アシュア短編集_遺書   作:イエローケーキ兵器設計局

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 親愛なる代理人へ。私達は貴方のことが大好きでした。そしてごめんなさい。私たちの悪戯のせいでこんな事になるなんて思わなかったの。すぐに収拾がつくと思ってたの。本当にごめんなさい。どう償って良いのかわからないくらい、後悔しているの。


1-3 P-38Fの遺言
1.P-38Fの遺言_上


 ずっと好きだった代理人が今日、アードバーク(F-111)お姉さんと結婚する。それは2人にとってとても、とっても良いことだった。だけれどこの胸の痛みは本当は私にとってそうではない、と言ってる。

「kelly……」

「大丈夫……大丈夫だから……Ruth、私は大丈夫……」

 鏡を見ると顔面が蒼白していて、もし代理人に会ったら心配されてしまうに違いない。そしてそれはRuthも私と同じ。

 

「スーツ、初めて着たかも」

「ねー」

 誓約式は開始前から既にとても厳かだった。いろんなDOLLSが居たけれど見知った顔も見知らぬ顔も勢揃いだった。

「こんにちは、ラスちゃん、ケリーちゃん」

「こんにちはエミリーさん、メイヴィスさん」

 極東重鋼学連から二式飛行艇(通称:エミリー)さん、九七式飛行艇(メイヴィス)さんが参加していた。2人とも今日はスーツで普段の作戦とは違う雰囲気を纏っている。

「そうか……我が主も誓約するのか……」

 そう言うのはF4Uコルセアさん。いつものフリフリとは違ってかしこまったスーツを着ている。少し意外。

「立派になって……うぅ……」

「ハンカチです、どうぞ」

 号泣して慰められているのが黒十字帝国学連からお越しのフォッカーDr.Ⅰ先生。鬼教官だと聞いていたけれどこれは鬼の目にも涙といった感じ。慰めているのはBf110さん。模擬空戦では5勝5敗、良くも悪くも私たちの良いライバル。

「いっぱい居るね」

「うん」

「そこのお嬢様方、赤色十月同盟の席はどこか存じないだろうか……ケリーにラス、貴女たちだったのね」

「こんにちは、ケリーさん、ラスさん」

 雪国からやって来たのはTB-3先生(厳しい)とANT-20先生(優しい)だった。やっぱり皆もスーツだ。

「kelly、後ろ!」

「えっ?うわぁっ!」

「かわいい〜連れて帰っても良いかしら〜」

 急に身体が持ち上がって思わず足を振ってしまう。どうやら誰かに抱き上げられたらしい。

「ランカスター、駄目です」

「え〜」

「降ろしてください」

「ごめんね、よいしょっと」

「ふぅ……」

「kellyさん、Ruthさん、ランカスターがご迷惑をお掛けしました」

「いえ……」

「別に……」

「皆様、お待たせしました。」

 司会のアナウンスが流れ、一気に静かになる。

「新郎新婦の入場です!拍手でお迎えください!」

「綺麗……」

「ごめん……Ruth」

 代理人と目が合ったとき、目眩がして、座り込んでしまった。

 

 翌朝。代理人の執務室に行くと既にアードバークお姉さんが待っていた。

「おはよう、Kelly。体調は良くなった?」

「あっ……」

「ふあぁ……その様子だと大丈夫そうね。私はもう一眠りするから……また会いましょう?」

 そう言ってアードバークお姉さんは手を小さく振りながら出ていき、私だけが朝の執務室に残された。手にはペンと入れ替えるつもりだった鉛筆。急に惨めに思えて涙が出てくる。

「うぅ……ぐすっ……」

「……kelly?」

 いつの間にか入ってきたRuthが私の手を取る。

「Kelly……帰ろう」

 鉛筆とペンは入れ替えられなかった。

 

 任務は何のこともない、いつもの哨戒任務だった。

「負けた」

「Kelly……?」

「負けた……」

「Kelly?」

「負け……た……」

「Kelly!しっかりして!」

「あぁぁぁ……私は……負けたんだ……Ruth、私達は負けたんだよ」

「Kelly!」

 任務に集中できない。ずっとぐるぐると頭が回ってる。

「……悔しくないの?」

「悔しいよ……でも……」

「でも……」

「Kelly、交代してもらおう?こちらRuth。司令部、パートナーが体調不良、交代の必要あり、どうぞ」

 

