SLEEP COP ―のび太のハードボイルド・アンダーワールド―   作:電機羊

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第4章『Sleep-tight -おやすみ-』。

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……これが、 日の出る国(The land of the Rising sun) 改め、

日の沈まぬ国(The land of the Unsinkable sun)

“新しい日本国の誕生物語” だ。

 

 そして俺は、 この理想の社会で違法就寝者を取り締まる

 

 法の執行人ーー

 

 悪党共は俺をこう呼ぶ

 

 

『SLEEP COP ー睡眠捜査官ー』

 

 …と。

 

*******************************

 

ーー少し夢想が過ぎたようだ。

 そろそろ奴をチェックメイトしないと。

 

俺はアラームウォッチのタイマーを10秒後にセットし、

家主に借りたカギでドアを開けた。

 

…ガチャッ。

 

…三

 

…二

 

…一

 

部屋中にアラームウォッチを鳴り響かせる

 

PiPiPiPiPiPiPi!!!!

 

 

 『Get-Up!! -ゲロッパ!!-』

 

 

 

「Sleep Copだ。お前には黙秘権などない!…あるのは

 

 

 

…永遠の不眠だ。」

 

 

いつものセリフを言いながら、俺は 『Languid Shot(ランギッド・ショット:倦怠銃)』 を取り出した。…相手を昏睡させる恐れのあるスタンガンが禁止され、今は指一本動かすのも億劫になるこの銃が主流だ。

 

 

俺の記憶では、銃を抜いた俺に的を外す選択肢はない。

 

 

* * * * * *

 

…いま確保した容疑者が横向きに寝転んで、澱んだ眼でこちらを眺めている。

 

俺は男の鞄の中を捜索した。

 

「ほう、こりゃあ何だ?アイマスクか。これで懲役1年。蛇型の抱き枕か? これは2年。 それに……ちょっと待て、お前ローズヒップ……いやラベンダーティーも服用しているな。あーあ、たまげた! 肉球付きのモコモコスリッパまで持ってやがる(苦笑)。

 

合計で懲役12年ってところか? とりあえずの罪状はこんなもんだ。しかしまぁ、余罪でもう2000年ぐらいはぶち込めるがな」

 

 

俺は冷たく言い放つ。

 

「…死刑廃止に感謝を。」

 

 

そして俺は無気力で怠そうにしている男を無理やり立たせた。

入室前に争ったボディガード達の死体を、足で端に寄せながらその場を後にする。……こいつらの後始末は他部署がやってくれる。

 

もちろん、今月分の『正当防衛クーポン』はまだ余裕があるので大丈夫だ。

 

「さあ、車まで歩くんだ」

 

俺は男を警察車両まで歩かせた。

男はランギッド・ショットが効いているにもかかわらず、なにか俺と話したがっている。

俺は停車中の無人警察車両の後部座席に犯人と並んで乗り込み、署に向かった。

 

気だるさの後を引きながら、男はゆっくりと話し出した。

 

「……なぁ刑事さん。最後に観た夢はいつだ?」

 

今日は酷い渋滞だったので、不本意ながら少し会話に付き合うことにした。

 

「そんなのはとっくに忘れたよ。……あれは人間社会の負の遺物だ」

 

「本当にそう思うのか?」

 

「あぁ思うさ。歴史を見てみろよ。産業革命前に戻りたいと思うか? インターネットなしの社会を考えられるか? 睡眠法もそれと同じ事なんだ」 

 

 

男は言った。

「……かつての産業革命は『人間らしさ』を奪った。インターネットは『家族関係』を破壊し、そして睡眠法は個人の『夢』を取り上げた。 それは人間性の 《最後の砦》 だったのに。 ……こうして人類は、存在の理由そのものを根こそぎ奪われたんだ」

 

男は段々と意識がハッキリとしてきたらしい。 ランギッド・ショットの効果が落ちてきている。

 

クソッ。喉が渇く。

 

理屈にイライラさせられ、俺は反論した。

 

「ご都合の良いことを言っているようだがー」

 

「ーこの理想の社会は人間が自らが寝ない選択の上で栄えているんだ。

産業革命が悪だとか言うが、そのおかげで一体どれだけ多くの人々が飢えなくなった?

インターネットのおかげで皆素晴らしく多くの物資や情報に恵まれ、

睡眠法は日本を遥かなる世界の超大国にまで押し上げた。

いったい他のどこの国が、まったく眠らず100%稼働し続ける国に勝てるって言うんだ?

 

それをお前らテロリストが旧時代に戻そうとしている。俺にはまったく理解できないね。」

 

これが刑事として生きてきた俺の考えだった。

 

男は少し間を置いて語り始めた。

 

「……なら聞く。

なぜ金持ち達は産業革命で得たその有り難い大量生産フードを食べない?

なぜ成功者達はインターネットよりも、高級車を乗り回したり現実世界を好む?

そしてまたなぜ多くの権力者達が、

 俺たちに接触して何時間も何時間も眠りに耽るんだ?」

 

俺は言葉に詰まった。

 

男は話し続ける。

 

「……連中が少量しか採れない自然栽培された有機食料を食べ、

 最先端技術のはずの仮想現実を楽しまず、あらゆる媒体が提供する代理体験を毛嫌いし、実体験を好む。

また、今は可能なはずなのに24時間寝ないで働こうともしない

 

……いったいなぜだ?

 

 

さぁ、答えてくれ。刑事さん」

 

……俺は苦しかった。

俺もどこかでわかってはいるんだ。だがそれを認めるわけにはいかない。

なぜなら俺は刑事なのだ。

 

しかし男の論理に押されて、つい本音が漏れてしまった。

 

「……その必要がないから……それが理想……ではないからだ」

 

……そうなのだ。自分が本当に食べたい物を食べ、表に出てしたい事をし、

ーそして愛する人が自分の腕の中で眠るという幸せがある事も、俺は知っていた。

 

吐きそうになった。喉の奥が詰まり、上手く話せない。

「しかし……俺は、刑事で、お前らはテロリストだ……だから――」

 

「やっぱりか!それを聞けてよかったよ。刑事さん。今日はここまでにしようか。」

 

そう言うとほぼ同時に、男のピアスから霧状のガスが噴射された。

 

「なに…を、」

 

高濃度 『クロロフォルム・ヘイズ(麻酔煙)』 だった。

 

「まぁ、たまにはゆっくり寝たらいい」

 

意識が遠のく中、男の声が聞こえた。

 

 

「刑事さん……。

 

 

 

 

Sleep-tight(おやすみ)」




次回、第5章『Enemy of Enemy -敵の敵-』。

(※毎日20時頃 更新予定)
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