アシュア短編集_遺書   作:イエローケーキ兵器設計局

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 なぜ、妾らは生かされているのだろうか。


9- 第4章 母樹と居留地
9.0 多砲塔戦車の書き遺し


 なぜ、妾らは生かされているのだろうか。

 一つ、妾らとは戦車に百貨店を設けるようなものである。

 一つ、妾らとは失敗作である。

 一つ、妾らとはなぜ生かされているのか分からないDOLLSである。

 

……

 

……

 

……

 

「NbFz、到着しました!」

 ああ、また一人、同類が増えた。学連から捨てられたDOLLS達。修理部品、弾薬等の最低限の補給は送られては来る。しかしそれだけ。

 インディペンデントが言う、中央の代理人に保護を求めるべきだと。ここはもう限界であると。

 T-35姉が反論して言う、このような僻地からどうやって中央に向かうのかと。

 T-28姉が妹を宥めつつ言う、この現状を変える力があるのか、と。

 私、T-42は思う。このコロニーはそう長くは持たないだろう、と。

 

 ここに居るのは塹壕戦突破用に開発された者達。王立白薔薇学連からは全ての始まりであるインディペンデント、我らが赤色十月同盟学連からはT-28以下3名(T-35,T-42)……そして黒十字帝国学連からは不幸なNbFzが何も知らずにたった今到着した。

「え〜!私、騙されたんですか!?」

「……残念ながら、な」

 インディペンデントは冷静にNbFzへ現実を伝えた。ここでの掟、仕事内容、そしてどうやって生き残るか、その全てを彼女は短い時間で吸収しないといけない。

 

 掟は一つ、仲間を裏切らない。今のところ誰もこれを破った者は居ない。

 

 仕事内容は単純で時々攻めてくる災獣の排除と、使える資源を集めること。もしくはたまに投下される補給物資の回収に行くこと。また誰かが中央の代理人に補給要請を送ったらしい。どうやって送ったのか気にはなるが対価は何を要求されるのだろうか。

 

 どうやって生き残るか……これが難しい。私達は装甲が総じて薄い……私は比較的マシな部類。だからと言ってT-28以外は機動性が高いわけでもない。現に私の最大速度は30km/hにも至らない。武装……と機動性においては、T-28は比較的恵まれていた。85mm砲を積んで今はコロニーの機動性のある主砲になっている。私……は107mmだけど見てくれの通りデカくて動きがトロい。だからあまり動かず構えるしかない。ただ、この躰に感謝していることもある。この前後に長い巨体(特にARMS)は他者が隠れるには充分で、速度を追求しないのであればかなりの積載量もある。代理人の補給のお陰で主砲がM1910/30*1から貫通力のあるZiS-6*2になった。これもかなりありがたい。あとはもっと良い機関部があれば装甲も機動性も……。

 

 側面の長い装甲帯を使って遊猟種の光線に耐えつつ、45mm対戦車砲を使って遊猟種を排除していく。ZiS-6はまだ使わない。

「捕捉種来ます!方位2時!高度100!」

「T-28姉!T-35姉!対空態勢!」

 NbFzが叫び、T-28姉とT-35姉には榴散弾で対空攻撃をしてもらう。あくまで追い払えればとりあえず良い。はぁ……このエリアが学園の勢力圏ならこんな無理をしなくても良いのに……。

 

 

 一日一日をなんとか生きている。インディペンデントはあいも変わらずここを離れることばかり考えている。それは確かに正しいと思う。しかし、ここを離れて代理人に保護を求めようとしたところで五体満足で辿り着ける保証も、安全に保護してもらえる勝算があるとは思えなかった。結果、毎日のように攻めてくる敵を追い返して、損耗は拾った資材で塞ぎ、糊口を凌ぐ。

「皆……帰りたいよ……」

 NbFzが古ボケた写真を見る回数が増えた。誰も気にはしない。ここに来た奴は皆そうだった。

「それは大事に持っておいて」

「T-42さん……」

 ここに来た者は忘れられる。ある日、見つけた移動要塞の跡を調べていると複数のDOLLSが存在した痕跡だけが残っていた。彼女達がどうなったのかは分からない。弾痕からしてかなりの激戦が内外問わず繰り広げられたのは分かった。そしてこの移動要塞はまだ修理さえすれば動かせる程度には機能を失っていないことも分かった。

