SLEEP COP ―のび太のハードボイルド・アンダーワールド― 作:電機羊
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俺は M&S CONTROL TOWER に着いた。
来る途中、空から見た首都は、暴走したD-ramが辺り構わず戦略衛星から、『Titan Spear(タイタンの雷鎚:チタンミサイル)』 を撃ち込んでいるせいで、至る所から煙が上がっていた。
火災による爆発音と、消防車が走る際に流すメタルミュージック。そして黒煙は空を覆い、赤い空と相まって、首都は見渡す限り戦闘地域の装いだった。
TOWER内部は避難が完了したと見え、がらんとして少しひんやりしていた。
建物の中を飛び、制御室に向かう。
俺はかつてここの要人の警護をした事があったので、建物の図面は頭に入っている。
飛びながら、俺は考えた。
――さて、俺の人生は何だったのか? 上手くいっても、行かなくても。
多分、俺はここで死ぬ。
子供の頃からしたら、十分夢は叶った。 しかし、全部じゃない。
特に息子……『睡眠促進派』の次期リーダーとの噂が流れ、"居酒屋・スターバッカス"で一人呑んでいた時、爆弾テロで吹き飛ばされた。
その後、妻は俺を責め、出て行った。
まあ、どう転んでも、あいつには会えるのか。
しかし君には、もう会えないな。
Syzka(しずか)。
物想いに耽っているうちに、辿り着いた。
さあ、ここが俺の死に場所だ。
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D-ram管理制御室。
さて……どうすれば良い? 手っ取り早く、DOULAの道具で爆破するか?
俺は奪ったポシェットに手を入れた。
いや……しかし。 そんな事をすれば、
“D-ram”で管理しているインフラ全てがストップし、日本は壊滅状態に陥るだろう。
では、電源を切るか? 俺は入力デバイスに対峙した。
いや……これも、同じだろう。制御を解くという行為は、破壊する事と何ら変わりはない。
外では相変わらず、Over-drive(暴走状態)のD-ramの衛星攻撃が続いており、
それが地面を伝って重々しい衝撃がこのビルにも伝わってくる。
早くなんとかしないと。
「なぁ! D-ram。やめてくれ!! もう十分だろ? 頼むから……」
駄目元で叫んだが返事はない。もう声が届いている様子はなかった。
考えろ。何かあるはずだ。
お前が管理責任者(タスク・マネージャー)だと思え。
ドドン!!
壁と床がここ一番の衝撃で大きく揺れ、窓が全て割れた。
D-ramは、自分ごと日本を壊滅しようとしているようだった。
クソッ……ここまでか。
「やめろ!! やめてくれ!!! 頼むから……」
……もうだめだ。
……助けて
……助けてくれよ。
……DOULA(ドラ)……衛門。
『ーー「キミの好きナ事」を選択セヨ……』
…好きな事って……?
射撃
……昼寝
……昼寝
……昼寝
そうか!!
壊すんじゃない。
眠らせるんだ!
『Sleep-Mode(スリープモード)』
あるじゃないか!D-ramは筐体だ。シャットダウン、再起動……そしてスリープモードが!
俺は藁にもすがる思いでD-ramの入力デバイスに触れた。
メニュー画面が立ち上がり、管理者権限の選択肢が並ぶ。
そして…
――あった。
俺の人生を散々振り回した、“スリープ”の文字が。
やったぞ!!
ビシッ!!
鋭い空気の塊の様なものが、俺の右手をかすめていった。
「ウゥ!!」
右手から血が流れた。
背後を見ると、Se-washが立っていた。
「Ash、……お前……」
そうだ、DOULAに記憶を消されていたのだ。
「……おじいちゃん、何やってるの? こんなに街をメチャクチャにして……そこまでバカだったの?」
「いや、誤解だ……」
ビシッ!!
「ウワ!!」
今度は左肩を空砲が掠めた。血煙がガラスの割れた窓から外に流れていった。
記憶をつまみ食いされたSe-washには俺がこのコンピュータで東京を破壊しているように見えているのだろう。
「あいつを……DOULAを破壊したところで、やめておくべきだったね」
Se-washは沈んだ声で話した。
俺のエアーガンリキッドはまだ……いや、この負傷した手でSe-washを危害なくディザームできる自信はない。
――ポシェット!!
ビシッ!!
「動かないで! ……探し物はこれかな?」
Se-washの左手からは、白いポシェットがぶら下がっていた。
彼はため息をついて話した。
「もう諦めてほしい。……僕はテロリストだけど、別に街を壊したい訳じゃないんだ。おじいちゃん……この行為は残念だけど見過ごせない。……安心して。皆に名前は伏せておくよ」
勘違いだ。
Se-washは人差し指を俺に向けた。
俺は息を一度深く吸い込んで、言った。
「Ash…いやSe-wash」
「……なんだい」
「最後に……一言だけ言わせてくれ」
「……」
「帰ったらSyzka……いや、おばあちゃんに叱って貰うからな!」
「!?」
「……飛べ。」
次の瞬間、制御室は竜巻のような激しい暴風の中にあった。
固定されていない用具、書類など全てのものが天井に巻き上げられ、轟音と共に回転しながら壊れた窓から空に吸い込まれていった。
Se-washもその例外ではなかった。 荒れ狂う突風が彼を天井に叩きつけ、壁にその身体を張り付かせたまま床まで引き摺りおろし、ガラスが割れて大きく口を開けた窓から彼を吐き出そうとした。
「Se-washーッ!!」
俺はビルの外に投げ出されたSe-washの片腕に手を伸ばす
頼む、
俺の大事な孫なんだ!!
掴め!
布地が指に食い込むーー
よし掴んだぞ!!
額に汗が滲んだ。
確実にSe-washの襟首を掴んだのを確認して俺はささやいた。
「……着地。」
風は瞬時に収まり、空を舞っていた物が床に落下した。 そしてなんとか気絶しているSe-washを腕一本でフロアに引き上げた。
実は――制御室に入る前、俺は『Bamb-o-ptor(バンボプター)』を入口に立て、保護モードを解除しておいた。タケコプターの現代版。
子供の頃、タケコプターの風力を使って、ちょっとした『実験』をしたのだ。……同じ理屈なら風力はF5、秒速117m。保護モードなしなら“スカート”どころか車さえ吹き飛ぶ。
…助かった。
だが俺は、孫を一度ビルの外へ放り出してしまったのだ。
「……Ash、一緒に怒られような。」
Se-washを制御デバイスの近くで横たわらせ、再び俺はデバイスの隅、電源マークにポインターを合わせた。
“シャットダウン” “再起動” “スリープ”
俺はポインターを移動させる。
――今度こそ。
「――ドラミ。」
そして、息を吸って言った。
「SLEEP-TIGHT。(おやすみなさい)」
次回、最終章:『Da Capo.-はじめから-』。
(※毎日20時頃 更新予定)