Asyu-on Archive 作:非キヴォトス人のアコード
本来は伴奏なき単旋律の音楽が聴こえる。
主よ、憐れみたまえと。
「この歌は…」
「これは…kyrie eleison、やな」
『私はかつて言ったはずだ。いかなるヒトであろうとも、オマエがオマエであることを思い出す権利を有すると。私はかつて言ったはずだ。それを理解できないオマエは、ある意味では死せども救われないと』
「…!!!」
会人が現れ、携えたスピーカーより響く『用務員』の声。
『偶然ながらオマエがオマエであることを思い出す最後の機会が、オマエにも与えられた。だがものの見事に無碍にした。それがこのザマであります』
「…『ステルス』…!!」
『最早偽りの教義は完全に潰えた。従える者もありはしない。それでも今のオマエがオマエであると踊り続けるか?それともどうだ…それとも、と本当のオマエをもう一度探し出すか?』
「やめろ…!!私にぃ…!!そのような言葉をォォ!!」
やはり救えないし救われないものだ。
再び醜い茨へと逃げ隠れるように態様を変えていく。
スバルへ、その茨を差し向けようとした時。
“…これ以上生徒に触れるな”
“あなたが怒りに狂うのと同じように、私もあなたに対して激怒している”
“お前を許すことはない”
振り払うように、そして言葉に呼応するようにサオリによる射撃がヒット。
そしてあとに続く少女たちにより、形容するまでもなく完膚なきまでに叩き潰された。
「……はぁ…はぁ…終わりです…これで」
「んなら、皇女サマを!!」
「まだあっこやな!」
磔から降ろされたマイア。
「…あん棘で外傷が…出血も大概なもんや…」
「皇女サマ…」
「マイア…お願いです…目を開けてください…目を覚ましてください……」
黙して意識を取り戻すのを待つ。
…。
…。
…。
「………スバル、先輩?」
「マイア…!!」
「皇女…」
「ああ良かった皇女サマ!!気ぃ付いたんやね!?」
再び言葉を交わせたことへの喜び。
スバルは思わずマイアを抱き寄せた。
「マイア…!!!」
「あ…先輩…?」
「良かった……本当に、よかった…」
「……え、あ、はい…?」
「……うっ……くぅっ……」
「先輩…泣かないで。私は大丈夫ですから。先生が手伝ってくれたんですね…?」
「ええ…そうです…」
他方先生は、倒れた『保護者』に近付く。
しかしそれを制止する2人の影。
「ここから先、彼女の沙汰は」
「わたくしどもにお任せを」
“…!?キミたちは彼の…”
「ヒトでありながら、ヒトという存在ではなく」
「キヴォトスの人間でなければ、『外の人間』でもない」
「「そんなわたくしどもと、『外の人間』のかの者に」」
そう。先程よりさも当然のようにこの事態を観覧していた、会人たちが動き出した。
“な…何をする気…?”
「あれは…最近になって『用務員』殿の連れ出した付き人ですか。ベアトリーチェを何処かに運んでいるようですが…何をする気でありましょう、『用務員』殿は」
「どういうこった…」
本来与えられていた出る幕を奪われたゴルコンダとデカルコマニー。
その事象を最後まで影より見守る事を選択した。
****
「起きろ外道、そしておやすみこれ即ちこんにちは」
…『保護者』だったもの、ベアトリーチェが目を覚ます。
最早『舞台装置』の役目さえ降ろされた。
そんな何もなき者が目を覚ました。
「……ぐぅ…ス、ステ…ルス…」
「舞台装置の役目さえも残らぬ者よ、せめてその輪廻の時くらいは祈念してやるからありがたく思いなさい」
「り、輪廻の…時……?」
気付いていないようだが、その身は蜘蛛の巣にでも囚われたかのような形で磔の状態だ。
「最期は輪廻の花として、望まぬ『崇高』の下でゆくがいい」
鉄の戸は閉められる。
数刻すると、マシンによる励起が始まる。
「な……こ、これは…!?」
気付いた時には遅い。
永遠の淑女擬きを依代に、大ロタティオンは起こったのだ。
黄金の月 草の露に幾万も登り
唯一に来る夜の牢で 打たれるキミの夢に咲く
瞬く間にも数千の 朝よ訪れよ
パラレルに行く船団に 全てのキミの日を乗せて
遥かなる過去、遥かなる今日、そして遥かなる明日を蔑んだ存在が、輪廻の象徴となる。
皮肉なものだろう?
ランダムに行く雲のように 生まれてたはずと
千年を知るキミの声が 全ての月に木霊する
咲け輪廻のOH 咲けロータスOH
響け千年よOH 響け毎秒にOH
プロペラを回しながら、天へ駆け上がる異様なロケット。
友の捜索の為、戦力を総動員した少女はそれを遠くより見ていた。
「な…なんですか…あれは…」
「ナギサ様、今は先を急ぎましょう」
「…そっスね。謎に聴こえてくる歌的にも、多分悪い事は起きてないっぽいっスから」
****
「はー疲れた…そろそろ、色々と片付いたのかな」
少々傷を付けながら、それほど身は汚してはいない。
2つの祈りによるものか、聖女たちは既に1人として立ってはいなかった。
助太刀はありながらも、ほぼ独力でミカは戦い抜いたのである。
“ミカ、大丈夫?”
彼女の行く末の前に、生徒の元へ駆けつける先生。
「…先生!うん、どうにか」
“『用務員』は…”
「用務員…あのオジサマのこと?『荼毘の準備がある』って、どこかへ行っちゃったよ?外の方からすごい音もしてたけど…」
“…!”
外へ駆ける先生。
そして、地上へ辿り着き、空を見上げると。
“……蓮”
忘れたキミの目覚めを見た。
全てのキミを記すように。
すなわち天には、機甲の巨大な蓮が咲いている。