Asyu-on Archive   作:非キヴォトス人のアコード

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17.血を浴びたシスター千人 肩を抱き地上に春を呼ぶ

遠くからキミが声を枯らして呼ぶような夜。

そんなキミをこの歌で迎えよう。

彼方からきたキミを。

 

****

 

「……ふぅ、びっくりしました…入った途端何かが作動して…」

「ごめん、てっきり襲撃かなにかだと……」

 

かつての虚無の修練による悪癖は、未だ忘れられていないようだ。

Phase-0に至る者だが、部分的にはまだ半分塵の中にあるといえるかもしれない。

 

「と、ところでどうして、シスターフッドの方がこちらに?」

「あ、それは…こちらに補習授業部の方々がいらっしゃると聞きまして……ただ、ハナコさんがここにいらっしゃることは存じておりませんでしたが…」

「…私も、成績が良くないので」

「そう、でしたか……はい…」

 

敬虔なる者としてを優先できるのは見事かな。

一言申し上げたそうではあるが。

さて、そうして少々会話のあった後、マリーは用件を話し始める。

曰く、アズサを訪ねてきたという。

 

「私?」

「はい。実は、先日アズサさんが助けてくださった生徒の方から、感謝をお伝えしたいとのことでして。諸事情ありまして、私が代わりに」

 

よくある陰湿な学内暴力の被害者であったという。シスターフッドにも相談が入っていたとのことだ。

その日も建物の裏手に呼び出されており、そこを偶然通りかかったアズサが助けたという話だった。

 

「…そういえば、そんなこともあったような。ただ、数に物を言わせて弱い対象を虐げる行為が目障りだっただけだ」

「そしてその後アズサさんに怒られた方が、正義実現委員会と連絡を取られて…どこで情報が歪曲されたのか分かりませんが、何やら正義実現委員会とアズサさんの間でそれなりの規模の戦闘に発展してしまったとか…」

 

その中でアズサは催涙弾の倉庫を占拠し、正義実現委員会の面々を相手にトラップなども駆使し、3時間の籠城戦を繰り広げたという。

そして最終的に、白ペストマスク姿で捕まった次第である。

 

「それってあの時の!?」

「何はどうあれ、売られた喧嘩は買う。あの時も弾薬が切れなければもっと長く戦えたし、場合によっては逃げ切れたのに」

「あ、あうぅ…」

 

ヒフミは話の大きさに怯え出している。

 

「それで、その方が報告も兼ねて私たちの元を訪ねてくださり、アズサさんに感謝をしたいと…ただ学園では見つけられずに、ここに辿り着いたという次第です」

「…そうか。別に、特別感謝されるようなことじゃない。それにあの事態そのものは気の毒だけど、いつまでも虐げられてるだけじゃダメ。それがたとえ虚しいことであっても、自らの足で立ち続けるのを諦めるべきじゃない」

「…そうかもしれませんね。はい、あの方にもそう伝えておきます。…アズサさんは、暴力を信奉する氷の魔女…だなんて噂がありましたが、やはり噂は噂ですね」

 

そのようなくだらぬ言葉で評することのできる立場にいない者たちが、気高く立ち続ける者の美しさを見定められるとも思えず。

そうしてマリーは用が終わり、ハナコに途中まで帰路を行くこととなった。

…やはり、彼女に対しての違和感は往々にして感じ取っていたが。

 

****

 

さて、この日も終わりが近づいてきた。

その夜、ヒフミは先生に用件があり約束をした。

時間になりノックがする…扉を開けると。

 

「こんばんは、先生」

“…!?”

 

一つの意味もなくスクール水着になったハナコがいた。

 

「うふふっ、まあお気になさらず。それより先生、ちょっと相談したいことがありまして…実は….アズサちゃんのことなのですが」

“アズサ…?”

 

一転した空気。本来持ち得る姿が垣間見える。

 

…しかしここで本来の約束をしていたヒフミが来訪した結果、珍妙なすったもんだが巻き起こり、どうにか双方落ち着かせて改めて話をする。

 

“ハナコ、さっきの話の続きは今じゃない方が良い?”

「いえ、今で大丈夫です。ヒフミちゃんも一緒に聞いていただければと思います」

 

曰く、アズサは毎夜どこかへ出かけては夜明けまで戻らないことが続いているという。

最初は慣れない場所で眠れないのだろうと考えていたが、明らかに違うと推察しているようだ。ヒフミもアズサの様子には思い当たる点がある様子。

 

「アズサちゃんが一体何をしているのかは分かりません。ですがそろそろ、多少無理やりにでも寝かせてあげないといけないのでは、と。何だかアズサちゃん…どこか、すごく不安そうで」

 

事情はともかく、そういった様子を和らげられないかと考えているようだ。

 

「このままですと、いつかは倒れてしまいます。先生とヒフミちゃんも、ですよ?しっかり寝ないとダメです。確かに試験も大切ですが、ただ落第というだけです。身体の健康と比べられるようなものではないと思いませんか?」

“……それは…”

 

一般的にはそうなのかもしれない。

しかしこの補習授業部は、それで済む話ではない。

 

「あと2回、どちらの試験も不合格だったら……退学なんです!私たちは、トリニティを去らないといけないんです…!!」

 

****

 

ハナコへ、補習授業部の事情について語る。

それを聞いてハナコは、2点のことに気付く。

 

校則的にも、手続きを踏まねばそのような暴力的な権限は行使できない。

しかし、シャーレの持つ超法規的権限を逆手に取るような形で、それを強引に突破せしめたということ。

 

それにすぐ気付けるところについて思い当たる節があり、ヒフミはハナコの才について尋ねる。

理由は伏せたが、ハナコは認めた。件の話を知らなかったからと、許されるような行動ではなかったとも。

 

「ところで…この事実を知っているのは、ヒフミちゃんと先生だけですか?」

「そうですね、私たち以外はまだ誰も…」

「…となると、アズサちゃんの不安はこの件に起因するものではなさそうですね。何か私がまだ知らないことがある、と……いえ。それ以上に今は、この補習授業部の存在そのものが気になります」

 

語られたことをすぐにまとめ、補習授業部の存在理由にも行き着く。エデン条約を阻害しようとする疑惑のある者たちの集いであることに。

 

“!?”

「アズサちゃんは転入してきた時期、または私たちの知り得ない部分で疑われているのかもしれません。コハルちゃんは、どうして…強いて言えば、正義実現委員会の人質という観点なら無茶ではありつつも、納得はできますが……あら、そう考えると、ヒフミちゃんはどうして容疑者になっているんです?ナギサさんと親しかったはずでは?」

「えっ!?わ、私もやっぱり…!?た、確かに、親しくさせていただいていたような感じですが…ど、どうして私なのでしょう…?」

“………”

 

ぷ。自覚なくてぷ。

そうして力強い推理担当を得た先生とヒフミは、深夜の密会を3人で行うこととなっていく。

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