Asyu-on Archive 作:非キヴォトス人のアコード
“そこまでにしておいて”
多勢に無勢でありながら言葉で圧倒するアツコを制する声。
先生がやってきた。
「ああ、あなたのことは伝え聞いてるよ。じゃあ先生がそう言ってることだから、ここまでにしておくね」
「ひぃ………」
大志を掲げていた様が見るも無惨なパテルの少女たち。
“…そもそも何が?コハルからここにって言われて来たんだけど…”
「う、うん…たまたま見ちゃって止めた方がいいと思ったけど、多分あの子の方が正しいこと言ってるから…どうしたらいいか分からなくて…」
本来のTimelineにおけるこの場面に役割を持つ少女は、先生への伝聞役として機能した。
「要約すると、パテル派の子たちが今回の混乱に乗じて独断専行し、ゲヘナへ宣戦布告をしようとした。私がおど…落ち着かせたし、はなからミカもその神輿に乗る気がなかったから未遂に終わったけどね」
「…アツコの言う通りだよ」
「そ、そんな…彼女に止められていなくても、無駄だった…?」
「そもそもね?私がゲヘナ嫌いなのは正直なんとなくでしかなくて。きっとこうなったのも……ゲヘナが嫌いなことに…無理矢理、理由を付けて、納得しようと…し過ぎた、せい……………どうして、こうなっちゃったんだろ……会いたい…セイアちゃんとナギちゃんに…ちゃんと、あやまりたい……」
己が力で省みることを果たし、自己の開錠を行うミカ。
双眸の雨が枷を打つ。
****
先生がトリニティの生徒、ゲヘナの生徒をまとめようと動き出した時であった。
「戦線復帰に時間がかかったようですが」
“…え?”
頃合いでしょう。
ステルス某と先生の初邂逅が起こるには丁度いい日和であります。
「『ステルス』とでもお呼びください。所詮私は吟じる下足番で奏でる用務員ですから」
“えっと…?”
「夢の世界に閉じ籠った少女に、ゲマトリアが云々の講釈を垂れられていませんでしたか?私はそのいずれかであります」
“ゲマトリア…!?”
警戒心が高まるのは当然でしょう。
「実質的に味方するほう」か、「敵対するほう」か。いずれにせよ「ゲマトリアという存在」が先生にとっては警戒対象であります故。
“どちらだ…”
「私はヒトがヒトたることを望むだけであります。オマエも生徒が生徒たることを願っているらしいですが」
“サオリやあの生徒がいるのは”
「彼女たちがここに立つのは自らの意思です。自らの意思で、今回の主犯らと袂を分つこととなったことへ、責任を果たしに来たまでであります」
“責任…?”
「子どもにも、必要最低限の取るべき責任はあるということであります。私はそれに少々の手添えをするのが役目である為に」
“……あなたは、似ている?”
「それは目指す地点だけではないかと。あなたは必要とあれば、子どもが果たすべき責任を拾うことも厭わないでしょ?」
“『大人』として必要であれば”
“するべきことだから”
「それが無責任であると言っています」
“え?”
「他者にとってヒトのヒトたらしめるのに必要なものさえも、掠め取っている可能性があると思索したことは?他者が担うべき責任を、強引に掠め取っている可能性を考慮したことは?巡り巡って、『子どもに対しての搾取』をしていないかと顧みたことは?」
“…!?”
「とはいえ所詮は、通りすがりの人間がした余計な講釈でありますので」
少々意地の悪いことを言ったでしょうか。
過程をどのようにするかは各々のスタンスでありましょう。
「ただし、少なくとも今回は『大人』の手口へ『大人』のやり方で返す必要がある。オマエの出番はすぐそこであります、なのでとっととお行きなさい」
“もちろん”
“…この先敵にならないことを祈るよ”
「ごきげんよう」
****
荒もうとオマエはオマエであります。
他者のようにと望むことは出来ようが、結局他者にはなれない。
あなたが空崎ヒナである所以であります。
起きろ、清廉の雨は降ってくる。
「……今のは…」
眠りが途絶え夢から覚めるヒナ。
そんな彼女を訪ねる人が現れる。
「…っ、先生…もう体調は大丈夫なのね…どうやってここを…?まあ先生には、今さらか……」
“ヒナ……”
「…私は…その……私には、分からないの。あの
“それでも、助けてくれてありがとう。そう言いに来たんだ”
“それに、いつも頑張ってくれてありがとうって、早く言ってあげるべきだった”
「…!」
“ヒナは頑張り過ぎてるくらいに頑張ってたから”
不意に夢の言葉を思い出す。
「……さっきの変な夢、意味がわかったかもしれない…」
“変な夢?”
「『他者のようにと望むことは出来ようが、結局他者にはなれない』……そんな言葉が聞こえてきたの……。私は…あの人にも、小鳥遊ホシノにもなれない…なる必要がない。私は私であることしかできない。…あっ、これは悲観的になっているわけじゃなくて、好意的な言葉だから」
“なら、よかった”
再起する少女は、再び戦地へ向かった。
****
さらに時間の経過する中で、アリウススクワッドとアツコを除くアリウスユニオン生徒会+アズサは戦闘になろうとしていた。
「あなたたちというのは、本当に……」
4人はただ、体制を整えつつも冷静であった。
「何故です、何故自らの足で立とうと出来るんですか…!」
そして、囚われの少女は未だに理解は出来ていない。
あるいは、理解して尚。
「…何故足掻こうとするんです、あなたたちは。そこに何の意味があって、何を証明しようとしているんです」
「えへへ…それがヒトだと思うから、でしょうか」
「アンタたちがどういう考えで未だに他人を呪うのかは、もうここまで来たらどうでもよくてさ。そこに『本当の自分の意志』があるのかは気になるね」
仲を違えることとなった理由は我らにありと自認する故は、アリウスの中で派閥が生まれたことにある。
ユニオン派の生徒たちの中で自身の意思を理解したことにより生まれたものを、現在の分校派は理解できなかったそのために。
事実として自分の意志ではなく、与えられた意志を信じた結果がこれだ。
「…自分の意志…………自分の意志です、言われなくとも…!!」
怒りに飲まれかけた時、ある少女たちが現れる。
「…!ヒフミ…?」
「なんやそいつら」
「増援ですかねぇ、数は4…ちゃうね、後ろにそれ以上…」
補習授業部の残り3人と先生を筆頭に、ヒフミの為に集ったアビドス高等学校の面々、再起したトリニティ総合学院とゲヘナ学園の面々。
「まあ、包囲されてまいましたね」
「こらあかんわスバル、流石にきついぞ」
「…知りませんよ…そんなことで、止まれないんですよ…!」