Asyu-on Archive 作:非キヴォトス人のアコード
“先に質問させて。『彼女』って何者?”
物語は前回の先生と生徒の対話、その続きからである。
オマエタチは知っていても、先生はまだ永遠の淑女を騙る詐欺師のシルエットを掴み切れてはいないからだ。
「『彼女』は分校派のトップであり、そしてかつてアリウス分校の主人でした。私たちは『彼女』と呼んだり…分校派の他の生徒からは『マダム』とも呼ばれています。ただ…数度しか姿を見たことはないんです」
「元のアリウス分校だった頃の私も、数回程度しか見ていない。背が高く、赤い肌で、白いドレスを纏う大人だったと記憶している。名をベアトリーチェ…当時は私よりも、アツコがよく彼女と会っていた」
「……マイアの方が私より会っていたとも、付け加えておきます」
話に違和感があることに気付く。先生は尋ねた。
“ちなみにだけど…”
“どうして『彼女』は、元々のアリウスの主人ではなくなったの?”
「それについては私から話そうか。それは、師匠の御業ともいえる力と、その力に励起された私たちの力が理由と言おう。ただ、師匠曰くアリウスからの追放に使った技で『彼女』をキヴォトスの外まで連れて行こうとしたようだが、どうしてもそれが叶わなかったという。…この分断の理由でもある」
“師匠って…あの人かな…”
私です。
“話を戻して……他の『スクワッド』はどうしているの?”
「……皇女が連れ去られてから、すぐに襲撃を受けましたが…そこを捜索していたサオリたちに助けられ……」
「シアンはミサキ、ソウカはヒヨリと共に行動している。ただ、分校派にまだ追われている可能性を考慮して、合流はまだしていないといったところだ」
“連れ去られたマイアがどこにいるのかは分かる?”
「……アリウス分校臨時自治区と呼称していますが…自治区というにはあまりにも似つかわしくない土地……そこの廃墟化した聖堂の地下に、『彼女』が用意した秘密の至聖所があります。おそらくそこかと」
「理由はともかくとしてだが…本来ならアツコが『生贄』に捧げられるかもしれなかった、アリウス・バシリカの代わりといったところだろう」
アリウス・バシリカという単語は「本来のTimeline」との比較に丁度良い。この先出てくることは無いだろうから、オマエタチは忘れてしまっても差し支えはない。
続けてスバルは言う。
マイアは以前より、いつかそこで『生贄』捧げられると口にしていたと。
そして、贄を伴った儀式は…明日の夜明けと共に行うと『彼女』は語っていたと。
「……皇女に残された時間は…もうないのかもしれません…」
皇女という言い回しも鼻につく。
高貴なる血統の姫の代わりに、市民の国民くじによって祭り立てあげられている皇女という意味不明で気色の悪い構図だ。
“…分かった。状況は大体把握したよ”
この者に、最早手を貸さぬ理由はない。
「……本当、に?手を貸して、くれるのですか…?」
“生徒のお願いは無碍にできないからね”
「言っただろうスバル。先生はそれだけの理由で手を貸すし、貸せる人だと」
「……そんな。未遂とはいえ…私は、あなたを撃とうとしたのに。あなたの命を奪おうとしたのに、どうしてそんな簡単に……分かりません……」
“でも、爆弾は没収”
「あ、ああ、そうでしたね。約束通り……これが起爆装置です。いつでもこれを押してもらって…」
「いや、本体と合わせて渡しておけ」
“そうだね、本体も一緒に没収”
「えぇ…?うーん、それなら渡しておきますが…まあ、起爆装置なしでは、それは絶対に爆発しないので」
“それはよかった”
“生徒が危険物を持っているのを、見過ごすわけにはいかないからね”
そういって本体も受け取った刹那、起爆装置をおっかいた。
…おっかくは方言で砕くとか割るとかの意味だ。
「な、何を…!?」
「まあ、そうするだろうと思った」
「何を冷静に分析しているんですサオリ……!」
“さあ、時間はないよ。急ごう”
“先に4人と合流するよ”
「ああ、そうしよう」
「えっ、ちょっ…ま、待ってください…!!」
****
かつて共に無益なる教練に励んだ者たち。
