世界をだまして女の子助けたら、女の子になってしまった   作:翌透リナ

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02.JANE DOE

 

ありのままに今起こったことを話すとだ。

死者蘇生が成功したらと思ったら、女の子になってたし、名前も思い出せなくなっていた。

 

「ホシノ、ひとまず状況を整理しよう」

「そうですね」

「ユメも、蘇りたてで悪いがちょっと時間くれ」

「蘇りたて......? え、やっぱり私死んでたの?? どういうこと???」

「ユメ先輩には私からいきさつを説明してとくので、アナタは勝手に整理しててください」

 

せちがれぇ。

まぁいいや。とりあえずキヴォトスに来たときから順を追って思い出してみようか。

 

朝、目が覚めたら知らない砂漠のど真ん中に突っ立ってた。で、建物を目指して歩いたら、そいつが砂に飲まれた廃墟だった。そこで偶然宝探し中だったユメに出会って、アビドス高校に連れてかれた。で、聞けばコイツ学校に7億以上の借金があってそれを返済するのに一人で頑張ってるとか。バカだなぁとは思ったし言ったけど、泣かれちゃったら手伝わないわけにもいかんだろ。

って感じで、二人で借金返済に向けてあれこれと金策に励んでいたんだったな。利子を返すのがやっとだったけど。

そこからホシノが合流してやれることが増えていって。原資の返済にも回りながら、ある程度余裕を持って学園をなんとか盛り返そうと動けるところにまでは持っていった。

 

ユメが死んだのはその矢先だった。

 

原因は俺が学校襲撃してくる不良をちょいと強めにシメたことだった。あいつら、俺とホシノに敵わないと見るや、ユメを拉致って砂漠に捨てるなんてマネしやがった。そんときに『梔子ユメが死んだのはお前らのせいだ!』みたいなことを言われてホシノが凹み、俺も実際に殺したのはお前らだから、聞く価値ねぇとは思いながらも、何処かでやり方を間違えたかもと後悔はしていた。

 

だから黒服の持ってきた蘇生話にのっちまったんだろうな。

......冷静になった今ならわかるが、あいつマジで会話に煽り入れまくってたな。

営業か何かかよ。いや死者蘇生の営業ってなんだよ。

 

でまぁ、すっかり乗せられた俺は、アイツに言われるまま儀式の用意をしたし、止めに来たホシノとガチバトルしてみたり。色々あって蘇生の儀式を敢行した。

 

「......で、無事にユメは生き返って、オレはなんか女の子になってて自分の名前を思い出せなくなったと」

「.....えぇと」

 

経緯をホシノから聞いたユメが、ホシノと一緒にこちらをみている。すごく気まずそうだ。

気まずそうだが、仕方がないので先ほど思い出せたことを共有した。

 

「......はい。そうですね。私も『そういうやりとりをした人がいた』というのは覚えています。顔も思い出せるのに、なぜか名前が思い出せませんが」

「うーん。サブちゃんだけじゃなくて、ホシノちゃんも?」

「待て、ユメ。お前は覚えてるのか?」

 

なんか、愛称のようなものが出てきて、思わず尋ねていた。

 

「うん。サブちゃんの名前、『qaw4312se;@:drftg』でしょ? 流石に覚えてるよ〜」

「え? なんて???」

 

一番大事なところが、急に聞き取れなくなった。不愉快な音にかき消されるとかそういうのじゃなくて、発声された音を意味の塊として認識できない感じというか。

 

「だから、『aegaa;;:eafe@』であってたよね?」

「......ホシノ、お前聞き取れる?」

「......ユメ先輩の声が問題なく聞こえているか。という意味でならイエスです。でも、あなたの名前らしきところだけ、先輩が何かを言っているのは聞こえるのに、何を言っているのかがわかりません。え、こわ......」

「え、何それ......サブちゃん、ホント何をやっちゃったの?」

 

二人が完全にドン引きしている。無理もない。

ここまでほっといてた黒服に目をむける。黙って首を振るだけだった。

俺の視線に釣られる形で、ユメとホシノも黒服の方を見る。注意が向いたことをきっかけに、黒服は手元に書類を一枚取り出した。

 

「クックック......。どうやら、あなたは『ただ名前を忘れた』だけではないようですね」

「え、何そのヤバそうな黒い紙」

「ありゃ、アイツの特別な契約書だ。契約を遂行しないとペナルティを強制執行してくる感じのやつ。ロクでもねーからアイツがアレ引っ張り出してきたら絶対サインするなよ。フリじゃねーからな?」

「で、なんでそれを今あいつが取り出したんですか」

「そりゃ、蘇生の情報提供と準備の協力の対価にアイツの研究に協力するって話を飲んだからだな」

 