 

「駄目だ、修理も追加の調査も許可できない」

 しかし、と食い下がる姉達の奏上をインディペンデントは拒否した。

「我らが反抗の意思あり、とみなされればどうなる?一族郎党諸共処刑されるぞ!?」

「我らはあくまでCityの防衛の為に動くのです!別働隊として!その名目で定期的な支援を取り付けるのです!」

「駄目だ!もう遅いんだ!我々はもう見捨てられたんだ!」

「ひぃっ……!」

 NbFzが明らかに怯えてしまった。インディペンデントの優しい面だけを見ていたのだろうか。我らが女王は時に厳しい表情を見せることもある。外交も内政もそういうものである、それが女王としての主張だった。そして私もそれには同意している。しかし、これでは前に進めない。穏やかな終焉を迎えるかもしくは……。

 

「T-42さん、少しご相談が……」

 砂岩の掘削作業中にNbFzから声を掛けられた。なんだろうか、と聞くと彼女の口から予想していなかった言葉が飛び出した。

「実は……T-28さんとT-35さんには既に相談したのですがインディペンデント女王を廃してT-42さん、貴女に女王になってほしいんです」

「はぁ……?」

 2人はなんと返したのだろうか。現実的な諭しか、それとも……。

「インディペンデント女王は女王としての能力を喪っています、このままでは私たちは……」

 ……真剣な眼差しをして恐ろしい事を言うNbFzが怖くなってきた。けれど、言っていること自体は的を得ていると思う。それもまた怖いことだが……。

「お願いです、T-42さん……貴女には女王の器がある。私の女王になってください」

 掘削作業はあまり進まなかった。

 

 夕食の質素な食事がより一層惨めに感じた。私に女王の器がある?どういうことだ?片付けて夜警に立っていると後ろから声を掛けられた。

「T-42さん」

「止めてくれ、今は考える気にはなれない」

 振り返れば一糸も纏っていないNbFzが居た。即座に顔を逸らす。

「……せめて私を見てください」

「私は同性の裸を見て喜ぶような変態ではない」

「…………それでも見てください」

 渋々顔を戻していくとさっきはよく見えなかった無数の傷跡が月光でようやく見えてきた。

「この傷はここに来る前のものです、だから気に病まないでください」

「それで……裸を見せて何になる?」

「私は花で言えば花粉です」

 鼻がむず痒くなってきた……。

「その鼻ではありません、植物です」

「ちっ……とりあえず服を着ろ」

「嫌です」

「服を着るまで話はしない」

「……」

 渋々と服を着るようになった。一安心。

「どうですか、服を着ましたよ」

「そうだな話を聞いてやろう」

「植物がどのように子孫を残すか知ってますか?」

「花粉が柱頭に着けば花粉管が伸びて胚珠に届き、胚嚢の卵細胞と精細胞が融合すると受精が起きる……そこから先は裸子植物と被子植物で分かれる……生物選択か?」

(作者注:実は裸子植物に当てはめると説明が違う……被子植物の説明なら合ってる気がする)

「そうです、私達は裸子植物です!」

 NbFzは笑っていた。

「さあ、私の女王になってください!」

 にじり寄ってくるNbFzをグーパンで吹っ飛ばし、砂まみれの顔に水を掛ける。少し考えれば意味ぐらいは分かるだろう。

「なんで……」

「もう少し言葉を選べ痴れ者」

「じゃ、じゃあ……」

「言っておくけど私は女王なんかにならないよ……私は皆を守る為に居る」

「そん……な……」

 手を伸ばそうとしてガクッと倒れたNbFzを担いでテントに戻る。意識は無いが息はしている。修復剤を飲ませて寝かせればそのうち起きるだろう。

 

「はぁ……」

「困り事か?」

「T-35姉にT-28姉……」

「困ってることがあったら言ってくれ、姉妹とはそういうものだ」

「NbFz……」

「彼女は救えん」

「私も同感だ。あんなに迫られては困る」

「そんな……」

 薄情な……とは言わなかった。言えなかった。

「すまないがそれ以外で頼む」

「……せめて要塞の調査を」

「分かった……何とかしよう」

 

