"赤羽輪廻"が「自分」という存在をはっきり意識し始めた頃には、
すでに隣には兄がいた。
"赤羽業(カルマ)"
自分とは色の違う赤い髪で、同じくらい口が悪くて、
大人の言葉をいちいち茶化す厄介な双子の兄。
輪廻は、その隣でいつも笑っていた。
「カルマ、それ言ったら怒られるよ」
「えー? 事実じゃん」
「ほら見ろ、先生の顔」
いつも二人並んで、怒られる。
けれど輪廻は、
怒られている空気すら楽しかった。
(なんでみんな、こんなに真面目なんだろ)
幼い輪廻にとって、
世界は“からかうと面白いもの”で満ちていた。
◆
輪廻は、落ち着きがなかった。
思いついたら即行動。考えるより先に体が動いてしまうような子供だった。
ソファから飛んだり
階段を三段飛ばしなんてザラにある
公園では一番高い場所に登ったりよく親にも怒られたりした
止められても、
ニヤニヤしながら言う。
「だってさ、できそうだったし」
できそう、ではない。
できてしまう。
生まれてからこれでも怪我なんてしたことないし完璧だった
転ばない。
ぶつからない。
危ない瞬間すら、なぜか回避できる。
カルマはそれを横目で見ながら言った。
「お前、身体おかしいよ」
輪廻は笑った。
「褒めてる?」
「半分は」
◆
カルマは頭が良かった。
遊びのクイズ。
言葉遊び。
学内のテスト
大人への皮肉。
どれも輪廻は勝てない。輪廻自身も兄以外には負けることは無かったが兄にはどうしても頭で勝つことが出来なかった。
何度やっても、
最後に笑うのは兄だった。
「はい、また俺の勝ち」
「ちぇー」
輪廻は悔しそうにしながらも、
どこか楽しそうだった。
代わりに、
身体を使う遊びでは違った。
鬼ごっこ。
かけっこ。
取っ組み合い。
カルマは最初から勝つ気がない。
「無理無理、勝てるわけない。」
輪廻はそれが不満だった。
「ちゃんとやれよ」
「怪我したくないし」
「つまんねーなぁ」
――この頃から、
輪廻は無意識に思っていた。
(俺は、頭じゃカルマに勝てない)
(だったら、別の場所で勝てばいい)
その考えは、
だんだんと根を張っていく。
◆
小学校に上がると、
二人はすぐに有名になった。
カルマは、問題発言担当。
先生の矛盾を突き、
クラスを笑わせ、
わざと怒られる。
輪廻も真似してよく怒られた
ただ輪廻自身も…
遊具から落ちそうになっても平然としてたり、怒られそうになって逃げ出すと大人でも捕まれることに苦労するほどの問題児であった
教師は頭を抱えた。
「赤羽兄弟……」
輪廻は、その視線すら楽しんでいた。
(見られてる)
(期待されてる?)
それが全く違う感情だと…
恐れられているのだと気づくのは、
もう少し後だ。
◆
小学四年生のある日。
カルマが、上級生達に絡まれた。
理由は単純。
口が悪く生意気だったからだ。
輪廻は少し離れた場所から、
その様子を眺めていた。
最初は、笑っていた。
(あー、またやってる)
輪廻がこのように余裕を見出せていたのも、カルマや輪廻自身このような経験はすでに何度も経験しており今回も以前と同じだと決めつけていた
だが、流石のカルマも6年生たち複数人相手だと厳しく
カルマが地面に押さえつけられた瞬間。
輪廻の中で、
何かが弾けた。
考えはなかった。
怖さも、迷いもない。
ただ、
身体が前に出た。
走って、
跳んで、
殴った。
上級生は一瞬で倒れた。
輪廻は息を切らしながら、
それでも笑っていた。
「ほら、離せって言ったじゃん」
そしてカルマから発せられるその声は明るく、
あまりにも軽かった。
周囲は静まり返っていた
◆
あれから数年後俺たちは中学に入学する年になった。
俺たちが入学する椚ヶ丘中学校は、東京都椚ヶ丘市にある進学校で、学校法人椚ヶ丘学園が設立した私立中学校らしく偏差値は66と高く文武両道を掲げている学校だった。
本来は私立じゃなく普通の公立の中学でも良かったんだけど親の影響と俺たちの小学校での出来事もあって新しく中学の受験をすることに至ったのだった
俺たちが校門をくぐった瞬間、空気が変わるのを輪廻は感じた。
舗装された通学路の先、切り取られたように整えられた花壇、無駄のない掲示板。
すべてが整然としていて、同時に冷たい。
ここでは、はみ出したものは最初から想定されていない。
そんな場所だった。
「すげーな、ここ」
隣でカルマが楽しそうに呟く。
その声には、警戒も緊張も含まれていない。
むしろ、獲物を見つけた猫のような軽さがあった。
輪廻は何も言わなかった。
兄のそういう声色を、これまで何度も聞いてきたからだ。
面白そうだと思った場所で、カルマは必ず何かを試す。
そして、たいていは――
入学式の最中、校長の話はほとんど耳に入らなかった。