流石に、俺一人じゃ蘇生だなんだなんてできっこないので、情報を持ってきた黒服と、研究協力を見返りに協力を取り付ける契約を交わしている。失敗したらお前を殺す、って言ったのにOKが出たのはマジでビビったけど。

普通の契約書じゃなかった理由? 黒服曰く『あなたは普通に契約しても暴力で踏み倒してくるから』だそうだ。実際アイツ、直接の戦闘力で見ればただのカカシだしね。やろうと思えばできる。

 

「普通の契約だったら後で燃やされるからって「あんたって人はぁ!!」いってぇ! 何しやがる!」

「何しやがるじゃないですよ!! 勝手に話進めて、勝手に変な契約して! そういうのはダメって自分でいってましたよね!? ユメ先輩じゃないんですからちゃんとしてくださいよ!!」

「うぐっ」

「なんで今ユメを刺しに行った???」

「次やったら蜂の巣にしますね。効かないとかそういうの関係なく、蜂の巣になるまでショットシェルを何発も撃ち込みます。分かりました?」

「お、おう......」

 

このホシノにはスゴみがあった。身長が同じくらいになったことも影響しているのだろうが、絶対零度の眼差しっていうのはああいうことを言うんだろうと思った。

 

「.......話を進めてもよろしいでしょうか?」

 

黒服が若干困った感じでこちらに伺いを立ててくる。まぁ完全に話の腰を折っていたものな。

アイツがこちらを伺う様子なのは、単純に『相手の方が力が強く、暴れられたら止められない』からだ。ユメはともかく、ホシノには基本的に上手な暴力の使い方を教えていたので、なんかあればグーで行くことにためらいがなくなっている。まぁその上手な暴力の使い方のせいでユメは死んだので、お互いちょっと軌道修正は必要かもしれないが、その辺は追々だな。

 

「あぁすまん。で、その契約書がどうした? 研究協力の話だろ?」

「その件ですが、どうもこれでは白紙になりそうです」

 

ひらひらと、黒服が書面をこちらに見せてきた。

内容は蘇生儀式の情報提供と準備手配、そして失敗時の黒服の存在の喪失と、オレが一度だけなんでも研究に協力する(拒否権あり)という、大体そんな感じの契約内容が細かくて少し光ってる白い字で書かれているものだ。字面だけ見るとかなりオレに有利な契約なのだが、黒服に曰く、これでやっと等価にできたというレベルの契約だったらしい。

 

「......字がちっちゃいし、言葉が難しいし、なんか光ってるしで目が滑るよ」

「こういうの、絶対サインしちゃダメですよ、ユメ先輩」

「うん。そうする」

「クックック......えぇ。理解できないものは契約しないのが無難でしょう。ですがそこを理解した気にさせ、契約をさせるのがこの契約書の醍醐味ですよ」

「うわぁ......悪い大人」

「えぇ、我々は悪い大人ですから。ねぇ?」

 

なんでそこでオレに振ってくるのかはよくわからないが。

ともあれ重要なのはそういう細かいところじゃなくて、署名欄だろうな。

 

「なぁ黒服よ、オレ確かにここにサイン書いたよな?」

「えぇ、血印もありますし、確かに誰かと契約した書類となっています。血印で情報を追っても、契約主が誰であるかはわからなくなっているので、実質的には失効していますが」

「でもここ、何も書かれていないですよ?」

「そうなのです。確かに署名をいただいたのは、私も確認していたのにも関わらず、です」

「フリ⚪︎ションで書いたとか?」

「普通、契約書の署名にそういうペンや鉛筆は使わねーよ」

「そうですね。それに、改竄防止も兼ねて記入のためには特殊な筆記具でしか書けないようにしてあるのですが」

「......いやお前は改竄し放題じゃねぇかよ」

「クックック。そうだったら良かったのですが、こちら、一種の魔術的な契約書なのですよ。一度成立してしまうと私でも改竄はできません」

「んだよお前、なんかすげぇ使いにくなそれ」

「クックック......それよりも」

 

笑って誤魔化したな。

 

「そういった、魔術的な署名すら消え失せている。まるで『この世界に初めから存在しなかったように』」

「は?」

「おそらく、儀式の代償としてアナタは名前を奪われたのでしょう。世界にそもそも存在しなかったコトになっているほど、徹底的に」

「えぇと......ちょっと理解ができないよ?」

 

名前を奪われたって、そんなことあるのか?

