SLEEP COP ―のび太のハードボイルド・アンダーワールド― 作:電機羊
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
「――で、どうなったんですか? ノビタさん」
神成(貴成)はコーヒーテーブルから身を乗り出して聞いた。
俺は、あの夜の成り行きを話した。
「そう……もう諦めよう、やめてしまおうと思ったんだ。もう何も考えずに眠りたいんだ、と。その時、頭の中で声が聞こえた。
さっき話したDOULAの最後のメッセージがね。
……D-ramを破壊したり、その電源を切ったりする事がAIにとっての『死』なら、
機械を壊さずに非アクティブ化する事は、人にとって何を意味するのか……」
「まさにそれが『睡眠(スリープモード)』だったんですね。
DOULAたち、第一世代のD-ram型までは、OSにWindowsのアーキテクチャを残していましたからね。なるほど……ですが、まあ、あの状況でよく思いつきましたね(笑)。それが可能だった事を、DOULAも知っていて……」
俺は頷いた。
「きっとそうだろうな。でも、なぜ教えてくれたのかはわからない。
……きっと俺たちの、昔の友ーーゴホッ!…
……とにかく、だ。スリープモードは社会インフラと国家機能を維持させた。しかもパッシブ状態なので、新たな命令や社会変成アプリの導入もできない。
つまり、D-ramによる自発的な破壊プログラムは、完全にアクティベーション不能になった……ということさ。」
「ふー……(汗)。見事ですね。……記憶がなかったとは言え、Se-wash様の早とちりは『相変わらず』ですが(笑)。
……眠ったD-ramを今後どう扱うのかは、我々MATSUSHIBAにお任せ下さい。また、こうなってしまっては北条政権も内部から崩壊するでしょう。――それと」
「なんだい?」
神成は言った。
「ちょうどいい頃合いと思いましてね。数年前に我々『SLEEP-TIGHT』の仲間になった若いのがいまして」
「……?」
「その人の父親の立場が微妙でしたので、少しばかり偽装するのが得策かと思い、表社会では死亡したことにしました。」
あぁ……。 まさか。
「会えますよ」
「Nobisuke(ノビスケ)同志
……そう、貴方の息子に。」
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
ここはSANYO電機本社、国民Cloudサーバー。
いまSe-washは自分の記憶とCloud側の記憶に食い違いがないか、エラーチェックに来ている。
国民Cloud部門のタスク・マネージャーが言った。
「……あと、ここ……のスペルミスを取り除いて終わりです。
いやしかし災難でしたね、Se-washさん」
タスク・マネージャーの背もたれ越しに記憶モニターを眺めていたSe-washは言った。
「あぁ。でもお陰で助かったよ。ミナト区に来た時はうちに寄ってくれ。馳走させてほしい。」
「やぁ、そんな……。悪いですよお。」
そういうタスク・マネージャーは、まんざらでもなさそうだった。
Se-washはポケットから 『Air-gun:Liquid(空気砲・ジェルタイプ)』 を取り出し、自身の指先に一滴垂らした。
「ところで、」
Se-washは静かに歩きながら言った。
「ここには、壊れる直前のソーシャルロボットの記憶も、バックアップしてあるんだろう?」
「?」
Se-washの指鉄砲が、タスク・マネージャーを指す。
「良かったら、僕にコピーをくれないか?」
ドアの方に走り出すタスク・マネージャー。
しかし、鍵が掛けられている。
「そんなに怖がらなくていい(笑)。ただ、やっぱり世界はもう少し楽しくて良いと思うんだ。いいかい? そいつの製造日は2112年9月3日。――名前は……」
「D―」
― 完 ―
SLEEP COP ―のび太のハードボイルド・アンダーワールド―
ここまで読んでくださり、ありがとうございました。
この物語は「眠らない世界」を描いた物語ですが、ストーリーのベースには「人間と動物の違いはなにか?」という、僕なりの答えを下敷きにしました。
動物は言葉も道具も使います。時に笑うことすらあるそうです。
ただ、『訂正』だけは人間にしか出来ない——僕はそう信じています。
のび太という、強くも賢くもない、
ただ射撃が上手いという“一点突破型”の人間が、自らの間違いをそれで正していく。
僕はそれがカッコいいと思いました。
人生の大切な時間を僕の作品に使っていただき、本当にありがとうございました。
ーー「SLEEP-TIGHT(おやすみなさい)」