輪廻の意識は、壇上ではなく、前方に座る教師たちの視線に向いていた。
視線は均一ではないような気がした。
生徒全体を見ているふりをしながら、はっきりと特定の場所で止まる。
成績上位者の名簿。
それを、もうこの時点で、彼らは頭の中に持っている。
輪廻は、なんとなくカルマほどこの学校に対して期待はしていなかった
⸻
一年生の最初の頃は、まだ平穏だった。
カルマは授業中、よく手を挙げ意見や回答をよくする。
だがそれは、教師に気に入られるためではない。
教科書の行間をなぞるような質問や、わざと遠回りな答え方で、
教師の思考を一瞬止める。
そのたびに教室が静まり返る。
教師は一拍遅れて言葉を選び、
結局、黒板に書いた答えをなぞるように説明する。
輪廻は、それを後ろの席から見ていた。
――また揶揄ってるよ
人を。
この学校を。
ここで通用する「正しさ」を。
教師たちは最初、笑って受け流していた。
だが、次第に表情が硬くなっていくのが、輪廻には分かった。
それでも、カルマの答案は常に上位にあった。
テストの返却日、教師はカルマと輪廻の名前を読み上げる時だけ、声の調子が違う。
その違和感が、輪廻の胸に積もっていった。
◆
2年生になってから、校内の空気ははっきりと変わった。
成績がすべてを決める。
その事実が、より露骨になった。
廊下ですれ違う教師たちの視線は、
成績上位の生徒に対してだけ、ほんのわずかに柔らぐ。
それ以外は、視界に入っていないかのようだ。
あ、変わったことと言えばカルマがたまに俺以外の奴といることがある。…名前なんだっけな。…潮田…潮田だ!
女っぽい感じの長髪の男。いっちゃ悪いがカルマと仲良く出来るなんてアイツも相当変わってる。
何が良くてアイツにちょっかいかけてんだろ?俺も一度話したことあるけど普通の印象しか受けなかったからな。
◆
そして2年生も終わりを迎えようとする、ある日の放課後、輪廻とカルマは校舎裏で足を止めた。
低い声。
押し殺したような笑い声。
そして、聞き覚えのある言葉。
「E組のくせにさ」
その瞬間、身体が強張った。
視線の先には、壁際に追い詰められた先輩がいた。
肩をすぼめ、必死に視線を下げている。
相手は一人。
制服の着方は整っていて、立ち姿に明らかに余裕があった。
輪廻は、なんとなくであるがその生徒の名を知っていた。
学年成績トップ。
教師たちが、名前を呼ぶ時だけ声色を変える生徒。
足音が近づくより早く、
カルマの声が響いた。
「なにそれ。ダサ」
次の瞬間だった。
拳が動いた。
迷いはなかった。
理屈もなかった。
輪廻が駆け寄った時には、すでに遅かった。
相手は地面に倒れ、口元を押さえて呻いていた。
「カルマ!」
止めるために伸ばした手は、空を切った。
騒ぎに気づいた誰かが走り出す音がする。
教師が来た時、そこにあったのは――
倒れている優等生と、立っているカルマ。
それでも…その後…先輩を庇った、という事実は、
俺以外の…誰の口からも語られなかった。
最初の聴取では、教師はカルマの話を聞いた。
頷き、記録を取り、落ち着いた声で問いかける。
だが、相手の名前が出た瞬間、
空気が変わった。
沈黙。
視線の揺れ。
それから、ゆっくりと、教師の顔が冷えていく。
「暴力は、いけないことだ」
それだけで、すべてが決まった。
輪廻は、机の横で拳を握りしめていた。
今、言葉を挟めば、火に油を注ぐだけだと分かっていた。
カルマは、何も言わなかった。
ただ、薄く笑っていた。
そしてその後教師に対しカルマは暴行を叩いたのだった。
…俺は止めなかった。…いや止めることができなかったのだ。
終始笑顔で行うカルマの笑顔が…
その笑顔が、輪廻には一番意味が分からなかったから
⸻
そしてカルマの停学が決まり、
その後、停学後にE組への転落が告げられた。
理由は、曖昧だった。
態度。
規律。
将来性。
どれも、正しそうで、どれも空虚だった。
帰り道、カルマは夕焼けを見上げて言った。
「なぁリンネ………」
その声には、もう期待がなかった。
「人ってさ生きてても、死ぬんだな」
輪廻は、何も言えなかった。
何を言っても、届かないと分かっていた。
この学校は、兄を選ばなかった。
正しさより、成績を選んだ。
輪廻の中で、何かが静かに折れた。
――終わりじゃない。
――始まりでもない。
ただ、取り返しのつかない線が引かれただけだ。
校舎の空気が、あの日から変わったわけではない。
変わったのは、輪廻の内側だった。
カルマの停学が正式に掲示された日。
職員室前の掲示板には、無機質な紙が一枚貼られていた。
理由は曖昧で、責任は一方的で、言葉は丁寧だった。
それが、ひどく腹立たしかった。