不思議に思っていたら不意にスマホに着信が入った。

連絡先を見れば銀行だったので、嫌な予感がしたオレは断りを入れてその電話に出た。

 

「はい」

『もしもし。お世話になっております。私ネフティスバンクのものです。口座情報の確認のため連絡させていただきました』

 

ネフティスバンクはオレがメインで使っていた口座だった。曰く『名義が空白の口座ができたので、登録されていた連絡先に確認した』『その他の情報は問題なく、システムエラーによる喪失の可能性もあるが、登録時の身分証を再度提出するまで凍結する』という趣旨の連絡だった。

 

「......サブちゃん、電話なんだったの?」

「銀行からの連絡。口座の名義情報も吹っ飛んでるらしい。となると、おそらくは.......やっぱこれもダメか。口座死んじまったな。」

 

一応携帯していた身分証、アビドス高校に厄介になるにあたってユメが発行してくれたヤツを見る。現在の住所と以前のオレの写真、生年月日等はちゃんと記載されていたが、名前欄だけ最初から印字がなかったように消えていた。写真も今の見た目と全然違うから、名前部分を誤魔化して再利用とかもできそうもないな。

 

「.....こりゃ、不動産契約とかも諸々ダメだろうな。電話番号もいつまで使えるやら」

「あらら.....大変だね、サブちゃん」

「おや、ユメさんもそれは同じではありませんか?」

「え?」

「そうだな......蘇生の話がでたとはいえ、アビドス生徒会長の訃報だと、いかにオレらが届け出なくても、勝手に広まっていくからな......主にカイザーの連中のせいで」

「書類上はユメ先輩は死んだままです。なので、不動産とか携帯とか、身分証が使えない問題は同じです」

「え!? 本当に!? うーん......生き返るって大変だなぁ」

「......ははは。なんか、先輩らしいですね」

 

本当それな。

生き返るということ自体が非日常なのに、あまりにも呑気なユメの反応。

いつものホシノであれば小言を挟んでいそうだが、呆れつつも険のとれた表情をしている。

オレも毒気を抜かれて、なんとかなるだろうという気分になるから、コイツは本当に大物だと思う。

 

「だって、ホシノちゃんが生徒会長だから、改めて発行してくれるでしょ?」

「あー、えっとですね......」

「え、違った?」

「いやまぁホシノが生徒会長なのはそうなんだが......。ざっくりいうと、『現生徒会長からの正式な引き継ぎ署名もないのに、在校生一人の学校とかもう廃校にしたら?』ってな調子でな。生徒会長交代の届出が連邦生徒会に受理されていない」

「......うん?」

「一応、学区内の諸作業や返済、各種学校法人契約については私が代表、生徒会長扱いで問題なく回せているんですが、連邦生徒会に公的に生徒会長と認められてないので、学生証を発行しても公的な身分証明に使うことはできないんです」

「......ほえ?」

「つまり、今のホシノさんが学生証を発行しても、その効力が公的に承認されないから意味がないってことですか......クックック」

 

話こんでいて、すっかり黒服の存在を忘れていた。気が緩みすぎていたか。

 

「あ、やべ。一番聞かれちゃいけねーやつに聞かれちまった」

「シメときますか?」

「勝手に話をしだしたのに、自然と口封じしようとしてくるのはやめていただけませんか? 一応、業腹ではありますが身分の問題をなんとかできるツテも紹介できるかもしれないのですが」

「いやオマエのツテとか流石に胡散臭すぎるんだが。なんだ、偽造屋とかか?」

「学生証の偽造はリスクしかありませんから、その伝手は使えませんね。一応、我々の中では最も社会的な信用を得ている人物なので、ひょっとしたら、借金についてもいい相談相手になるかもしれませんね」

「偽装屋とツテがあること自体は否定しないんだ」

 

「......えぇ〜!!!」

 

ようやく、アビドス高校で発行する身分証が使えないことを理解できたらしいユメの叫びが、晴れた空に吸い込まれっていた。




補足事項

黒服の黒い契約書について

ゲマトリアのツテを使って製作した、黒服が重要な契約を実行する際に使用する契約書。
真っ黒い紙面にぼんやりと光ったような白い文字で記載されてる特別性。デスノートの表紙。
黒服が先生に出したと思われる年賀状みたいな雰囲気と思ってもらえれば大体そんな感じ。

機能としては、本編で軽く触れたように、契約の遂行を強制する能力を持つ。
この書面上での契約は神秘による誓約となるため、書面が無くなったから無効とか、契約を証明できないから無効みたいな真似は不可能。
『双方が対価が釣り合うと無意識で判断している内容』でないと契約が結べないようになっているし、言葉のあやによる抜け道なども許されない。

本編の契約内容であっても、主人公は冷静になれば結構な自分有利なシャークトレードだったと思っているが
黒服としては「不確実な仮説」と「自分の命」程度で「キヴォトスの外からきた神秘を拒否権有りとはいえ一度だけ好きに研究できる権利」を獲得できたのはかなり安上がりな契約内容だったとすら思っている。

ちなみに黒服自身の能力ではないため、状況的に追い込んで完全有利な契約を強制的に結べるとかそういうアレではない。だが、むしろ口八丁で価値を操作しなくてはならないその制約を楽しんでいる節すらある。
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