SLEEP COP ―のび太のハードボイルド・アンダーワールド―   作:電機羊

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第3章『Nightmare-ナイトメア-』

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2121年現在 ー某所ー

 

「……10セカンズ(10秒)でいいんだよ。なぁ頼む。分けてくれよ。10セカンズ分」

 

その義手を付けた薄汚ない男は、血走った眼で落ち着かない様子では言った。

 

誰が見ても『スリープ・パンク(睡眠障害者)』だとわかる。

 

睡眠障害者……昔は逆の意味だったらしいが、現在では1秒でも長く眠っていたいゴロツキや社会不適合者の事を指す。

 

「待てよ、まずは金だ。ちゃんとジャパニーズ・イェン(¥)で持ってきたのか? 中共逃亡でチャイニーズ・ユァン(¥)はもう扱えないんだ」

 

高そうなスーツを着た男の方が言った。

 

薄汚れた男は尻ポケットに義手を突込み、くちゃくちゃの3枚の紙幣を取り出し、それを不眠で震える手で渡した。

 

「なぁ……これで何とか頼むよ。10……いや、8セカンズでもいい」

 

身なりのいい方の男は、受け取った紙幣のシワを伸ばして言った。

 

「あきれたな! コーリャン・ウォン(₩)じゃないか。高麗朝鮮街の外ではもう使えないんだぞ!? これだったらまだ美味いチゲでも持って来いよ。 ……まぁいい。お前の親父さんには世話になってるからな。 ほら、これが最後だぞ。10セカンズ分だ」

 

身なりのいいスーツの男は、『リアル・カモミールド(R.C:睡眠導入剤)』を1包差し出した。

 

「……悪ィな。やっぱりアンタは最高だ!! 他のやつらは偉くなってからはみんな俺を避けやがる。クソっ、皆んなだぞ!」

 

そう言うと薄汚れた男は、震えた手でポケットから空気式のピローを膨らませ、その日焼けした首に巻いた。

 

「おいおい! ここで眠るのか?」

 

高級スーツの男は呆れ顔で言った。 薄汚れた男は、

 

「アンタが見ててくれりゃ安心だ」

 

と言うと、しゃがんで建物に寄り掛かり、粉状のリアル・カモミールドを親指の爪の上にこぼれないように慎重に盛り、一気に鼻から吸い上げた。

 

とたんにその男の首はピローに支えられて、意識を失った。

 

そばにいたスーツの供給者は、やや不機嫌顔で左右を確認した後、大きな溜め息をこの薄暗い裏道に一つ落としてから手元の時計を見た。

 

「……4、3、2、1、――時間だ。」

 

ちょうど10秒。 ピロー男はゆっくり目を開け、空を見上げたまま立ち上がって話し始めた。

 

「あぁ……久々に眠ったわ! 最高の気分だよ。一気にノンレムに潜り込んだ後、レムまでスーッと泳いで登って……」

 

スーツの男は説明を遮った。

 

「そうか。そりゃ”お前には”良かったな! ……じゃぁ今度トッポギ奢れよ」

 

そう言うと待機させていた部下2人に「帰るぞ」とのサインを出し、21世紀からある老朽化した商業ビル街に消えていった。

 

そのスーツ男こそ『”Nightmare(ナイトメア)”』。 いつかトラブルを起こした相手に本物の悪夢を見せて以来、そう呼ばれている。本名は未だ不明。

 

政府指定テロ組織 『SLEEP-TIGHT:スリープタイト』のNo.2で、

現役の『Sleep-giver(スリープギバー)』でもある。

 

スリープギバーとは、ありとあらゆる違法睡眠導入物を取り扱ういわゆる闇ディーラーだ。

 

彼らは必要なら粉末睡眠薬からトゥ◯ースリーパー、蕎麦殻枕、アイドルのプリント抱き枕まで調達する。 睡眠時間は1セカンド(1秒)分から金持ち相手には6時間分、極刑の「2度寝」まで幅広く取り扱い、もちろん様々なチルな就寝場所も提供している。

 

闇稼業には当然危険が付き物だ。なので殺しの腕前も超一流なのだった。

 

全国指名手配中で、“賞眠(しょうみん:手配中の者を捕まえた者に政府から与えられる法的睡眠時間)” も1時間、情報提供者にも破格の20分間が付いていた。

 

そんなお尋ね者の彼の、今日の目的は先程の旧知の客に会う為ではなかった。 また、自らの悪名をさらに広めるため新たな事件を起こす為でもなかった。

 

――ただただ、畳のある宿にゴロ寝しに来たのである。

 

実は幼い頃の彼は、夜8時半になったらおばあちゃんの家の畳の上に布団をひいて寝るという、超旧体制下の日本育ちの人間だった。

 

他はどうでも、これだけはどうしてもやめられない。 部下はいつも止めるのだが、月1回のゴロ寝は彼には必要だった。

 

人にはバランスを取るための様々な趣味や嗜好がある。そこには立場も何も関係ない。 そんなわけで「俺はこれでいいのだ」と常々周りに言っていた。

 

そして今日も、いつも通りアジャスターにここ東京都マンハッタン区にあるテナントビルの宿屋で”畳-buton”を用意させた。

 

宿屋というのは座って軽食と茶を飲む、昔で言うところの喫茶屋だ。ここは表向きは海外旅行者向けのTATAMI茶屋であるが、奥には実際に眠ることのできる部屋がある。 当然違法行為なので、これは数少ないプライム会員しか知らない事だった。

 

彼はいつも通りのチェックを済ませ、一番奥の部屋でゴロゴロしていた。 そこはい草の香りが懐かしく、5分前に飲んだラベンダードリンクも効いてウトウトし始めた。

 

※ ※ ※ ※ ※

 

それは一体、どれぐらい眠った頃だったろう?

 

遠くから何かがが聞こえて来て、それがだんだん近付いて来る。

轟音と共に、ドアが蹴破られる。

 

 

PiPiPiPiPiPiPiPi!!!!

 

 

……しまった!!

 

 

  『Get-Up!! -ゲロッパ!!-』

 

 

ーーSLEEP COP!

意識がはっきりするには遅すぎた。

 

 

逆光の中に、トレンチコートの男が立っていた。

 

 

 

「 …Sleep Copだ。お前には黙秘権などない。あるのは…… 」

 

 

 

「…永遠の不眠だ。」




次回、第4章「Sleep-tight -おやすみ-」。
         
(※毎日20時頃 更新予定)
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