 基地に帰っても気分は良くならない。

 

「Kelly、Ruth、コーヒーは要るかしら?」

「頂きます……」

「……」

「淹れて来るわね、座ってて頂戴」

「……Kelly、入れ替えるなら今のうちだよ」

「うん……Ruth」

 代理人のいつものペンと、購買で買ったドッキリ用のビリビリペンを入れ替える。人間でもピリピリする程度の出力にデチューンされているらしいから引っかかってもきっと大丈夫。

 暫くしてなぜか別室に通された。

「もう少ししたら代理人が来るから呼ばれるまで出てきちゃ駄目よ、わかった?」

 なぜかいたずらっ子のように笑ってウインクするアードバークお姉さんに少し不気味さを感じながらコーヒーを啜る。丁度いい温度で飲みやすい。

「どうしてなんだろうね」

「さぁ……」

 

 更に暫くするとドアが開く音がして、代理人とアードバークお姉さんの声が聞こえた。

「あ。」

「うん……。」

「……」

 

 それはとても、とても静かだった。

 

「……Kelly、Ruth、そしてアードバーク……」

 問題は少しオイタが過ぎたこと。横で正座させられているアードバークお姉さんは頬を膨らませて抗議していた。

「はぁ……次からは出力を下げるように。手が一瞬痺れてしまった」

 

「ごめんね、巻き込んじゃって」

 アードバークお姉さんの意外な姿にびっくりとしつつ、私たちとそう変わらないんだなと思うと少し元気が出てきた。

 

 でも、楽しい日はいつまでもは続かなかった。

 

 代理人の仕事量が増え、それにつられてアードバークお姉さんの仕事量も増え、皆がなかなか帰ってこなくなった。そして……私たちはある悪戯作戦に打って出ることにした。

「Kelly、流石にそれは辞めようよ」

「すぐにエンジン不調で帰ってくるから大丈夫。それにこれくらい慣れてるはずだよ……もしかして怖いの?」

 任務から帰還してすぐ、コルセアさんのARMSのエンジンに細工をした。

 

 数時間後。サイレンが寮に鳴り響く。

「行方不明者発生!行方不明者発生!これは訓練ではない!繰り返すこれは訓練ではない!」

「ね、ねぇ……Kelly……」

「Ruth……」

「B-24!P-51!君たちは白薔薇へ!B-17!F4U !極東に応援要請!B-29!赤色十月にこれを持っていってくれ!話はつけてある!XB-19!空中給油を頼む!」

「あ、あのね……」

「Kelly、Ruth、君たちは休んで捜索に備えてくれ」

 代理人達が慌ただしく指揮を執っている。私達のせいでこんな事に……。

「Ruth……泣いてるの?」

「Kelly……私たちがこんな事をしなければ……」

「Ruth……泣いちゃ駄目だよ、泣いていいのは全部終わってから」

 遺書を書くことにした。短絡的だけど、これを書かずに行くのは良くないと思ったから。

 親愛なる代理人へ。私達は貴方のことが大好きです。そしてごめんなさい。私達が貴方に構って欲しかったから……。

「これじゃ駄目……書き直し」

 親愛なる代理人へ。私達は貴方のことが大好きでした。そしてごめんなさい。私たちの悪戯のせいでこんな事になるなんて思わなかったの。すぐに収拾がつくと思ってたの。本当にごめんなさい。どう償って良いのかわからないくらい、後悔しているの。どうか私たちを探さないでで。コルセアさんは私たちも探すから許して。Kellyより。

「Ruth、行こう」

「Kelly、どこへ?」

「探しに行こう」

 

 数日前に急に海が現れたエリアに向けて飛行開始。代理人の執務室にはこのエリアの地図が貼ってあったはず……。

「どうやらここまでみたい」

「どうして?」

 両エンジンがぼふっ、と音を立てて黒煙を吐く。

「そうみたい」

 急降下していく躯体。海面が間近に見えて思い浮かぶのは代理人、貴方とアードバークお姉さん、そして……Ruth。そこに私は居ない。




 どぼん。
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