Asyu-on Archive   作:非キヴォトス人のアコード

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20.長い突堤 陽はさんさんと至れり

どうやら世界の花に見そめられてしまったようだ。

宇宙の歌に憩わされ、そちらの方にいるままらしい。

詐欺の加担者から脱却する道標は見えていたのに。

こちらの迷い人は、発端島を見ているぞ。

 

****

 

未だ眠れなかったヒフミは、結局先生の部屋にいた。

押し付けられた不安。睡眠もままならないのは必然だろう。

そうしていると、ハナコもコハルもやってくる。

コハルもまた緊張感に苛まれた末であり、そしてハナコは前話の件からそのまま、ということだ。

どうやらあの密会については話さなかったが、その後にシスターフッドとの接触をしていたことについては開示した。

 

さて、その結果として手にした情報は実に重要かつ露骨である。

試験会場の第19分館…この後相当数の正義実現委員会の人員が割かれ、建物全体を隔離するという。

 

「『エデン条約に必要な重要書類を保護する』という名目でティーパーティーから要請があり、建物全体を正義実現委員会として守る厳戒態勢に入ったとか。それから、どうやら本館の方にも戒厳令が出ているようです。昨日から変に静かだったのは、このせいみたいです」

「戒厳令…そ、そんなの聞いたことないです……」

 

こうなれば、恐らく誰ひとりとして建物への出入りは許可されない。エデン条約締結の時までは。

つまりは試験を受けたくば、正義実現委員会を敵に回せと言っているのと同義である。

ステルス某が狂人と言われるくらいなら、彼女はどうなるのだろうか?

 

「全く……どうやらナギサさんは、本気で私たちを退学にさせようとしているようですね」

「どうして、そこまで…」

 

 

 

「…私の、いや…私と私の仲間たちのせいなのかもしれない」

「アズサちゃん!?ど、どこに行ってたんですか!?」

「みんな、これから話すことは重要なことだから、聞いていてほしい。ここまで来たら、隠してはおけない…」

 

アズサはそうして、切々と語り始める。

 

「……ティーパーティーのナギサが探してる『トリニティの裏切り者』は、私のことを言っているのだと思う」

「……はい?」

「…きゅ、急に何の話…?」

「私はもともとアリウスの出身。今は色々な奇跡が重なって、トリニティに在籍させてもらっている」

「あ、アリウス?色々な奇跡…?」

「えっと、何それ…アリウス…?」

「アリウス…かつてトリニティの連合に反対した分派のことです。その反発のせいでトラブルとなり、その後はキヴォトスのどこかに身を潜めてひっそりと過ごしていると聞きましたが…」

「そう、私はここに来るまで、すっとアリウスの自治区にいた。そしてある任務を兼ねた上で、この学園で生活することが出来ている」

 

その任務というのは、来たる時にやってくる、ティーパーティーの桐藤ナギサのヘイローを破壊しようと画策する者たちを撃退すること。

なぜそうした事態になったのか。

 

「今アリウスは、2つに分かれてしまっている。未だトリニティを恨み続けている『分校派』と、トリニティを恨む前に出来ることがあると立ち上がった『ユニオン派』があって、私は後者の立場。前者の方は、ティーパーティーを消すためなら何でもしようという覚悟でいる」

 

「分校派」という言葉が出てきたが、前話でサオリが言っていた「彼女ら」のことである。

 

「アリウスの中でも派閥が…!?」

「分校派はティーパーティーのメンバーであるミカを騙して、アリウスは一枚岩であるように見せている。詳細は知らないけど、きっとみんながトリニティと和解したいとか、そういう嘘をついているんだろう」

「なるほど、ミカさんを……確かに彼女は政治には向いていないと言われていましたが……おそらくその分校派は全てが終わった後、その罪をミカさんに着せる…そういう流れを想定しているんでしょうか。アリウスがトリニティを憎んでいるということは知っていましたが、内情は思ったより複雑なようですね…」

 

何も知らないコハルから、何故補習授業部と関係の無さそうな話が出ているのかという言葉が出る。

 

「明日の朝、分校派の生徒たちがナギサを狙ってトリニティに潜入してくる。私の役目を果たす時が来てしまった」

「あ、明日…!?」

「うん、私はそれをどうにか阻止しないと」

 

本館には戒厳令が発出され、最後の試験でのナギサの発狂もあり、正義実現委員会は本館にいないタイミング。

いわば要人襲撃日和である。

 

「遠因とはいえ、私の存在がナギサを苦しめているのは事実だと思う。そして私のせいで、補習授業部はこんな危機に陥っているとも言える。本当にごめん。私のことを恨んでほしい。今のこの状況は全て、アリウスのことを持ち込んだ私がもたらしたことだから…」

“…それは違うよ”

 

先生が言うのはその通りだ。

ナギサが他者を信じられれば。

ミカがナギサを信じられれば。

仲深まるほどに消えていった口数が、この事態を招いたのは自明である。

 

「そうですね、そうかもしれません。誰も信じられなくなってしまった人を変えることは難しいです。誰かを信じるということ自体、元々難しいことですし…ですがアズサちゃんは、私たちにこうして本心を語ってくれました。直接的に悪いわけではないのに、謝ってもくれました」

 

その姿に、ハナコも感慨を抱いていた。

ようやく学べる環境を手に入れただけの人であり、そして全てが虚しいことだとしても抵抗をやめる理由にならないと唱えられる人。

そんな姿に、覚悟を見出していた。

 

「桐藤ナギサさん…彼女を、分校派の襲撃からの護衛を、私も手伝います。そして私たちは私たちで無事に試験を受け、合格するのです」

 

補習授業部から打って出る。

その覚悟を示す姿は、Timelineの始まりへ向かう者そのものであった。

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