフが落ちていて、当の久坂はリカンの背後に突如現れ、手に持ったナイフで襲い掛かった。
「ヒュウ♪」「なんっスか!?」「ほっほ」
リカン以外の人型ホムンクルスたちが初めて驚きの声を上げた。
(【
敵は多くとも、リーダーを潰せばかなりの弱体化を見込めるハズだ。
その久坂の読みは外れていない。しかし実現する事は無かった。
「……なっ……!?」
「やはり……人間は汚いな。会話も楽しめないのなら……いっそ、嚙み砕いて、喰い散らそうか?」
ナイフの一撃は躱されも、敵を切り裂きもしなかった。頭だけを後ろに回し、鋭く、そして獰猛な牙で止めていた。その顔は目の下から顎にかけて部分的に変形していた。それは、完全に肉食獣のモノだった。
「もう、言葉はいらないな」
(コイツは……ヤバい! ……ケイ……来るなッ……!)
-7-
プルルルルッ プルル
「はい」
自宅にいたケイの携帯電話が鳴った。
先日の騒動で紛失して新しくした機種は、機械にとても疎いケイが美雪に頼んで付き添ってもらった最新型だ。さすがに最近出たというスマートフォンというものではないが、いろいろな機能があるらしい。ケイはまったく使いこなせていないが。
〔ケータイも新しくなって、準備万端ってトコ? ……おまたせ〕
通話の相手はペトラだ。顔を見ずとも、緊張しているのが伝わってくる。
ケイの返事は決まっていた。
〔……久坂の連絡が途絶えた。お願い、力を貸して……!〕
「あぁ、もちろんだ」
戦地に向かう戦士の覚悟は、とうに出来ていた。
ーつづく