輪廻はその紙を見ていなかった。
見なくても分かっていたからだ。
兄が「問題」になり、学校が「守られた」ことだけは。
⸻
その日の午後の授業。
教室は静かだった。
担任は、何事もなかったかのように黒板に向かい、
チョークを走らせている。
カルマの名前は出ない。
まるで最初から、そこにいなかったかのように。
「――赤羽、聞いているか?」
名前を呼ばれた瞬間、輪廻は顔を上げた。
教師の声には、苛立ちが混じっていた。
「ノートを取っていないな」
輪廻は、ゆっくり立ち上がった。
椅子が床を擦る音が、やけに大きく響く。
「……聞いてるっつうの」
「…態度がなってないようだな」
その一言で、何かが切れた。
目つき…態度…
兄が殴った理由も。
庇った先輩も。
教師が手のひらを返した瞬間も。
全部、その言葉一つで消された。
「先生さ」
声は、驚くほど落ち着いていた。
「カルマの時も、同じこと言ったよね?」
教室がざわつく。
教師は一瞬、言葉に詰まったが、すぐに言い返す。
「…今は関係ない話だ」
「またそれ?」
輪廻は、一歩前に出た。
「殴った理由を聞く前に相手の名前見て、判断変えましたよね」
教室が凍りつく。
教師の顔が赤くなる。
「憶測で物を言うな!」
その瞬間だった。
輪廻の視界が、狭くなった。
音が遠のき、身体の奥から熱が湧き上がる。
――ああ、これだ。
兄が感じたもの。
止められなかったもの。
「はは…"これ"か」
次の瞬間、拳が動いた。
机を蹴り、距離を詰め、
教師の胸倉を掴んだ。
「やめろ!」
誰かが叫ぶ。
だが、輪廻は止まらなかった。
教師を殴り飛ばし、壁に叩きつける。
チョークが床に散らばる。
近くにいた生徒が、慌てて割って入ろうとした。
輪廻は反射的に肘を振る。
倒れる。
もう一人。
また一人。
頭では分かっていた。
――これは、単なる八つ当たりに過ぎないのだと…
それでも、身体は止まらなかった。
職員室から他の教師が飛び出してくる。
複数の声。
制止の腕。
輪廻は、そのすべてを振り払った。
「黙れ!」
声が、廊下に響く。
「正しいふりするな!」
「守りたいのは学校だろ!?」
拳が、教師の肩に当たる。
別の教師が転ぶ。
床に倒れた大人たちを見下ろしながら、
輪廻は、荒く息をしていた。
静寂。
誰も、動けなかった。
ようやく、腕を掴まれた時、
輪廻は抵抗しなかった。
力が抜けていく。
熱が冷め、現実が戻ってくる。
視界の端で、教師や止めに来た生徒達がうずくまっている。
生徒たちが、恐怖と困惑の混じった目でこちらを見ている。
――ああ。
やってしまった。
連れて行かれる途中、
輪廻は思った。
後悔は、なかった。
ただ、確信があった。
この場所では、
最初から、俺たちは認められない側だったのだと。
⸻
後日、俺に停学処分及びE組への編入…いや追放が下る。
理由は、明確だった。
「教職員及び生徒への暴力行為」とあり触れた理由だった
しかし、それでいい、と輪廻は思った。
兄と同じ場所
同じ線の向こう側
家に帰ると、そこには停学中のカルマがいた。
輪廻の顔を見て、すぐに分かったようだった。
「……派手にやったね」
輪廻は、笑えなかった。
「カルマ」
短く、そう呼ぶ。
「俺さ…もう、あそこには戻れない。いや…戻りたくないんだ」
カルマは、少しだけ目を伏せてから言った。
「あそこは最初から、俺たちがいるような場所じゃなかったよ」
その言葉で、輪廻はようやく理解した。
これは、堕落じゃない。
選択でもない。
ただ、人生というものへの期待が小さくなっていくのも確かだった。
「それよりさ!どうだった?アイツらの顔!。かはっ!普段俺の隣にいたリンネがあそこまで暴れたの観てビビってたんじゃない?」
「!?…くく…あぁ…ビビりまくり!もう他の教室からも生徒やら先生やらきてめちゃくちゃだったよ!あ、でもカルマが殴り飛ばした先生?まだ来てたから俺がトドメさしといたよ。もう来ないだろうなアイツ」
「あぁ〜あの先生ね。名前…?なんだっけ?」
「なんだっけな?…まぁなんでもいいだろ?それよりさ!…」
互いに兄弟揃って停学をくらった身であるものの俺たちは微塵もへこたれてはいなかった。
主人公プロフィール
名前 赤羽 輪廻
身長 175センチ
体重 65キロ
好きなこと 格闘技と悪戯、あとカルマとゲーセンに行くこと
容姿 カルマと双子なだけあって容姿は瓜二つです。カルマを黒髪にした感じと捉えてくれれば大丈夫です!
ポテンシャル 学力や知力はカルマにはやや劣りますがそれでも学年では上位です。その代わり運動神経や身体能力はカルマより高いです。ただカルマの方が器用なので喧嘩はほぼ互角です。ただしリンネがキレたら……
ってな感じのオリ主です!