ここにきて、その教練は有益なものとなっている。
幾年ぶりに共同戦線を張る2名は見事なる連携。
ソウカとヒヨリの付近にいた分校派を見事壊滅させた。
「ヒヨリ、大丈夫か」
「あ、サオリさん!えへへ、なんとか…」
「ソウカ、無事ですか!?」
「……あらまあ、スバルさんやないですか。どうしてここが………………はあ!?なんでアンタがシャーレの先生とおんねん!!」
「それは……」
「ソウカちゃん落ち着いて…わ、私もちょっと驚きましたが…」
「ついに天罰の時でも来はったんやろか!!とうとううちも終いの時っちゅうことや!!そやろ!?よう考えてみい、せんせはうちらを分校派から取り返したいに決まっとる!!自分の手ぇでぶちまわしたいに決まっとるからなぁ!!」
佃ソウカという少女は、素顔は随分と激情的らしい。一人称も変わっていらっしゃる。
「お、おい…」
「……あらぁ?仮にそうやったとしてぇ?なんでせんせとスバルはんとサオリはんが一緒におられるんやろぉ?……ああ、うち完璧に理解できたわぁ」
「ソウカ……」
「スバルはん、アンタ2人に脅されとるんちゃうんか!?アンタも苦痛まみれの人生やなぁ、可哀想に……」
“ソウカを助けに来たよ”
「………。はい?う、うちを?な、なんでぇ?」
迫力の鬼気迫る顔はとぼけた顔に様変わり。
「先生の言う通りです、ソウカ。『シャーレ』の先生が、私たちの手助けをしてくれます」
「はい…!?」
“事情は聞いたよ。一緒にマイアを助けよう”
「そやねぇ…皇女サマ……ほんまにうちらで…皇女サマを助けられるんやろか……」
数刻の沈黙。
ソウカは瞬刻、凛と咲く花に例えられるほどの姿で思考を重ねた。
「ほんまにやるんやね?…どうせ乗りかかった船やし…私も、まだその船に乗らせてもらいます」
「…では、詳しい話は全員集まってからにしましょう。シアンを探し出します」
「そうですねぇ。シアンさんなら、この状況をもう少し上手く説明してくれるかもしれませんし…わかりました。シアンさんのいそうなところは、なんとなく見当もつきますし」
「ええ、ミサキも付いているならおそらくあの場所でしょう」
****
朽ちたコンクリート製の橋の下。
ソウカたちが見当をつけた場所はここである。
「……よう分かったな」
「ああ。まあ、思った通りだね」
そこにシアンとミサキは、共に膝を抱えて座っていた。
「シアン…」
「シアンさん…」
「ほんまなら、この橋の上に居るはずやった」
「それをするかどうかはシアン次第だったけど、しなかった」
「はっ…お前がおるからやアホンダラ」
ニヒリズム的思考に囚われている。
「本来のTimeline」におけるミサキの役割を見事に担い切っているといえよう。
「スバルにソウカ、サオリもヒヨリもおって…『シャーレ』の先生までお揃いかいな。その選択をしたんやな、お前。まさかスバルが、な……そして、先生もそれを受け入れた……意外ったらありゃせんけど」
「言ったよ、そういう大人らしいって」
「やかましわミサキ……けどな、私たちは言われとることがある。『先生』を始末すれば、臨時自治区に戻れるってな」
“…!”
「そこんおるスバルとソウカも、同じこと言われとるはずや」
「…そうですねぇ、その提案は聞いています」
「ええ…言われましたよ。先生を始末すれば私たちの裏切りを許す、と」
「……ユニオン派が見張っとる中とはいえ…いつ後ろから引き金を引くかわからん奴、アンタは信用するっちゅうんか?」
「……」
“スバルがその気だったら、とっくに私は無事じゃないよ”
「さいでっか……それもそうやな」
そう言うと、何かを振り切るように立ち上がる。
「ほんなら、まだまだスバルに着いて行くとする。最後までお供させてもらいますわ」
「…ええ、お願いします」
「そうと決まったら急ぐで。90分で突入せなかん」
「…そうでしたね、急ぎましょう。説明は向かいながらで…行きますよ」
「おう」
「はい」
そしてアリウスユニオンの少女たちも。
「私たちも行くぞ」
「うん」
「はいっ…!」
集える者は一旦集った。
かつての同胞が、同じ方へ向いている。
そして、最後に星のかけらを拾いに行こう。