 翌日。インディペンデントはT-28姉とT-35姉の1:2で口論をしていた。

「使えるものを探すだけです!」

「駄目だ!偵察機に見つかったらどうするんだ!」

「そもそもそれが駄目ならなぜ我々は生かされているのです!」

 加勢するべきか悩んでいると後ろから声をかけられる。NbFzだった。

「昨晩はご迷惑をおかけしました……私……その……満月の日は正気を失ってしまうみたいで……」

「……」

 満月どころか新月だったのだが。まあ黙っておこう。たまには化かされたまま進むほうが良いこともある。

 

 女王と姉達が喧嘩している間に2人で抜け出して要塞跡にやってきた。ARMSから降りて側面の梯子を登り、大穴から入る。穴は何か大きな物が高速で外側から内側へ何かが貫いたようだった。

「何か武器持ってる?」

「7.92mmMGならありますよ」

「じゃあそれだ」

「どうぞ」

 NbFzから軽機関銃を借りもし内部に災獣が居たらという想定で動く。反応は感じないけど……息を潜めているかもしれない。

 

「これが主砲の弾薬庫……」

「弾頭だけで私の身長くらいありますよ」

 連装になっていた主砲の弾薬庫に到達した。埃こそ被っていたが中身は無事で放棄された時、この弾薬類には何も手出ししなかったようだ。

「もしこれが爆発していたら……ゾッとしますね」

「そうね」

 

 多数の弾痕が残る通路を歩く。DOLLSの血が飛び散った跡もあった。

「これは……機関部か」

「……不自然だと思いませんか?」

「……綺麗すぎるな」

 機関部はまるでずっと誰かが整備していたかのように綺麗なままだった。側面の副砲群はある程度破壊されたままだったからびっくりする。

 

 穴から外に出ると頭上高く輸送機が通過したのが見えた。ARMSをどこかに隠すべきだったなと思った。

 

 コロニーに帰るとインディペンデント女王は居なくなっていた。そしてT-28姉とT-35姉は怖い顔をしていた。

「ねえ……何があったの……?」

「……T-42、お前は何も知らなくて良い。NbFz、器はコレじゃ駄目か?」

「……駄目です。やはり彼女でなければ」

 その一言で怖い顔をしていた姉達は絶望、羨望そして憤怒……が混じっていそうな顔をして私から顔を背けてしまった。

 

 そして夜。焚き火も無ければ食事もしないまま星空を見上げた。T-28姉とT-35姉はまだひそひそと話し合っている。

「……T-42さん、現状について説明します」

「……うん」

「先代女王のインディペンデント女王は倒れました」

「……」

「そしてT-28さん、T-35さんは二人とも自分が器になる事を要望しました」

「器……?この間からずっとその話ばかりだけど器って何?」

「ああ、そうでした。器というのは……」

 素早く抱き着こうとするNbFzの顔面にグーパンして追い払う。

「イタタ……器は女王となってコロニーを運営する為の容器であり、雌花でもあってそして……種子として不完全な私の場合は器は女王本体でもあります」

「はい?」

「要するに……このコロニーの人口や資源を増やして維持する為には女王が必要なんです。そしてT-42さん、貴女が女王として最もふさわしいんです」

「はぁ……?」

 理解が追いついてない……いや、理解してしまったのを無理やり放り投げてるだけか……?私がこのコロニーを引き継ぐ?

 考え事をしていると、ARMSを飛び越えたのかいつの間にか抱き着かれていた。あまりの速さに反応が追い付かなかった。

「さあ……後は受け入れるだけです、T-42さん。お姉さま達を守りたいでしょう?」

「うぐっ……」

「貴女が女王になれば皆救われるんです」

 滑るように背後を取られたっ……!

 

 歳を喰い遂に耄碌(もうろく)した女王は取って代わられ、いつの間にか私は女王の座に担ぎ上げられていた。女王はこのコロニーを維持・発展させる権利があり、義務がある。不完全であった先代女王"インディペンデント"は保護を主張した。

 

 移動要塞のあの大穴から機関部ではなく司令室に入る。いや、姉達に運び込まれる。NbFzは消えた。いや、これは……。

「お呼びですか?」

「呼んでない」

「そうですか……」

 私の中に奴が……NbFzが居るんだ。

 生気のない顔の姉達は何やらブツブツ唱えながら私を司令室に置いていった。

「ごめんな……T-42」

「恨むならT-35じゃなくて私を恨んでくれ」

 姉達は生気のない顔で、涙を流しながら司令室のドアを閉めた。

 

