SLEEP COP ―のび太のハードボイルド・アンダーワールド― 作:電機羊
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……これが、 日の出る国(The land of the Rising sun) 改め、
日の沈まぬ国(The land of the Unsinkable sun)
“新しい日本国の誕生物語” だ。
そして俺は、 この理想の社会で違法就寝者を取り締まる
法の執行人ーー
悪党共は俺をこう呼ぶ
『SLEEP COP ー睡眠捜査官ー』
…と。
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ーー少し夢想が過ぎたようだ。
そろそろ奴をチェックメイトしないと。
俺はアラームウォッチのタイマーを10秒後にセットし、
家主に借りたカギでドアを開けた。
…ガチャッ。
…三
…二
…一
部屋中にアラームウォッチを鳴り響かせる
PiPiPiPiPiPiPi!!!!
『Get-Up!! -ゲロッパ!!-』
「Sleep Copだ。お前には黙秘権などない!…あるのは
…永遠の不眠だ。」
いつものセリフを言いながら、俺は 『Languid Shot(ランギッド・ショット:倦怠銃)』 を取り出した。…相手を昏睡させる恐れのあるスタンガンが禁止され、今は指一本動かすのも億劫になるこの銃が主流だ。
俺の記憶では、銃を抜いた俺に的を外す選択肢はない。
* * * * * *
…いま確保した容疑者が横向きに寝転んで、澱んだ眼でこちらを眺めている。
俺は男の鞄の中を捜索した。
「ほう、こりゃあ何だ?アイマスクか。これで懲役1年。蛇型の抱き枕か? これは2年。 それに……ちょっと待て、お前ローズヒップ……いやラベンダーティーも服用しているな。あーあ、たまげた! 肉球付きのモコモコスリッパまで持ってやがる(苦笑)。
合計で懲役12年ってところか? とりあえずの罪状はこんなもんだ。しかしまぁ、余罪でもう2000年ぐらいはぶち込めるがな」
俺は冷たく言い放つ。
「…死刑廃止に感謝を。」
そして俺は無気力で怠そうにしている男を無理やり立たせた。
入室前に争ったボディガード達の死体を、足で端に寄せながらその場を後にする。……こいつらの後始末は他部署がやってくれる。
もちろん、今月分の『正当防衛クーポン』はまだ余裕があるので大丈夫だ。
「さあ、車まで歩くんだ」
俺は男を警察車両まで歩かせた。
男はランギッド・ショットが効いているにもかかわらず、なにか俺と話したがっている。
俺は停車中の無人警察車両の後部座席に犯人と並んで乗り込み、署に向かった。
気だるさの後を引きながら、男はゆっくりと話し出した。
「……なぁ刑事さん。最後に観た夢はいつだ?」
今日は酷い渋滞だったので、不本意ながら少し会話に付き合うことにした。
「そんなのはとっくに忘れたよ。……あれは人間社会の負の遺物だ」
「本当にそう思うのか?」
「あぁ思うさ。歴史を見てみろよ。産業革命前に戻りたいと思うか? インターネットなしの社会を考えられるか? 睡眠法もそれと同じ事なんだ」
男は言った。
「……かつての産業革命は『人間らしさ』を奪った。インターネットは『家族関係』を破壊し、そして睡眠法は個人の『夢』を取り上げた。 それは人間性の 《最後の砦》 だったのに。 ……こうして人類は、存在の理由そのものを根こそぎ奪われたんだ」
男は段々と意識がハッキリとしてきたらしい。 ランギッド・ショットの効果が落ちてきている。
クソッ。喉が渇く。
理屈にイライラさせられ、俺は反論した。
「ご都合の良いことを言っているようだがー」
「ーこの理想の社会は人間が自らが寝ない選択の上で栄えているんだ。
産業革命が悪だとか言うが、そのおかげで一体どれだけ多くの人々が飢えなくなった?
インターネットのおかげで皆素晴らしく多くの物資や情報に恵まれ、
睡眠法は日本を遥かなる世界の超大国にまで押し上げた。
いったい他のどこの国が、まったく眠らず100%稼働し続ける国に勝てるって言うんだ?
それをお前らテロリストが旧時代に戻そうとしている。俺にはまったく理解できないね。」
これが刑事として生きてきた俺の考えだった。
男は少し間を置いて語り始めた。
「……なら聞く。
なぜ金持ち達は産業革命で得たその有り難い大量生産フードを食べない?
なぜ成功者達はインターネットよりも、高級車を乗り回したり現実世界を好む?
そしてまたなぜ多くの権力者達が、
俺たちに接触して何時間も何時間も眠りに耽るんだ?」
俺は言葉に詰まった。
男は話し続ける。
「……連中が少量しか採れない自然栽培された有機食料を食べ、
最先端技術のはずの仮想現実を楽しまず、あらゆる媒体が提供する代理体験を毛嫌いし、実体験を好む。
また、今は可能なはずなのに24時間寝ないで働こうともしない
……いったいなぜだ?
さぁ、答えてくれ。刑事さん」
……俺は苦しかった。
俺もどこかでわかってはいるんだ。だがそれを認めるわけにはいかない。
なぜなら俺は刑事なのだ。
しかし男の論理に押されて、つい本音が漏れてしまった。
「……その必要がないから……それが理想……ではないからだ」
……そうなのだ。自分が本当に食べたい物を食べ、表に出てしたい事をし、
ーそして愛する人が自分の腕の中で眠るという幸せがある事も、俺は知っていた。
吐きそうになった。喉の奥が詰まり、上手く話せない。
「しかし……俺は、刑事で、お前らはテロリストだ……だから――」
「やっぱりか!それを聞けてよかったよ。刑事さん。今日はここまでにしようか。」
そう言うとほぼ同時に、男のピアスから霧状のガスが噴射された。
「なに…を、」
高濃度 『クロロフォルム・ヘイズ(麻酔煙)』 だった。
「まぁ、たまにはゆっくり寝たらいい」
意識が遠のく中、男の声が聞こえた。
「刑事さん……。
Sleep-tight(おやすみ)」
次回、第5章『Enemy of Enemy -敵の敵-』。
(※毎日20時頃 更新予定)