 暫くして躰に異変を感じた。まるで脚から根が生えたかのように動けなくなってしまった。

「やはり、T-42さん、貴女が器だったんです」

「姉さん達はどうなる?」

「大丈夫です、貴女なら守れます、2人を……そしてこれから産まれる子供達も」

 腕は伸びて壁に手を着くとまるで枝か根を伸ばすかのように感覚が拡張され、様々な事が分かるようになっていった。脚から伸びた根は機関部に辿り着き、エンジンやその他に絡みついて久々にエンジンに火が入ったのか排気口から煙が出ていくのを感じた。まるで血が巡っていくかのようだ。感じる……目はそこに無いはずなのに見える。外が、世界が、全てが。姉達も要塞の中に居た。自分の意志なのかそれとも私みたいに動けなくなってしまったのか。

「姉さん!早く!早く出て!」

「お姉さんと一緒になりたくないの……?」

「……巻き込みたくない……姉さんは巻き込みたくないよ」

「……そっか、じゃあ返すね」

 絡みついていた見えない根が無くなったのか急に動き出す姉さん達。

「T-42……やっぱり待ってて!」

「T-35!待て!もう間に合わない!」

 T-35姉をT-28姉が羽交い締めにしていた。

「……行って、姉さん」

「……え?」

「行って、姉さん……私は大丈夫だから」

「でも……」

「行って、"人形"」

 お腹の底からとても冷たい言葉が出てしまった。そんなつもり無かったのに……。

「っ!……分かった。T-35も聞こえただろう?行こう……」

「……T-42ッ!私は諦めないからな!待ってろ!必ず!離せ!離してくれ!」

 T-35姉はT-28姉に引き摺られ、穴の外板を掴んで抵抗するも敢え無く連れ出されて行った。これで良い、これで良いんだ。

「……泣いているの?」

「いいえ、雨が降ってるの」

「そう……コロニーを建て直しましょう。早くしないと川か泉が出来てしまうわ」

 

 私はこのコロニーに根差してしまった……いえ根差した者として考える……我々は一つになる他無い。

 

*1
旧式の107mm

*2
比較的新型の107mm




T-28 (中戦車)
T-35及びT-42の姉。多砲塔戦車三姉妹の長女。T-35よりも人生経験が長く、自分の能力をよく理解していた。"器"候補の一人だったが女王になるための器官が発達していなかった為、ならなかった。

T-35 (重戦車)
T-28の妹、T-42の姉。多砲塔戦車三姉妹の次女。T-42とは違って形になった多砲塔重戦車。同じく"器"候補であったが……。

T-42 (重戦車)
T-28及びT-35の妹。多砲塔戦車三姉妹の三女。T-35とは違い本来は計画倒れするはずだったのだが様々な理由により生まれ落ちた特異な経歴を持つ。
"器"であると同時にNbFzと同じく"種子"でもあった。そして彼女は種子として選ばれて来た

NbFz
黒十字帝国学連からやってきた新人多砲塔戦車。経歴不明、元いた部隊からの虐待を受けていたかのように見えるが……。
半分嘘。種子としての自覚を持つ前は普通の多砲塔戦車だった。彼女は選んで来た

インディペンデント
王立白薔薇学連からやってきた最古参の多砲塔戦車。耄碌(もうろく)*1しており、旧いことに固執している。T-28及びT-35によって誅された。彼女の躰は移動要塞跡の深部に安置されている。


移動要塞跡
かつて黒十字帝国学連が建造し放棄した、数人のDOLLSによって稼働させられ得る陸上巡洋艦。その巨砲はCityの外に向けられており外縁より離れ、まず誰も訪れないようなこの地であっても何者かの襲撃があったことを物語っている。

繝ゥ繝シ繝
(作者注:実質ホドやホド中層の旧支配者"ギプロベルデ")忘れられた砂漠に放棄されていた陸上移動要塞跡の本来の名前。しかし、今のT-42たちにとって名前に意味は無い。ここは私達のコロニー、私達の家、私達そのもの。それが女王たる者の考えでありお言葉である。
この巨体のARMSそのものが"器"の一部である。操縦者はもう居ないが種子が操縦者となり、器が補完することで解決された。

*1
年をとって頭脳や身体の働きが衰えること

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